平成23年度の社会保険労務士試験の発表が近づいてきました。私が講師をしていたクラスの数人の受講生から今年の選択式は何とかうまくいきましたという連絡をいただいているので、吉報があるかなと楽しみにしています。
金曜日に渋谷支部の新入会員オリエンテーションが行われた挨拶の際に社労士試験と労務管理の関係をお話ししました。記憶が不確かな部分などがあったので事前に調べて思うところがありましたので、今日はそのことを記録しておこうと思います。
社労士試験は昭和44年から毎年1回行われているのですが、私の記憶があるのは自分が受験をした平成3年からです。平成3年の試験に向けて勉強しているときに一番自信がなかったのが「労働に関する一般常識」でした。当時は「労働の一般常識は」労務管理からの出題がほとんどで、一つのテーマが与えられそれについて200字で答えよという論述式の問題でした。
しかし平成5年の社労士法改正により、平成6年の本試験から労働一般常識は「労務管理その他労働に関する一般常識」という科目に変わりました。その時同時に論述式が記述式という文言を穴埋めする方式に変更になりました。平成6年の暮れからTAC社労士講座の講師になったのですが、その時はこれまでも労務管理の出題が主だったため、その科目名の変更について特にこれといった思いはありませんでした。むしろ論述式から記述式になったということで勉強方法はどうすればよいのだろうということを受講生にも問われあたふたとしている新米講師でした。「労務管理」と頭につけたのは、社労士業務のうちいわゆる3号業務といわれる労働に関する相談・指導の業務について今後力を入れていくのだという社労士会の決意の現れだというのは、その時にも聞いていました。
当時は開業3年目でもあり、労務管理の相談業務を自分が主な仕事とするというイメージはなかったのですが、その後7,8年後くらいから「労務管理上起こる問題についての相談相手に」というご依頼が顧問契約の半分以上といってもよいほどになっていきました。労働・社会保険諸法令とそれに関する労務管理の問題が複雑化していったためニーズがそこにありました。今になると平成5年の社労士試験の科目名の変更は自分の仕事に大きく影響していると、その判断をその時された社労士会の諸先輩に感謝するばかりです。
その後の本試験の「労務管理その他労働に関する一般常識」は平成11年まで記述式でした。誤字をしないように。略字は書かないようにということを講義でよく話していました。全科目記述式であったため、模試や答練の際の採点はかなり大変でした。
平成12年の本試験から、試験事務が厚生労働省から全国社会保険労務士会連合会の試験センターに移管されました。その時に全科目記述式から選択式という語群から文言を選択するという現在の方式に変わりました。その年はまだ8月に試験が行われていたと思いますが、8月に入ってから選択式に出題が変更になるということが受験生に知らされ、また合格基準が初めて発表されたものの、2点でも合格基準をクリアするといういわゆる「救済」が全く行われなかったということでかなり動揺がありました。
その後印象的だったのはやはり平成18年の本試験です。「労務管理及び労働一般常識」は相変わらず難しい科目でしたがむしろ年によっては「社会保険に関する一般常識」が難しくなりました。しかもその年の問題は、参考文献を少しずつ切り取って持ってきたためどう考えてもつじつまが合わないという内容でした。TACの解答速報で「解なし」を初めて出した年でした。「解なし」を出すにあたっては圧倒的に反対が多く、今は皆TACを辞めていますがST先生とSM先生と私の3人のみが「解なし」とするべきと主張して押し切ったという状態でした。優秀な人材に社労士を目指してもらうには、本試験の精度を高めていかなければならないと切に思いました。そのためにもつじつまが合わない状態でも正解らしきものを資格取得校として提示することは許されないと思いました。その後「年金記録問題」が起こり社会保険労務士の知名度は飛躍的に高まったと思います。
平成19年には、裁判外紛争解決手続の代理業務が可能になる特定社会保険労務士制度がスタートしました。特定社労士の資格を得るための特別研修では民法・憲法・判例などを学び紛争解決代理業務試験で合格する必要があるのですが、その影響からか社労士試験の本試験で、判例などが多く出題されるようになりました。この紛争解決代理業務試験の勉強をしたおかげで、その後の相談業務に民法や判例を踏まえてという部分が加わり厚みが出たと思います。
さらに、今後社労士法を改正して、社労士試験の科目に裁判外紛争解決手続をはじめとする司法分野の業務を行うのに必要な憲法・民法・民事訴訟法を加えることを予定しています。このように社労士の業務範囲の拡大と社労士試験は当然のごとく影響し合っています。社労士が業務を拡大していくためには、ますます本試験の範囲も広げていく必要があり、開業・勤務社労士とも、また受験生も頑張っていかねばならないのですが、その分社会保険労務士という資格はまだまだ伸びしろがたくさんある魅力ある資格だと思っています。
これから紅葉がきれいな季節になりますね。かなり毎日忙しく紅葉を楽しむ時間が取れるかどうか不明ですが、何とか体調を整えながら行きたいと思っています。