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社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

労働局 同一労働同一賃金の調査の留意点

2024-07-21 15:30:18 | 労働法

先週年金事務所の調査についてブログに書いたところいつもより多くの方が見て頂いているようで、調査対応について悩まれている人事担当者等が多いと感じましたので、今週と来週で労働局の「同一労働同一賃金の調査」について、多少の経験を元に留意しておく点などを書いてみたいと思います。

同一労働同一賃金はそもそも平成30年12月に「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」が公布・告示され、これがいわゆる「同一労働同一賃金のガイドライン」として裁判例と共に現在まで考え方の基礎となっています。

平成30年当時、同一労働同一賃金のガイドラインに沿って各社とも特に均衡待遇について合理的な説明ができるか、又は待遇差を解消するかを検討しました。その際慶弔休暇については正社員と契約社員の差をなくした会社さんが多かったと記憶しています。令和5年12月26日の労政審、雇用環境・均等分科会(第66回)の資料を見ると、正社員100とした場合の有期雇用パートタイムに実施した内容のベスト3は通勤手当(84.7)、法定外休暇(66.8)、慶弔休暇(61.8)です。逆に住宅手当等の手当関係、退職金などは実施が10.0前後ととても少なく、ただ人事評価、賞与、昇給は(45.0前後)と、思ったより実施していると感じます。

厚生労働省は、令和4年12月から「同一労働同一賃金の遵守の徹底に向けた取組み」を行っており、労働基準監督署ルートと都道府県労働局ルートの2方向から調査等を行っています。顧問先に監督署の調査のご連絡があり、事前に送られてきた調査票が同一労働同一賃金だったので、てっきり同調査と思い会社さんと事前に準備をしたところ、実際の調査は労働時間を中心とした労働基準法の調査であったことがあります。監督官に最後に同一労働同一賃金の調査はないのでしょうかと問いかけたところ、あれは労働局の担当なのでということでサラリとかわされ、後日労働局の同一労働同一賃金の調査が別にあったという事例がありました。思えば以下の取組みの流れを考えると当然で、労働基準監督署の監督官は「事実関係の確認」を行っていたのだということが分かります。

上記資料によると、労働基準監督署の「事実関係の確認」は、令和4年から令和5年11月までに39,174件、その中で対象企業を選定して都道府県労働局が「パート・有期雇用労働法に基づく報告徴収等」として同期間に7,983件、法違反があると「都道府県労働局長による助言・指導等」から不合理な待遇差の是正につなげます。法違反のない場合も雇用管理改善を助言として「働き方改革推進支援センターにおける相談・コンサルティングにより待遇の点検・見直しにつなげるとされています。

調査があるからというだけでなく、最近もかなり同一労働同一賃金についてはご相談が多く、特に待遇差について検討されることが多くなっているように思います。悩ましいものの1つが賞与ですが、正社員は成績等評価による支給、契約社員は慰労的な根拠と賞与の支給基準が異なるとことで額の差び説明がつくということで問題ないようです。ただ実際の調査の際には、正社員のみに精勤に係る賞与が別途年2回支給されていた場合、契約社員に対しても「均等・均衡待遇」の観点から支給を検討しては如何かという「提案」がありました。(来週に続く)

いよいよ梅雨明けで、これから暑い日が続きそうです。熱中症に気を付けて過ごしましょう。来週は年に2回のBBクラブの勉強会です。100名を超える参加のご連絡を頂いており、参加頂く方達にお会いできるのを楽しみにしています。


年金事務所の調査で注意すること特に2点

2024-07-15 23:35:53 | 社会保険

最近社会保険の調査が多いような気がします。また調査の内容が以前に比べて厳しいとも感じており、手続きに誤りがある場合2年間の遡りにより算定と月変のやり直しが必要になるケースもあります。そこで今日は手続上で注意しなければならないポイント2点を取りあげます。

まずは、コロナ禍以後非常に増えてきた一時的な手当の扱いです。業務とは関連性のない慶弔的な手当(例えば結婚祝い金等)は恩恵的ということで福利厚生に位置付けられますが、疑義照会によれば業務に関連する手当であれば概ね福利厚生にはなりえず、報酬又は賞与で保険料徴収をする必要があると考えてよいでしょう。ほとんどの場合課税はされているのですがなぜか保険料については必要がないと考えられケースが散見され、指摘されることが多いです。課税した場合は保険料についても徴収する必要がないか確認したいところです。一時金のことが多いので、その場合報酬に係る保険料ではなく賞与保険料の徴収と賞与届が必要になります。疑義照会の回答と抜粋は次の通りです(疑義照会回答 厚生年金保険適用P8)https://www.nenkin.go.jp/service/seidozenpan/gigishokai.files/kounen_tekiyou.pdf

『恩恵的かどうかの判断は、社会通念上での判断となりますが、ご照会の事例は(大入袋に関しては)、賃金台帳に記載があること、金額が1 万円であること、これに加え、支給事由が業績達成や営業成績に連動しているものであれば、本来の大入袋のもつ性質とは異にし、恩恵的ではないと判断するのが妥当となります。』

もう1点心配しているのが一昨年の適用拡大の運用です。2022年10月の101人以上規模の適用拡大の際の判断としては契約書の内容が適用拡大の4要件(①週所定労働時間20時間以上、所定内賃金が月額8.8万円以上、2か月超雇用見込、学生ではない)に該当しているか否かで判断しました。その際、次の契約更新の際に見直せばよいのではなく、実際の働き方により資格取得の必要が出てきます。つまり恒常的に実際の労働時間が週20時間以上となった場合は、更新前でも資格取得する必要があり、Q&A問34に以下の通り示されています。https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.files/QA0610.pdf

『実際の労働時間が連続する2月において週20時間以上となった場合で、引き続き同様の状態が続いている又は続くことが見込まれる場合は、実際の労働時間が週20時間以上となった月の3月目の初日に被保険者の資格を取得します。』

業務量が契約段階の予想より増え週所定労働時間が20時間以上の勤務が引き続き続いている等4要件を満たす状況が続く場合は、3月目に資格取得しなければならないという点について会社の認識が薄いような気がします。2か月の勤務状況をみて3か月目に入る前に該当者には今後どのような働き方にするかをご本人に聞き取得の判断をする仕組み(フロー)を作る必要があると考えます。この点適用拡大時にそこまで検討されていればよいのですが、これを行わず結果恒常的に20時間以上の勤務が続いてしまったという場合は、これも遡りで資格取得を求められますので注意が必要です。

2024年10月にはさらに従業員数51人以上の企業が適用拡大の対象になります。冒頭にも書きましたが年金事務所の調査は以前より細かく厳しいと感じています。社労士同志の話の中にもそれは出てきていますので、会社にも一度厳密な手続き方法を伝えておくほうが良いかもしれません。


退職代行サービスについて

2024-07-07 21:25:56 | 労務管理

退職代行サービスがだいぶ一般的になってきているようです。この退職代行サービスを利用して退職を申出られた際に会社はどのように対応すればよいのかということについては、まだご相談数が少なくそれほど知見・経験があるとは言えないのですが、少し考え方を整理しておく必要もあろうかと思い取りあげてみたいと思います。

まず退職代行というサービスですが、日本特有のものであり、外国では「なぜ退職するのに自分で言い出せないのか?」と不思議がられる、ということを読んだことがあります。これまでの常識からいえば「退職は本人からの申し出を上司や人事が受ける」というのが当たり前であり、まだまだ退職代行サービスを利用してきたということで会社としては「もやもやした感じ」があるかと思います。会社が引き止めたい人材であればそれもわかりますが、利用すること自体日本的なのだと考え、退職代行サービスの利用があった場合でも、ドライに割切ることも必要なのかもしれないと思います。

退職代行サービスを行うのは3つの形態があるということです。①弁護士(法人)、②ユニオン(労働組合)、③事業会社です。法律的に問題はないのかという点ですが、弁護士が本人から委任を受けて代理人になっていれば条件の交渉も可能ですし、ユニオンの場合は団体交渉権により要求をしてくることは法律上の要件を満たした労働組合であれば法の抵触はないといえます事業会社が本人の意思を伝達するということであれば法的に問題ないとネットでは示されているようですが、こちらについては非弁行為に該当する可能性が高いという考えもあり、また、報酬を得て「条件交渉」をすることは確実に非弁行為として弁護士法72条違反になります。

退職代行サービスの利用により退職の申し出があったときは以下が留意点となります。

➀代行業者を確認・・・上記の適法性などを確認したいところです。

②就業規則の退職の申出を確認・・・1か月前に申出ることと規定されている場合でも、おそらく退職代行サービスから来た文面では即日退職の申し出が多いと思います。就業規則に「申出は退職日1か月前」と規定していても、民法の定めにより、申出より2週間経過日が最短の契約解除=退職日となりますので、即日退職を認めるか、又は2週間経過日とするか判断する必要があります(ただ、2週間後とした場合でも、体調不良などで出勤不可と言ってくる可能性は高いようです)。

③退職届を求める・・・就業規則に義務として「退職の際は退職届を提出すること」と規定しておき、本人からの退職届を受理することが良いと考えます。退職届は本人の意思表示であり退職代行サービスを利用する場合でも、病気などの理由がない場合以外は他人が作成できないものとされており、退職届を受理することにより本人の意思を確認することができます。

④手続等について・・・法定期限のあるものは法定期限を守って手続きをする必要があります。

雇用保険被保険者資格喪失届等の法定期限は、離職した翌々日から10日以内です。資格喪失届に離職証明書を添えて公共職業安定所に提出し離職票を交付してもらいます。早めに欲しいという要望があっても法定期限内に手続すれば問題ありません。

給与については就業規則等で定めた給与支給日に支払うことが原則ですが、労基法23条の規定により退職者から請求があった場合には7日以内に支払う必要があります。賃金額などについて争いがある場合は、異議のない部分を7日以内に支払うことになります。

逆に健康保険証や会社で貸与していたもの等は、だれがいつまでに返却等するのかを、退職代行サービスに確認するのは良いと思います。

週末2日間は、7月27日(土)に行われるBBクラブの勉強会のレジュメを作っていました。昨日はいきなりすごい雨やヒョウまで降って、うちのベランダにも氷の塊が転がりビックリしましたし、今日は都知事選挙で外に出たところ凄い暑さでしたので、あまり遠出する気も起きずレジュメ作りにはピッタリの週末でした。今回の勉強会では改正のあった雇用保険法、育介法、子ども子育て支援法、フリーランス保護法に加えて、最近ご相談の多い、リファラル採用、副業・兼業、時間単位年休のおさらい等取り上げる予定です。レジュメはだいたい6~7割程度できたかなというところですので、あと少し頑張ります。


世の中の大きな変化へ危機意識の必要性

2024-07-01 00:16:13 | 雑感

コロナ前から少しずつ、コロナ禍を経て大きく、世の中が大きく変化したことを実感します。例えば男性の育児休業もわずか10年前は今のように推進されることではなかったと思います。また働き方についても夜9時ころまでの残業は当たり前、自宅でテレワークや勤務時間中の時間単位年休の中抜けなど考えもつかず、自由度の高い働き方と言えばフレックスタイムくらい。しかしそういう変化はある程度目に見えることで、世の中の大きな変化を受け入れる必要があると認識すれば対応はかなり可能と思います。

ただ社労士として相談業務を受けてアドバイスをする際に気を付けなければらなないことがあると最近気づかされました。例えば、最近導入が増えてきた副業・兼業ですが、10年前であれば正社員の副業はまず認められず例外的に「家業の資産運用会社の役員に名を連ね役員会に出席する」とか「単発で社外の講演会で講演する」等が認められるといった状況だったと思います。従って就業規則に「副業禁止」とまでは書かれておらず、服務規律に「許可なく他の企業の役員に就任し又は他の職業に従事しないこと」などと書かれていることが多いです。ただ、その書きぶりであると副業は認めないという大前提がなくに「許可されれば副業も可能」ということで既に副業が認められている理解になり得ます。副業を認めるにしても、まず正確な現状把握があって、その上でどのように認めていくかを決める必要があると考えます。ある意味日本語の行間を読むことが価値観の変化で異なって読まれるということもあるということです。

世の中の共通認識が大きく変化したにもかかわらず、就業規則についての細かな対応が追い付いていないように思え、この夏全体的に見直して価値観の変化による齟齬が生まれそうな部分を洗い出してみようと考えています。

また企業の収益構造も世の中の大きな変化に対応していかないと本当に仕事自体がなくなる危機に直面する可能性があると感じますが、これはデジタル化が大きな要因になると思います。富士フィルムはフィルム事業の衰退を乗り越え、事業転換を実現しましたが、事業の衰退はデジカメの普及が要因になっています。新たな事業価値の創造は容易なことではないと思いますし、時間もかかると思いますが、それを牽引するのはリーダー層の先を見る目と危機意識の持ち方、新たな分野への前向きなスピード感のある取組みと、既存の強みをいかに生かすかということなどがあると思います。デジタル化によって構造的に成り立たなくなっている産業もあり、いかに次に進めるのか、今の確立した構造を壊さなければならないのか、どのように展開されるのか、不安もありますが大きな期待もあります。

社労士業務も常に先を見て現状の独占業務に安住することなく、次を模索していかなければならないといつも考えています。デジタル化も含めて方向性は決まっており、ここ数年の経過の中でやることも具体的に整理できてきました。9月の新年度に向けて3年の中期計画に盛り込む予定です。

それにしてもこの世の中の急激な価値観の変化(私はいつも価値観が180度変わったと言っています)は、変化したことを知っている世代にとっての認識と既に価値観が変わってから物心がついた世代との認識のズレはかなり要注意だと思います。そういう意味では価値観の変化について丁寧な説明も必要でしょうし、日本人の得意な「阿吽の呼吸」ではなく「明確に言葉にする」「はっきり物を言う」ということが重要な時代になっていくのではないかと思います。


時間単位年休の導入留意点

2024-06-23 21:37:02 | 労働法

時間単位年休は平成22年の労働基準法改正により同年4月から施行されました。当時は、仕事中に1時間や2時間抜けるのを認めるなど考えられない、といった反応の会社が非常に多かったと思います。ただ時は流れ、特にコロナ禍によりテレワークが普及した影響が大きかったと思いますが、労働時間を柔軟に考える会社が増え、最近時間単位年休を導入したいというご希望が多いと感じます。育児中のお迎えや、通院、また友人とのランチなどお昼休みの1時間では足りない場合、特にフレックスを導入していない場合は、確かに仕事とプライベートの両立には有用です。

元々導入時のリーフを見ると「仕事と生活の調和を図る観点から、年次有給休暇を有効に活用できるよう、時間単位で年次有給休暇を付与できるようになります。」とあり、時代が追い付いてきたということだと思います。

時間単位年休の導入については労使協定の締結が必要であり、労使協定には➀対象労働者の範囲、②時間単位年休の日数、③時間単位年休の1日の時間数、④1時間以外の時間を単位とする場合の時間数、を決めることで比較的簡単に導入することができます。なお労使協定の監督署への届出は不要です。また時間単位で付与するのは年5日の範囲内とされています。

上記③の意味は所定労働時間が7時間30分の会社が導入する場合は、(30分という概念が時間単位年休にはないので)切り上げて1日8時間分を付与することになるということです。また上記④の1時間以外を単位とするというのは、2時間単位等で取得するルールなどを決めておく場合です(実際はあまり見かけません)。

問題はその後の管理と翌年の繰り越しです。これはシステムで対応する方が良いと思いますが、かなり難儀する場合があります。考え方としては8時間の所定労働時間の場合で時間単位年休5日付与のうち20時間取得した場合残りが20時間(2日と4時間)になりますが、この時間を含めて翌年も最大5日までが時間単位年休として使えることになります。

その他留意点としては、年5日の範囲内と制限しているのは、やはり年次有給休暇の本来1日単位でまとまって休息をとるという本来の趣旨は変えていないということと考えます(従って労総者有利と考えたとしても付与した日数全て時間単位で取得できるとするのは法趣旨と異なる扱いになると考えます)。

また、時間単位年休の対象労働者の範囲は決めることができますが、対象外にするには正常な事業運営の必要性(班で交代作業のため中抜けができない)などから定めることができるとされており、育児を行なう社員に限る等の取得目的による制限は認められないとされています。

なお、時間単位年休は、平成31年施行の年5日の取得義務化による5日の対象外とされています。

社会の動きがとても早く、また法改正もそれにつれてあり、社労士として取り組むテーマに事欠かないことが本当に面白いと感じています。読みたい本が山積みなのでもう少し余裕が欲しいかなと思いますが・・・。


就業規則に規定のない懲戒処分

2024-06-16 23:31:16 | 労務管理

就業規則に規定されていない懲戒処分は可能かという点を調べてみました。懲戒に関する事項は、労働基準89条において、定めをする場合には必ず就業規則に記載しなければならないとされる相対的必要記載事項とされており、「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度の関する事項」を定めることとされています。

従って①懲戒処分の種類と②懲戒処分の事由を就業規則に定めた上で、懲戒処分を行う際は、③行為と処分が整合性のとれたものであること、④判断にあたっては軽い処分から重い処分へ段階的に検討する必要があること、⑤処分にあたり懲罰委員会の決定など手続きが決められている場合手続きを厳守すること、⑥二重処分にならないように注意すること、が留意点としてあげられます。

労働契約法15条には、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする(日本郵便事件、最一小判令和4.6.23)。」と定められており、例えば上記③にある行為に対して処分が整合性が取れておらず処分が重すぎる場合は権利濫用とされる判決が出ることになります。

それでは、就業規則にない事由による懲戒処分は権利濫用とされるか否かですが、最高裁判決(フジ興産事件、最二小判平成15.10.10)において、「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要し、就業規則が拘束力を生ずるためには、その内容を、適用を受ける労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。」としています。その他の判決を見ても、就業規則に定めのない事由による懲戒処分は懲戒権の濫用と判断されるものと考えられます。

これは労働者が守るべき事由が示されていないにもかかわらず、いきなり懲戒処分だとされるのは理不尽なケースが起こりうるということから、就業規則に処分の種類とその事由を定めておく必要があるということです。

ただし、古い判決ですが「被申請人会社のような企業に於て、明らかに企業の秩序をみだし、企業目的遂行に害を及ぼす労働者の行為に対しては、使用者はたとえ準拠すべき明示の規範のない場合でも企業にとつて必要やむを得ないときは、その行為に応じて適当な制裁を加え得ることは、企業並に労働契約の本質上当然であるから、被申請人会社は右の固有の懲戒権を根拠として従業員に対し懲戒をなし得るものといわねばならぬ(北辰精密工業事件、東京地判昭和26.7.18)。」という判決もあります。

個人的には、上記判決について本質的に納得できないわけではないのですが、やはり懲戒処分を行う際は就業規則の定めを根拠とすることが原則だと考えます。

開業当初の頃は、「うちの会社に懲戒処分をしなければならないような社員はいない」ということで就業規則に制裁の規定がないというケースもありました。会社は一家、社員は家族、という感覚だったのだろうと思いますが、流石にそういう会社は当時から少なかったです。ただ、今でも懲戒処分の規定については、就業規則のリーガルチェックの際に指摘事項が多い箇所ではあります。トラブルを避けるためにはかなりきちんと整備しておく必要があることは間違いなく、かなり広く適用できる規定ぶりもありますが、やはり今は具体的に服務規律とつながる形で処分の事由を規定しておくことが肝要だと思います。


役員の社会保険の扱いについて

2024-06-09 23:42:37 | 社会保険

6月は特に下旬に株主総会が行われることが多く、役員の交代時期でもあるため、役員の社会保険の取扱いについてご相談が多くなります。特に最近は働く年齢が高くなってきたこともあり役員退任後もその企業に在籍してアドバイザーのような形で仕事をされるケースも多く、働き方によって社会保険の取り扱いを慎重に検討しています。

社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入要件は、「1週の所定労働時間」及び「1月の所定労働日数」が、同一の事業所に使用される通常の労働者の所定労働時間及び所定労働日数の「4分の3以上」である労働者とされています(さらに適用拡大が現在進行中ですがここでは省略します)。

まず上記「使用される」という点について、委任関係である役員について疑問が浮かびますが、通達で資格を継続または取得することとされています。役員に係る社会保険の扱いの根拠として示されているのは、「法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について(昭和24年7月28日保発74号厚生省保険局長通知)」です。)

法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であつて、他面その法人の業務の一部を担任している者は、・・・今後これら法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。なお、法人に非ざる社団又は組合の総裁、会長及び組合及び組合長等その団体の理事者の地位にある者、又は地方公共団体の業務執行者についても同様な取扱と致されたい。

また「4分の3以上」の要件についてはどのように考えるかということですが、まず役員に対しては「4分の3以上」の要件の適用はなく、2023年6月に現在示されている疑義照会に掲載内容を整理されていますが、以前の疑義照会では、非常勤の判断について①当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか、②当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか、③当該法人の役員会等に出席しているかどうか、④当該法人の役員への連絡調整または職員に対する指揮監督に従事しているかどうか、⑤当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか、⑥当該法人等より支払いを受ける報酬が、社会通念上労務の内容に相応したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか、という6つの要素の中で「定期的に出勤」が示されていました。

ただし現在示されている疑義照会では、定期的な出勤だけで判断されるものでもないと、日本年金機構の疑義照会厚生年金保険適用で以下のように示されています。

定期的な出勤については「事業所に定期的に出勤している場合は、法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものである、との判断の要素にはなりますが、本来法人の代表者としての職務は事業所に出勤したうえでの労務の提供に限定されるものではないことから、定期的な出勤がないことだけをもって被保険者資格がないという判断にはならないと考えます。定期的な出勤は、経常的な労務の提供を判断する一つの要素であり、定期的な出勤がないことだけをもって、被保険者資格がないとするものではありません。」とされています。

また上記昭和24年の通知では「法人から、労務の対償として報酬を受けている者」が判断の基準とされていますが、疑義照会ではあまりにも低額な報酬を受けるような場合は「常用的使用関係」と判断できる働き方(多くの職を兼ねていないかどうか、業務の内容等)であるかなどを調査し判断することとし、また実費弁償のみが支払われる場合の実費弁償は報酬ではないため「法人の経営に対する参画を内容とする労務の対価」には該当しないと考えます、とあります。

最終的に「疑義照会回答の判断の材料例は、一例であり、優先順位づけはなく、複数の判断材料により、あくまでも実態に基づき総合的に判断してください。なお、疑義が生じた場合は、実態を聞き取ったうえで、具体的事例に基づき照会してください。(ご照会の事例においては)「常用的使用関係」と判断できる働き方であれば、被保険者資格を認めて差し支えありません。」とあります。やはり一つ一つの案件を慎重にこれまで示された疑義照会や通知にある基準により判断していく必要があります。

疑義照会回答(厚生年金保険適用)
https://www.nenkin.go.jp/service/seidozenpan/gigishokai.files/kounen_tekiyou.pdf

ここのところ理事会、総会や取締役会で決算などを見る機会が多いのですが、財務状況を見ることができるようになってきたと感じます。数字は得意ではないと思ってきたのですが、数字が語り掛けてくるものがあるとわかってきたのはやはり自分で事務所を経営しているからなのかなと思います。まだまだ色々と分かってくることがあるのかなと感じるとワクワクします。若いときは未熟についてプラスのイメージはなかったのですが、年齢を重ねると未熟な部分がありまだ成長していくことができるのかなと感じて嬉しくなるものですね。


就業手当の廃止

2024-06-02 23:59:19 | 労働法

改正雇用保険法が成立して、令和6年10月1日施行の教育訓練給付金の給付率の引き上げや、令和7年4月1日施行の就業促進手当の見直し、令和10年10月1日施行の週所定労働時間10時間以上への適用拡大等について通達が出ています。特にやはり注目度が高いのは適用拡大だと思うのですが、おそらくほとんど興味を持たれていない「就業手当」がひっそり廃止になることについて感慨深いものがあるので触れてみたいと思います(ほとんどの方は関心がないものと思います。すみません)

就業手当は、平成15年に創設されたもので、完全失業率が平成14年から15年にかけては過去最高の5.5%(令和5年は2.6%)となった時期です。就業手当は就業促進手当の一つとして再就職手当と常用就職支度金に統合されたものです。目的としては多様な就業形態による早期就業を促進するために創設されたということなのですが、要件としては基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上かつ45日以上」ということで再就職手当と同じです。異なるのは、就業手当の「職業に就くか又は事業を開始する」に対して、再就職手当は「1年を超えて引き続き雇用されること」という点です。つまり、失業期間中にちょこっとアルバイトをしたということであれば就業手当を支給するという給付なのですが、支給額が基本手当日額の30%であり額的には非常に少なく設定されています。令和5年8月1日からの1年間の基本手当の上限額は最高で8,490円ですが、就業手当の上限額は1,887円です。ちなみに再就職手当の上限額は6,290円です。就業手当の目的は基本手当を受け切ってから就職するのではなく、ちょこちょこ働きながら早めに就職を決めようということなのかと思いますが、今でもやや理解できない感じがします。

就業手当を受給すると基本手当を受給したものとみなされるため、失業期間中にアルバイトをした場合、認定の際に「就業手当」を受給するのではなく、失業した日を後ろ送りにして受給期間内に基本手当を受給したほうが受給額が多くなるということで、失業期間中アルバイトをした場合就業手当として認定されたくないというご相談が結構ありました。私も心配になりハローワークに問い合わせたのですが、結局ハローワークでは個別の事情に配慮された判断がされており、就業手当を受給するケースは少ないようでした。それでも今回、改正にあたり審議会で出た資料を見て若干驚いたのですが、令和4年度の受給者数は再就職手当の359,734人に対して、就業手当は3,486人ということでした。やはり給付の効果としては分かりにくく、廃止は自然なことであったように思います。

改正雇用保険法通達(令和6.5.17基発0517第1号、職発0517第4号)
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T240521L0030.pdf

金曜日夕方までぎりぎり仕事をしてから1泊で京都に行ってきました。人混みを避けて動くことにして初めて川床ランチを経験してきたのですが、これはとても気持ちが良かったです。ただ午後つい街中に出てしまい、オーバーツーリズムを目の当たりにしました。バスが大混雑で停留所によっては乗れない人も出てきたりでテレビで見ていた通り地元の方は移動が大変だろうと実感しました。ほぼ1日の京都でしたが、さすがに食事もとても美味しくて、かなり満喫できました。  


1日の中で勤務と勤務の間が空く場合

2024-05-26 22:29:21 | 労働基準法

労働時間における1日の考え方は、昭和63年1月1日基発1号に示されている通り「午前0時から午後12時までのいわゆる暦日をいうものであり、継続勤務が2暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とする。」とされています。

また翌日の勤務はどこで2日目になるかというと翌日の始業時刻までとされています。こちらについては昭和28年3月20日基発138号に示されています。「午前8時から午後5時迄を所定労働時間としている場合の法37条の時間外の労働時間計算に当っては1日の労働時間を通算し8時間を超えた分の時間による。但し、この場合その労働が継続して翌日まで及んだ場合には、翌日の所定労働時間の始業時刻迄の分は前日の超過勤務時間として取扱われる。」としています。

この通達では、午前8時から午後5時までの勤務を終了し帰宅している労働者を業務上の不測の事態が発生したため午後9時より午前1時まで勤務させた場合という1日の勤務と勤務の間が空く場合どのように計算するかを問うています。

答えとしては上記の通達が「翌日の所定労働時間の始業時刻迄の分は前日の超過勤務時間として取扱われる」としているため翌日の始業時刻までの労働時間を通算することになり、その日は8時間+4時間の通算12時間労働したものとなります。また「午後9時から午前1時迄の労働については時間外割増賃金を、又午後10時より午前1時迄の労働については深夜割増賃金を支払わねばならない。」としています。

要するに同じ1日の中で昼間の労働と時間的に間が空き同日の夜間から翌日にまたがる勤務をどのように計算するかというと、例え勤務と勤務に間が空いたとしてもやはり始業時刻の属する日の労働として通算することになるということです。さらに例えばこの勤務が翌日の始業時刻を超える場合は翌日の始業時刻までが区切りとなり、その区切りから翌日の労働となるということになります。

上川大臣の問題発言と言われている静岡県知事選挙の応援演説ですが、問題発言とされることに非常に違和感を感じています。盛んに「うまずして何が女性」と取り上げられていますが、内容としては「県知事は大きな大きな命を預かる仕事であります。その意味で今、一歩を踏み出していただいた、この方(男性候補者)を私たち女性がうまずして何が女性でしょうか」ということで「子どもを産むうまないの話」ではないものを問題発言として取り上げるとは、揚げ足取りとしか思えないのです。またこれに対して首相が「誤解を招く表現は避けるべきだ」と発言の趣旨についての説明もなく、まったく発言の曲解を指摘する姿勢をみせなかったのもとても残念です。


労働条件の明示方法についての整理と留意点

2024-05-19 22:56:03 | 労働基準法

労働条件の明示方法について気になることがあったので少し頭を整理したいと思います。労働条件の明示と言えば今年2024年4月から改正施行されており、①就業場所・業務の変更の範囲、②更新上限の有無と内容、③無期転換申込機会と無期転換後の労働条件の3点が新たな明示事項として追加されました。このうち②及び③は有期契約の場合であり、①のみ全ての労働者への明示が必要ということになっています。

正社員については労働条件通知書や労働契約書を締結せず、辞令と就業規則などで明示をしているという会社は以前はとても多かったと思いますがそれは違法ではないと考えています。ただし、先日ある会合で人事担当の方数人に伺ったところ最近は正社員にも労働条件通知書を渡しているという会社は増えているようです。

労働条件の明示については労基法15条に以下の通り定められています。
(労働条件の明示)
労基法第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項※1については、厚生労働省令で定める方法※2により明示しなければならない。
※1 厚生労働省令で定める事項とは、施行規則5条に定められており上記改正内容も盛り込まれています。
※2 厚生労働省令で定める方法についても同条に、昇給に関する事項を除くいわゆる絶対的明示事項は書面交付を原則とし、労働者が希望した場合はFAX、メール等も認められるとしています。
 
法及び施行規則において、明示すべき文書の様式は定めていませんが、平成11年の4月1日からそれまで口頭での条件明示でも差し支えないとされていたものが、書面明示が義務化されたに伴い労働条件通知書のモデル様式が示され(平成11.2.19基発81号)行政指導はされています。
 
とはいえ労働契約法7条には以下の通りの定めがあり、就業規則の明示は労働条件の書面明示といえ、就業規則と辞令の明示でも上記書面明示が義務とされている事項がすべて網羅されていれば問題ないと考えます。

労契法第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。(以下略)
 
注意したいのは、4月の改正ですべての労働者への明示事項とされた「就業場所・業務の変更の範囲」について辞令や就業規則では賄えていない可能性があるため、今後正社員の採用時においても労働条件通知書を作成するか、「就業場所・業務の変更の範囲」を辞令又は就業規則に追記する必要がある点は留意事項といえます
 
コロナ禍が過ぎたころから渋谷は本当に外国人が多いです。事務所の隣のビルのヒカリエや渋谷駅周辺は外国にいるような気分になります。日本の経済にとっては有難いことなのだと思いますが、いつもお客様が来られた時に使っていた事務所から一番近いお店がガイドブックに載ったのか長蛇の列になってしまい、少し困っていますが諦めるしかないですね。ちなみにスクランブル交差点を上から眺めている観光客もとても多いです。きっと渋谷の名所なのですね。
 

現物給付について

2024-05-12 21:06:31 | 社会保険

現物給与とは「労働の対償として現物で支給されるもの」をいいますが、住宅の貸与(社宅)と食事の供与が一般的なものといえます。なお、作業衣の支給等については「労働者が業務に従事するため支給する作業衣又は業務上着用することを条件として支給又は貸与する制服の利益については賃金とされない」とされています。この現物給与について最近質問が重なりましたので若干触れておこうと思います。

労働基準法(労働保険)では住宅の貸与や食事の供与は原則として福利厚生とみなされますが、住宅の貸与を受けない者に対して住宅手当など均衡給与が支給されるている場合の均衡給与相当額は賃金とみなされるとされています。ただし実費の分3分の1以上を徴収をされている場合は実質的に支給されていないものとして賃金とはされない(昭和22.129基発452号)ので、概ねこの点を踏まえて実費徴収されており賃金になる場合は少ないのではないかと思います。

社会保険では、住宅や食事その他について、原則として厚生労働大臣がその地方の時価によって定めた額があり、毎年3月に4月からの新年度における現物給与価格一覧表が発表されます。

令和6年4月からの現物給与の価額
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150511.files/2024.pdf

社会保険の調査では現物給与について確認されることがあり、例えば現物給与価額が変わったときは固定的賃金の変動に該当することや住宅の貸与については結構細かいのですが居間や寝室など居住用の部分の面積を出して、畳一畳につき決められた額を乗じることで計算するという方法は知っておく必要があります。また食事について食事代を徴収している場合、決められた現物給与価格の3分の2以上を徴収している場合は現物給与の支給とはされず、3分の2未満が徴収されている場合は、決められた現物給与価格から徴収額を控除した額が現物給与の額になります。

労働基準法(労働保険)と社会保険では現物給与とされる食事の徴収率について異なっている点は注意が必要です。

SDGsに関連して、衣料廃棄物問題が注目されるようになり、各メーカーともリサイクルの考え方が普及し自社製品を引き取ってくれることが多くなりました。ユニクロなども店舗にBOXを用意しているのを今日自宅近くの駅ビルにあるお店で見つけました。

昔は服を選ぶ際サイズや型を気にすることがなかったのですが、特にここ数年は体形がどんどん変わっていきシーズンが明けると情けなくも着れなくなっている、あるいは無理をしているように見えるなどの状況が発生。良く購入する三陽商会の服も引き取ってくれてポイントに換算してくれるということで、連休中の衣替えの時に思い切って整理して持って行きました。かなり気に入っていたものもあったのですが、おそらく元の体系には戻れないし、今の自分を受け入れる気持ちは大事だよなあ~と思いつつ、一つ一つクリーニングに出して感謝を込めて持って行きました。


労働生産性の国際比較

2024-04-29 22:29:35 | 労務管理

顧問先のご担当者からのご依頼で、労働生産性に関する資料を探したところ、2023年12月22日に日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2023」がとても興味深いものでした。その資料によると、2022年の日本の時間当たりの労働生産性は52.3ドル(5,099円/購買力平価(PPP)換算)OECD加盟38ヵ国中30位。日本より後順位はスロバキア、ハンガリー、韓国、ギリシャ、チリ、コスタリカ、メキシコ、コロンビアとなっており、昨年から順位を2つ下げ、データ取得可能な1970年以降最低ということです。主要先進7か国の時間当たりのグラフを見ると2018年を境に移行極端に順位が下がっていることが分かります。※OECDの2022年の円ドル換算レートは1ドル=97.57円・・・もちょっと驚きですが。

さらに1人当たりの労働生産性は85,329ドル(833万円/購買力平価(PPP)換算)、OECD加盟38か国中31位ということで、やはり主要先進7か国で最も低い水準です。日本の製造業の労働生産性は、94,155ドル(1,078円/為替レート換算)。OECD加盟主要34ヵ国中18位で、主要先進7か国で比較するとイタリアより上位につけたため6位となっています。ただこれも驚くことに、2000年にはOECD加盟主要国でトップだったが、2005・2010年に9位、2015年に17位と後退して、以降16~19位で推移しているということなのです。ここの約20年間に国際的に後れを取ってしまったことがよくわかります。

労働生産性がなぜ日本は低いのか、という点についてはネットで検索してみるといくつも分析が上がっていますが、総じて「年間労働時間の長さ」が原因の一つとしてあげられています。ドイツでは、労働者が所定労働時間内で業務を終わらせる文化が根付いているということで、日本の残業は当然という考え方とは全く異なっていることが分かります。日本の場合時間に追われず納得できるところまで仕事に取り組みたいというある意味仕事熱心な国民性があるように思います。しかし、女性も働き夫婦で家庭を支え、またプライベートを大切にするという考え方から行けば、所定労働時間内で仕事を終わらせるという習慣は大切だと感じます。これは今後変わっていく兆しはあると思いますが長年の習慣はかなり強く意識改革をしないと短期間では変わらないかもしれません。

またICT(情報通信技術)が長時間労働解消をはじめとして効率化には当然欠かせないこと、あと65歳以上の就業率が高いことにより短時間労働であるのも要因になっていると考えられるとしている分析もあります。

令和5年労働経済の分析の中で「労働生産性向上の取組み」が取り上げられていますが、1位営業力・販売力の強化、2位業務プロセスの見直しによる効率化、3位働き方改革による労働時間短縮となっています。働き方改革ということで、フレックスやテレワークを導入してある意味形から入ることはもちろん大切なのですが、並行して業務分析をすることで必要のない会議や作業をやめたり統合することや、IT化をすべての作業において推進することなど個々人の細かな業務改革が非常に重要なように感じます。

[参考] 労働生産性の国際比較2023(公益財団法人日本生産性本部)
https://www.jpc-net.jp/research/list/comparison.html

連休前半はどのように過ごされたでしょうか。私は応援している相模原ダイナボアーズ(ラグビー)の試合を見に行ったり(特に後半は盛り上がり、1部残留も決めてとても楽しかったです!)、この春引退される顧問先第1号の会社の社長ご夫妻をランチにご招待したり、衣替えのついでに着れなくなった洋服は寄付できることを聴き、またよく購入するメーカーがリサイクルで買い取りをしてくれるとのことなので服の仕分けしたり、読みたい本を3冊読み終えたりとかなり充実した連休前半でした。後半は少しのんびりしたいと思います。よって5月5日(日)のブログはお休みさせて頂きます。


子ども・子育て支援金制度の費用負担について

2024-04-22 00:02:15 | 社会保障

今話題になっている子ども政策についての財源を医療保険料に上乗せすることについて、法律等はどのようになっているのかが気になって調べてみました。そもそもこの財源を必要とする政策は、こども未来戦略の「加速化プラン~今後3年間の集中的な取組~」に盛り込まれた施策であり、これを着実に実行するための財源をどうするかというためにできたのが「子ども・子育て支援金制度の創設」ということになります。

令和5年12月22日に発表された「こども未来戦略」を見てみると、「加速化プラン」の予算規模は全体として3.6兆円程度としており、財源については国民的な理解が重要であり、徹底した歳出改革等と賃上げによって実質的な社会保険負担を軽減し、その効果の範囲内で支援金制度を構築し、実質的な負担が生じないこととする。また、消費税などこども・子育て関連予算充実のための財源確保を目的とした増税は行わない、と記載されています。確かに岸田首相の答弁も同様であり、国民一人あたりの月平均の負担額は450円(所得水準によっては1000円超え)などとも言われているので、賃上げについて大きな影響はないと思いますが、昨年経団連の会長が賃上げ分の実感が得られないことを懸念し、幅広い層に負担を求める消費税を財源とする議論が必要との見解を示しています。

元々こども未来戦略会議の元となった令和4年7月の「内閣府子ども・子育て本部」が発表した「子ども・子育て支援新制度について」を見ると、財源については「⑤ 社会全体による費用負担・ 消費税率の引き上げによる、国及び地方の恒久財源の確保を前提」とされており、それが筋だろうとは思います。消費税増税の目的を明確にして、国民全体に負担してもらうということが、少子化対策の財源としては適切であり、医療保険という社会保険の仕組みの中で決まる医療保険料に上乗せして徴収するのは筋違いと考えます。しかも法案概要では被保険者から徴収する保険料に「含める」となっており、改正条文では「一般保険料『等』額」として乗じる率は「基本保険料率と特定保険料率とを合算した率と『子ども・子育て支援率とを合算した率』」となっており一般保険料に混ぜ込んだ形については、非常に違和感があります。

以下は、子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案の概要です。

①国は、以下※1~3の必要な費用に充てるため、医療保険者から子ども・子育て支援納付金を徴収することとし、額の算定方法、徴収の方法、社会保険診療報酬支払基金による徴収事務等を定める。

※1.ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化(児童手当の拡充、妊婦のための支援給付)、2.全てのこども・子育て世帯を対象とする支援の拡充(こども誰でも通園制度)、3.共働き共育ての推進(育児時短就業給付、国民年金第1号被保険者の育児期間保険料免除)

②医療保険者が被保険者等から徴収する保険料に納付金の納付に要する費用(子ども・子育て支援金)を含めることとし、医療保険制度の取扱いを踏まえた被保険者等への賦課・徴収の方法、国民健康保険等における低所得者軽減措置等を定める。

③歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で、令和8年度から令和10年度にかけて段階的に導入し、各年度の納付金総額を定める。

●子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案の概要
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e81845c0-3359-433b-b848-edcd539066f5/cbc95edd/20240216_laws_houan_e81845c0_01_01.pdf

そろそろ連休中の過ごし方も気になってきますね。ここのところ毎年事務所メンバーの全員と面接しているのですが昨年から5月の連休中を中心に行っています。連休中は顧問先もお休みしているところが多いせいか比較的予定も入りにくくまとまった時間が取れるという理由からです。

連休前半は事務所がGREENPARTNERSとなっている相模原ダイナボアーズの最終戦に総勢20名で応援に行き、後半は衣替えや色々な整理と旅行に行く予定にしており、なかなか盛沢山の予定を立てています。

https://www.mhi.com/jp/company/sports/dynaboars/


株式報酬の社会保険料の算定対象への該当性について

2024-04-14 20:05:21 | 社会保障

顧問先企業から「株式報酬」について、社会保険の算定基礎に算入するべきか否かというお問い合わせが来ることがあるのですが、判断の根拠になる情報がなかなか見つけられずにいたところ、遅ればせながら根拠を見つけることができました。ただし、非常に難しい内容ですので、資料の抜粋によるご紹介程度にとどめさせて頂こうと思います。

また、2023年3月時点として『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』が経産省より公表され、その中に従業員に自社株報酬を付与する場合のQ&Aの追加を中心として改訂が行われています。この手引きはここまで数回改定されているため、2020年7月12日のOURSブログ「株式報酬制度のかかる社会保険料」の内容に加えて、Q13において退職時に受ける株式報酬について追加されていることにご注意ください。

第5 従業員に対する株式報酬の付与に関するQ&Aが新設されています。

Q80 従業員に向けた株式報酬の支給は労働基準法における「賃金通貨払いの原則」には抵触しませんか。

従業員向けの株式報酬では、付与される自社株式が労働基準法(以下「労基法」という。)上の「賃金」(労基法第 11 条)に該当することにより、賃金を通貨で支払うことを原則とする「賃金の通貨払いの原則」労基法第 24 条)に抵触するか否かが問題となりますが、2022年 7 月の CGS ガイドラインの改訂で、一定の要件を満たす場合は、通常、「福利厚生施設」に該当するものと解することが考えられるとするなど、一定の整理がなされています。具体的には、上記の改訂後の CGS ガイドラインの「5.5 幹部候補人材の育成・エンゲージメント向上」では、「新たな自社株式保有スキームに関する報告書」(平成 20 年 11 月 17日公表)と同様の整理がなされています。上記の平成 20 年の報告書において、企業が信託等のビークルを通じて一定の要件を満たす従業員に対して退職時に無償で自社株式を付与するスキームについての検討がなされました。この中では、実態等をみて総合的に判断されるべきではあるものの、一定の要件(以下の a.~c.の全て)を満たす場合には、労基法第 11条の「賃金」には該当せず、同法第 24 条の賃金の「通貨払いの原則」にも抵触しないものと整理できるとされています。
a. 通貨による賃金等(退職金などの支給が期待されている貨幣賃金を含む。以下同じ。)を減額することなく付加的に付与されるものであること。
b. 労働契約や就業規則において賃金等として支給されるものとされていないこと。
c. 通貨による賃金等の額を合算した水準と、スキーム導入時点の株価を比較して、労働の対償全体の中で、前者が労働者が受ける利益の主たるものであること。
なお、従来から金銭で支払っている給料の代替として付与することはできず、上乗せに伴う費用がかかる点には留意が必要です。

上記の平成 20 年の報告書は、企業がビークルを通じて退職時に自社株式を付与するものを前提としていましたが、この整理の際に検討された各要素(労働者の個人的利益に帰属するか否か等)は、ビークルの利用の有無や退職時の付与であるか否かとは無関係のものであるため、従業員に株式報酬を直接付与する場合及び在職中に付与する場合についても、同様の整理が当てはまるものと考えられます。つまり、企業が従業員に対して、直接又は信託のビークルを通じて在職中又は退職時に自社株式(譲渡制限付株式を含む)を付与するものについても、上記の a~c の要件を満たす場合には、通常、労基法第 11 条の「賃金」には該当せず、同法第 24 条の賃金の「通貨払いの原則」にも抵触しないものと整理できると考えられます。なお、ストックオプションから得られる利益については、賃金には該当しないと考えられています。

https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230331008/20230331008.pdf

上記a~cの一つでも該当する場合は賃金に該当するということになると考えられ、賃金に該当する場合もあることに注意が必要だと思います。なかなか難しい内容なので完全に未消化なのですが、今後お問い合わせがあった際はこの手引を見ながら行政に確認できるかと思います。

昨日は、女性社労士の勉強会である二土会で「ビジネスと人権」のお話をさせて頂きました。お休みの土曜日にもかかわらず、熱心に聴いて頂いて女性社労士の勉強熱心に感銘を受けました。その後事務所で次回夏のBBクラブの準備のための幹事会でしたが、コロナ禍を経て会費徴収も振込みになり、ネット等の活用によりさらなる効率化を検討することになりました。なかなか時代の変化についていっている感じで素晴らしいと思います。

また、今日はパンなどを持参して自宅近くの公園にお花見に行きました。既に桜は7割葉桜状態でしたが、気持ちの良いお天気でしたのでのんびり楽しむことができました。


構造改革の必要性

2024-04-07 14:05:54 | 雑感

色々な企業の様々な課題のご相談を受けていると「これは構造的な問題、解決するにはそこから見直さないと難しい」と感じることが多いです。コロナの期間を経て価値観が180度変わったと常日頃から感じていますが、価値観や目指すものが変わっても、「働く場」や「働くこと」についての意識が昔からの構造を引き継いでいるため軋みが生じていると思い至ります。

今メンタル疾患がとても増えており、協会けんぽの傷病手当金や労災認定のメンタル疾患の件数はどちらもいわゆる疾病を抜いて非常に増加しており、社会で早急に解決しなければならない問題になっていますが、これも働く場の構造改革=働き方の意識の改革が必要ということではないでしょうか。

例えば長時間労働は単に一企業で頑張るのでは難しいというケースが多くあります。いろいろな企業が集まり現場を形成している場合、全体が本来働く時間内に仕事を仕上げるという意識がなければ、一企業のルールを作っても意味がありません。働き方として勤務時間内に仕事を終えることがあたりまえ、残業は特別の場合ということになるような仕事量と仕事の内容の効率化と人員体制といった構造を変えていく必要があります。

また店舗をはじめとして、様々サービスを提供する仕事の場合でも、サービスが行き届きすぎ、時にはサービス過剰といっても良いものもあります。日本人の良いところでもあることはよくわかっているのですが、長年の積み上がりで行き過ぎていると感じることもあります。例えばコンビニは本当に生活に欠かせないものになりましたがSEVENイレブンができたときは確か開店時間が23時までで、それでも驚いた記憶があります。私の子供の頃はお店は夜になると閉まってしまうものでしたから。お正月も元旦からオープンすると聞いてそれまで年末年始用の食材を買い込んでいたことを辞めましたが、そこまで必要なのでしょうか。企業間の競争もあると思いますので、業界挙げての構造改革でかなりサービスのスリム化ができると思います。

女性活躍にしても、業界団体や企業の会議やパーティーに集まるのはほとんど男性で、女性はちらほらということも多いです。最近女性のトップもだいぶ出てきていますが、やはり一般的には経営層は男性という構造が組織の姿なのだなと改めて感じます。社長が女性になっても取り巻くのは圧倒的に男性なのではないでしょうか。こちらについてはランチの時間帯にちょっとしゃれたお店に入ると全員女性ということも良くあります。男性と女性では外に出ている時間帯が違うのだなと感じます。これは高度経済成長期の男女の役割分担から全く脱却していないことなのだろうと思います。そうだとするとまず106万円や130万円の壁の撤廃という社会保障制度の構造的見直しが必要だと思います。日本国民である以上成人したら男女の区別なく全員が税金と保険料を負担するという考え方が逆に一人一人の意識を変えると思いますので、まずはとにかく取り組むべきは構造改革なのだと思います。

同一労働同一賃金や60歳以上の賃金も同じように感じます。アルバイトだから、高齢だからという賃金の決め方ではなく、その人の担当する業務やスキルについて、少なくとも決定要素に入れておく必要があります。組織を区分分けして区分ごと一律の労務管理をするという手法も構造改革することにより人口減少による人手不足対策とすることができると思います。

昭和の時代の成功体験が平成になっても変わらず続いてきましたが、令和になっていよいよ構造を見直すことが必要になったと感じています。一つ一つ構造を見直していくことがこれからの日本の働き方や日本人が大事にするものに繋がっていくものと思います。

桜が咲きましたね。今日は本当に満開です。今年は入学式にタイミングがあったようでよかったです。それにしても4月1日は新卒の社会人が沢山渋谷の駅や電車にいました。みな学生っぽさを残して初々しく、明るく楽しそうでした。社会に新しい価値観を”元気に”吹き込んでもらいたいものだと思います。