OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

開業記⑭社労士の仕事の方向性

2011-03-27 23:11:52 | 開業記

14社労士の仕事の方向性

開業した時には、社労士の業務自体がどのようなものなのか分からないままにスタートという今考えてみると非常に情けない状態でしたので、もちろんこれから自分がどのようなことを社労士としてやっていきたいかなどの方向性を持っていたわけではありません。

開業当初「女性は年金を仕事にするとよい」というアドバイスを受けましたが、年金がまったくわからないで合格してしまった身としてはそれは気が進まず、また「女性だから」というところも気になるところでした。

自分がどのような方向性で仕事をするかまったくわからないまま、ひたすら頂く仕事をこなしていったという感じでしたので当初10年くらいは手続と就業規則の作成や改定が主な業務でした。私は銀行の振替依頼書などを一つ作るのにも一発ではなかなか終わらない(必ず1度は送り返される)ような人間ですので手続きが向いているとは思っていませんでしたし、押印を頂きに顧問先に行って事務所に戻ったら1ヶ所漏れていたなんて言うこともままありました。ただ役所で「書類を通す」ということについては比較的得意かもしれないと思ったりしていました。

開業後7年目くらいから顧問先の規模がやや大きくなってきて子会社の合併や分離などが行われるようになり、労働関係の「事業の考え方」など社労士講師として講義してきた内容が実務でも非常に生きてくるようになりました。業務の内容もいわゆる資格取得や喪失の手続き、就業規則の作成などから1つ難しくなって、それまでひたすら無我夢中でやってきたのは楽しかったのですが、そのころからさらにめちゃくちゃ仕事が面白いと思うようになりました。きっと知識と実務がマッチングしたのだと思います。

10年目に差し掛かる頃から1,000人以上の規模の企業から、いつも労務管理を中心に相談できる社労士として顧問契約をしてもらいたいという依頼を受けるようになり、そのころから完全に自分の方向性が決まりました。相談業務のみでも月額の顧問料をそれなりの額頂けるようになったのは、講師と教材作成で頭の中に労働法の関係法令の内容がかなり入ったこと、事例に応じた通達にもある程度精通するようになったことで、一つの事案に対しても考え方を整理して即答することができるようになったことが最大の理由だと思います。

例えば、「年次有給休暇を付与する場合、会社の合併があり別会社になった場合、付与日数を決める勤続年数は合併前後を通算するのか又は別会社だから通算できないのか」といった質問に対して即座にそれは通達(S63.3.14基発150号)がありますので同一事業主として通算することになりますと回答できるようになったということです。また、前々回の内容である計画停電などもこれまでの通達を念頭に回答が出せるようになったということもあります。

従って開業して10年後にやっと主に労務管理のコンサルティングを中心とする自分の方向性が見えたという感じでした。まずは流れに沿ってみる(相手の船に乗ってみる)という考え方が好きなので、流されるままに、来る仕事に合わせて行くことにより自然に方向性が決まったと思っています。

それ以後ここまでの約10年は人事制度や賃金制度なども毎年数件は委託頂き、また給与計算もある程度受けるようになりました。特に人事制度などについては社労士業務の中でも開業時は高根の花という感じでいましたが、今はやはり法律コンサルが自分にとっては奥が深い、また時代とともにテーマが変化する面でも、魅力が尽きない1番の業務に感じています。

ただ、労務管理の法律コンサルティングと言っても、社会保険労務士の基本である手続きを知らずには良いアドバイスはできない、というよりは企業にアドバイスするときに、手続きの知識も加えることが弁護士さんのアドバイスと異なる社労士としての労務管理のアドバイスとして効果的なことが多くあります。今は手続きまで自分で行う時間的余裕はないため、事務所でスタッフが担当してくれていますが、それがアドバイスの大切な要素になっていると思っていますので、業務を事務所全体で行う効果は非常に大きいものです。

最初から人事制度のコンサルティングがやりたいとか年金がやりたいとか、ワークライフバランスに力を入れたいなど色々な方向性を持つことも良いと思いますが、依頼いただく仕事により育つ部分が多くあるのも事実ですので、間口を狭め過ぎないことが大切なのではないかと考えます。


災害等臨時の必要による時間外・休日労働について

2011-03-20 21:43:51 | 労働時間

東日本大震災の被災を受けた方たちの様子を見るにつけ、この非常に厳しい状況の中でも穏やかさを感じる程の精神的な強さに尊敬の念と同じ日本人として誇らしささえ覚えます。是非1日も早くこれまでの生活に戻れるように願ってやみません。

また連日原発の事故の状況に落ち着かない毎日です。ここでとにかく被爆者を出さず、何とか事態を収束できればと願いながらテレビをずっと見ている状態です。今回の地震による津波は、万里の長城と言われていた宮古市田老地区にあった高さ10メートル長さ500メートル超の堤防もすべて破壊する想定外のことが起こったとのこと。それでも原発にはコントロールする電気系統がすべて破壊されるという想定外は許されないのかもしれませんが、東京電力の技術力を信じながら祈るような気持ちで見守っています。現場をはじめ関係者の方々になんとか頑張って頂きたいと思います。

東京消防庁の方が昨日インタビューされて今回の覚悟の任務について語っておられましたが、今日はお家で家族と休んでおられるとのこと。それに引き換え東京電力のインタビューにはずっと同じ方が出てこられています。現場の方も寝ることもなく復旧に力を尽くしておられるのだと思いますが、非常に長時間労働になっているだろうと想像できます。また被災にあわれた方達も、一日も早い復興に寝る間も惜しんで働いておられるのだと思います。また避難された方を受け入れる側の方達も同じかもしれません。

このような際における労働時間は36協定の特別条項で定めた延長時間の限度などとはいっておられないのは当然です。そのような場合どう対応するかというと、労基法33条1項の「災害等臨時の必要がある場合の時間外・休日労働によるもの」によることになります。

時間外・休日労働は、36協定を締結することにより行うことが通常ですが、災害等による臨時の必要がある場合についても行うことができます。この場合は36協定による場合と異なり、労働時間延長の限度基準は適用されません。法36条2項の労働時間の延長の限度については、『36協定で定める労働時間の延長における限度を厚生労働大臣は定める』としていますので、災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働については平成15年厚労告355号の限度基準(例えば1箇月45時間など)の適用はないことになります。

ただし、災害等臨時の必要がある場合の時間外・休日労働は、事前許可又は事態急迫のために行政官庁(所轄労働基準監督署長)の許可を受ける暇がない場合においては事後に遅滞なく届け出なければならないとされています。 またその場合時間外、休日労働、深夜労働についての割増賃金については、通常と同様に支払わなければならないことになっています。


計画停電の際の賃金について

2011-03-16 18:27:03 | 労務管理

15日の時点でアップした計画停電による休業の際の賃金についての以下のブログですが、厚生労働省労働基局監督課長名で通知(平成23年3月15日基監発0315第1号)が出ております。正確な通達の内容は人研ニュースに記載があります。
http://www2.odn.ne.jp/ourszkn/CCP.html


15日の確認内容と16日の通知は内容としては同様ですが、根拠とした通達が異なっているものでした。「昭和26年10月11日付基発696号」としています。また総合的判断の表現が細かいものですので併せて載せておきます。以下内容です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

計画停電に伴い会社を休んだ日の賃金(休業手当)の支払いについてですがご質問等が多く有り、通達等根拠を準備した上で、厚生労働省に問い合わせましたところ考え方が整理されたとのこと説明を受けました。

労働基準法第26条の休業手当は、
使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合に、平均賃金の100分の60以上の手当の支払いを義務付けています。
(もちろん休んだ部分について100%賃金を支払う場合は何も問題はありません)

今回の地震による計画停電の際の会社の対応としては以下のケースがあると思いますが、その場合に「使用者の責めに帰すべき事由」の休業かどうかが休業手当支給の判断の基準となります。

1 計画停電の場合の休業について
①計画停電の時間帯の休業→(原則)使用者責にあらず→(原則)休業手当不要
②計画停電の時間帯以外に休業を命じた→(原則)使用者責→(原則)休業手当の支給必要
③計画停電を含め1日全体を休業とする場合
 →代替手段等手を尽くした上での休業であるかなど総合的に判断する(ケースごとに監督署に相談)
(16日の通知で、「他の手段の可能性、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められるときには、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて原則として法第26条の使用者の責めに帰すべき事由による休業には該当しないこと」としています。)

   ・・・この部分については計画停電の時間数及び業務量等を勘案して、
   計画停電により仕事にならないような状態なのか、
   それともあまり影響が大きくないのかにより判断されるようです。
   今のところあくまで(原則)がついております。

2 計画停電の場合の交通機関混乱による休業について
①計画停電があるので出勤を控えるよう会社が命じた場合→使用者責→休業手当の支給必要
②計画停電等の交通機関の混乱により労働者が自主的に出勤を控えた又は出勤できなかった場合→使用者責にあらず→休業手当不要

少し古いですが、昭和23年に関連する通達が出ており、こちらが今回も考え方の根拠になっているようです。

【休電日の休業手当】昭和23.3.17基発461号
「電力事情の逼迫による休電日の休業は、事業主の責めに帰すべき事由と認むべきではないが、この場合支給する休業手当は平均賃金の計算に算入することとなり・・・・・・・・・」
と有ります。

「使用者の責めに帰すべき事由」労働基準法コンメンタールより
「使用者の責めに帰すべき事由」とは、
「不可抗力によるものは含まれない」とされています。
従って今回の地震に起因する交通の混乱による原材料等輸送が不可能になったことでの工場等の閉鎖については、
不可抗力ということで「使用者責」には該当しないと考えます。

今後通達等が出る可能性も有り、その際は通達等をご確認いただければと思います。
(「平成23年3月15日基監発0315第1号」が16日に出ましたので確認の上、上記内容に加筆してあります)


11日に発生した地震について

2011-03-13 13:57:08 | OURS
11日に発生した地震については、まず被災された東北・関東地方の方にお見舞い申し上げますとともに1日も早く元の生活に戻れるよう祈念いたします。今の段階でTVを見ている限り、とにかく国が被災地域の復興の手だてを迅速に打っていく必要があるのだろうと思いますが、そのグランドデザインが早く示されればと思います。原発も心配ですし、原発が被災したことにより電力が不足する状態は必須のようですので、昨日から電気を大切にして使うようにしています。ここは国民が一体となって乗り越えなければいけない局面となったと思っております。

今日はブログの日なのですがこんな状況ですのでOURSの当日の状況報告にさせて頂こうと思います。
地震が起こったとき、事務所は私と秋澤の2人で、中村はハローワークに出かけておりました。また佐藤と里見は赤坂の出先に行っており、さらに地震直後出先に連絡を取ったところ里見はハローワークに外出中ということでした。三枝・和田・大津は出勤日ではなかったため出勤しておりませんでした。地震が起こった直後はこのような大惨事になるとはもちろん思ってもみませんでしたが、事務所内部もかなり長く揺れておりました。古いビルですからどうかなと思っていましたが、昨年の2階への移転の際に手伝ってくれたBBクラブのメンバーが設置してくれたツッパリポールの威力は絶大で(また揺れの方向が入り口からベランダ方向だったことも幸いし)書籍が書棚から落ちることも全くなく、時計だけぐらついて不安であったため取り外したくらいで済みました。

その後中村も戻り、里見は直帰することになり無事家に到着を確認し、電車が動くのを待ち、22時半頃大江戸線が動いたとのことで中村が青山1丁目まで行ってみたのですが改札にも入れずとても乗れる状態ではなかったと戻って来るのを待って23時40分に私の目黒の自宅に秋澤・中村と40分くらい歩いて戻りました。幸い夫は仕事先の九段の実家に足止めという状態ではあったのですが、私の妹も五反田の勤務先から合流し自宅は合宿状態となりました。佐藤は出先で待機後ご家族に迎えに来てもらったとのこと、島中先生も確定申告行った際に地震となり帰りは松戸から歩いたとのことで全員無事を確認できました。

携帯電話がいざとなったときあまり役に立ちませんでした。私は事務所にずっといましたので電話と携帯電話とパソコンメールと携帯メールを駆使してなんとかスタッフの状況確認ができている状態でしたが、意外に有効であったのは携帯のショートメールでした。この大事な日に携帯を自宅に忘れた妹が勤務先のパソコンから私に連絡したいので(たぶんメールアドレスだとめんどくさかったから?)携帯電話の番号を教えて、と言ってきて使い始めたのですが、いざショートメールを使ってみると返事もすぐ来るということで、出先の佐藤にも最後はショートメールを送っていました。

12日(土)は事務指定講習の勉強会をすることになっていましたが延期ということで残念ですが仕方がなかったですね。皆さんに連絡を取ってくれた幹事さん有難うございました。

トヨタも週明け操業中止とのことでしばらく経済活動も滞ると思いますが、ここは日本の踏ん張りどころと考えて、頑張っていきましょう。

開業記⑬ スタッフを雇うということ

2011-03-06 23:59:09 | 開業記
13 スタッフを雇うということ

開業した時は、自分の事務所に人を雇い入れるなど考えてもいませんでしたが、3年くらいたったころからTACの講師と教材担当者と社会保険労務士として顧問先を持つという実務との2足のわらじならず3つの業務を行っていくには、一人では時々パンクしそうになり苦しくなりました。

特に講師室に入り教材を担当した3年目は総合本科と上級本科両方の教材を担当しましたので、1年間過敏性大腸炎になり苦しみました。精神的な面で具合が悪くなるということはそれまでもその後もなかったですが、その1年だけは精神的に相当厳しかったのだと思います。それでも医者にも行かず乗り切ってしまいましたが(したがって過敏性大腸炎というのは自己診断です)。当時は教材原稿の締め切りに追われるということに慣れていなかったことと、すべてに実力がなかったので調べたり考えたりすることがとても時間がかかり大変だったのだと思います。

そんなこんなで業務量からいっても、ひとりでやっていて具合が悪くなった時のことを考えても、やはりちょっとでも良いので事務所のことを分かってくれる人が欲しいと考えました。ただお給料を払わなければならないわけですから責任は重いと思い、まずは開業して5年目に友人に月1回だけ来てもらうことにしました。今も事務所で請求事務をしてくれている大津さんですが、実は大津さんは子供を連れて公園に行って遊ばせていた頃にその公園で仲良くなった先輩です。姉のように頼りにしてきた友人に事務所に来てもらい、それからここまで約15年近く事務所の円滑油になってもらっています。特に年末事務所の大掃除後みんなで飲むのですが、その時に大津さんの持ってきてくれる手作り料理が美味しくみんなで盛り上がり1年を終えるのが恒例です。

大津さんの入った翌年、資格取得者の優秀な金近さんが週3日事務所に来てくれるようになり、事務所で金近さんが書類を作り私が顧問先や役所に行くという感じでした。その頃初めて100人規模の優良企業の子会社と顧問契約をすることができてだんだん大きな仕事が入ってくるようになりました。1人の事務所が2人体制になり、人が増えることが先なのか仕事が入るのが先なのかという感じで、ある意味追いかけっこのような感じで仕事と人が増えて行きました。

ある時にもうひとり雇い入れようかと思っているのだけれどお給料が払えるか心配だと支部の先輩社労士である内木元支部長に話したところ、「自分もいつもそんな感じで1人増えればPCも用意したり出費が多いけど、結局何とかなるもんなんだよね」と言われたことをよく覚えています。本当にそんな感じで、人を増やすことにより仕事が入ってくる流れとなり、そこには勢いというか頑張りというかそんなものを呼び込む面もあるのかもしれません。

一番のピンチは金近さんとその時にいたスタッフのもう1人がほとんど同時に辞めることになったときで、私はその時家に帰って泣きました。しかしその時に事務所に入社してくれた今のスタッフの秋澤さんと佐藤さんとそれより4年くらい前から助っ人として来てくれていた三枝さんのおかげて何とか乗り切り、それからはそのメンバーに新たにメンバーが加わりここまで来ているという状況です。

当初自分一人でこなしていた仕事の中で、自分でなければできないことと自分でなくても大丈夫なことを区別してスタッフに担当してもらえる体制は、仕事の範囲を広げて行くにはどうしても必要なことでした。また、ひとりでは考えつかないことをスタッフが相談に乗ってくれたり、情報をくれたり調べてくれたりと、仕事の内容の充実にも欠かせないのです。私とスタッフが2人という3人体制になったところでお互い業務の進行状況を把握できるように業務を共有の仕掛業務一覧表で管理したり、人が増えて行くにつれて必要なことを少しずつ導入して行きました。スタッフがフルタイムで働いてもらうことになったときに社会保険を整備し中退共にも入り、賞与を払えるかどうか考えたりということで中小企業の社長の気持ちは痛いほどわかるようになりました。そうやって少しずつ色々なことを整備しつつここまで来た感じです。

人を雇うということは、自分の未熟さを見せつけられることも多くあり、また責任も重いものだと思います。しかし皆で事務所で笑いあいながら楽しく仕事ができる時間は人生の中でもとても大事な時間なのではないかと、これからも和やかに(しかし仕事には厳しく!)みんなで頑張って充実した仕事をしていければと思います。