OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

定年再雇用の賃金に関する判決

2016-05-30 00:43:31 | 労務管理

定年再雇用の場合の賃金の決め方について、よくご質問があるのはどの程度下がることが一般的なのかというものです。だいたい6割から8割程度の減額が一般的と感じますが、もともとの賃金水準が高い企業の場合はもっと減額するケースも多々あります。もともとの賃金の額が大きく影響するため減額割合をうんぬんするのはあまり意味がないと思いますが、定年後年金を受給しながら働くということになると、賃金と年金と高年齢雇用継続給付のバランスを考えることが一般的なので、おのずと賃金額は同じような額になることが多いです。

しかし定年再雇用後の賃金が下がるのは定年後なのだから当然ということはないはずで、下がることになるのであれば従来とはどこか違う職務にしてくださいとこれまでもお願いしてきました。60歳になったら急に能力が下がるわけでもないので、責任度合い、出勤日数、仕事の内容などどこかを軽くするということでなければ賃金を下げるのはおかしなことです。

大きな会社は下の年齢層がつかえていることもあり、役職や職務が変更になることが当たり前で、また小さな会社はその社員が余人に替え難しということであれば職務の変更も賃金の変更もないということがあるなか、中堅の企業がなかなかその点が難しいケースがあるようです。「そうはいってもね~現実はそう言うわけにもいかんのですよ」とおっしゃられて、その時の打ち合わせでは雰囲気が悪くなったという経験もあります。

定年後再雇用されたトラック運転手が、定年前と同じ職務であるにもかかわらず3割程度の賃金の減額は違法であり定年前と同じ賃金を払うことを求めた裁判の判決が5月13日東京地裁で下りました。判決では、賃金の引き下げは労働契約法第20条の「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」に違反するということで無効とされたもので、今後上級裁判所の判決がどのようになるかはわかりませんが、賃金の差は期間の定めがあるか否かでではなく、あくまで職務の違いによることという同一労働同一賃金法の考え方が促進していく可能性は大だと思います。

同一労働同一賃金法の方向性としては、日本の場合職務給を市場の価値の中で決めるのはなかなか難しいところなので企業横断的ではなく、企業内での職務給の設定を目指すということになると聞いています。同じ企業内では正社員・契約社員・嘱託社員・パート・アルバイトにかかわらず同じ仕事をしていれば同じ賃金を払うという賃金制度の設計をしていくことになると思いますので、これまでの思考方法を少し洗い替えする必要があります。

判決の内容は以下の日経新聞の内容をご確認ください。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG13H9O_T10C16A5CC1000/

社労士の場合、たくさんの顧問先を担当として抱えることになりますので、常にいろいろな案件が頭に入ってい状態になると思います。私も自分が担当する顧問先企業があり、またスタッフが担当している顧問先企業でも相談案件は一緒に担当することもあり、またOURS全体の運営あり、セミナーや執筆をすることもあり、さらに統括支部長と副会長という社労士会のお役目もあり、まあ多少の家事もしているわけで、それらをつつがなく進めていくことについてはかなり頭の中であれこれ飛び交っている状態です。

先日「スピード仕事術」を読んでいて同感したのですが、著者の佐藤さんは「1つの案件だけに集中する」「そして一つの案件を処理したら、それもスパッと忘れて次の仕事に移っていく」というのがたくさんあるプロジェクトを混乱なく進められ理由としています。私の場合手帳にこまごまと仕事の予定を記入しておきできるだけ予定していたことは済ませるようにしています。その上で終わったら次に思い出さなければいけないタイミングを手帳に書いておいてスパッとその件は忘れることにしています。手が空いているときにしょっちゅう手帳を見直して、すべての案件がもれなく対応できるようにしているわけです。

顧問先にご質問を投げかける等をしてなかなかボールが戻らないときでも、ボールを戻してもらうようこちらからご連絡は必ずするようにしています。戻らないからといってそのままにしておくと思いがけない時にボールが戻ってきて予定が狂うと計画が破たんしてしまうので、それは避けたいからです。もし計画が遅れるというご返事があればそれに従って計画を変更していきます。従って手帳には付箋とホワイトを多用しています。


無期転換制度の意識調査について

2016-05-22 22:40:43 | 労働法

平成25年施行の労働契約法の無期転換のルールについては、今年度は本腰を入れて対応を準備する必要があると考えています。平成28年度も、社会保険の適用拡大、介護離職予防のための育児介護休業法改正、最近テレビで盛んに取り上げられている同一労働同一賃金法など人事担当者は準備が必要なものが目白押しです(ストレスチェックも11月までに実施しなければなりませんし)。

しかし、それでもやはり無期転換対応は迅速に対応する必要があると考えていたので、7月には渋谷労働基準協会でのセミナーのテーマとさせていただいています。7月に刊行予定の労務行政さんの「雇用保険法・育児介護休業法等の改正早わかり」の原稿は何とか投入にこぎつけましたので、今抱えている就業規則の仕事をバリバリと片付けてレジュメ作りに励もうと思っていました。そんな中で最近「無期転換ルール」についての記事等をよく目にするようになってきましたので、資料集めは始めるつもりです。

まず厚生労働省は「無期転換ルール導入に向けた8つの支援策」を打ち出したそうです。モデル就業規則の作成、導入手順を紹介したハンドブックの作成などもあるようなので研究材料が沢山出そうで楽しみにしています。

また東京都産業労働局が実施した「契約社員に関する実態調査」の中で「無期転換制度」についても取り上げており、その内容もかなり興味深いものです。

無期転換関係で取り上げているルールは以下の4つです。

①無期転換ルールの認知度
②無期転換ルールへの対応予定
③無期転換する場合の雇用形態
④無期転換ルールの利用希望

中でも④無期転換ルールの利用希望(契約社員調査)は興味深いものです。

無期転換ルールの利用希望については、「条件によって利用したい」が41.7%を占めて最も多く、「利用したい」(19.0%)と合わせると6割を超えている。一方、「利用したくない」は12.8%であった。また「わからない」が28.1%となっている。

〇無期転換ルールを「条件によっては利用したい」とした回答者に、利用する条件を聞いたところ、「賃金、賞与等の待遇がよくなること」が71.9%で最も多く、以下、「正社員への転換であること」(45.2%)、「職務内容が現在と変わらないこと」(44.7%)、「転勤がないこと」(23.7%)と続いている。

これにはちょっとウーンと考え込んでしまいました。というのも労働契約法18条に規定されている無期転換後の労働条件は、「現在の労働条件と同一」が原則となっているからです。これまでもセミナー等で無期転換後の労働条件は有期契約時代と同一に設計し、様子を見てから状況に合わせて改定していくのが良いのでは?とお話もしてきたところです。「賃金、賞与の待遇がよくなる」、「転勤がない」となると若干難しい気がします。

東京都産業労働局「契約社員に関する」実態調査(概要版)

http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/koyou/jiccho27_0hajimeni.pdf#search='%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E3%80%81%E6%84%8F%E8%AD%98%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%80%81%E7%84%A1%E6%9C%9F%E8%BB%A2%E6%8F%9B%E5%88%B6%E5%BA%A6'

今朝何気なくテレビを見ていたところ同一労働同一賃金法についての与野党の討論会をしていたのですが、政治家の説明にはちょこちょこ「うん?それは違うのでは?」というところがありやはり話を聞くだけでは本当のところはわからないなあと感じたところです。ご自身の主張に合わせたところだけをピックアップして全体的に行っていることを考慮していなかったり、古い数字を使っていたりと、専門分野だから違うなとわかるわけですが、そうではない分野などはもしかしたら自分は正確ではない情報で判断しているのか?と心配になります。

自分で本を読んで研究をして、できるだけ正しい判断ができる人間になりたいと思います。


事業譲渡における労働契約の承継

2016-05-15 22:11:02 | 労働法

労働新聞(労働新聞社)の5月2日付の記事で、「労働契約承継拒否でも解雇できず――厚労省・事業譲渡で指針案」として以下の記事が出ていました。 記事を読んでどのような指針か楽しみにしているのですが今のところまだ読めていない状況です。

 ---厚生労働省は、事業譲渡または合併に当たって会社が留意すべき事項を明らかにした指針案をまとめた。企業のM&Aが活発化するなか、適切な労働契約の承継につなげ、労使紛争の防止を図る。事業譲渡の場合、労働者が労働契約承継を同意しなかったことのみでは解雇できないため、譲受会社の概要や労働条件の変更について十分に説明し、同意を経る必要がある。---

この指針のもとになる、平成28 年4月13 日付で発表された組織の変動に伴う労働関係に関する対応方策検討会報告書の「組織の変動に伴う労働関係に関する対応方策について」はWEBで見ることができました。そこでは事業譲渡等の指針について以下の通り書かれています。

事業譲渡は、特定承継であり、労働契約の承継には労働者の同意が必要とされていること等から、これまで労働者保護のための固有の法的措置は講じられていない。しかしながら、事業譲渡は労働者の雇用や労働条件に大きな影響を与えることも少なくなく、労使協議が一定程度行われている場合もあるものの、労働契約の承継あるいは不承継等をめぐり紛争に発展する事例も生じている。(略)として指針を策定し、以下の通り留意すべき事項を示すことが適当とされています。

(1)事業譲渡
イ 労働者との間の手続等について、以下のことに留意すべきことを周知することが適当である。
労働契約の承継には労働者の個別の同意が必要であること、その際、営業譲渡に関する全体の状況や譲受会社等の概要等を十分に説明することが適当であること、労働条件の変更についても労働者の同意を得る必要があること
労働契約の承継への不同意のみで解雇が可能となるものではない等、解雇権濫用法理等を踏まえた事項
③ 労働者の選定について労働組合員に対する不利益取扱い等を行ってはならないことや、裁判例における労働契約の承継の有無や労働条件の変更に関する個別の事案に即した救済の状況、 労働組合等との間の集団的手続等について、一定の事項を周知等することが適当である。

連休明けから仕事のご依頼が多くあり、手帳と常ににらめっこをしている状態ですが、何とか時間配分は上手くいっているような感じです。ご依頼は育児・介護関係、ワークライフバランス関連制度の導入、女性活躍関係などが多いような気がします。一昔前ではちょっと考えられない状況ですが、このあたりのテーマは書籍執筆をはじめとして常に取扱っていることが多いので頭に入っている分比較的取組みやすいところではあります。

最近どうしても夜になると眠くなり(これは人間としては当然なのですがつい最近までは夜はめちゃくちゃ強かったのです)、早く寝ることを心がけるようになりました。連休中、小淵沢の家では夜は特に早目に寝たため5時ころに目が覚めて外に出てみたのですが、しーんとした森の方から「ホゥーホゥホゥ」とたぶんフクロウの声が聞こえてきました。幻想的な雰囲気で時々それを思い出しながら和んでいます。


海外勤務に労災適用 東京高裁、遺族が逆転勝訴

2016-05-08 20:59:46 | 労働法

先々週のブログに折しも取り上げた「海外派遣」と「海外出張」の判断に関する逆転判決が4月27日に出ました。

元々の東京地裁の判決(東京地判平成27.8.28)は、以下の通りです。

上海営業所の主席代表兼上海現地法人の総経理を兼務する者(仮にA氏とします)が急性心筋梗塞で死亡したところ、遺族が海外出張中の業務上の死亡ということで労災保険の遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求。中央労働基準監督署長は、出張業務中の死亡とは認めず、また海外派遣の特別加入の手続きも行っていなかったため労災保険の対象とならないとし、不支給とされました。

地裁判決の内容としては、労災保険法の適用は属地主義により国内に限定されており、海外の事業所での業務災害には適用はないとされています。海外出張と海外派遣の判断は、「期間の長短や海外での就労にあたって事業主との間で勤務関係がどのように処理されたかによるのではなく、労働者の従事する労働の内容やその指揮命令関係等その労働者の国外での勤務実態を踏まえ、いかなる労働関係にあるかによって総合的に判断すべき」としたうえで、A氏はその業務内容から海外事業所である事業に属しその事業に従事していたことから「海外派遣者」にあたるとされました。

しかし、先日4月27日の東京高裁の判決で海外派遣についての判断が覆りました。内容としては以下の通りです(日経新聞より)。

海外勤務中の死亡に労災保険が適用されるかどうかが争われた訴訟で、東京高裁(杉原則彦裁判長)は27日、保険を適用できないとした一審・東京地裁判決を取り消し、遺族補償の支給を認めた。赴任先の中国・上海で死亡した男性(当時45)の妻が逆転勝訴した。一般的に、海外出張中の死亡は労災保険が適用される。ただ、海外の事業拠点に転勤・所属すると、国内事業者の労働者とみなされなくなる。補償を受けるには、海外での労災も保険の対象とする「特別加入」の手続きを取る必要がある。判決によると、男性は2006年、運送会社の上海事務所に首席代表として赴任し、10年に急性心筋梗塞で死亡した。中央労働基準監督署は、男性が現地事業所に所属しており「出張中の労災ではない。特別加入もしていない」と遺族補償の支給を認めなかった。

杉原裁判長は、労災保険の適用について「仕事の内容や国内拠点からの指揮命令などを総合的に判断すべきだ」と指摘。東京の本社に業務の決定権があったことや、出勤簿を本社に出していたことから「男性は実質的には国内の事業所に所属していた」と判断し、労基署の処分を取り消した。妻の代理人弁護士は「これまでは海外で勤務中に死亡すると、労災適用を諦めて泣き寝入りするケースが多かった。意義ある判決だ」と話した。

東京高裁の判断は、業務の決定権や労務管理の状況から、「海外派遣」ではなく実態は「海外出張」としたもので、やはり「指揮命令権のありか」がポイントになったものです。

連休最終日の今日は暑かったですね。みなさんどのようにお過ごしでしたでしょうか。事務所の数名のスタッフをはじめとして社労士受験生はきっととアクセルを強めに踏み込み始め勉強一筋だったかと想像します。これからがいよいよ勝負の時。とにかく繰り返して繰り返して自分の中にたくさんの無意識の知識を蓄えることが肝要です。

私は申し訳ないのですが、この連休はほんの少しの親孝行のため実家に行き、小淵沢の家に行き改装したため大掃除をし、友人と明治座にお芝居を見に行き、今日最終日は法事で大磯のお墓と帰りに実家の鎌倉のお墓の両方に行き草むしりをしたりで(ドクダミ臭くなりました)、かなり遊び、充実して過ごすことができました。

もちろん例の原稿も何とか進んでいます。120ページの予定なのですが、今回は色々なメンバーに助けてもらいながらほぼ100ページくらいにはなったような気がします。

さて、気持ちの良い季節ですね。明日からまたもう一息頑張りましょう。


高年齢継続被保険者について

2016-05-01 22:02:53 | 労働保険

高年齢継続被保険者というのは、同一の事業主の適用事業に65歳に達した日の前日から引き続いて65歳に達した日以後の日において雇用されている者を言います。

誕生日=65歳に達した日ということになりますので、65歳に達した日の前日というのは「誕生日の前々日から誕生日をまたぎ誕生日以後も継続して同一事業主に雇用されている」必要があります。

65歳に達した日以降(例えば66歳)で良い仕事が見つかって雇い入れられた場合などは高年齢継続被保険者になることはできません(もちろん65歳到達を上限とする一般被保険者にもなることはありません)。現状あくまで65歳到達前に一般被保険者であったものが65歳に達すると高年齢継続被保険者になるという仕組みになっています。

高年齢継続被保険者は、失業した場合は高年齢受給資格者として高年齢求職者給付金を受給することができます。高年齢求職者給付金は1年未満の算定基礎期間(被保険者であった期間)の場合30日分、1年以上の同期間の場合50日分が支給されます。

この給付日数は65歳未満で退職した場合の給付金である基本手当に比べると少ない日数になっています。しかし年度の初日に64歳以降である場合(要するにその年度中に65歳に到達し高年齢継続被保険者になる可能性がある場合以降)、事業主負担分及び被保険者負担分ともに免除されることになっています。これは私見ですが給付が少なくなってしまうため保険料を免除するということにしたのではないかと思っています。たとえば22歳からサラリーマンとなり雇用保険を納め始め65歳到達以後退職すると高年齢受給資格者となり給付50日になりますので、そこへの配慮かなと考えています。

ところで先日成立した雇用保険法等の改正で、高年齢継続被保険者の考え方は改正となり、平成29年1月1日から65歳以降に雇用された者についても雇用保険を適用し、高年齢求職者給付金他これまで支給されないことになっていた介護休業給付・教育訓練給付等を支給することになりました。また年度初日に64歳以上の者についても雇用保険の保険料が徴収されるそうです(平成31年度分まで経過措置あり)。

とにかく将来の労働力不足に備え、若者も女性も高年齢者も一億総活躍の必要があります。この分で行くと65歳定年義務化70歳まで継続雇用の世の中が近いうちに来そうな気がします。

朝の連続テレビ小説は、土曜日にまとめてみることにしているのですが「とと姉ちゃん」はとても楽しみです。なんといっても主人公が何とも言えずかわいらしく機転が利いていて気に入っています。主人公のとと姉ちゃんは高畑充希さんが演じています。毎週楽しみです。

http://www.nhk.or.jp/totone-chan/cast/

先週、猪瀬直樹さんの卓話を聞く機会がありました。なかなかお話がお上手で1時間の食事会の間の30分ほどだったと思いますが中身が濃かったと思います。そのときにご紹介のあった「民警」という執筆された本がとても興味深く早速買ってしまいました。民間警備会社のセコムとアルソックの成り立ちの話だということなのですが、関与先企業には警備業もありますので読んでおくべきだと思いました。

連休後半は少し仕事のことは忘れて、読書などでゆっくり過ごす予定です(書籍執筆の仕事もあるので内心気が気ではないのですが、やはりたまには脳を休めるそういう時間も大事ですよね)。

皆様良い連休をお過ごしください!