高年齢者雇用安定法の改正により、原則希望者全員65歳までの雇用確保ということで高齢者雇用確保措置が4月に義務化されました。それに伴って以前から予定されていた再就職援助措置や多数離職届の対象が変わりました。ある程度の規模の企業になると、定年退職は誕生日後の直近の3月末と9月末と決まっているところが結構あり、その場合に定年退職者を算定基礎に入れると多数離職届を提出しなければならないということで、改正により変わったかどうかというお問い合わせがあり、ミーティングで話題になりました。
事業主が解雇等を行う場合、ハローワークへの届け出や、離職する労働者の再就職に向けた支援等について色々な責務が課せられています。その中でも①再就職の援助についての必要な措置等の努力義務(高年齢者雇用安定法第15 条)②多数離職の届出義務(高年齢者雇用安定法第16 条)③求職活動支援書の作成等の義務(高年齢者雇用安定法第17 条)が高年齢者についてはポイントになります。
多数離職届については、「事業主は、その雇用する中高年齢者のうち、1か月以内の期間に、5人以上が解雇等により離職する場合には、あらかじめ、多数離職届を公共職業安定所(ハローワーク)に届け出なくてはなりません。」と決められています。具体的には、
①多数離職届を出さなければならない場合は、「45歳以上65歳未満で、次のいずれにも該当しない人」が、
• 日々または期間を定めて雇用されている者(同一事業主に6か月を超えて引き続き雇用されている場合を除く)
• 試みの使用期間中の者(同一事業主に1 4日を超えて引き続き雇用されている場合を除く)
• 常時勤務に服することを要しない労働者として雇用されている者(例えば非常勤講師のように毎日勤務することを要しない者。「嘱託」などの名称でも毎日勤務している者は含まない)
②次のいずれかの理由により、
• 解雇(自己の責めに期すべき理由によるものを除く)その他、事業主の都合
• 継続雇用制度の対象者基準に該当しないこと
③同一の事業所において、1か月以内の期間に5人※以上離職する場合 ※ 雇用対策法に基づく大量雇用変動届によって既に届け出られた者及び就職援助計画の対象者は算定から除く。
「定年及び継続雇用終了者」については、上記の②の理由の中に平成25 年3 月31 日までの措置として入っていました。今回4月施行の改正により、60歳定年は本人が希望した場合を除き原則として存在しないということで除外されたのだと思います。
そもそも多数離職届を届出る目的は、大量離職届と同様に解雇等により一度に多くの自己都合以外の離職する労働者を事前に把握しておき、国がその再就職の支援をしようということであると思います。本人が希望して定年で退職するということであればとくにその把握も必要がないと言えます。
上記の件は、平成21年に講師を卒業する2年前くらいに結構詳しく調べたことがあります。以下の表にあるように、大量雇用変動届は「経済的事情による事業規模の縮小」、求職活動支援書は『経済的事情に限らない「事業規模の縮小」…要するに範囲が広い』、多数離職届はそれらの条件はない、などと講義で説明して、受講生を混乱させてしまった記憶があります。出題されたら大ヒットだと思ったのですが・・・。あの時から、平成25年の4月以降の65歳までの高年齢者雇用確保措置を見据えていたのです。私もその時覚えておこうと思って新標準テキストにあれこれ書き込んだ付箋が貼ってありました。厚生労働省に当時質問した際に、確かに平成25年になると「定年」は理由から除外されるのですと言われたことをよく覚えています。法律はかなり周到な準備をして改正されているのがよくわかります。
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雇用対策法 |
高年齢者雇用安定法 |
障害者雇用促進法 |
再就職援助計画 |
大量雇用変動届 |
求職活動支援書 |
多数離職届 |
作成者 |
(義務) 経済的事情による事業規模の縮小等に伴い、一の事業所において常時雇用する労働者について1か月以内に30人以上の離職者が生じることとなる場合に事業主が作成 (任意) 1か月の離職者数が30人未満の場合も計画の作成・認定を受けることができる。 |
(義務) 事業規模の縮小等に伴うものかどうかにかかわらず、一の事業所において1か月以内に30人以上の離職者が生じることとなる場合に事業主が作成 ※ 再就職援助計画の認定の申請をした事業主は大量雇用変動の届出をしたとみなされる。 |
(義務) 解雇等により離職することとなっている高年齢者等が希望する場合に事業主が作成
定年退職者は含まない…平成25年4月1日職発0401第3号より
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(義務) 高年齢離職予定者を定年、解雇等により1か月以内に5人以上の離職者が生じることとなる場合に事業主が作成 |
(義務) 身体障害者、知的障害者その他厚生労働省令で定める障害者(重度身体障害者又は重度知的障害者である短時間労働者も含む)を解雇する場合に事業主が作成 |
届出・認定の別公共職業安定所に届出 |
公共職業安定所長の認定 |
公共職業安定所長に届出 |
届出は不要
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公共職業安定所長に届出 |
公共職業安定所長に届出 |
提出時期 |
最初の離職者が生じる日の1か月前まで |
最後の離職者が生じる日の1か月前まで |
- |
最後の離職者が生じる日の1か月前まで |
解雇の通知後速やかに |
対象労働者 |
経済的事情による事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされた常時雇用される労働者 |
自己の都合や自己の責めに帰すべき理由によらないで離職する者 (日雇労働者、期間労働者や試用期間中の労働者は除く) |
解雇された者のほか、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めた場合における当該基準に該当しなかったことにより離職することとなっている45歳以上65歳未満の労働者
就業規則の解雇事由又は退職事由に該当するとして継続雇用されなかった場合等「その他事業主の都合による退職」等が加わりました。…平成25年4月1日職発0401第3号より
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※定年、解雇その他の事業主の都合により離職することとなっている45歳以上65歳未満の労働者
※定年は平成25年3月末まで・・・高年齢者雇用安定法附則第6条より
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自己の都合や自己の責めに帰すべき理由によらないで離職する障害者 |
本人への交付 |
安定所長より再就職援助計画対象労働者証明書を交付 |
なし |
離職が決まった段階で本人の希望により速やかに作成し、事業主より交付 |
なし |
なし |
組合との関係 |
意見聴取 |
なし |
意見聴取 |
なし |
なし |
※大阪労働局HPより 改正前の資料のためか「定年」は対象労働者の記載部分に残っています。上記青字は加筆してあります。