OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

就労証明書の電子化撤回

2023-10-30 01:38:35 | 労務管理

子どもを保育園に預ける必要があると証明する「就労証明書」の提出手続きに関し、デジタル化の取り組みの一部が一転、見送られることになった。政府は2023年秋に導入する予定だったが、デジタル庁が10月までに導入撤回の方針を全自治体に通知した。(日経新聞2023.10.16より)

上記は少し古い記事ですが、この記事が出る前の9月1日付で以下の通達が出ています。通達の内容としては、令和6年4月入所分に係る就労証明書の様式について5月にこども家庭庁成育局保育政策課事務連絡「就労証明書の標準的な様式について(周知)」により、標準的な様式が示されており、これに伴いマイナポータル(ぴったりサービス)では、企業等事業者から直接市区町村に対し就労証明書を提出する方式を検討していたが見送るというものです。

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e4b817c9-5282-4ccc-b0d5-ce15d7b5018c/3ceda661/20230904_policies_hoiku_30.pdf

確かにこれまでの就労証明書は各市区町村で様式がバラバラで、企業が記入がするのに時間がかかりかなり非効率的であったといえます。また社員が就労証明書を入手し、企業に記入を依頼し、、企業が記入した就労証明書を社員に渡し、社員が市区町村に提出するという手順が多い状況でした。国はデジタル化の一環として様式をそろえた上で電子化をして、企業から自治体にデータを直接送る仕組みを考えていました。実際2022年12月には河野デジタル大臣から発表もありましたが、撤回ということになりました。

なぜ撤回となったかですが、記事では一部企業から実務の手間が増えるといった反対が出たと書かれていますが、これまで保護者である社員が市区町村に提出していたものが、企業が提出に変更になると企業に新たな責任が生じることも問題になったということです。また自治体も企業と保護者それぞれが送ったデータのひも付けの負担が生じるという理由もあったようです。確かに就労証明書は保育所に入れるか否かの大切な書類であり、企業から市区町村へ直接提出であれば、企業の責任は重く、また確かにそこまで保育園への入所という個人的な部分まで企業が負担を負うのは酷というものです。

結局各市区町村で様式は揃え9月15日より利用可能となっており、マイナポータルのぴったりサービスには新様式のダウンロードができるようになっています。書式が揃っただけでもありがたいと先日顧問先の人事労政部の担当者がコメントされていましたが、デジタル化の道遠しと感じてしまいます。

先日「ブラックベリー」の映画を見ました。アイフォンが出る前、携帯電話にキーボードを組み合わせた形で一時期とても人気があった携帯だったと思います、アイフォンが出てきて結局消えていく運命なのですが、その展開を見てとても切ない気持ちになりました。当時かっこいいと思った記憶があり、探してみたところ私も一時期使用しており、まだ機器だけは残っていました。あまり長い期間使わなかったのはなかなかブラックベリーが高価で入手できなかったうえにスマホが出てきたことによるものと思います。とにかく何事もスピードが速い世の中にはブラックベリーのように消えていったものはたくさんあるのだろうと思います。常に先を見据えて手を打たなければと思っています。


ILOと中核的労働基準について

2023-10-23 01:12:21 | 労働法

8月以降かなり沢山の仕事をこなしてきたのですが、おおかた予定通り進捗し、先週の愛媛出張をもって一段落した感じです。出張をはじめとして、コロナ以来久しぶりに外の空気を思いっきり吸って、かなりたくさんの刺激を受けることができました。週末の愛媛県会の研修では「ビジネスと人権」テーマにお話ししたのですが、数年前よりだいぶ自分の理解が進んだのかレジュメ作りも悩まずじっくりと作り上げることができました。まだまだこれからもさらにバージョンアップしていけるかなと思い、このテーマは大事にしていこうと思っています。ビジネスと人権をテーマに取り組んでいると、「ステークホルダーエンゲージメント」というビジネスを取り巻く利害関係者を巻き込んで労働条件や労働環境を決めていくという考え方がだんだん当然に思えてきました。労働組合がない会社は労働者の意見を聴く機会のないまま、賃金をはじめとした労働条件が決められていくことが多いと思うのですが、今後ビジネスと人権が広まっていくことにより変化していくのではないかと思います。

社労士会のビジネスと人権の取組みはILO駐日事務所に沢山の支援を受けて進んでいます。ILOは国連の専門機関として労働問題を取り扱う機関であり、政労使の三者構成となっていることが特徴です。2017年に改訂された「多国籍企業宣言」で、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を提唱しています。以前連合会の国際化特別推進委員会の委員時代から私もお付き合いがあったのですが、今回研修準備でおさらいしてILOについて初めて知ったことも多くありました。

調べてみると、2019年に創立100周年を迎えたILOと日本とのかかわりは古く、1919年10〜11月にワシントンで開催された第1回ILO総会の準備に、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ベルギー、スイスに加えて日本ての7ヵ国の代表で構成された委員会によってなされたということです。この時点で日本が参加しているのは驚きでした。ただ、非常に残念なことに、1933年の国際連盟脱退に続き1938年11月ILOに脱退通告がなされたその後東京支局も閉鎖されたそうです。日本が再加盟したのは1951年、1954年に常任理事国に復帰し翌年東京支局ができたということで、その空白期間がその後に影響を及ぼしているようですが、ここはもう少し勉強しないとなりません。

ILOの定める「国際労働基準」は、条約と勧告及び議定書から構成されており、5つの分野①結社の自由及び団体交渉権、②強制労働の禁止、③児童労働の実効的な廃止、④雇用及び職業における差別の排除、⑤安全で健康的な労働条件、からなる10条約が最低限順守されるべき基準として「中核的労働基準」として定められています。この中核的労働基準のすべてを日本は批准しているわけではなく、第111号の雇用及び職業についての差別待遇に関する条約、第155号の職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約、1930年の強制労働条約の2014年議定書が未批准となっています。この中核的労働基準のうち、安全衛生分野については2022年6月のILO総会で追加・発効されており、それまでの4分野8条約から5分野10条約になりました。なお、日本は「強制労働の廃止に関する条約105号」が未批准であったところ2022年通常国会で批准されました。

まだまだ理解が全く足りていないのですが、ビジネスと人権では国内法を遵守していれば良いというものではなく、中核的労働基準をはじめとして国際的な労働基準を念頭に企業も対応していかなければならないという点等、実務の経験も積み上げつつかなり勉強の必要があると思っています。

愛媛県会の研修はとても楽しく充実していました。皆さん暖かい雰囲気で迎えて頂いて、最初から笑顔笑顔で元気を頂きました(ビジネスと人権の講義中は笑顔が消えて難しい顔をされていましたが・・・)。難しいテーマだけに導入部分で身近に感じてもらえるお話が研修委員長からあり、私の話の後はディスカッション形式でグループで検討されるビジネスと人権に精通された先生からのまとめがあるという、工夫された構成であっという間に時間が過ぎた感じです。

松山はとても良い街で、かなり観光客も多く昼も夜も活気がありました。研修の翌日は、坂の上の雲ミュージアムと伊丹十三記念館に行って夕方の飛行機で戻りました。両方とも良かったのですが、坂の上の雲ミュージアムは展示もとても分かりやすく、ずいぶんと昔に司馬遼太郎の本を読んだのですが、そのころの日本の背景を認識しつつ思い起こさせる部分と新たに認識した部分がありかなりじっくりと見て回りました。例のごとく今年はこのテーマで深堀したいと思い、さっそくNHKスペシャルでドラマ化されたアマゾンプライムを見始めました。年末までこれで楽しめそうです。


日本という国の素晴らしさ

2023-10-15 22:03:44 | 雑感

先週は休暇を2日ほど頂いて連休にかけてロサンジェルスに旅行してきました。若いころ2年ほど夫が会社の制度により留学していたことがあり、私も2歳の息子と1年ほど住んでいました。その頃もそうでしたが、私が大学時代はアメリカの西海岸は本当に憧れであり、UCLAのロゴの入ったトレーナーを愛用したりしていたものでした。当時日本人が多く住んでいたガーデナにグーグルマップで確認したところ家もそのまま残っており、歩いてほんの数分のところにある今は違うスーパーになっていましたがニュー明治というスーパーなど、もう一度見に行ってみたいと思っていました。実は3年前コロナで断念した経緯があり、やっと実現したという旅行でした。

今回まず感じたのは、西海岸にはあまり日本人は来なくなったのだということです。往復の飛行機の中でも日本人はとても少なく、ダウンタウンにあるリトル東京も以前の雰囲気とは異なり多国籍な一角という感じになっていました。当時はLAは危ないということもあり近くの日本のスーパーと、日本人の集まる公園、週に2回の英会話教室くらいしか出かけることができなくて、たまにリトル東京のニューオータニに行き、そこにある紀伊国屋書店で文庫本を沢山買いだめして読むことがとても楽しみでしたが、ニューオータニがなくなってから久しいようです。

前回は観光する余裕がなかったので、今回半日ですが市内観光をして知らなかったロサンジェルスの良い場所を知ることができたのは収穫でした。果物を売っているだけかと思っていたファーマーズマーケットはとても雰囲気の良いモールができていましたし、グレイストンパークというお屋敷跡にできた公園の散策も和むことができました。空港からホテルの送迎と半日観光のドライバーはともに日本人で、今のアメリカや大統領の話や、フットボールの観戦の際は透明のバックを持ってかなければならないこと(危険物を持ち込ませないため)など色々な情報を提供してくれてとても助かりました。その中で、サンフランシスコが今やドラックとホームレスにあふれていてロサンジェルスより危険な街になっているという話もあり、昔のサンフランシスコをイメージしていた私にとっては驚きでした。ドラックについての市長の方針もさることながらやはりコロナで在宅が増え人が町から消えたことも大きいようです。

ホテルの周りをちょっと歩いても、やや危ないかなという一角に差し掛かりそうになりますし、車で走らせているとここは絶対降りない方が良いのだろうという街もあり、今回は以前に増して格差の激しさを感じました。どこを歩いても大丈夫ですし、夜も一人で歩ける日本という国はもしかしたら世界でも数少ない安全な国なのかなとフト思ったりしました。今渋谷のヒカリエはいったいここはどこの国なのかというくらい、海外の旅行者が多く、アメリカより渋谷の方が欧米人を見かけるような気がしました。旅行者が日本について美し国と感じるのは自然なことなのだろうと思いました。この日本人の清潔感や、勤勉さ、几帳面さがあれば、これから人口減少の時代で小粒になったとしても良い国が築けるのではないかという気がしました。ちなみに最初から最後までホテルも含めてウォシュレットには出会いませんでした。

アメリカも行くところに行けば違うのでしょうけれど、どちらかというとアジア系やメキシコ系の人々が多く、人種問題はどうしても付きまとうのだろうと感じました。今後外国人労働者が増えてくれば、日本も似たような状況になるのかもしれず、その時はアメリカのように、同じ国に住んでいながら暗黙の中で居場所が分かれてしまうということになってしまう可能性もあるのかもしれません。

最後に流石のビッグアメリカを見たのは、2028年のロサンゼルス五輪の開会式をするスタジアムであるソーファイスタジアムでのフットボールの観戦でした。7万人収容のスタジアムで、チケットは売り切れることはないという情報でしたが5階席まで満席のようで、応援も派手に盛り上がり、なかなか楽しい時間でした。ここは奮発して良い席を確保していたので試合も良く見えて、これからはロサンジェルスラムズを応援しようと思いました。ウーバーを初めて海外で使ってソーファイスタジアムに行ったのですが、日本のGOと同じ仕組みで違和感なく使えたのと、現金はほとんど使う機会がなかったことも印象に残りました。やはり海外旅行は色々なことを考え、自分の国を見直す良い機会にもなるので、思い切って行く価値ありと思いました。

ソーファイスタジアム入口   ラムズ対イーグルス     スタジアム内の売店               大きいアメリカンドック

    


年収の壁・支援強化パッケージ

2023-10-02 01:08:05 | 社会保険

9月25日に岸田首相が公表したのは、年収が一定額を超えるとパート労働者らの手取りが減る「年収の壁」問題について対策パッケージでした。日経新聞によると「まずは106万円の壁を乗り越えるための支援策を強力に講じていく」と強調した。労働者1人当たり最大50万円を支給する助成金制度を創設すると説明したということです。

正直106万円と130万円の年収の壁を意識することなく、保険料を納めることになり多少手取りが目減りをしても、働く方が良いと個人的には思っています。根本的な制度の改正が必要とも考えます。従って今回の年収の壁・支援強化パッケージは納得感のないものなのですが、あっという間に10月1日から適用されるということなのでどのようなものか少し見てみたいと思います。

支援・強化パッケージは3つの項目からなっています。

●106万円の壁対応 
①キャリアアップ助成金コースの新設・社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
・短時間労働者が被保険者の適用となる場合に、労働者の収入を増加させた事業主に最大で3年間費用の助成が行われます。
・助成金の一つのコースなので当然開始前に「計画の提出」が必要その上で『手当』を支給して6か月後から「申請」をしていきます。
・その時支払う『手当』を社会保険適用促進手当として支給する場合は本人負担分の算定において標準報酬月額、賞与額の算定基礎に入れなくて良いということです。
 社会保険適用促進手当とは、10.4万円以下の標準報酬の人が社会保険に加入し発生する保険料の本人負担分相当額です(最大2年間)。
 (標準報酬月額10.4万円の場合➡年額上限18.8万円、9.8万円の場合➡17.7万円、8.8万円の場合➡15.9万円)

キャリアアップ助成金の助成は3年間、社会保険適用促進手当は最大2年間と異なるのは、助成金の3年目は手当の追加支給ではなく賃金を18%以上増加させていることが条件になる仕組みのためで、背景には賃金の増額にいわば会社としても慣れるための追加支給をしておきながら3年目には自然と賃金をアップさせ、数年後には壁を意識せず働く、ということのようです。

このパッケージを使うのであれば、会社はまず①キャリアップ助成金の計画を立て、②社会保険適用促進手当を給与に上乗せして、③6か月後から助成金の申請をする。ということになります。

会社の出費が多いように思いますが、とにかく人手不足でお金を多く出して採用・定着が必要という企業にとってはある意味良いのかもしれません。

●130万円の壁対応
被扶養者の年収が130万円以上になったばあいでも直ちに被扶養者認定を取り消すのではなく、一時的な収入の増加であれば、通常提出する過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書に加えて人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、迅速な認定を可能とするということです。

●配偶者手当の対応
配偶者手当の存在が就業調整の要因となっているため、見直しに向けて周知を図る、というものです。

年収の壁・支援強化パッケージ
https://www.mhlw.go.jp/content/12501000/001150695.pdf

上記パッケージは2年間の暫定措置であり、社会保障審議会年金部会での改革案はだいぶ進んでいるようです。パッケージはこの改革案が実行されるまでのつなぎという意味合いと考えるべきかもしれません。

先週コロナ禍行われていなかった早稲田法学研究科の菊池ゼミ社会人クラスの交流会が行われました。久しぶりであったためか、沢山の方にご参加頂いて、現役生を囲み和やかな時間を過ごすことができました。やはりリアルで久しぶりに先輩や仲間に会うのは話も弾み楽しいです。会場のお店に行く前に大学によって撮った写真が幻想的に撮れていました。

※来週はブログはお休みさせて頂きます。