OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

在職老齢年金の歴史⑤

2018-07-29 23:01:45 | 年金

今回で在職老齢年金について取り上げるのは最終回です。在職老齢年金については、平成29年5月10日、自民党一億総活躍推進本部が発表した「一億総活躍社会の構築に向けた提言」の中で、「廃止を含めた見直し」の検討が提言されています。「就労を阻害する」という影響を持つ点で、今後一億総活躍の場面では在職老齢年金制度は廃止する必要があるということなのです。それではこれまで在職老齢年金はどのような役割を果たしてきたのか、今後の方向性については、という2点を考えてみたいと思います。

60歳代前半を対象とする在職老齢年金の役割については、昭和40年の導入当初は「低賃金に対する所得補償」でした。平成6年の改正により就労促進を図る仕組みに改正した後も、「低在老」は定年後の60代前半の所得を補填する役割を果たしています。

それに対して、昭和61年の改正で一回廃止された後平成12年の改正において復活した「高在老」についてはその目的は「低在老」とは異なったもので、年金受給世代の高所得者の年金額を一定額または全額停止すると現役世代とのバランスを保つための調整機能を果たすというのが主な目的でした。

老齢厚生年金の支給開始年齢の65歳引上げが完了する2025年(女性は2030年)には「低在老」の対象者がいなくなるため、今後課題となってくるのは65歳以降の在職老齢年金である「高在老」ということになります。それでは高在老で高所得者の年金を支給停止にすることによりどの程度年金総額が削減されているのかという点を調べてみました。

平成30年4月4日に行われた、第1回社会保障審議会年金部会の参考資料(資料2-1)の中の「今後の検討課題―在職老齢年金について」に、低在老の対象者が約98万人・支給停止額が約7千憶円、高在老の対象者が約28万人・支給停止額が約3千憶円という数字が出ています。

公的年金受給者の年金総額は、平成28 年度末現在で54 兆8千億円と約32兆1千憶円とされていますので、比べてみると支給停止額はほんのわずかといえ、支給停止の効果は薄いといえます。また、70歳以上については被保険者の資格喪失をするため保険料を納付する必要はないのですが、現役世代並みに就労している場合「70歳以上被用者届」を出して在職老齢年金の支給停止の仕組みは残ることとなっており、違和感のある制度となっています。

平成29年版高齢社会白書(内閣府)に高齢者の就業状況が載っており、現在仕事をしている高齢者の約4割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答。70歳くらいまでもしくはそれ以上との回答と合計すれば、約8割が高齢期にも高い就業意欲を持っている様子がうかがえる。

であるとすれば、「老齢」を支給事由とする例外的措置である在職老齢年金については廃止し、「退職を前提とせず」「老齢を支給事由として」在職中であっても老齢に該当すれば支給することとするのは、高齢者の就労のためにも必要なのかもしれないと考えます。

一昨日春学期が終わり、3つのレポートも無事提出することができました。レポートの1つの締切りが、連合会の韓国出張中になっており、どうしても行く前に提出しなければならず、またその提出日に午前中授業、午後BBクラブがあり翌日韓国出張の上、帰国日後に2つのレポートの締切りがあるという超過密スケジュールではあり、流石に大丈夫かなあと心配だったのですが無事乗り切りました。BBクラブの打ち上げでめちゃくちゃおいしそうな「牡蠣」があったのですが、万が一のことを考えて食さず正解でした。

韓国の公認労務士制度については、10年前の社労士制度40周年の時に大槻最高顧問が交流を開始し、現会長である大西会長が熱意をもってつないで来られ、今年で10年が経ち新たなステージを迎えたわけですが、今回の3泊4日の訪問で、1年半前に参加したときより、かなり充実した意見交換や交流ができたように思います。今回は日本の社労士制度を紹介する担当でしたが20分程度の持ち時間でしたので比較的気持ちは楽であったのと、夜の懇親会ではGoogle翻訳が大活躍で、韓国公認労務士会の女性会員とかなりお互いの状況を交換することができて、本当に楽しかったです。

今後さらに意見交換を重ねていくことを約束しましたので、やはりハングル文字が読めるようにはならないといけないなと思ってしまいました。

  


在職老齢年金の歴史④

2018-07-16 23:35:55 | 年金

在職老齢年金について、内閣府が見直しを訴えという記事が7月13日付の日経新聞に載っていました。「内閣府がまとめた60歳代の就業行動に関する分析結果によると、働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす「在職老齢年金」がなかった場合、フルタイムで働くことを選択する確率は2.1%上昇し、人数換算で14万人分の押し上げ効果があるとした。内閣府は「制度によりフルタイム就業意欲が一定程度阻害されたことが示唆された」として、制度の見直しが重要と訴えている。」

14万人分の押し上げ効果とはまたかなりのものという感じがします。在職老齢年金は今後廃止という流れは確実のようです。

前々回のブログで、平成6年改正前の在職老齢年金の支給停止基準の表を載せたのですが、平成6年の改正で就労を促進するための見直しが行われました。ある意味この改正によりそれまでの在職老齢年金の所得保障の考え方から転換が図られたものと思います。改正内容は、まず在職中であると2割停止、賃金と年金の合計額が月額22万円に達するまでは、賃金と年金を併給し、22万円を超えても賃金が34万円までは、賃金が2増えれば年金を1減額し、賃金が34万円を超えた場合には、賃金の増加分だけ年金を減額する仕組みでした(数字は改正当時)。

①在職中(被保険者)

支給停止基準額=2割(8割支給)

②基本月額22万円以下、かつ、標準報酬月額34万円以下

支給停止基準額=2割+(標準報酬月額+年金月額-22万円)×1/2

③基本月額22万円以下、かつ、標準報酬月額が34万円超

支給停止基準額=(34万円+基本月額-22万円)×1/2+(標準報酬月額-34万円)

④基本月額22万円超、 かつ、標準報酬月額34万円以下

支給停止基準額=標準報酬月額×1/2

⑤基本月額22万円超、 かつ、標準報酬月額34万円超

支給停止基準額=34万円×1/2+(標準報酬月額-34万円)

 
その後平成15年4月より実施された、総報酬制の導入その他の改正により支給停止基準額が見直され、平成16年の改正で在職中の2割停止が廃止され、更に若干の数字の変更を経て現在の支給停止基準に至っています。昭和61年の改正時に60代後半の在職老齢年金は廃止されていたので昭和61年以降ここまでは60歳代前半の在職老齢年金の変遷です。

65歳以上の在職老齢年金はというと、昭和61年に一回廃止されたものの平成12年の改正で、「高在老」の導入を行い60歳代後半の在職老齢年金制度が復活しました。その後、平成16年の改正により、それまで70歳以降は給与収入額に関係なく年金を全額支給する仕組みであったものを廃止して、在職者である場合は65歳以上の仕組みによる支給停止基準を適用することとした。なおこの改正時点では、昭和12.4.1日以前生まれの70歳以上は適用しない扱いでしたが、平成27年にこれらの者も含めて適用する改正が行われています。

これまで本当に改正が多かった在職老齢年金ですが、どのような役割があったのか、ここまで改正が多かったのはなぜなのかという点について考えましたので次回は触れてみようと思います。

本当に毎日暑いですね。カーっと暑い夏が好きと公言していた私ですがさすがに「ちょっとこれは…」という感じです。まだまだこれから夏は長いですしね。

祭日にもかかわらず今日は授業があり出席したところいつもの半分以下の出席率でした。アメリカの連邦法と州法の関係の授業だったのですが、非常に面白かったです。先日のEU法の仕組みもとても面白く、やはり勉強するとなんだかんだ色々と興味の範囲が広がるような気がします。暑い中出席した甲斐がありました。

来週は連合会の委員会の関係で韓国に行くことになっており週末不在になります。そのためブログもお休みさせて頂きますのでよろしくお願いします。


中小企業の定義 労基法・時間外労働5割増関係

2018-07-09 00:28:15 | 労働基準法

先週法改正ニュースを配信したところ、ご質問がいつもより多く、そのほとんどが「時間外労働60時間超え5割増」の猶予になっている中小企業に該当するか否かというお問い合わせでした。すでに大企業として5割増の適用となっている会社さんがほとんどだったのですが、子会社が該当するかどうかなどのこともあったようです。

ネットで労働局などのサイトを検索して判断の表をURLをメールに貼り付けてお送りしようと思ったのですが、思ったよりすんなりと表が出て来ず、一部誤りがあったりもしたので、念のためブログに載せておこうと思いました。

中小企業に該当するか否かは、「資本金の額または出資の総額」か「常時使用する労働者の数」で判断されます。具体的には、以下いずれかに該当する場合中小企業ということになります(資本金等か使用労働者数のどれか一つでも該当すれば中小企業になります。)また、事業場単位ではなく、企業単位で判断されます。

業種

 

資本金の額または

出資の総額

または

常時使用する

労働者数

小売業

5,000万円以下

または

50人以下

サービス業

5000万円以下

100人以下

卸売業

1億円以下

100人以下

その他

3億円以下

300人以下

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上記の業種の部分が問題で、労働保険の申告書などの業種とは異なりますのでご注意ください。業種分類は日本標準産業分類(第13回改定)に従っています。以下ご確認ください。

 http://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/02toukatsu01_03000023.html

視力を計測すると相変わらず1.5などと素晴らしく良いのですが、今年になり夜になると文字が読みにくくこれはまずいと思い眼鏡を作り直し、先日はブルーベリーのサプリだけは毎日飲んだ方が良いというアドバイスを受けて、すぐに実行しています。眼鏡を合ったものに変えるだけでずいぶんと楽になりました。仕事をする上で目は大事とつくづく思うこの頃です。

やっと年金のレポートを作り終わり、春学期は「医療」のレポートを残すのみとなりました。夏休みには読んでおきたい本や勉強しなければならないことがすでに予定されているのですが、1つのテーマを追えるのは楽しみです。


在職老齢年金の歴史③

2018-07-01 23:14:00 | 年金

年金制度が作られた目的は、そもそも「老齢をある種の廃失と考え、それによる所得喪失に対する最低保障」ということで、所得喪失=退職が支給事由であるとも考えられるのですが、厚生年金保険法の目的条文を見ると支給事由(保険事故)は「老齢」です。

厚生年金保険法 第1条 この法律は、労働者の『老齢』、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

その点どのように考えるか以前から疑問だったのですが、「在職老齢年金」についての定義としては「『在職老齢年金』は、本来『退職』を前提とした『老齢』を支給事由とする老齢年金の例外的措置」という表現が正しいということを先日学びました。

あくまで「老齢」が支給事由とすると、平均寿命が伸び、高齢者の概念も昔とは異なってきている現在は「老齢」の定義も変更されてもおかしくはなく、支給開始年齢が現在の65歳より後ろ倒しになるということも理論上妥当だと思われます。

実際、2017年1月5日に発表された「日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」において、高齢者の新たな定義を75歳以上とする提言が示されたのは記憶に新しいところです。今後老齢厚生年金の支給開始年齢の議論が行われるとしたら、在職老齢年金がその中でどのような位置づけになるのか、という点については非常に興味深く感じています。

非常に改正が多かった在職老齢年金であるという点については、ブログの在職老齢年金の歴史①及び②で記載しました。今回在職老齢年金制度を調べる中で平成6年改正前の60歳台前半の在職老齢年金の支給(停止)割合が比較的見つけにくかったので、記録という意味で残しておきたいと思います。

平成6年の改正が行われるまでの60歳台前半の在職老齢年金は標準報酬月額に応じて支給割合が定められており、収入が一定水準を超えると全額支給停止される仕組みでした。

標準報酬月額等級

標準報酬月額

支給割合率

第1級~第3級

110,000未満

3割

      第4級~第6級

118,000円~134,000円

4割

第7級~第9級

142,000円~160,000円

5割

第10級~第11級

170,000円~180,000円

6割

第12級~第13級

190,000円~200,000円

7割

第14級~第15級

220,000円~240,000円

8割

注)標準報酬月額等級が第16級(標準報酬月額が26万円、報酬月額が25万円)以上の場合は、全額支給停止となる。

この仕組みについては、「働いても年金を受給しても収入がたいして変わらないとなると、仕事を辞めて年金を受給する人が多くなる」 ということで、平成6年に改正が行われました。 この改正以後の60歳台前半の在職老齢年金の支給停止基準の表についてはその変遷がまたありますので、次の回で比較させて頂きます。

サッカーワールドカップの日本代表の試合は、特に第3戦目はまさに賛否両論ですね。しかしここまで来たので明日はとにかく頑張らざるを得ない状況ですが、3時からの試合ということで、日本国民は果たしてその時間起きて見るのでしょうか。夜型の私としても悩ましいところです。