OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

福祉業界の賃上げについて

2023-12-24 23:36:37 | 労務管理

「令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況(以下URL)」が11月28日に発表されました。令和5年の春闘は労組側は5%、企業側は3パーセント代と、団体交渉では攻防が繰り広げられたと思います。調査でどのような結果が出たかというと、P5の改定額及び改定率の調査結果一覧を見てみると一番高い鉱業、採石業、砂利採取業の5.2%(前年2.5%)の他、4%台もいくつかあり、3%台が一番多い状況となりました。1人平均賃金の改定額もおおよそ7,000円代から最高は18,000円代と例年の倍近くとなった業種が多いです。

この調査をお見せしながら顧問先の定例会議でご説明するのですが、先日社会福祉法人の人事の責任者の方が業界の厳しい状況をお話しされ、これは何とかしなければいけないのでは、と感じました。上記にあげた改定額及び改定率の調査結果一覧を見ると確かに令和5年には「医療・福祉」以外のすべての産業で賃金がアップしているにもかかわらず、医療・福祉だけ6,403円から3,616円と下がっているのです。なぜそうなるのかということなのですが、コロナウィルス期間中は補助金などが出ており、それを従業員に還元できたのが、その補助がなくなってしまい令和5年は他の産業のように昇給ができなかったということなのです。

社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的とした非営利法人であり、法律により税制や補助などの優遇措置はあるものの、一般企業のように利益を目的とした事業の展開はできないことになっています。従って利益よりも社会貢献的な活動が重視され、地域に密着して運営されており、地域の福祉ニーズに応えるという役割も担っています。顧問先の社会福祉法人も地域で郊外の立地を生かした素敵なイベントを行っており、地域住民の憩いの場になっていると感じています。

コロナ禍補助が出ており令和4年の昇給額は良かったといっても他の産業に比較して特に良いというわけでもありません。また医療と福祉が同じ産業のカテゴリーにくくられていますが、これは分けて考えてみる方がよさそうです。いずれにしても、社会にとって非常に大事な仕事をしており人手不足では困る福祉関連の産業の昇給額が、他の産業に比べあまりに低いという状況は改善されなければならないと感じました。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/jittai/23/dl/10.pdf

今日はクリスマスイブということで、街は凄い人出でした。今年は5月にコロナが5類に移行してから徐々に人出が増えてきて、11月あたりからは電車もラッシュがひどく、やはり人は人と接して生きていくことが幸せなのだなと再認識した年でもありました。とにかく今年も健康で色々な仕事を経験できたこと本当に有り難いことと思っております。来年は事務所の組織体制をさらに工夫して、よりアクティブかつ安定的な事務所運営ができるように頑張っていこうと思っています

※来週の日曜日のブログは年末年始のためにお休みさせて頂きます。良いお年をお迎えください。


求められ始めた65歳以上の労働力

2023-12-18 00:32:28 | 労務管理

最近のご相談で、65歳で高年齢雇用確保措置が終わっても引き続き雇いたい場合どうすればよいか、というものが増えてきたように思います。これまで大きな規模の企業については、60歳定年、定年後再雇用ののち65歳で退職のルールをかなり厳格に運用していたと思います。稀に余人に代えがたい人のために65歳の再雇用上限年齢後も個別の契約を結び働いてもらうということはありましたし、警備業などの一定業種においては第二定年を70代の半ばに設定する必要があるということで70代の契約社員も普通に働いているというケースもありました。しかし規模が大きければ大きいほど、後に続く人たちに役職や仕事を引き継いでいく必要があることが大きな要因となり65歳で再雇用がキッパリ終了という状況であったと思います。

しかしこのところそのような企業であっても、今の規程で65歳以上も契約することは可能か、または規定を改定したいというお話がやや増えてきました。これは人手不足が大きな要因なのだと思いますが、もう少し分析してみても良いような気がしています。考えられるのは、人口減少の影響が出るには少し早いような気がするので、人口減少は少し置いておいて、むしろ人手不足については、これまでの産業から新たな産業への業種移動が始まっているのではないかという点です。もう一つは、65歳以上でも全く問題なく元気に働くことができる人の増加でしょうか。さらに、40代半ばから50代半ばまでの就職氷河期で採用を控えたため各社ともその層の社員が少ないという事情がありそれを補う必要があることも影響しているように思います。これらを考えると、みすみす年齢が来たからと言って会社内で培ってきたスキルを失うのは残念という企業側の考えも理解できるような気がします。

 

現状2022年の総務省労働力調査の結果を見ると65歳以上の就業率は、男34.2%、男女計25.2%、女18.3%となっています。ちなみにいわゆる生産年齢人口といわれる15~64歳までは、男84.2%、男女計78.4%、女72.4%となっていますが、60歳から64歳だけを見ても男83.9%、男女計73.0%、女62.7%とほぼ変わらない状況です。この結果からするとやはり65歳以上はまだまだ労働市場から退出している状況であることがわかります。

高年齢雇用継続給付は、令和2年の雇用保険法改正により一定の役割を終えたということで令和7年4月から給付率が各月賃金の15%から10%に引き下げられることになり、その後廃止も含めて検討とされています。確かに定年退職後の賃金も、定年前よりは減るものの、65歳までの雇用確保措置が義務化された時期に比較すると水準もだいぶ上がってきていますし、65歳までは働くことが当たり前の時代になったと思います。今後70歳まで働くことが当たり前の時代になる可能性は高いと思われるので、65歳の再雇用後の働き方をその企業に合わせてどのようにデザインするか、試行段階に入ったと感じます。まだ努力義務ではありますが、高年法の70歳までの就業機会確保措置を上手く取り入れられるよう考えていきたいと思います。

12月は研修の予定が入っておらず、仕事が一段落したこともあり、かなり学生時代や会社に勤務していた時代の友人その他プライベートなお付き合いの友人と会う機会が沢山ありました。友人といってもほぼ先輩が多いのですが、久しぶりに会っても話が尽きず(この年齢になるとほぼ健康の話)、忘れたことを思い出すこともあり楽しい時間です。今年も残りあと2週間となりましたが、仕事、執筆、新たな業務への取組みとプライベートなお付き合いも含めて様々満足感がある1年だったような気がします。


労働時間の適正な把握について

2023-12-10 22:19:56 | 労働法

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は平成29年1月20日に策定され、それ以来労働時間の把握方法についてはこのガイドラインの内容に沿って指導されることとなりました。このガイドラインには「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」という項目があり、①始業・終業時刻の確認と記録、②始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法、③自己申告制により確認・記録を行う場合の措置が定められています。

ガイドラインによれば、原則の方法によらず自己申告制により行わざるを得ない場合は、いわば条件付きで、③の自己申告制も認められています。条件としては、「対象労働者と管理者へ適正に自己申告を行うことなど十分な説明を行うこと」や「自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること」、また「自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を報告させる場合には適正に報告されているか確認すること」などが定められています。

それでは②の原則的な確認方法とはガイドラインではどのように示されているかというと、以下の2種類とされています。

ア  使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
イ  タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

上記イにある通り、パソコンの使用時間の記録等は客観的な記録とされており、特に自己申告の場合のように実際の労働時間と合致しているか、また必要に応じて実態調査をして補正をすることなどは求められていないと考えていました。ところが最近の監督署の調査では、PCのログだけではなく、入退館記録も確認され、そこに乖離があれば理由を調査分析して報告することが求められます。理由としてはPCの勤怠管理システムの記録は自己申告と同じということのようです。退館後、自宅で在宅勤務などを行ったときは当然終業時刻と退館時刻には乖離があるので、記録をかなり詳細に記載する必要が出てきます。しかし、いつからPCの勤怠が自己申告扱いになったのか、若干疑問に感じる今日この頃です。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf

今年の夏前あたりから、それまで全くなかった腰の痛みを感じるようになりました。ぎっくり腰などの経験もなく、今のところ医者や整体などに行ったこともないのですが、思い立ってエアウィーヴを購入してみました。これまでも毎晩布団を引いて寝ていましたのでエアウィーヴの布団を購入したのですが、なかなか快適です。ここのところ出張でホテルのベットに寝てみたところ、朝痛みがなくはやり寝具は影響がありそうだと思ったのがきっかけです。ベットと同じが良いと思い、(3つ折り用の)継ぎ目のない1枚物を購入したため、収納のときに結構苦労するのが玉にキズですが、寝た感じはかなり良いです。


児童労働について―国際基準との比較ー

2023-12-03 23:27:55 | 労働法
労働基準法には第6章に年少者の項目が設けられており、満15歳年度末までの児童を労働者として使用してはならないが、最低年齢の例外として、行政官庁の許可等一定の条件のもとに、いわゆる非工業的業種の事業であれば満13歳以上の児童を使用することができ、さらに満13歳未満の児童であっても映画・演劇の事業であれば使用することができるとされています。
なお、児童を使用することができる非工業的業種の事業であっても、サーカスや大道芸人、旅館・料理店・飲食店、娯楽場の業務、エレベーターの運転業務には児童の使用は認められないとされています。
その他、年少者の規定としては満18歳未満を使用する場合は年齢を証明する戸籍証明書の事業場の備え付けの義務や、最低年齢の例外については学校長の証明と親権者等の同意書の事業場への備えつけも定められています。
 
ILOの国際労働基準にはどのように定められているかというと、「就業最低年齢(1973年、第138号条約)」として就業の最低年齢を義務教育終了年齢と定め、いかなる場合も15歳を下回ってはならないものとしており、開発途上国の場合は、さし当り14歳とすることも認められています。
また、若年者の健康、安全、道徳を損なう恐れがある就業については、就業最低年齢は18歳に引き上げられ、軽易労働については、一定の条件の下に、13歳以上15歳未満の者の就業が認められ、演劇などの出演については例外が認められており、上記労基法の規定とほぼ同じといえます。
 
ただ、「児童労働問題を考える手引き」には「子ども(18歳未満)が働くこと=児童労働」ではありませんとあり、児童労働の定義が18歳未満とされているので労基法とは異なるようです。労基法でも18歳未満の就業制限はありますが、手引きでも18歳になっていないうちは危険有害業務などの「最悪の形態の児童労働から守られなくてはなりません」とあります。
小学生が家でご飯の準備を手伝うことは児童労働ではないが、学校に行けなくなるなど教育に差し支えるほどの家事や安全・健康の妨げになることは児童労働と考えてやめるべきとしています。海外で展開する事業や外国人労働者の就労の場面などでは、国際労働基準への配慮は必要です。
●児童労働問題を考える手引き
 
週末名古屋での、ILO駐日事務所の支援を受けた連合会の中部地協の「ビジネスと人権」の研修があり、これで今年の研修は終了となりました。仙台、岡山、名古屋と各2日間の研修はそれぞれ受講していただいた方が熱心にワークに取り組み、沢山笑い沢山考え沢山のディスカッションやロールプレイをして頂いて、私も一緒の時間を共有できて楽しかったです。
また、研修前後の打合せでかなり真剣に意見交換したこともあり、ファシリテーター・グループファシリテーターの連携がとてもよく、良い研修を作りあげた感がありました。やはり「ビジネスと人権」は社労士にとってとても親和性があり、かつ、夢のある仕事だと実感しています。
 
労務行政さんより育介法の一部執筆を担当させて頂いた「実務コンメンタール 均等法・パート有期労働法・育介法・パワハラ防止法」が発刊されました。各法律の逐条解説とQ&Aで構成された法律解釈と実務共に参考にできる書籍ですので手に取って頂ければ幸いです。