OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

36協定届の押印廃止について

2020-12-27 23:20:25 | 法改正

令和3年4月1日から36協定の押印が廃止されることになりました。以下「労基法施行規則等の一部を改正する省令について」のサイトにリーフレット、Q&A、通達、条文等が掲載されています。

労働基準法施行規則等の一部を改正する省令について |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

令和2年8月27日に開催された第163回労働政策審議会労働条件分科会の議論での了承を受けた改正ですが、委員から以下のような意見がありました。

(仁平委員発言)今回の改正に当たりまして、協定書自体の押印が廃止されるかのような誤解が広まって、使用者の一存で記入された協定届が提出される懸念があるのではないかと指摘させていただいたところです。実際、そういった誤報もございまして、現場では実際に混乱が生じたという報告も受けているところでございます。・・・特に重要と思われる点として36協定等の協定に関しては協定届を届けるという手続と、協定を締結するということは別の問題であってしっかり区別されるべきで、協定の締結部分についてはこれまでどおり代表者をしっかり適切に選んで、適切に書面による合意を結ぶということが重要であり、そこの点についての周知の重要性を含め徹底することが改めて必要ということが強調されているという点など踏まえて、適切なものだろうと思います。

そもそも労使協定については、協定書と協定届の2種類があるべきところ、36協定については協定届のみの届出が以下の通達で認められています。

「労働基準法施行規則様式第9号による届け出は、時間外・休日労働協定(36協定)と同視してよいか(昭和53.11.20基発642号、昭和63.3.14基発150号、婦発47号、平成11.3.31基発168号)

 施行規則第17条第1項の規定により、法第36条第1項の届出は様式第9号によって行えば足り、必ずしも三六協定の協定書そのものを提出する必要はないが、当該協定書は当該事業場に保存しておく必要があること。また、三六協定を書面で結ばずに様式第9号のみを届け出たとしても、時間外労働等を行わせることができないことはいうまでもないこと。
 なお、様式第9号に労働者代表の押印等を加えることにより、これを三六協定の協定書とすることは差し支えなく、これを届け出ることも差し支えないが、この場合には、当該協定書の写しを当該事業場に保存しておく必要があること。

一般的には、上記アンダーラインにある通り36協定届(様式第9号)に労使の押印をして届け出ているケースがほとんどであり、協定書を別途作成しているケースはこれまでとても少なかったと思われます。今回の改正により、協定届の押印廃止を受けて押印をせずチェックボックスのチェックをするということにしたとしても、協定書を別途作成してこれまで通り署名・押印が必要となればかえって手間になってしまうのでは、と疑問がありました。今回、新たな36協定届の記載例を見ると、協定書を兼ねる場合には労働者代表及び使用者の「署名又は記名・押印などが必要です」とあり、兼ねる場合であっても労使ともに署名のみで可能であることがわかりました。

要するにこれまで通り、協定届により協定書を兼ねることが可能であり、また、これまで使用者については記名のみならず署名の場合であっても必ず押印が必要とされていたので、その部分の押印が廃止されたということです。

なお今回の改正により、労働者の過半数代表者の適正な選出及び電子申請の利便性の向上に向けた恒久的な制度的対応の一環として、労使協定・決議の届出様式に協定当事者の適格性を確認するチェックボックスを設けられたほか、電子申請時に、電子署名及び電子証明書の添付等のほか、利用者の氏名を電磁的記録に記録することをもって代えることができることとされました。また、所要の改正を行う協定当事者が労働者の過半数で組織する労働組合である場合は、労働者の過半数を代表する者が管理監督者ではなく、かつ適正に選出されたかを確認するチェックボックスにチェックがなされていなくても、形式上の要件に適合するものであるとされています。

〈参考〉第163回労働政策審議会労働条件分科会(資料)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

さて、今年は本当にほとんど1年間コロナウイルスに振り回されたといってよいと思います。在宅勤務やオンライン会議など今や当然となった感がありますが、昨年までは全く予想をしていなかった働き方でした。今年は同一労働同一賃金と働き方改革がメインテーマと考えていましたが、意外なことに劇的な働き方改革が起こった感じです。ここにきて感染者数が東京は1,000人に近づきこれは本当に心配な状況ですので、年末年始で自粛して、年明けは少し収束してくれると良いと願っています。

OURS小磯社労士法人は明日仕事納めです。例年行ってきた事務所での忘年会も今回は諦めて、くじ引きと私からのいつものプレゼントをして締めくくる予定です。ブログも今年は今日が最終となり、お正月はお休みとさせて頂いて、11日からスタートさせていただく予定です。なお事務所は1月5日からスタートします。
今年は私にとって皆様に心から感謝しなければならない出来事があった年となりました。本当に有難うございました。よいお年をお迎えください。

特別条項を前提にした固定残業代について

2020-12-20 23:11:15 | 労働基準法

固定残業代については、以前よりだいぶ判断が緩やかになっていると感じていたのですが、先日レインズインターナショナル事件の判決を目にしてさらにその印象を強く持ちました。判決の中で固定残業代について述べられている部分の一部を取り上げてみます。(東京地判、 令和1年12月12日、 レインズインターナショナル事件)

実際の時間外労働時間数及び深夜労働時間数について・・・時期によっては固定割増手当規定の時間外労働及び深夜労働の時間数と比較的大きな差があるが、割増賃金の額が固定割増手当の額を上回る場合にはその差額を支払っていたことを考慮すると,労働契約上,固定割増手当は時間外労働及び深夜労働に対する対価であるとされているとみるべきである。

基本給を時間給に換算するとアルバイト従業員の時間給を下回るため固定割増手当に店長の職責に対する対価の趣旨が含まれていることについて・・・基本給を時間給に換算した額がアルバイト従業員の時間給を下回るとしても,正社員に対しては賞与が支払われるなどの他の労働条件においてアルバイト従業員よりも優遇されていること,給与規程上,店長とそうでない正社員とで固定割増手当の内容及び算定方法が区別されていないことからすれば,固定割増手当に店長の職責に対する対価の趣旨が含まれているということはできない。

本件固定割増手当規定が36協定の原則の時間外労働の上限45時間を超える70時間相当及び深夜労働30時間相当としているためため公序良俗等に反し無効であるかについて・・・労基法37条は労基法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものであることを踏まえると,本件固定割増手当規定においてあらかじめ支払うこととされる固定割増手当に係る時間外労働時間数が36協定に関する基準に定める時間外労働時間数を上回るというだけでは,直ちに本件固定割増手当規定自体が労基法又は公序良俗に反するということはできない。

以前ある会社で監督署の調査があった際に固定残業代が上記判決と同様の時間数であったことがあり、そもそも45時間を超えることができる時間外労働は、臨時である必要があり、臨時とは年に6回以内である必要があると考え、是正報告を作成する段階で12ヶ月45時間を超える固定残業代の設定は問題がないかと考えたことがありましたが、この判決からすると問題はなさそうです。

またやはり従来からの考え方として固定残業代相当時間数を上回る時間外労働を行った場合は、その超えた時間数に対する割増賃金を支払うことは大切であり、固定残業代の内容と算定方法が職責によって区別されていなければ職責に対する対価が含まれるとは解されないという点も実務的に留意してよいものと思いました。

今日母の卒寿のお祝いを家族一同集まってとり行う予定であったのですが、あまりにコロナの感染者数が増えて、ひょっとして東京は1000人に達してしまうのではという危機感があり、残念でしたが延期としました。食事を予約していたお店では、ちゃんちゃんこと写真は準備してくれるということでしたのでとても有難いと思っており、キャンセルをするのが申し訳なかったのですが、電話をしたところ「90歳の母がいて…」と話し始めたところで「キャンセルですね。またよろしくお願いします。」さくっと言われ、やはりキャンセルが多いのだなと感じました。それらの対応からコロナが収束したら必ずもう一度お願いしようと思っています。


年次有給休暇の取得増加と計画的付与

2020-12-13 17:44:53 | 労働基準法

令和2年就労条件総合調査によると、平成31年・令和元年の1年間に労働者が取得した年次有給休暇の取得日数は昭和59年以降で過去最多10.1日(平成31年調査9.4日)で、取得率は56.3%(同52.4%)で過去最高となったそうです。平成31年4月1日施行の5日の年次有給休暇の取得義務の影響は大きいのかなと思います。各企業も5日の付与についてはかなり気にされていた印象があります。

比較的多い質問としては、1年間の途中で育児休業等が終了して復帰した社員についても5日付与しなければならないかというご質問ですが、これは改正労働基準法に関するQ&Aに載っています。

3-6(A) 付与期間の途中に育児休業から復帰した労働者等についても、法第 39条第7項の規定により5日間の年次有給休暇を取得させなければなりません。ただし、残りの期間における労働日が、使用者が時季指定すべき年次有給休暇の残日数より少なく、5日の年次有給休暇を取得させることが不可能な場合には、その限りではありません。

上記回答からすると、5日の取得が全くされていない場合、育休復帰後の労働日が5日に満たない場合は仕方がないが、復帰後の期間が短かったとしても5日の取得させる義務はあるということになります。

また、同統計によると、年次有給休暇制度の計画的付与制度がある企業割合は、43.2%ですが前年平成31年調査では22.2%であり、計画的付与日数階級別にみると「5~6日」が66.6%であり、平成31年調査の39.6%から大幅に増加しているのが分かります。計画的付与を活用して取得日数を増やし、5日の取得義務を果たすことを目指したことが推察されます。

なお、年次有給休暇は、労働日の労働を免除するものであり、すでに労働を免除されている育児休業期間中に取得することはできません。ただし、育児休業取得前に計画的付与されていた年次有給休暇については、取得したものとされています(平成3.12.20基発712号)。

今年の年末年始は年次有給休暇の計画的付与を検討されている場合も多いと思いますので以下ご参考まで。

有給休暇ハンドブック(厚生労働省)

040324-17a.pdf (mhlw.go.jp)

小淵沢の家も冬じまいする必要があり、週末に行って1年間(といってももちろん今年は前半は全く行けてなかったのですが)使ったものを洗濯し、食料も賞味期限切れにならないよう整理してきました。冬になると森の木の葉がすっかり落ちて、家のテラスや部屋からも八ヶ岳や南アルプスが望めるようになります。冬の晴れた日は山がくっきりと見えて春から秋にかけてとは異なった山の姿を見ることができます。一昨年秋に来た時あまりに寒く感じたので、昨年から暖房対策を強化して、今年はほとんど寒い思いもせず過ごすことができました。来年は家の前に芽を出すフキノトウを摘めるまだ冬の雰囲気の残る時期に来てみようと思います。


ジョブ型雇用についての興味深い記事

2020-12-06 22:25:40 | 労務管理

在宅勤務が広がる中盛んに「ジョブ型雇用」が取り上げられるようになりました。在宅勤務により部下の仕事のプロセスが見えなくなり、成果によってでしか評価ができないという問題が生じます。在宅勤務についてのセミナー後の質問でも、部下の評価はどのようにすべきかという質問が多くありました。

極めて簡単に言ってしまえば「ジョブ型雇用」とは職務内容を明確にして、その成果を評価して管理していくものとされ、リモートワークはこの「ジョブ型雇用」と一体化され、新しい働き方となるということになります。

いわゆる「ジョブ型雇用」への移行とリモートワークとが一体とならなければ、新しい働き方は根を下ろさないという記事もあります。これまでの労基法の労働時間での管理は高度経済成長期の製造業にこそマッチする、というのは日々社労士業務の実務の中で感じることですが、「ジョブ型雇用」は労働時間で管理しない新しい労務管理ということになります。

2020年7月22日の日経電子版にも『導入相次ぐ「ジョブ型」雇用、成功の条件とは』という記事が掲載され日立製作所の取組が載っています。「ジョブ型の制度導入は日本的な組織を根本から変える改革になる。」とされ、「世界で5万ある管理職ポストを職務の重さによって格付け…社員のスキルや職務履歴を一元管理するデータベースも構築し…非管理職の職務記述書づくりにも20年度に着手し…人材と職務の両面で「見える化」を進めている。

ジョブ型雇用は、コロナ後のニューノーマルの救世主という感じで語られている雰囲気でしたが、成果をどのように反映させるか、実際にはなかなか難しいのではとも感じていたところ、12月4日の一橋大学の神林教授の「職務限定・成果給の両立難題 ジョブ型雇用と日本社会」はとても興味深い記事だと思いました。

この記事の中で、ジョブ型雇用はいわゆる「職務給」として解釈することが適当として、職務遂行の有無のみが問われ、職務が変わらない限り賃金は固定され、労働時間により給与が決定される仕組み、とあります。ただテイラーの理論の衰退もあり「単純な職務給への復帰と解釈するのは現実的ではない。」とされています。ジョブ型雇用とは「すなわち職務内容をあらかじめ限定的に列挙して労働契約の内容とするものだ。対立するメンバーシップ型雇用について職務の限定がないと説明されることからも、妥当だろう。」とありそのあと成果給との関係についても取り上げられています。

この記事は非常に興味深く、またジョブ型雇用は考え方が統一されておらず運用となるとなかなか難しいと感じてしまうことがわかります。ぜひ全文読んでいただければと思いますが会員登録していないと読めないでしょうか?

職務限定・成果給の両立難題 ジョブ型雇用と日本社会: 日本経済新聞 (nikkei.com)

12月に入り、年末・年始の準備を少しずつしていますが、今日は今年12月に90歳(卒寿)を迎える母のプレゼントを買いにコロナを気にしつつちょこっと日本橋まで行ってきました。デパートはかなり空いており、有難いといえば有り難いのですが、ついでに自分の仕事用のスーツを購入したをお店では、とにかく仕事用のスーツ等の服が全く売れていないということでした。理由としては、やはりテレワークで仕事着が必要なくなったということが原因であり、上半身だけきちんと見えればよいからという人が多いとか。これから女性管理職も増えてくるというテーマで3年前くらいから女性のビジネススーツ等に力を入れてきたブランドだけに、方針転換をするかどうか難しいところだと感じました。頑張れ!アパレル!と思っています。