OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

韓国公認労務士制度

2017-02-26 22:41:02 | 雑感

全国社会保険労務士会連合会では、社労士制度国際化推進特別委員会を設置しており、一昨年の12月からその委員をしています。木曜日から2泊3日で韓国公認労務士制度30周年記念式典が行われたため、出席のため韓国に行ってきました。世界中で社労士のような制度があるのは日本と韓国の2か国のみということです。

韓国では公認労務士制度ということで、公認労務士法第1条の目的条文に定められたその業務は以下の2点をを目的とするとなっています。

①労働関係業務の円滑な運営を試み

②事業又は事業場の自律的な労務管理を図ることにより、勤労者の福祉増進及び企業の健全な発展に資すること

要するに日本の社労士制度とは異なり、健康保険、国民年金・厚生年金の手続き等を業務としておらず、30周年を機に業務拡大を図ることを考えているということです。韓国に訪問するまではその程度の知識だったわけですが、今回労働委員会の訪問等各所を訪問をし、現地の公認労務士の方たちと交流してみて公認労務士のことをより知ることができて非常に貴重な時間となりました。

公認労務士法の職務の範囲の中には、「労働組合及び労働関係調整法」第52条に定める私的調整及び仲裁があります。これは労働委員会で労働紛争の調停・仲裁まで行うことができるということです。 現在日本の社労士制度はここまでの代理権は当然確立されていないわけですが、公認労務士の場合は仕事の半分程度がこの調停・仲裁のようですので、韓国公認労務士は弁護士と社労士の中間点に位置するような感じを受けました。

また公認労務士の活躍の場である労働委員会は、導入された当時には日本の労働委員会とほぼ同じ機能を果していたところが、その後、個別的紛争まで取り扱うように再編されたそうで、現在は不当解雇事件のような個別紛争の解決にウェイトが置かれているようです。しかし取扱うことが可能な個別的紛争については限界があるそうで、一定の範囲外は弁護士しかできないということで、日本のようなADR(裁判外紛争解決手続)制度の確立を公認労務士会も望んでいるようです。

驚いたのは試験の厳しさで、3次試験まであるのですが、1次試験は選択式、2次試験が短答式、3次試験は面接式で、試験科目には一次に労働法の他民法や英語、2次に労働法の他人事労務管理論や行政訴訟法、3次の選択科目の中には民事訴訟法がありかなり広範な勉強が必要です。実際に9回受験して受かった等の方もおり、大学院の修士や博士課程を修めている方が多いとのことで今後非常にステータスが高い資格になってくるのではないかと感じました。

日本との交流は最高顧問の大槻先生が会長当時の2017年に「国際交流に関する協定を締結」して社労士制度40周年記念国際シンポジウムに参加を求めたところから本格的に始まったとのことです。そこから10年経ち今回も最高顧問や大西連合会会長も参加されこれまで継続されてきたことの大切さを強く感じることができました。

 私にとっては過分な役割ではありましたが、シンポジウムの発表者として登壇させて頂きました。事前に事務局と原稿を作ってはいたのですが、初日と翌日シンポジウムの前までの訪問先で新たな知見を得ることができ、直前まで原稿に手を入れての登壇で、若干心配だったのですが、通訳の朴さんと連合会の執行部等の先輩方のお蔭で何とかお役目を無事果たすことができました。

フリートーキングの質問に回答したところでやっとほっとしましたので、終了後韓国ナイトを短時間でしたが楽しむために焼き肉を食べに行きました。鉄板の外周で作る卵焼きには驚きました。ふわふわでおいしかったです。

      


基本手当 給付日数の改定(2017年4月から予定)

2017-02-19 14:16:45 | 労働保険

平成28年12月13日付で労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会報告が行なわれ、その報告を元に4月からの雇用保険法の改正のための審議が第193回通常国会で行なわれています。

今回の改正では雇用保険の給付日数について変更が行われるようですが、その変更については覚えておく方が良いように思います。

1点は、比較的若い層で勤務期間も短めの特定受給資格者に対する給付日数は、これまで90日ということで特定受給資格者としての利点は給付制限なしという部分のみであったのですが、以下の通り変更される予定のようです。

特定受給資格者年齢

被保険者であった期間

現行

改正後

30歳以上35歳未満

1年以上5年未満

90日

120日

35歳以上45歳未満

150日

以下の報告にもありますが、若い層の特定受給資格者の就職率が他の年齢層に比べて低いということでの改正のようです。

また、延長給付でも改正があり、こちらが東京都社会保険労務士会の社会貢献委員会が力を入れている「がん患者等就労支援」と同じ趣旨の病気等の方の就職支援でした。東京労働局の方との意見交換会でも、ハローワークが就職支援に力を入れると話しておられたことを思い出しました。

[雇用保険部会報告』 第1 雇用保険制度等の見直しの方向

(3)給付日数について
・特定受給資格者の所定給付日数内での就職率をみると、被保険者であった期間が1年以上5年未満である30 歳以上35 歳未満、35 歳以上45 歳未満の層で
は、他の層と比べて低くなっている。そこで、特定受給資格者以外の給付(所定給付日数、給付制限)についても見直すべきである旨の意見があったが、被保険者であった期間が1年以上5年未満である30 歳以上35 歳未満の特定受給資格者について、30 日(拡充後120 日)、35 歳以上45 歳未満については60 日(拡充後150 日)、所定給付日数を拡充すべきである。

・「病気の治療と仕事の両立」が重要な課題となっていることから、難病等病気の治療を図りながら求職活動をする等の特定受給資格者等について、60 日の所定給付日数の延長が可能となるようにすべきである。

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11607000-Shokugyouanteikyoku-Koyouhokenka/0000146957.pdf

東京会が来週2月22日(水)に行う「がん患者就労支援セミナー」のご案内は以下の通りです。企業及び人事担当者向けです。まだ席はあると思います。もし興味のある会社さんがおられればご紹介ください。とても貴重な情報が得られると思います。

 http://www.tokyosr.jp/topics/2016-topics/24000/

来週は、木曜日から韓国公認労務士会創立30周年記念のシンポジウム参加のため韓国へ出張します。シンポジウムでは「日本・韓国における社会保険業務内容の比較と制度改善案の導出」というテーマの中で発表することになっており、今からかなり緊張しています。

しかし連合会の国際化推進特別委員会に参加させて頂くと非常に日本の素晴らしい法制度やシステムを再認識することが多いです。先日はインドネシアに健康保険・年金制度を導入するということで視察団が来られたのですが、最後の発表を聞いていると、日本の診療報酬制度の素晴らしい仕組みを感じることができました。

これらの素晴らしい制度は戦後から昭和30年代に骨格ができたわけですが、人口構造の変化が大きく、成熟した今後の日本にもこれに匹敵する各国が勉強に来てくれる制度を新たに作り上げる必要があるのだと思います。社労士として現場から発信していくことで協力できるのが理想だと思います。

今回のインドネシアの視察団は、OURSの顧問先にも来て頂きました。私が開業して最初に契約いただいた先輩の会社なのですがとても楽しい経験になりました。インドネシアの視察団のメンバーは、明るくて元気もあり、研修後はいつも質問が沢山出ます。これから作り上げる活力がそこには感じられてこちらまで元気になります。


労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン その2

2017-02-12 20:38:51 | 労働法

先々週取り上げた「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」について、再度取り上げてみようと思います。

従前のいわゆる46通達と今回のガイドラインと比較してみて大きく異なるのは、前回取り上げた「自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置」と「労働時間の考え方」です。

労働時間の考え方については、労基法において規定された条文はなく、判例で「使用者の指揮命令下におかれている時間(三菱重工業長崎造船所事件最高裁一小 平成12.3.9判決)」とされ、これまでこの判例が判断の基本となっていましたが、今回ガイドラインの中で「労働時間の考え方」が示されたといえます。

3 労働時間の考え方

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者 の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間にあたる。 そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこ と。 ただし、これら以外の時間についても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間については労働時間として取り扱うこと。

ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付 けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃 等)を事業場内において行った時間

このアにある「制服の着用に要する時間」についてはこれまでもご質問が多かったところです。

三菱重工長崎造船所事件の判決では、「労務提供義務と不可分一体のものとしてそれ自体を義務付けられた作業服・安全保護具等の着装を事実上拘束された状態で従事するものであるから、右着装の開始により、労働者は使用者の指揮監督下に入ったものと認めることができる」とされたもので、この判決が今回のガイドラインの元になっていると思います。

工場等で規則として決められた作業服等を身に着ける時間は労働時間と判断することが今回のガイドラインでも示されましたので、大きな工場であればタイムカードの機器を設置する位置は検証してみる必要があると思います。

また一番悩ましい診療所等で白衣を身に着けるなどの時間はどうなのかということが気になるところですが、今回のガイドラインについては新たな判決等があって出たのではなく、これまでの判例を元に作られていることを考えると扱いが変わることはなく、常識の範囲内で対応することで良いかと考えます。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf

このところ週末は、2月と3月に毎週セミナー等の講師の仕事が入っているためのレジュメ等の準備を前倒しで行ってきたのですが、今日は珍しく何もせず(と言ってもブログのための労働時間の考え方が書かれている書籍などは見たりしていましたが)過ごしてだいぶゆっくりすることができました。

色々と自分の置かれている状況が変わることも想定しながら、どのような立ち位置でそれを受け入れるかもあれこれ考え腹落ちした感じがしました。

時を待つ心

悪い時が過ぎれば、よい時は必ず来る。おしなべて、事を成す人は、必ず時の来るのを待つ。あせらずあわてず、静かに時の来るのを待つ。(松下幸之助「大切なこと」より)


同一の疾病の判断について

2017-02-05 15:28:27 | 社会保険

先日就業規則のリーガルチェックをしていたところ、休職期間の通算規定の部分で気になる表現がありました。一定の休職期間をとり復職した後どの程度勤務したら再度休職を認めるかという部分は、会社が決めることができます。例えば休職期間が終了して職場復帰をしたあと「3カ月以内に再度の休職をする場合」は休職期間を通算することとする規定を設けるわけですが、この3カ月は1年以内とする場合もあり、当然その期間が長い方が通算を厳しくみているということになるわけです。

また通算されるのは「同一又は類似の疾病」とする場合がほとんどです。この「同一又は類似の疾病」の判断は誰がするのかという点が気になったわけです。会社が判断するとすれば、会社は医学的知識が必要ということになりますので通常は無理であると思います。やはり産業医等が行う、又は診断書によることになるのだと思いますが、同一の疾病の判断の場合健康保険法の傷病手当金の際の判断基準になる「社会的治癒」の考え方も考慮に入れる必要があると思います。

1月号の月刊社労士に社会保険審査会の採決事例が載っており、そこに「社会的治癒」のことが以下のように書かれていました。

ところで、社会保険の運用上、医学的には当初の傷病が治癒していない場合であっても、社会的治癒として認められる状況が認められるときは、再度発病したものとして取り扱われる。そして、社会的治癒があったといい得るためには、その傷病につき医療(予防的医療を除く。)を行う必要がなくなり、相当期間、通常の勤務に服していることが必要とされていると解するのが相当である。

この記事では何か月間の出勤が社会的治癒として認められたのかは具体的には書かれていませんが、生命保険会社の方から概ね6か月間と聞いたことがあります。さらにこの件の場合はその間欠勤がなく、夜勤も務め、リーダーにまで任命されています。さらに医療内容から見ると、抗うつ薬と睡眠薬・精神安定薬を服用し「何ら症状のない時期が続き、治癒とみなしえると考えます。抗うつ薬の維持療法、精神療法は簡易な形で維持しました」という医師の指導下において、予防的医療の範囲と認めえる治療を受けながら、従来と同様の勤務ができていた、いわゆる社会的治癒と認められる状況にあったとするのが相当である、とされています。結論としては、本件傷病は既決傷病が一旦社会的治癒した後に、再発した別傷病と認めるのが相当であるとし、法定給付期間を超えた請求であるとして新たな傷病手当金を支給しないとした原処分は取り消されています。

休職の場合の、「同一又は類似の疾病」の判断についても傷病手当金の判断が生きてくると思われ、「社会的治癒」の考え方は念頭に置いておくことが必要だと思います。

先週は全国社会保険労務士会連合会の主催する「倫理研修」の講師を無事務めることができたので、今週末はかなり心の負担が軽くなりました。会員に倫理を講義するというのはかなり荷の重い仕事で、昨年は年末年始にかなり時間をかけて準備をしました。しかし準備をする中で自分自身業務の中で体験してきたこと、資格取得校で講義した社労士法の内容の一つ一つの意味、今まで知ろうとしなかった社労士会の規程や綱領ことや、企業の倫理感の欠如が発覚したのちの状況、他士業の倫理についてなど多くのことを学べたと思います。TACで教えていたころと同様できるだけ自分の学んだ内容を伝えたいという気持ちは伝わったかもしれません。皆さんうつむくことなく真剣にスライドを見て聴講頂きました。感謝いたします。やはり「教えることは教わること」なのだと思いました。

これから3月末までほぼ毎週、セミナーが色々なテーマで続きます。体調管理をしっかりして頑張ります。