OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

立法学

2018-10-28 23:23:24 | 雑感

大学院の秋のカリキュラムには「立法学」があり、法律の成立過程や各機関等の役割を学んでいます。法律ができるまでには非常に多くの工程があり驚きます。

まず法律提出には、内閣提出法案と議員提出法案があります。ちなみに社労士法など資格に関する法律は議員提出法案がほとんどのようです。しかしその数としては内閣提出法案が圧倒的に多いということです。

内閣提出法案についてどのような工程を踏み施行までたどり着くのかというと以下の通りです。

各省庁による原案作成→省内審査→各省協議→内閣法制局審査→与党審査→閣議→国会提出→(本会議趣旨説明)→委員会審査→本会議可決→成立→公布→施行

非常に多くの工程を踏んで施行に至ることは分かりましたが、特に内閣法制局審査については知識がなかったので少し勉強しました。

内閣法制局というのは明治18年12月、内閣制度の創設に伴い設置されたとされています。戦後いったん解体された後、昭和23年に法務庁設置法により法務総裁の所管の下に法制局が置かれることになり、法務庁が法務省となり、法制局も再び内閣の補佐機構としての地位を与えられました。

内閣法制局の主な業務は、以下の通りです。

・法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣および各省大臣に対して意見を述べる「意見事務」

・閣議に付される法律案、政令案及び条約案を審査する「審査事務」

この審査については、下は文章の点の付け方から、上は憲法をはじめ他の法令との対照、抵触の排除におよぶものであり、具体的には法律として制定する必要性、規制・手続等について、憲法を頂点とする既存の法体系との整合性を確認、表現の統一、条文配列の論理的整序、文章の正確さを厳しく審査するということです(中島誠「立法学第3版」〈法律文化社2014〉P83より抜粋)。

この審査は、1日10数時間、連日連夜行われるという激務になるそうで、その審査を経るので日本の法律は裁判所による違憲審査も少なく、法的安定性が確保されていることに繋がっているということなのです。

いよいよ65歳定年制及び66歳以上継続雇用制度の流れが明確になってきたようです。連合会で受託した各企業にこれらを提案するという事業については、この秋から冬にかけて顧問先に回りご説明してみようと思います。

人生100年時代に突入したといっていい現在、年金制度はそこまでの受給年数について設計されておらず、そうであれば雇用延長と合わせて年金支給開始年齢を選択できるということになるのかと思います。勉強していると医療制度も大きな見直しが必要であることを実感しますし、日本の誇る国民皆年金・皆保険制度を持続可能とするための大きな改革の時期が来ているように思います。


老人保健法が廃止に至った理由

2018-10-21 23:19:42 | 社会保障

先週に引き続き「老人保健法」が廃止に至った理由を少し触れてみようと思います。老人保健法が廃止に至ったのは、先週も触れていますが、加入者按分率を創設当初は50であったものが100にまであげてしまったこととされています。

老人保健拠出金の計算は以下のように定められていました。

(A式)当該保険者の老人医療費総額×(全保険者の平均老人加入率÷当該保険者の老人加入率)×加入者按分率×(1-公費負担割合)

(B式)当該保険者の老人1人当たり医療費×当該保険者の加入者数×全保険者の平均老人加入率×加入者按分率×(1-公費負担割合)

「加入者案分率」とは、老人医療費のうち老人が加入している割合の格差による負担の不均衡をどの程度まで調整するかという役割を担っています。調べたところによると次のような変遷をたどっています。1982年2月~50%、1983年度47.2%、1984年度45.1%、1985年度44.7%、1987年1月~80%、1987年度~90%、1991年度100%。これをみると1987年からいきなり財政状況が悪くなったためなのか、加入者按分率が急速に引きあげられたことがわかります。

加入者按分率が100まで上がったという理由については、老人保健法の制度成立当初の退職被保険者の数に読み違いがあり、要するに被用者保険者が負担する予定であった被用者OB分の額が見込み額に比べて少なく、国民健康保険が負担する費用が予想より大きくなってしまったためだったということです。

退職被保険者になるには、「被用者年金加入期間が20年以上もしくは40歳以降に10年以上」を要件としており、実際老齢(退職)年金を受給している必要があります。今は経過的に若干残っている制度となってしまいましたが、老人保健法が廃止される前はサラリーマンが定年退職後ほとんど適用となっていた制度です。ちなみに、何故医療なのに年金受給が条件なのかと思っていたのですが、「対象となる退職者を把握するには過去のデータを持っている被用者年金を利用する」というある意味アイディアがあったようです(「戦後社会保障の証言―厚生官僚120時間オーラルヒストリー―」〈有斐閣〉より)。

医療保険制度については、後期高齢者医療制度も含めて再度見直される公算が大きいと思います。今後医療制度全体について真剣に抜本的な改革を検討することになると思いますので、過去の制度の総括し、振り返る価値はあるのかなと思っています。

今回ゼミで上記の書籍(オーラルヒストリー)を取り上げることになったため、読んでみて実感したのは、なかなか書籍の中で文章とはなってこない「語られること」は文章と伝わってくる内容が違うということでした。文章ではある程度結果的な事柄が書かれているわけですが「語り」においては結果より経緯が詳しく語られ、その中の一言で鮮やかにイメージできたりすることが何回もありました。そういう意味では授業やセミナーも同じなのかもしれないと感じました。

先週、尊敬すべき女性の先輩とランチをしたとき、スマホにキンドルを入れてバンバンそれも源氏物語や蜻蛉日記から夏目漱石まで読んでいると教えてもらいました。スマホで読むと7分間だけ電車に立っているあいだであっても読めるし文字も適度な大きさにすることができて、又無料版もたくさんありすごく良いということでした。すごいなあと思うと同時に元気をもらいました。キンドル版が大学院で使う書籍にはほとんどないので残念ですが、早速キンドルをスマホにダウンロードしました。


老人保健法と退職者医療制度

2018-10-14 22:49:22 | 社会保険

2008(平成20)年に高齢者医療制度(後期高齢者医療制度と前期高齢者医療制度)が発足するまでは、1983(平成58)年から施行された「老人保健法」とその翌年施行された「退職者医療制度」で高齢者の医療費に対する財政調整は行われていました。高齢者医療制度については、我が国が高齢化対応に迫られるようになってから常に議論されています。

老人保健法については、所属している各医療保険者の被保険者のままに財政調整が行われる仕組みであり、この老人保健法の対象年齢である70歳に至るまでの退職者医療保険制度は被用者OBを現役被用者が支えるといういわゆる突抜方式といわれる方式を採っており、当時から合理的な制度であると私は考えていました。しかし、各医療保険者の負担が重くなり見直すことになり、現在の後期高齢者医療及び前期高齢者医療制度が創設されることになりました。

なぜ各医療保険者の負担が重くなってしまったのかについて調べてみたところ、老人保健法の制度のスタートにおいては50であった「加入者按分率」を一挙に100まで引き上げたこととされています。老人保健法の財政調整の方式は、各保険者に加入している老人の割合を問わず、その保険者数の加入者数に応じて拠出するという、老人医療費から公費負担を除いた医療費を各保険者の加入者の頭数で割り振るという仕組みでありました。そこで算出された費用の額に加入者按分率を乗じるわけですが当初50%が10年で100%になるとはやはりあまりに急激すぎたのだろうと思われます。

被用者保険に属さない者はすべて国民健康保険がカバーし国民皆保険を成り立たせるという日本の医療保険制度の基本設計においては、高齢化の影響は定年後加入するケースが多い国民健康保険に特に大きく、負担が重くなりすぎる。この構造が変わらないかぎり後期高齢者医療制度という独立した保険制度を作ったとしても保険者間の財政調整は必要となり現役世代の重い負担は解消されないように考えます。日本の医療保険制度を考える上でヒントになりそうな気がしますので、老人保健法が廃止となった理由をもう少し調べてみたいと思います。

昨日は一人息子の結婚式でありました。2人で並ぶとお似合いの、ゆったりとしたいつも自然体のお嫁さんを迎えて、また大勢の友人に囲まれて、終始幸せそうでした。TACの講師時代は、やれ大学受験だ、就職活動だとずいぶん授業でも登場させましたが、大学入学後の19歳から一人暮らしをはじめました。従って最近は全くといってよいほど面倒を見ていなかったのですが、やはり結婚するとなるとお嫁さんにお任せできるとほっとした気持ちになるものです。


時季指定年休の罰則適用について

2018-10-08 20:34:51 | 法改正

朝日新聞の7月19日付で改正労基法の年次有給休暇に係る罰則についての記事が載っているというご連絡を顧問先から受けました。7月18日の労働政策審議会の審議についてはまだ議事録が見れない状況なのですが、そこでの見解であろうと思われます。違反について罰則がかかるのは企業単位なのか労働者1人当たり単位なのかというご質問はほかの会社さんからも若干受けていますが、今回の厚労省の見解は労働者1人当たりであるということです。

働きかた改革法の来年4月から全企業に課される年次有給休暇の消化義務をめぐり、厚労省は18日、企業側が年休の消化日を指定したのに従業員が従わずに働いた場合、消化させたことにはならないとの見解を示した。企業側にとっては、指定した日にきちんと休んでもらう手立ても課題になりそうだ。法施行に必要な省令改正などを検討する労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で、経営側委員の質問に担当者が答えた。働きかた改革法では、年10日以上の年休が与えられている働き手が自主的に5日以上を消化しない場合、企業が本人の希望をふまえて日程を決め、最低5日は消化させることが義務づけられる。違反した場合、従業員1人あたり最大30万円の罰金が企業に科されるため、企業は対応に神経をとがらせている。(朝日新聞2018.7.19付記事より)

これは刑法48条*に基づくものと考えられ、「罰金の多額の合計以下」ということになります。労働者1人当たり30万円の罰金ということは5日取得できていない労働者が10人いれば300万円以下の金額での罰金ということに理論上はなるのかなと思われます。

実際に5日未取得者がいるからといって即罰金刑が科されるかどうかは、来年の4月以降改正法が施行された後労働基準監督署等の動向を見てみないとわからないですが、法律の定めはそのようになっているということは認識しておく必要があるかと思います。

*刑法第48条(罰金の併科等)
第四十八条 罰金と他の刑とは、併科する。ただし、第四十六条第一項の場合は、この限りでない。

2 併合罪のうちの二個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する。

一昨日は大学卒業周年記念のお祝い会でした。みんなそれなりに年を取っていましたが、あっという間に当時の雰囲気がよみがえり、色々なことを思い出しながら話し、心から笑って楽しく過ごすことができました。特に体育会の仲間は懐かしく、話していると当時から今日までタイムスリップしたような不思議な感じすらしました。また次の会の時まで元気で過ごして皆で集まれますようにと願っています。

いよいよ大学院の授業が始まり、いきなり読む本がどっと提示されました。発表も10月に1つ手をあげましたのでまた頑張ろうと思います。ただ春学期のスタートの時は、右も左もわからず社会保障の世界に飛び込んだ感じでしたが、秋学期を迎えて少しではありますが春学期の勉強や夏休みに読んだ本の知識の積み上げができて、色々なことの関連性、つながりが見えてくるような気がして、勉強することがますます楽しくなってきたように思います。