OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

会社が設置しなければならない「相談窓口」

2021-12-27 00:01:09 | 労働法

労働法において事業主に「相談窓口」を設置を義務付けている規定は多いです。相談窓口と一言でいっても内容は何でも受け付けるようにといっているわけではありません。代表的なものを思いつくまま簡単にまとめてみると以下のような感じです。

①パート有期労働法(16条)
「パー トタ イム ・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に関 し」、その雇用するパー トタ イム ・有期雇用労働者からの相談に応 じ 、適切に対応するために必要な体制を整備 しなければならない。

…ここでは「雇用管理の改善等に関する事項」としています。なお、パート・有期労働法では有期契約での労働契約締結時や更新時に労基法で定める労働条件の絶対的明示事項に加えて特定事項として「昇給の有無・退職手当の有無・賞与の有無と『相談窓口』」を明示するように定められています。

②労働施策総合推進法(30条の2・指針)
「職場において⾏われる優越的な関係を背景とした⾔動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの(いわゆるパワハラ)」に対する相談窓口設置義務

③男女雇用機会均等法(11条1項)
「職場において⾏われる性的な⾔動に対するもの(いわゆるセクハラハラ)」に対する相談窓口設置義務

④男女雇用機会均等法(11条の3)、育児介護休業法(25条)
「職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、産前産後の休業を請求し、又は休業をしたこと(いわゆるマタハラ)」に対する相談窓口の設置義務

…②~④については、以下の通り一元的な相談体制の整備することとされています。
・ 職場におけるパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントはそれぞれ⼜はその他のハラスメントと複合的に生じることも想定されことから、あらゆるハラスメントの相談について⼀元的に応じることのできる体制を整備すること。

⑤障害者雇用促進法(36条の4)
「障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となつている事情を改善するため」に対する相談窓口の設置義務

⑥36協定で定める労働時間の延長及び休日労働について留意すべき事項等に関する指針(8条)
「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置について、次に掲げるもののうちから協定することが望ましいことに留意しなければならない。 (7号)心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。」…特別条項を採用する際の選択肢の一つ。

相談窓口の設置義務はさらに増える予定であり、相談にのれる人材育成にも企業は力を入れる必要がありそうです。

クリスマスも終わり、OURSも年内の出勤はあと2日となりました。今年もコロナの感染拡大が収まらなかったため、特に前半は在宅勤務も多く、お蔭さまでだいぶ働き方改革も定着した感がある1年になりました。ここ1、2年で採用したメンバーもだんだん事務所で役割を持ち活躍を始めており、事務所に安定感が出てきたと感じます。来年はさらにデジタル化の急速な進行に合わせて業務も変化していくと思われ、ちょっとワクワクしています。新たな取り組みを積極的に行いつつ、顧問先企業のニーズにこたえられるよう精進したいと考えています。

いつもブログを読んでいただいている皆様に心より感謝いたしますとともに、皆様にとって来年がさらに幸せな1年になりますよう祈念いたします。本年も有難うございました。健康に留意して新たな年を元気に迎えましょう!

※来週はお正月なのでブログをお休みさせて頂きます。


社員の病後の対応について

2021-12-19 23:24:14 | 労務管理

ここのところ社員が病気になり障害が残ってしまい元の仕事につけない状況の中で仕事内容に合わせて契約を正社員から契約社員に変更することはできるのだろうかというご質問が相次ぎました。働く人の年齢が65歳からさらに70歳までと拡大していけば、今後このようなご相談は増えていくことだろうとも思います。

まずは就業規則の休職規定の休職期間の満了の扱いを確認する必要があります。休職期間満了時に復職できない場合は「退職」と決めている会社が多いのだろうと思います。従って休職ご復職ができない場合は退職頂くことになります。そのルールに則らない場合は、その後の同様の社員にも同じ扱いをしなければ公平性が保てないので、休職期間満了後の復職がかなわなかった場合の運用は慎重に行う必要があります。

元の仕事に就くのは無理なので正社員から契約社員へ区分変更をできるかというお問い合わせは多いですが、区分変更とはどのようなことをいうかと考えると、就業規則などに区分変更の条件が定められていればそのルールに則っての変更はできますが、通常は一旦退職して、身分を変更して再度契約という流れになります。休職期間満了による退職など規定された場合でなければご本人やご家族とよく相談して対応を決めることになります。元の職務に就くことはできないが、子会社でなら働ける場がありそうである、ということであればいったん退職して子会社で採用する、という方法は検討の余地ありと思います。障害手帳を持つような場合は特例子会社への採用ということも考えられます。

元の仕事をできないとしても、仕事を変更すれば復職が可能であるという場合は退職はせず「治療と仕事の両立支援」をして、仕事を継続してもらいます。これは今後企業に課せられた課題だと思います。幸い在宅勤務が当たり前になった今は、在宅勤務中心で仕事をするということも可能だ思いますし、厚生労働省等から色々なパンフレットが出ていますので参考にして、企業側でそれぞれに合わせた配慮をしていくことになると思います。

愛知県労働局の出しているパンフレットはわかりやすく、P6両立支援に関する制度・体制等の整備を見ると企業がとるべき体制等が簡潔にまとめられていると思います。また厚生労働省のパンフにある様式例集や留意事項も参考になります。

 

「治療と仕事の両立支援取り組み事例集」(愛知県労働局労働福祉課)
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/334433.pdf

「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000780068.pdf

今日は母の91歳の誕生日であったので、昨年コロナで実現しなかった卒寿のお祝いの食事会をしました。3世代集まりささやかなお祝いになりましたが、お祝いができて肩の荷が下りました。友人のご両親は100歳という例も珍しくない(むしろかなり多い)時代になりましたので、まだまだ元気にしていてもらいたいものだと思います。


清算期間が3か月のフレックスタイム制

2021-12-13 02:07:10 | 労働基準法

清算期間の上限が3か月に延長されたのは2019年4月のことですが、これまであまり導入されたことはありませんでした。制度創設の経緯としては、子供がいる場合の8月の夏休み中はできるだけ労働時間を抑え、その分6月の忙しい時期に働くなどができるということでした。

ポイントとしては清算期間が1か月を超える場合でも、忙しい月にあまりに偏った労働時間にならないように、清算期間の全体(例えば3か月)の労働時間が、週平均40時間を超えないことだけではなく、「1か月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと」という条件があり、50時間を超えると時間外労働としてその月に時間外労働の割増賃金を支払うことになることです。3か月単位といっても、1か月ごとに一応管理しなければならないということが少しネックになっているかなと感じていました。

しかし今回フレックスタイム制を導入するにあたり、どうしても年間の繁閑がかなりあり、3か月の清算期間のフレックスでなければならないケースが発生しました。いざ導入してみると思いがけないところでご質問が来るのでこれは非常に勉強になりました。どのような質問かというと、育児短時間勤務をとっている場合の給与の計算方法として、フレックスを導入する前は勤務を短縮した分月給から控除していたということなのです。しかし3か月の清算期間のフレックスであると3か月目に清算することになり、1か月目と2か月目はそのまま満額の月給が支払われ3か月目に一挙に短縮分が減額されほとんど支給額がなくなってしまうということなのです。

この場合全額払いの原則などに抵触しないか監督署に聞いてみたところ、3か月目の賃金額が極端に少なくなることについての法律上の問題はないということでした。ただ短時間勤務の方から不満が出るかもしれませんので、対応方法としては、短時間勤務の方は3か月のフレックスタイム制の適用から外すか、又は1か月ごとにこれまでと同様に短縮時間分を控除して支払うということも可能ということでした。その場合、給与計算の手間は減りませんが、働く時間の柔軟性は保たれますのでメリットはあるということになります。

相変わらず毎日仕事が忙しく、また最近夜の食事会なども若干入るようになり、年末までこのまま駆け抜ける感じになりそうです。今年の前半は会社帰りや寝る前に本が沢山読めるくらい結構余裕があったので、ちょっとあの頃に戻りたい感じです。とはいえコロナも今のところ収まっており、経済もだいぶ戻ってきているようなので、その点は良かったと思います。早くすっきりコロナが収まって、仕事も一段落がついたら海外旅行でもしたいなあと夢見ながら頑張ります。


派遣法の労働契約申込みなし制度

2021-12-05 22:30:46 | 労働法

平成27(2015)年に施行された改正労働者派遣法の中で定められた「労働契約申込みみなし制度」については、改正当初適用された場合のために就業規則の改定作業の中で気を遣った会社もありましたが、通達の中でも「違法行為への該当について善意無過失である旨の派遣先等による抗弁が認められた場合には、労働契約の申込みをしたものとみなされないものであること。」とされたためすぐには該当はないらしいということになりました。

そもそも「労働契約申込みなし制度」とはどのような制度かというと、派遣先等が違法派遣を受けた時点で派遣先等が派遣労働者に対して、その派遣労働者を雇用している派遣元事業主との労働条件と同じ内容の労働契約を申し込んだとみなす制度です。ただし、上記に書いた通り善意無過失であれば適用がないとされています。この労働契約申込みなし制度の対象となる違法派遣の5つの類型としては、以下の通りです。
①派遣労働者を禁止業務に従事させること
②無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
③事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
④個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
⑤いわゆる偽装請負等

11月4日の産経WESTで「東リの工場で『偽装請負』認定、直接雇用認める初の判断 大阪高裁」が載りました。記事を抜粋すると以下の通りです。

「大手住宅建材メーカー「東リ」(兵庫県伊丹市)の伊丹工場で業務請負企業の従業員として働いていた男性5人が、実態は東リ側の指揮命令を受ける違法な『偽装請負』だったとして地位確認などを求めた訴訟の控訴審判決が4日、大阪高裁であった。清水響裁判長は男性らの訴えを棄却した1審神戸地裁判決を取り消し、『偽装請負の状態にあった』と認定した。判決はまた、労働者派遣法の『直接雇用の申し込みみなし規定』に基づき、東リ側と男性らの間で直接労働契約の成立を認め、賃金の支払いも命じた。弁護団によると、この規定による労働契約の成立を認める司法判断は全国で初めて。」

これをきっかけとして「労働契約申込みなし制度」を適用されるケースが出てくるかもしれません。もう一度、上記違法派遣になっていないかどうかを確認してみると良いのではないかと思います。

労働契約申込みなし制度の概要
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000099951.pdf
通達(職発0930第13号平成27.9.30)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000092369.pdf

とうとう12月に入りましたね。今年はコロナの感染拡大で昨年に引続き落ち着かなかったということもありますが、個人的になかなか上手く行かなかったり、ついてなかったりで、順調とは言えないことがあれこれあった1年でもありました。でもこういう年も大事かなと思っています。というのも順調に事が進んでいるよりも、深く深く色々なことを考えたり準備したりすることは、むしろこういう時間の方が適している環境ともいえるような気がするからです。まずは何といっても健康で、食べ物がおいしく、仕事もこなせて、日々小さなことも楽しめる幸せをかみしめて、今年あと1か月を過ごして、また新たな気持ちで次の1年を迎えたいと思います。