OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

障害者雇用率20.%へ引き上げ

2012-07-29 22:18:55 | 法改正

障害者雇用率は、障害者雇用促進法に基づき、少なくとも5年ごとに、労働者と失業者の総数に対する身体障害者又は知的障害者である労働者と失業者の総数の割合の推移を勘案して、政令で定めるとされています。前回(平成19年)の障害者雇用率の見直しから5年が経過していることから、必要な調査を行った結果、障害者雇用率を見直されることになりました。施行日は、平成25年4月1日になっています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002b4qy.html

1 障害者雇用率について
 ○ 民間企業については、2.0%(現行 1.8%)にすること。
 ○ 国及び地方公共団体並びに特殊法人については、2.3%(現行 2.1%)とすること。
 ○ 都道府県等の教育委員会については、2.2%(現行 2.0%)とすること。
・・・この改正により、障害者を雇用する義務がある民間企業は、これまでの56人以上規模から50人以上規模の企業に拡大されます。これまで障害者の雇用義務はないと思っていた企業に雇用義務が発生することがありますので注意が必要です。


2 障害者雇用納付金等の額について
 ○ 障害者雇用納付金、障害者雇用調整金及び報奨金の額については、それぞれ現行とおりとすること。

・・・障害者雇用納付金制度は、事業主間の経済的負担を調整する観点から、雇用障害者数が法定雇用率(現在1.8%→平成25年4月~2.0%)に満たない事業主から、その雇用する障害者が1人不足するごとに1月当たり5万円を徴収し、それを原資として、法定雇用率を超えて障害者を雇用する事業主に対し、障害者雇用調整金(超過1人につき1月当たり2万7千円)や助成金を支給する仕組みです。

法定雇用率達成企業の割合は、平成23年の集計では300~500人未満が45.0%、500~1,000人未満が44.3%、1,000人以上が49.8%です。概ね未達成の企業が半分強ということになりますからそれらから5万円徴収し、超過しているところに助成するのは2万7千円というのがなんとなく以前から腑に落ちないのですが。

この障害者雇用納付金の徴収は、昭和52年以降、経過措置として、常用雇用労働者を301人以上雇用する事業主のみが対象でしたが、障害者の雇用が着実に進展する中で、中小企業における障害者雇用状況の改善が遅れており、障害者の身近な雇用の場である中小企業における障害者雇用の促進を図る必要があるということで適用範囲が以下のスケジュールで拡大されています。

平成22年7月から、常用雇用労働者が200人を超え300人以下の事業主
平成27年4月から、常用雇用労働者が100人を超え200人以下の事業主
※ただし、制度の適用から5年間は、納付金の減額特例が適用されます。常用雇用労働者が200人を超え300人以下の事業主については、平成22年7月から平成27年6月まで5万円→4万円ということになっています。

先週の金曜日は12回目のOURSセミナーでした。今回は法改正セミナーでしたが、60名の方がご参加頂いて皆さん熱心に受講していただきました。3回目になりました実務ワンポイントレッスン好評でした。ありがとうございました。

今回の内容としては派遣法(H24.10.1施行)と労働契約法の改正法案(H24.7.25衆議院厚生労働委員会可決)がヤマでしたが、上記の障害者雇用率について、口頭のみのご説明になってしまいましたのでブログで追加説明させていただきました。

民主党になり法律改正の成立が遅れがちとはいえ、法改正セミナーを実施するとかなり色々と細かなものから大きなものまで改正があるなあと実感します。この秋は労働契約法の有期労働契約についてと、たぶん来春までには成立するだろうと思われる高年齢雇用確保法の対応について取り組む必要があるということを私自身認識できて良かったです。


専門型裁量労働制の場合の時間外労働

2012-07-22 16:44:15 | 労働時間

専門業務型裁量労働制を採用している場合、時間外労働は発生するのかということですが答えはもちろんイエスです。専門業務型裁量労働制は1日の労働時間を「〇時間労働したものとみなす」というみなし労働時間制であり、何時間労働したものとみなすかは労使協定により労使で定めることになっています。

例えばみなす時間を1日8時間と決めれば、たとえその日に2時間しか働かなくても6時間働いても8時間働いたことになります。その場合は当然1日についての時間外労働が発生することはないわけです。

また、みなす時間を1日9時間とみなすこともあるわけで、その場合は1日の法定労働時間の8時間を超える1時間の毎日時間外労働が発生するため、その分の割増賃金を支払わなければならないことになります。例えば所定労働日数が20日であれば1時間×20日=20時間の割増賃金を支払うことになります。

しかし8時間とみなし労働時間を定めた場合であっても時間外労働は発生することがあります。土曜日と日曜日が休みである週休2日制の場合、法定休日を日曜日と定めたときは土曜日は所定休日でしかなく、所定休日に労働した時間数は時間外労働の時間数に含まれます。要するに平日に毎日働き、土曜日に休日出勤をして日曜日に休んだ時は、平日だけで8時間×5=40時間となっていますので(たとえ実際は毎日5時間しか働いていなくても8時間とみなしますから必ず40時間になります)、その場合の土曜日の出勤時間は、週法定労働時間の40時間を超えて働いた分になり、その分が時間外労働になります。またその場合土曜日に2時間しか働かなくてもみなしの適用を受けて8時間労働したものとみなします。結局8時間の時間外労働がその週において発生することになります。

その状況があるのであれば、8時間のみなしの場合であっても36協定の中で適用対象者の人数を書くとき、専門業務型裁量労働制の対象者を除いて書いてしまってはいけないということになります。平成22年の労基法の改正以前は所定休日について休日労働に含めて考えている企業がほとんどでした。36協定もそのような書き方でもあまりうるさく言われていなかったと思います。割増率が休日の方が高かったのでそれほど大きな問題はなかったのですが、割増率が大企業は時間外労働が60時間を超えたら5割と改正されて、また長時間労働が非常に大きな問題になったためそのあたりを厳密にとらえる必要が出てきました。

現状で「8時間みなし」としていても「所定休日に出勤するような場合」には、36協定の時間外労働の対象者の人数に裁量労働時間制の人を含めていないと是正勧告になります。厳しいですね。

ところで所定休日に出勤した場合でもだいたいは2,3時間しか働かないというときは「みなし労働時間制の適用を月曜日から金曜日に限る」として、所定休日の出勤については通常の時間管理とすると就業規則等に規定することはできないわけではないようです(それはできないという通達等がないため)。その場合は所定休日に実際に働いた時間数に応じた割増賃金を支払うことになります。

ここ2、3日は涼しいですが先週は「夏!」になりました。暑さに負けず張り切っていきましょう。


養育期間標準報酬月額の特例

2012-07-15 23:33:52 | 産前産後・育児・介護休業

 昨日は相馬塾で「育児休業詳解」のセミナーの講師を務めさせて頂きました。5月にOURSセミナーで話したっきりで、講義はやや久しぶりだったため大丈夫かなと心配な面がありましたがマイクを握ったらいつも通りのペースで話ができてホッとしました。しかし3時間を終わってみると結構足はビンビンになっており、数年前まで日曜日の午前午後計約6時間講義をしていたのだと思うとよく頑張っていたなあという感じです。特にTACの講義の際はパワーポイントではなく板書でしたからもっとエネルギーを使っていたわけですし。相馬塾に参加された皆さんに熱心に聴いていただいて楽しい時間を過ごすことができました。

その中で厚生年金保険の養育期間標準報酬月額の特例(以下「養育特例」)についてご質問があったのですが、回答がわからず持ち帰り調べてみました。

養育特例とは、3歳未満の子を養育する期間中の標準報酬月額が、子の養育を開始した月の前月の標準報酬月額(「従前標準報酬月額」といいます)を下回る場合には、被保険者等の申出により、その標準報酬月額が低下した期間については、従前標準報酬月額が、老齢厚生年金等の年金額の計算の基礎となる標準報酬月額とみなされるというものです。

http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=2063

要するに3歳未満の子を育てている間の標準報酬月額については、その間報酬が低下したことにより、子が生まれる直前の標準報酬月額と比較して下がった場合でも、(保険料は低い標準報酬月額による額を納めていたにもかかわらず)年金額の計算の際は直前(従前)の標準報酬月額とみなして計算してくれる。ということです。

この養育期間特例についてはポイントがいくつかあります。

①3歳未満の子を養育する期間中であれば男女ともに対象となること

申出によること

育児休業を取得していなくても適用されること

④報酬の低下について理由は問わないこと

このお話をセミナーですると多くの方が3歳未満の子がいる人の保険料が子が生まれた直前より下がっているかどうか特に男性についてはチェックしていないので大丈夫か?ということになるのですが、なかなかそこまで徹底している会社は少ないと思います。女性は育休改定を出す際に合わせて提出することが多いのであまりモレはないと思いますが、男性で評価や業績によって報酬が下がったときと転職してきたときに3歳未満の子がいたなどの場合は追い切れていないのが実情だと思います。しかしこれは「②申出によること」という、原則被保険者の申出によるものであるためある程度仕方がないという面があります。要するに自己責任ということになるのですが、そこまで周知が徹底しているともいえないとは思います。それは企業の責任ということでもないでしょうし、もう少し日本年金機構からの被保険者への周知が必要のように思います。


開業記25 開業してからどのように時を重ねていくか 

2012-07-08 23:02:33 | 開業記

開業記25 開業してからどのように時を重ねていくか

開業してから早20年が経ちました。開業して1番最初に顧問契約をしていただいた会社の社長は、既に60歳台後半になり、次の世代にどのように引き継ぐかということに頭を悩ませているようです。先日開業30年の社労士の先生から伺いましたが、開業当初からの顧問先は半分以下になってしまったとのこと。企業の寿命は30年とよく言われますが、その考え方は今も生きているのかもしれません。確かにOURSにとっても今後10年経ったときには、開業当初私が顧問契約をして頂くたびに、心の底から嬉しく思った経営者の方たちもそして私も、この事業の次を考えるようになるのかもしれません。

企業の寿命30年とはいえ、長く続く企業の多くは、「収益性の高い事業への選択と集中やグローバルへの最適展開などを図っています。そうした自己変革を続けることが、設立30年を過ぎた後も、輝きを保つカギのようです。」ということです。OURSもそのあたりを念頭に置きながら次の世代につなげていけるように考えていこうと思います。

開業してからこれまで何を大切にしてきたかについては、開業記20の「仕事をしていく上で大事にしていること」に書いてありますが、その根底にある1番大きなものは「信頼」ではないかと思います。

以前なぜうちに依頼をしようと思っていただけたのかと顧問契約の際にお伺いしたら、「相談した時に親身になって対応してくれると思ったから」と言っていただいたことがあります。その方はその後転職されましたがさらに転職先の会社も顧問契約をしていただいていて、そのいずれもが優良企業ですが、それよりそう思ってもらえたことが一番うれしいことです。

「自社のために一番良い方法を提案してくれるだろう」と思ってもらえることに感謝し、その企業にとってどうすればよいのかを私だけでなくスタッフも一生懸命考えてくれて、OURSはこれまでの時を重ねてきたと思います。時に忙しさにまぎれなかなかニーズに応えられず申し訳ないことをしてしまったケースもないわけではないですが、そのことを反省をして今はまんべんなく担当の企業を気にかけているか、フォローしているかミーティングで確認をするようにしています。

ご紹介いただいた場合に一番念頭に置くのは、ご紹介者の顔に泥を塗らないような良い仕事をすることが一番大切だと考えています。それが紹介先に選んでいただいたことに対する一番の恩返しと思うからです。支部の先輩についても、色々と教えて頂いた恩を忘れずにいたいと思います。「信頼頂けること」が何より大切と思います。やむなく人を傷つけてしまうことは時にあるかもしれないですが、信頼を裏切ることだけはしたくないと思います。

信頼関係というのはそれほど簡単に築けるものではないと思います。時を重ねていく中で色々なことが起こり、その中で培っていくもののように思います。それを考えると開業当初はなかなか信頼を勝ち取るのは難しいことだと思います。でも地道にそれを重ねていくことで、あとで大きなお返しがたくさん来るのだと思います。目先にとらわれず、辛抱強く何年先かを信じて誠実に頑張っていただきたいと思います。

先週は合併案件と海外在住の方の年金請求でかなり時間を取りました。合併案件はこれまで大分経験しましたが、労働・社会保険関係の手続についてはその時々やはり異なり、大変ですが面白くもあります。10年前くらいから企業の合併は日常的になりました。2011年1月から、協会けんぽの保険証は会社の住所を載せないことになっています。合併があまりに多くて差し替えの手間があるため事業所の住所は載せなくなったと聞いています。http://www.kyoukaikenpo.or.jp/news/detail.1.60185.html

健保組合に加入していた事業所が、吸収分割される場合吸収先が従前の企業の関連の事業と認められれば、吸収先の事業所もあまり手間なくそれまで加入していた健保組合に編入できるようです。今回初めてのケースです。奥が深いなあ~とうれしくなります。

そのうち合併の際の労働保険、社会保険関係の手続いろいろをケース別に取りまとめてみるのも良いなあと思います。 


歳入庁構想 連合会の見解

2012-07-01 23:12:13 | 雑感

先週の金曜日に連合会の総会で大分時間を取った歳入庁構想については今後機会を持ち勉強をしていく必要があると感じました。

歳入庁構想は4月の中間報告の時点では、見送り案も出ていたところ、6月8日に 政府が民主党作業チームに提示した中間報告の改訂版原案では、2015年前後には国税庁や日本年金機構、市町村などの徴収業務統合に向けた準備組織を新設、 2018年以降速やかに歳入庁を創設することを目指すと明記されています。(まだ勉強途上ですので以下の内容をご確認ください)

http://www.jiji.com/jc/zc?k=201206/2012060800838

連合会の総会の際、会長が回答されていた3月14日に出した全国社会保険労務士会連合会の見解は以下の通りです。今後の状況によりさらに動くべき時には動くということですが、会員全体が真剣に考える必要があることだと思いました。

http://www.shakaihokenroumushi.jp/general-person/topics/2012/pdf/0314_news.pdf

社会保険労務士は、厚生労働省の管轄の下、「労働社会保険諸法令等」の専門分野に関する国家試験を経て、国家資格者として、その知見を活かし専門分野の業務を行っており、社会保険労務士の存在は、年金記録問題解決への対応等で国民の支持を得ている。
全国社会保険労務士会連合会としては、歳入庁が設置されても、社会保険労務士の業務範囲については、何らの変化を生じるものではなく、今後も専門性を高め、業務を通じて、国民生活の向上に貢献していくべきであると考えている。

とあり、現状の複雑な労働保険・社会保険・年金関係の諸法令について、社会保険労務士以外の士業の方が十分な知識を持たず業務を行うことはあり得ない(年金問題の二の舞の様にならないとも限らない)と思いますし、社労士もそのことをよく念頭に置いて、知識の研鑽、経験の蓄積を怠らず適正な業務を遂行していく必要があると思います。

社会保険労務士の業務は本当に近年幅広く広がりを見せていますが、やはりその根本は労働・社会保険諸法令の体系的な知識を学び難関試験を合格して得た資格であるということを忘れずにいなければいけないと思います。それが社会保険労務士の業務の神髄、そこは他の士業には踏み込めない領域になるべくプロとして自覚すべきところと考えます。

仕事の世界はスピードが速いです。私は多少拙速であってもスピード感を持ってやっていきたいと思っています。