ここのところ法改正のセミナーを色々な場面で行わせてもらっています。内容としては派遣法と安衛法のストレスチェックが重いのですが、女性活躍推進法もそれに続きます。また若者雇用促進法やいわゆる同一労働同一賃金法もなかなか法改正の背景や趣旨を学ぶと興味深いものがあります。さらに昨年10月改正の被用者年金一元化法や今年4月に改正される健康保険法など社会保険関係の改正も実務的には重要です。
その中で気になるのが昨年(平成27年)10月1日より被用者年金一元化法により厚生年金の同月得喪の扱いの変更です。同月得喪の場合これまで被保険者期間1箇月として保険料を徴収・納付してきたのですが、改正後は共済年金の同月得喪の扱いと統一することになったためか納付不要の場合連絡があり還付されるという仕組みのようです。条文の変更としては以下アンダーラインの部分です。
※この扱いは厚生年金保険のみのことで、保険者が複数ある健康保険については同月得喪においては1箇月の保険料を徴収する扱いに変更はありません。
厚生年金保険法 第19条2項
【改正後】 被保険者の資格を取得した月にその資格を喪失したときは、その月を一箇月として被保険者期間に算入する。ただし、その月に更に被保険者又は国民年金の被保険者(国民年金法第七条第一項第二号 に規定する第二号 被保険者を除く。)の資格を取得したときは、この限りでない。
【改正前】 被保険者の資格を取得した月にその資格を喪失したときは、その月を一箇月として被保険者期間に算入する。ただし、、その月にさらに被保険者の資格を取得したときは、この限りでない。
同月得喪があった場合には、ほとんどの場合その月は国民年金の第1号被保険者又は第3号被保険者になる、またはさらにその月内に再就職して被保険者(厚生年金被保険者=第2号被保険者)になると推定されるので、条文でいう「この限りでない」に該当し、すなわち被保険者期間1箇月としての算入はされないということになると思われます。その場合であっても従来通り保険料の徴収・納付は行い、月末の被保険者の種別を確定したのち保険料を還付することを想定しているようです。
実務的には、同月得喪した被保険者から保険料を徴収後本人に還付するというのは手間がかかり又還付できないケースや還付をする必要を会社が認識しないケースが多発しそうな気がします。還付できないケースでは会社が悩むことになり、又還付の必要を会社が認識しない場合は会社に還付されたお金が残るということになります。
そうであれば同月得喪の場合は保険料は原則として徴収しなくてもよく、例外的に徴収するケースはどのようなケースなのかもう少し具体的に示す必要があるのではないでしょうか。また企業がしっかり内容を認識して保険料の徴収をどのようにするか選択してもらうような広報をするということも必要だと思います。
同月得喪の場合に例外的に保険料を徴収するケース(何の被保険者にもならないケース)としては、60歳以上であるため第1号・第3号被保険者にならない場合や同月得喪後その月内に海外に行った場合などが考えられ、その場合は保険料の徴収・納付が必要だということになります。
改正前の条文では、厚生年金保険法ではなく国民年金法に以下の条文があり、その月の最後の種別の被保険者になると理解していました。
国民年金法 第11条の2 第一号被保険者としての被保険者期間、第二号被保険者としての被保険者期間又は第三号被保険者としての被保険者期間を計算する場合には、被保険者の種別(第一号被保険者、第二号被保険者又は第三号被保険者のいずれであるかの区別をいう。以下同じ。)に変更があつた月は、変更後の種別の被保険者であつた月とみなす。同一の月において、二回以上にわたり被保険者の種別に変更があつたときは、その月は最後の種別の被保険者であつた月とみなす。
厚生年金の同月得喪の場合に1箇月の保険料を納付後その月が第1号被保険者として確定するとどうなるのかご質問を受けて年金事務所に問い合わせたこともあるのですがはっきりした答えは返ってこず、また請求すれば同月得喪の分として納付した保険料は戻るということを他の社労士から聞いていました。しかし改正後は以下の条文が厚生年金保険法第19条5項に加わることにより、完全に最後の種別で判断することとなり同月得喪の場合の扱いは原則保険料の納付は不要となるということになったのだと思います。
同一の月において被保険者の種別に変更があつたときは、前項の規定により適用するものとされた第二項の規定にかかわらず、その月は変更後の被保険者の種別の被保険者であつた月(二回以上にわたり被保険者の種別に変更があつたときは、最後の被保険者の種別の被保険者であつた月)とみなす。
BBクラブの年金に詳しい会員に聞いたところ、厚生年金保険法には上記改正後の5項の条文がなかったためなのか、従来は同月得喪の際には厚生年金保険の被保険者1箇月として算入されており、例えその月の最後の被保険者が第1号被保険者であったとしても両方でカウントされていたということです(そうだとすると請求すれば納付した保険料が戻るということとの法律上の取り扱いに対する整合性が取れなくなってくるのですが・・・)。
いずれにしても年金は複雑だからなおさら、詳しい内容の周知をしてもらいたいと思います。年金事務所や街角年金センターなど現場で仕事をしている社労士がそのあたりで実務上の問題点などをあげてもらえるととても心強いと思います。
以下が日本年金機構のリーフです。
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/jigyonushi/oshirase/20150521-01.files/zenkoku14.pdf
昨日のBBクラブは雪が予想されたにもかかわらず140人ほどの方が集まって頂いて、またとても楽しく明るい雰囲気で充実した1日になりました。色々な会員の悩みや今の状況を聴くこともでき、私も3次会まで参加しましたので今日は殆どだらだらと1日過ごす羽目に陥りましたが、良い週末になりました。
BBクラブはいよいよ15周年を迎えたということで夏には多少のお祝いを兼ねた懇親会になるのかと思いますが、メンバーも受講生当時大学生が今や2児の母で40代となり、また会員の社労士資格の活かし方への模索も合格直後とは異なるようになりました。せっかくの国家資格ですから企業に残る選択をしてきた会員も何とか社労士資格を生かして充実した人生を送ってもらえるとよいなあと思います。
社労士の仕事も最近は様々で、従来の労働社会保険の手続・労務管理のご相談業務の他、人事管理のコンサル、ADRにおけるあっせんや、成年後見、管理職研修などのセミナー講師等その範囲は非常に広がっているので、自分次第ではサラリーマン時代から準備をしておき、定年でも早期退職でも退職後の次のステージに社労士を生かすため備えることはできそうな気がします。
最近私が社労士会で担当している社会貢献委員会の「がん患者就労支援」なども非常に意義がある仕事と思います。興味がある方はセミナーに来て頂くと有難いです。http://www.tokyosr.jp/topics/2015-topics/19391/