OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

労災保険 求償について

2011-04-24 22:40:15 | 労働保険

先日顧問先の工場で、下請け企業の社員が顧問先の社員にけがを負わせる事故がありました。それほど大きな事故ではなかったのですが、労災申請についていくつか質問があり、その中にこの事故で労災保険を申請した場合メリット制に影響するか否かという質問がありました。

この事故は下請け企業の社員が第三者となるため、第三者行為災害ということになります。第三者行為災害について労災給付が行われた場合は、給付の主体である国が加害者である第三者に対して要した費用を請求できるという求償権の行使が認められています。この求償が行われた場合は、国の給付に要した費用は補てんされることになり、労災申請をした元請企業のメリット制による労災保険率の上昇はないということになるわけです。

ただしこの求償権の行使はなかなか難しいもので、通達で以下のように取り扱いが定められています。

1)同一事業に雇用される同僚労働者相互の加害行為による災害、2)同一事業の事業主を異にする労働者相互の加害行為による災害(昭和44.3.30基発148号)、3)同一作業場で作業を行なう使用者を異にする労働者相互の加害行為による災害について求償権の行使が全面的に差し控えられている

4)事業主の下請人の加害行為による災害の場合については求償の一部が差し控えられる(昭和40.9.30基発643号)

5)雇用主以外との間に使用関係が生れる、派遣労働者の派遣先に対する国の求償についても、派遣企業の故意又は、重大な過失の場合に限り、保険給付の30%相当額を限度として求償権を行使する(昭和61.6.30基発383)

今回の件は、上記通達の3)に該当するので求償権は行使されないのではないかと顧問先に回答した上で労働局に問い合わせたところ、この通達は徴収法の請負事業の一括が行われる建設業を対象にしたものなので(ちょっと目からウロコでした)製造業については全面的に該当させるわけでもなくケースによりけりなのですとの回答でした。

結局、その後顧問先の担当者が管轄の監督署に行き事情を説明したところ、やはり上記通達ににより求償権の行使は行わない(=メリット制で保険料率が増加する可能性が高い)ということになりました。この求償については、その後調べたところによると日本の場合まず「第三者」の範囲が明確ではなく基準にあいまいさがあるようです。今後、様々な雇用形態の労働者が混在して働く状況はますます多くなるでしょうから、この第三者行為災害については的確な基準が定められる必要があり、研究してみたいテーマでもあります。

昨日は、今年事務指定講習を受ける合格者で勉強会をしました。私がヤフオクで手に入れたオーバーヘッドプロジェクターを使って書式を見ながら失敗談などを話したり、企業で実務をしている同期の合格者も参加して知識を披露してくれて充実した時間になりました。事務指定講習の問題文はよく見るとさりげない一文に結構意味があったりして、なかなか面白いものなのです。通信教育だけで解説がないのはちょっともったいないなといつも思います。

明後日の26日はOURSセミナーです。頑張ります。


開業記⑯退職金規程の変遷

2011-04-17 23:53:24 | 開業記

16 退職金規程の変遷

退職金規程を作成したのは初めての顧問先の会社さんに対してでした。当時はまだバブルがはじけた直後ということで、退職金規程について各企業それほど切迫していたわけではなかったのですが、初めての顧問先は数年前に中退共に加入しており、しかし何も規程を持っていなかったため、就業規則と併せて退職金規程を作成したいと考えていてご依頼がありました。

退職金規程の作り方はもちろん白紙の状態でしたが、開業当初は時間も十分あり、本を読んだりしながら作り上げました。中退共への積み立てを退職金の保全措置ととらえ、徐々に給与が上がるに従って掛金をあげて行く仕組みを作り、おおむね60歳定年までで1,500万円くらいの退職金(基本給×支給率=退職金額)が出るようにというシミュレーションをしながら、会社都合と自己都合の支給率を決めました。10人未満の会社で1,500万円という目標金額は、今考えると中小企業としては高い水準だと思います。ただ、基本給を算定基礎額にしており、その基本給の定期昇給額が世間一般においてもその会社においてもその後鈍ったため目標額には達しないことになってしまいましたが、今もその退職金規程は立派に現役です。

その後4、5年してから各企業の退職金規程の見直しがとても多い時期がありました。要するにバブルの前あたりに作った退職金の水準が非常に重荷になり、将来の負担が恐ろしいものになっているということに企業が気がついた時期です。この頃は例えば中退共に加入しているので中退共が支給する額を退職金として支払うという規程に改定して欲しいなどの依頼が多くありました。

本当は4,000万円近く支給するべき退職金を1,500万円の支払いで我慢してもらってくれというご依頼もありました。これについては本人をお宅の事務所に行かせるので話をしてくれないかというもので、社長にその相談をされた時は「それは・・・・ムリ・・・」と一瞬思ったのです。しかし、65歳までの雇用が確保され、生涯賃金においては変わらずということであればご本人も納得してくれるかも・・とうことをその場でひらめき、社長に差額保障することを説得しました。65歳まで雇用を保障し、年収の合計で4,000万円と1,500万円の差額2,500万円を確保してもらうということです。社長に了解を得てご本人に説明したところ、当時は65歳までの継続雇用は少なかったということもあり、まだお嬢さんが学生という状況のご本人にとっては悪い話ではなかったようで、途中で辞めさせられたら心配・・などと多少ゴネておられましたが、意外にすんなり同意をしてくれたときはホッとしました。(その頃から顧問先から難しいご相談を受けたときに、いきなり閃くことが増えて行きました。追いつめられないとだめな性格なのかもしれません)

退職金はその数年後、平成24年3月末を期限とする適格退職年金制度の廃止が決まり、適年を持っている各企業は確定給付、確定拠出、中退共等どの企業年金制度に移行するのかまたは退職金制度を廃止するのかという検討に入っていくことになりました。こちらも最初はご相談を受けても暗中模索でしたが、金融機関で確定拠出を担当していた受講生OBのONさんにお願いして一緒に顧問先数社に同行してもらい、各制度の移行についてその会社が抱える問題点の検討を一緒にしてもらいました。企業ごとに状況は異なり、それぞれ検討することによりおおむね各制度の特徴を理解して行きました。あれは本当に貴重な経験で、今も企業年金のご相談についてはその時の経験が生きています。

退職金制度は賃金制度よりは取り組みやすいように思いますが、2つとも時代の流れなど外的要因に影響される部分が多く、ある程度柔軟に対応(変更)できるように作っておくことが重要だと思っています。何十年も同じ賃金制度や退職金制度で大丈夫ということはある面では素晴らしく、しかしある面では問題がある可能性があると考えています。

先週満開だった桜はもうすっかり葉桜になりました。いよいよ春が来たことですし、気持ちを新たに頑張りましょう! 


開業記⑮賃金制度を初めて作ったときのこと

2011-04-10 22:59:47 | 開業記

15賃金制度を初めて作ったときのこと

前回の開業記で書いたかと思いますが、開業したころは人事制度・賃金制度を手掛けられるようになるのが最終的に社労士としてはゴールのように感じていました。自分にとってはそれほどハードルが高いある意味雲の上の存在という感じでありました。人事コンサルの会社出身の社労士の先生はゴールドに輝いているような感じでした。

しかし勉強だけはしておきたいと考えたのか、開業3年目くらいに当時の私としては清水の舞台から飛び降りるくらいの金額を支払い「楠田丘先生の賃金セミナー」に出たりはしていました。きっといつかは賃金制度を作れるような社労士になりたいとひそかにあこがれていたという感じだったのでしょう。

10人に満たない会社の賃金テーブルなどは社長と相談しながら本を見て作ってみたりもしていましたが、とうとう開業して10年目に60人弱の賃金制度を見直したいというご依頼を頂きました。これが賃金制度を本格的に作った初めての経験だったと思います。

頂いた内容は、手書きの年齢給と社長が決める職務給と何種類かの手当があり、年齢給は男女で異なっていました。もちろん労基法の「男女同一賃金の原則」に違反していますし、年齢給の賃金に占める割合が高く、能力や業績が給料に反映されにくくなってしまうため手書きの年齢給の賃金テーブルが目安的に使われているという状態でした。

その後賃金制度は毎年数件ずつ改定させて頂く機会がありますが、だいたい現状の賃金額を大きく変えることなく、考え方を整理することにより新たな制度にスムーズに移行するという方法をとります。初めてのご依頼をいただいたその会社のニーズもそのあたりにあると考えて現状分析をしてみました。誰か指導してくれる人がいるわけではなく、賃金の本をたくさん読んでおり賃金テーブルを作ることのできるソフトを持っている当時は講師仲間であった島中(現人事管理研究所長)と見よう見まねの手探りで取り組んだわけです。

そのソフトが使い勝手がひどく悪くて、まず会社から頂いたエクセルシートを読み込ませるだけで数日かかり、その後その号俸表を作るのにまた数日かかりと、とにかく時間がかかりました。ただひたすら粘り強く試行錯誤しながらやっと現状分析をしてその結果を会社に説明し、年齢給の割合を縮小し職能給の原資とし、その職能給については号俸表を作り、等級と賃金にかい離がある人のピックアップをして1つ1つ会社と検討し、手当を整理して、と独学1本で何とか作り上げました。

特に号俸表を作るのに、何度も何度も条件を入れなおして気が遠くなりそうな場面もありました。根気がいる作業だったと今でも思い出しますが、やはりとにかくやってみることが一番と思います。どんなにセミナーに出ても本を読んでも実際にやってみないことにはわからないことばかりです。かといってセミナーや本を読んで下準備しておくことは重要です。自分一人では無理であれば仲間を作っておき分担することも良いと思います。とにかく所詮人類が作ってきたもの(ちょっと大げさ!)が自分に作れないわけがないくらいに考えて度胸を持って頑張ってみることが大切ですね。


休業手当 派遣先の負担

2011-04-03 13:57:07 | 労務管理

今回の地震・津波の震災については「東日本大震災」ということに決まったそうです。原発も一応落ち着いた状態でありながらまだまだ非常に厳しい状況である上、これは時間をかけて収束させていくことを国民全体で覚悟していく必要があるのではないかと感じています。東京電力の勝俣会長の記者会見での明確な発言を見て、その手腕に心から期待いたします。また当初は避難生活の確保・維持が先決だったものが、壊滅状態になった街の復興作業の方向性を決めることと実行開始が急務だと思います。こちらについては国の検討・決定システムや方法等できるだけ早く決めて示される必要があると思います。リーダーが明確に方向性と大きな方法・考え方を示せば、国民は自主的にそれについての具体的な方法を考えて動いていくことができると思うからです。民主党だけではなく党派を超えて力を発揮して欲しいです。

今週はとにかく震災関係のご質問が各企業から多くありました。労基法の計画停電対応の休業に対する休業手当や時間外労働など労働時間対応・労災保険の今回の震災における業務上外の認定・雇用保険法の休業の際の雇用調整助成金の震災対応の要件緩和・その他ボランティア休暇や労働保険料の納付期限の延期など、厚生労働省で打ってくる様々な施策を押さえながら顧問先のご質問にお答えつつ、実務マニュアルにすべく項目別にすべてファイルしています。

4月26日(火)に行われるOURSセミナーは「労働時間 変形・みなし」ですが、こちらの内容を少し圧縮して「東日本大震災に対応する労働・社会保険関係の実務」を加える予定です。色々な通知や法律の考え方などを確認して頂くつもりです。          http://www.koiso-jimusho.com/info/moushikomi1.html

顧問先企業などのご質問の中で、厚生労働省から協会団体等の質問に対して明確に回答が得られていないのが、派遣先が休業する場合に、休業手当の支払い義務がある派遣元に対して派遣先がその一部を負担する義務があるのかないのかということだと思います。まだ正式な通知や回答がないのでリーマンショック後に示された「改正派遣元・派遣先指針」と平成21年3月31日の職業安定局需給調整事業課からの「派遣元・派遣先指針の改正について」を元に回答しています。

その改正で、「派遣先は、派遣先の責に帰すべき事由により派遣契約を『中途解除する場合』は、休業等により生じた派遣元事業主の損害を賠償しなければならないこと」とされました。あくまで『中途解除』によりということになりますから、今回計画停電などで派遣先が一時的に休業するという場合の休業手当に当てはまるものではありません。中途解除をするのでなければ、休業手当の支払いに対して派遣先が損害賠償の義務を負うわけではないのです(東京労働局に確認したところ今のところ考え方に変更なしとのことでした)。

ただこの震災の混乱の最中に、派遣元が派遣労働者の休業回避のために他で働く場所を準備するのは極めて困難であるということ、また国全体でこの危機を負う気持ちからか、派遣元が支払う休業手当の一部または全部を派遣先が負担するということで話し合いがついたという情報が結構入ってきています。一般企業の動向としては、派遣元と派遣先で常識的に今回の負担を決めている状態と言えると思います。

このさなかの先週に事務所の階段を降りる際下から6段目のところでブーツの足が絡み頭からダイブしました。幸い右足ひざ下からくるぶしにかけて一番ひどく打ったのと、左あごでコンクリに着地して打ちつけたため若干の擦り傷にはなりましたが、骨折もせず済みました。今日あたりキズもだいぶ目立たなくなり顔が変わったりもしていないようですのでホッとしております。ダイブする時の恐怖がまだ残っており事務所の階段を下りるのが怖いですが。