OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

未払賃金の遅延利息について

2021-05-30 21:47:05 | 労務管理

残業代を支払っていなかったなどという意図的な賃金の未払いだけではなく、例えば割増賃金の単価を低く計算してしまっていたとか、システムの導入時に時間単価の算定基礎に含むべき手当を含まず設計してしまっていたなど、未払い賃金は思いがけず発生する場合があります。2020年4月1日改正民法の施行を受けて、労働基準法でそれまで2年で時効消滅とされていた賃金債権の時効消滅が5年とされるも、経過措置で当分の間3年間とされたことは、比較的知られているところだと思います。

https://www.mhlw.go.jp/content/000591650.pdf

しかしながら、遅延利息についてはノーマークでつい最近になり調べる機会があり勉強しました。未払い賃金(退職金を除く)を精算する場合の遅延利息は、改正前後で以下の通りとなります。

【在職中】
(改正前)
 営利法人の場合    6%(商法)
 非営利法人の場合   5%(民法) ※非営利法人とは NPO法人、一般財団法人、社会福祉法人等
  ↓
(改正後)
 営利法人・非営利法人 3%(労基法)

【退職後】
 営利企業・営利企業以外にかかわらず 14.6%(賃確法)・・・変更なし

なお、改正前と後の遅延利息のどちらを適用するかについては、民法第404条1項に「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。」と定められています。従って、利息が生じた最初の時点を基準に考えることになります。

つまり、2020年3月31日までの支払日の賃金分は5%又は6%、2020年4月1日以降の支払日の賃金分は3%の遅延利息が発生するということになります。

緊急事態宣言が再延長ということでしばらくまた外出は最小限ということになりましたが、昨日は不要不急の用事で外出しました。かなり歩いたので近くの時々仕事関係で訪れたホテルに立ち寄りジンジャーエールを飲んだのですが、お客様は他に1人しかおらず、ランチとディナーのちょうど合間の時間帯であるとしてもあまりに寂しい状況でした。厳しい状況にある業種は本当に心配で、早くワクチンがいきわたり元の生活に戻れる日を願っています。


2022年改正予定 育児介護休業法

2021-05-23 17:50:31 | 産前産後・育児・介護休業

2022年から男性の育児休業促進のための育児介護休業法の改正が行われるということは時々ニュースで流れているかと思います。2月26日に法律案要綱や法律案新旧対照表が出ており、今国会で成立すれば2020年4月及び10月施行になる予定です。今企業では在宅勤務が軌道に乗り始め、秋に新たな人事施策を検討されるところも多いと思いますが、特に「働き方」については来春の育児介護休業法の改正予定を踏まえて検討されることが必要かと思います。気になるポイントだけ取り上げてみたいと思います。

①1歳に達するまでの育児休業の取得回数2回までに
現状の育児休業は子が1歳になるまでに原則1回(要件に該当すれば子が1歳6ヶ月、2歳まで延長可能)しか取得できないことになっています。今回の改正で育児休業を2回に分けて取得できるようになります。

②出生時育児休業の新設
これまでいわゆる「パパ休暇」と言われていた、産後8週間以内に取得した育児休業については子が1歳になるまでに特別の事情を問わず2回目の育児休業を取得できる(パパ休暇についてはカウントしない)とされていましたが、この仕組みが原則の育児休業とは別に「出生時育児休業」として新設として衣替えします。ただし全くこれまでの「パパ休暇」と同じわけではなく産後8週間以内の期間内に4週間以内の期間を定めて休業するものをいい、産後8週間の期間内に2回まで、出生時育児休業の日数が28日までとされています。これにより、①の育児休業と出生児育児休業と合わせ、計4回に分けて育休を取得することが可能とります。

③期間雇用者の育児休業取得要件の緩和
期間雇用者の育児休業取得の要件が緩和され、1歳6ヵ月に達する日までに労働契約が満了することが明らかでない者に限り育児休業の申出をできることとされます。1年以上の雇用期間の実績が求められなくなりますが、労使協定により雇用期間1年未満の労働者を適用除外することができる規定は残り、この点無期雇用者と同じ扱いになるということです。

④雇用保険法、健康保険法の改正
今回の育児介護休業法の改正に合わせて雇用保険法、健康保険法も改正が行われる予定です。
・雇用保険法の育児休業給付金は、同一の子について3回以上の育児休業を取得した場合支給しないこと、出生時育児休業給付金が創設されます。
・健康保険法の保険料の免除については、育児休業の期間が1か月以下である場合の保険料免除は標準報酬月額に係る保険料のみ(賞与に係る保険料は免除しない)ことになります。

⑤その他
事業主への申出は2週間前{現在1か月前)までに短縮、事業主へ育児休業に係る研修の実施等育休取得の環境整備を義務づけることなどがあります。

以下、令和3年国会提出法案です。
https://www.mhlw.go.jp/stf/topics/bukyoku/soumu/houritu/204.html

今回の育児介護休業法の改正法案は、育介法だけでなく雇用保険法、健康保険法と多岐にわたり、実務的には大きな改正になると思います。男性の育児休業の促進には効果があるかもしれませんし、特に「出生時育児休業」によって取得率は進むような気がします。

これまで男性の育児休業については、下手をすると1日だけ等どちらかというと保険料免除を狙ったものかもしれないということが疑われるものも散見され、特に賞与月は育児休業が多く発生する等の現象を憂えていましたので、今回の健康保険法の改正で少しはそのようなまやかし的な育児休業がなくなるのは良いことだと思います。


育児休業給付金の受給上の留意点

2021-05-16 21:18:42 | 産前産後・育児・介護休業

育児介護休業については10年以上前からずいぶんセミナー等をさせて頂いたのですが、先日のブログでも取り上げた通り、とにかく制度が育児介護休業法だけでなく、労基法、均等法、健康保険法、雇用保険法といくつもの法律が複雑に絡み合い、さらにそれぞれの法律の中でとても細かな運用が決められており、周知がなかなか大変だと感じます。その中でも特にトラブルが多いのが育児休業の延長時の育児休業給付金の受給なのだと思います。

例えば「保育園に入所できなかったことを理由として1歳6ヶ月まで育児休業を延長」する場合、以下のことが注意点になります。

①子の1歳到達日前までに保育所入所の申込みを行い「不承諾通知」をもらう必要がある。
・・・市区町村によっては毎月1日の入所希望でなければ入所申し込みを受け付けないところがあるため、例えば10月29日が誕生日である場合、10月1日の入所希望をして不承諾を受けておく必要があり、10月に入ってから申込むと11月1日入所希望となってしまうところに注意が必要です(従って10月下旬の誕生日であっても9月中旬には申込みをするつもりでいる必要があります。だいたい、毎月15日くらいに入所できるか否かが判明するようです)。

また今は保育所は満杯ですと役所等に言われたとしてもとにかく「不承諾通知」をもらっておく必要があることも注意が必要です。

②入所希望日は、誕生日以前となっていることが必要である。
…これは延長を前提で考えず、「あくまで復帰を前提としていたが保育所に入所できなかったため育児休業延長を申請」したという状況である必要があるためです。

この申込みについては、平成23年8月前まではもっと注意が必要でした。会社のルールでは子が3歳まで育児休業を認めている場合であっても、法に定める育児休業ごとにいちいち申し込みを行っていく必要がありました。これは改正により1歳の誕生日以降の育児休業の取得を予定していても良いことになり、少し改善はされています(ただし、1歳以降も育児休業給付を受給するためには保育所に入所できずという法律上の要件に該当しなければなりません)。

令和 3 年 3 月 24 日、「行政苦情救済推進会議の意見を踏まえたあっせん」で総務省行政評価局は、育児休業給付金の受給期間延長申請における手続をより分かりやすくしていくために、厚生労働省に改善についてのあっせんがされました(あっせんには上記①②も含まれています)。
このあっせんは、「全国における行政相談を基に、行政苦情救済推進会議の意見を踏まえたもの」ということで、行政相談の内容 として「延長申請が認められないとされた三つの類型」が示されています。やはり育児休業の延長の際の育児休業給付金については苦情が多かったのだとわかります。社労士が行政相談にもっていくという手もあったのでしょうか。厚生労働省の措置結果については、「令和 3 年 6 月 25 日(金)までにお知らせください。」とあり、どのような結果が出るか楽しみです。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000739676.pdf

最近白いスニーカーをスカートに合わせて通勤にも履いていくのが流行りということで研究して購入してみました。うまくおしゃれに着こなせるかどうか、手持ちの服に合わせることができるのかどうかが非常に疑問なのですが、何とか履きこなしたいと思っています。

Twitterを始めて1か月たちました。ブログはどちらかというと細かく解説、分析等をしていますがツイッターは短い文章で気軽に投稿しているので読みやすいと思います。またフォローが50も行かない状況なのですが、結構楽しんでやってます。ぜひ見に来ていただいてフォローもしていただけると嬉しいです。よろしくお願いします
https://twitter.com/OursKoiso


在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉税関係) 更新

2021-05-09 20:42:51 | 労務管理

4月30日は国からの発信がとても多かったようで、その一つが「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」です。 問8と問9の「在宅勤務者に対する食券の支給」について追加され、具体的に示されています。

食券の支給については、時々ご質問があります。社会保険の算定基礎については食券支給は現物支給の報酬とされるところですが、課税するかどうかについては今回のFAQの具体的な説明に従って考えると良いと思います。

まず、前提として、食事の支給=お弁当の提供や社員食堂での食事の提供をいい、現金で食費の補助をすることは給与とみなされ、所得税の課税対象となります。その上で、在宅勤務で業務を行う従業員の昼食の補助として食券を支給する場合、以下の取扱いであれば経済的利益がないものとして給与として課税する必要はないということです。

①食事の支給をする場合に、従業員からの徴収額が食事の価額の50%以上であり、企業の負担額が消費税を除き月額3500円を超えない。
②食券の利用は、従業員が在宅勤務を行う日において、契約した特定の飲食店での飲食又は飲食料品の購入(持帰り)でのみ利用可能(勤務日以外の飲食、アルコール類等は利用不可)。
③従業員の食事代のみ利用可とし親族の利用不可、他人への譲渡は禁止。
④食券利用は1回2,500円まで、食券の額面に満たない場合でもつり銭は受け取れない。
⑤毎月支給された未使用分の食券は翌月以降繰越し可、利用可能期間は公布日から1年間。

問9では、問8の従業員が出勤する日には、契約業者から購入するお弁当を支給し、その場合には従業員は価額の半額を会社に支払う場合も考え方の根拠としては同様ということが示されています。

在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉税関係) 更新
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf

連休も今日が最終日です。自粛の日々でしたが、昨年大学院の立法学の授業で読むようにと言われて積み残した「田中角栄」の本を読み、その着眼点と構想力に天才であったことを理解することができました。そこから、「アメリカに負けなかった男~バカヤロー総理吉田茂」など関連のドラマや映画を見たりしてそのあたりの時代の面白さを感じることができました。

それにしても吉田茂の決断もすごいと思いましたが、田中角栄の「道路・交通というインフラ整備」、「住宅」、「テレビ免許の大量許可」、「特定郵便局の拡大」など、着眼点と構想力、また既存の仕組みを生かし育てるなど、スケールは違えど事業の将来を考える上で非常に勉強になりました。ロッキードのイメージが強く、先生に勧められなければもしかしたら出会うことのなかった本かもしれないです。感謝です。長い連休も今日で終わり、明日から気持ちを新たに仕事しましょう(事務所の入り口の写真です)。


育児休業給付の雇用継続給付からの分離の意味

2021-05-03 18:43:27 | 産前産後・育児・介護休業

4月30日に厚生労働省より発表された雇用保険事業月報・年報によると、育児休業給付の令和3年3月の支給金額は661億2500万(令和2年3月の支給金額は565億1300万円)となり前年同月比約100億円増加しています。令和2年5月以降、コロナ感染拡大の影響か、育児休業の延長がぐっと減るところが、例年に比べて減り方がなだらかであることも支給金額増加の一因になっているようです。

育児休業給付は令和2年4月の改正で、「失業等給付から独立させ、子を養育するために休業した労働者の生活及び雇用の安定を図るための給付と位置付ける」とされ、育児休業給付の保険料率(1,000分の4)を設定するとともに、経理を明確化し、育児休業給付資金を創設することになりました。雇用継続からさらに一歩前進して休業中の生活保障の意味を持たせたといってよいと思います。

この改正は、2019年12月13日の日経新聞によると、(厚生労働省は)出産後も働く女性が増え給付額が増加している育児休業給付を、将来的に雇用保険財政からの切り離しも視野に入れるとしています。失業給付の基本手当は19年度には育児休業給付が逆転する見通しだ(実際にはこちらもコロナ感染拡大の影響か令和2年6月以降の基本手当の給付額が急増し逆転はしていないようです)。
安心して子どもを産み育てられる環境の整備が国の重要施策に位置づけられるなか、育児休業給付のあり方について中長期的に検討する、とあります。

出産・育児周りの給付等は、各法律が複雑に関係しており、育児休業給付に加えて、出産に関する健康保険法の給付と保険料の免除、こども子育て拠出金を財源とする児童手当があり、これらをまとめることができればさらに子育て支援が充実するように思います。

2度目の緊急事態宣言下の5月連休となりましたが、昨年のような人の流れを抑えられてはいないようで心配です。テレビで見ていると、人混みが映し出されており、それを見るとかえって出かけてしまう人も増えるような気がしますが、ここは辛抱ではないでしょうか。来年こそは気持ちの良い季節を思い切り過ごせると良いですね。