OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

労働生産性の国際比較

2024-04-29 22:29:35 | 労務管理

顧問先のご担当者からのご依頼で、労働生産性に関する資料を探したところ、2023年12月22日に日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2023」がとても興味深いものでした。その資料によると、2022年の日本の時間当たりの労働生産性は52.3ドル(5,099円/購買力平価(PPP)換算)OECD加盟38ヵ国中30位。日本より後順位はスロバキア、ハンガリー、韓国、ギリシャ、チリ、コスタリカ、メキシコ、コロンビアとなっており、昨年から順位を2つ下げ、データ取得可能な1970年以降最低ということです。主要先進7か国の時間当たりのグラフを見ると2018年を境に移行極端に順位が下がっていることが分かります。※OECDの2022年の円ドル換算レートは1ドル=97.57円・・・もちょっと驚きですが。

さらに1人当たりの労働生産性は85,329ドル(833万円/購買力平価(PPP)換算)、OECD加盟38か国中31位ということで、やはり主要先進7か国で最も低い水準です。日本の製造業の労働生産性は、94,155ドル(1,078円/為替レート換算)。OECD加盟主要34ヵ国中18位で、主要先進7か国で比較するとイタリアより上位につけたため6位となっています。ただこれも驚くことに、2000年にはOECD加盟主要国でトップだったが、2005・2010年に9位、2015年に17位と後退して、以降16~19位で推移しているということなのです。ここの約20年間に国際的に後れを取ってしまったことがよくわかります。

労働生産性がなぜ日本は低いのか、という点についてはネットで検索してみるといくつも分析が上がっていますが、総じて「年間労働時間の長さ」が原因の一つとしてあげられています。ドイツでは、労働者が所定労働時間内で業務を終わらせる文化が根付いているということで、日本の残業は当然という考え方とは全く異なっていることが分かります。日本の場合時間に追われず納得できるところまで仕事に取り組みたいというある意味仕事熱心な国民性があるように思います。しかし、女性も働き夫婦で家庭を支え、またプライベートを大切にするという考え方から行けば、所定労働時間内で仕事を終わらせるという習慣は大切だと感じます。これは今後変わっていく兆しはあると思いますが長年の習慣はかなり強く意識改革をしないと短期間では変わらないかもしれません。

またICT(情報通信技術)が長時間労働解消をはじめとして効率化には当然欠かせないこと、あと65歳以上の就業率が高いことにより短時間労働であるのも要因になっていると考えられるとしている分析もあります。

令和5年労働経済の分析の中で「労働生産性向上の取組み」が取り上げられていますが、1位営業力・販売力の強化、2位業務プロセスの見直しによる効率化、3位働き方改革による労働時間短縮となっています。働き方改革ということで、フレックスやテレワークを導入してある意味形から入ることはもちろん大切なのですが、並行して業務分析をすることで必要のない会議や作業をやめたり統合することや、IT化をすべての作業において推進することなど個々人の細かな業務改革が非常に重要なように感じます。

[参考] 労働生産性の国際比較2023(公益財団法人日本生産性本部)
https://www.jpc-net.jp/research/list/comparison.html

連休前半はどのように過ごされたでしょうか。私は応援している相模原ダイナボアーズ(ラグビー)の試合を見に行ったり(特に後半は盛り上がり、1部残留も決めてとても楽しかったです!)、この春引退される顧問先第1号の会社の社長ご夫妻をランチにご招待したり、衣替えのついでに着れなくなった洋服は寄付できることを聴き、またよく購入するメーカーがリサイクルで買い取りをしてくれるとのことなので服の仕分けしたり、読みたい本を3冊読み終えたりとかなり充実した連休前半でした。後半は少しのんびりしたいと思います。よって5月5日(日)のブログはお休みさせて頂きます。


子ども・子育て支援金制度の費用負担について

2024-04-22 00:02:15 | 社会保障

今話題になっている子ども政策についての財源を医療保険料に上乗せすることについて、法律等はどのようになっているのかが気になって調べてみました。そもそもこの財源を必要とする政策は、こども未来戦略の「加速化プラン~今後3年間の集中的な取組~」に盛り込まれた施策であり、これを着実に実行するための財源をどうするかというためにできたのが「子ども・子育て支援金制度の創設」ということになります。

令和5年12月22日に発表された「こども未来戦略」を見てみると、「加速化プラン」の予算規模は全体として3.6兆円程度としており、財源については国民的な理解が重要であり、徹底した歳出改革等と賃上げによって実質的な社会保険負担を軽減し、その効果の範囲内で支援金制度を構築し、実質的な負担が生じないこととする。また、消費税などこども・子育て関連予算充実のための財源確保を目的とした増税は行わない、と記載されています。確かに岸田首相の答弁も同様であり、国民一人あたりの月平均の負担額は450円(所得水準によっては1000円超え)などとも言われているので、賃上げについて大きな影響はないと思いますが、昨年経団連の会長が賃上げ分の実感が得られないことを懸念し、幅広い層に負担を求める消費税を財源とする議論が必要との見解を示しています。

元々こども未来戦略会議の元となった令和4年7月の「内閣府子ども・子育て本部」が発表した「子ども・子育て支援新制度について」を見ると、財源については「⑤ 社会全体による費用負担・ 消費税率の引き上げによる、国及び地方の恒久財源の確保を前提」とされており、それが筋だろうとは思います。消費税増税の目的を明確にして、国民全体に負担してもらうということが、少子化対策の財源としては適切であり、医療保険という社会保険の仕組みの中で決まる医療保険料に上乗せして徴収するのは筋違いと考えます。しかも法案概要では被保険者から徴収する保険料に「含める」となっており、改正条文では「一般保険料『等』額」として乗じる率は「基本保険料率と特定保険料率とを合算した率と『子ども・子育て支援率とを合算した率』」となっており一般保険料に混ぜ込んだ形については、非常に違和感があります。

以下は、子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案の概要です。

①国は、以下※1~3の必要な費用に充てるため、医療保険者から子ども・子育て支援納付金を徴収することとし、額の算定方法、徴収の方法、社会保険診療報酬支払基金による徴収事務等を定める。

※1.ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化(児童手当の拡充、妊婦のための支援給付)、2.全てのこども・子育て世帯を対象とする支援の拡充(こども誰でも通園制度)、3.共働き共育ての推進(育児時短就業給付、国民年金第1号被保険者の育児期間保険料免除)

②医療保険者が被保険者等から徴収する保険料に納付金の納付に要する費用(子ども・子育て支援金)を含めることとし、医療保険制度の取扱いを踏まえた被保険者等への賦課・徴収の方法、国民健康保険等における低所得者軽減措置等を定める。

③歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で、令和8年度から令和10年度にかけて段階的に導入し、各年度の納付金総額を定める。

●子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案の概要
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e81845c0-3359-433b-b848-edcd539066f5/cbc95edd/20240216_laws_houan_e81845c0_01_01.pdf

そろそろ連休中の過ごし方も気になってきますね。ここのところ毎年事務所メンバーの全員と面接しているのですが昨年から5月の連休中を中心に行っています。連休中は顧問先もお休みしているところが多いせいか比較的予定も入りにくくまとまった時間が取れるという理由からです。

連休前半は事務所がGREENPARTNERSとなっている相模原ダイナボアーズの最終戦に総勢20名で応援に行き、後半は衣替えや色々な整理と旅行に行く予定にしており、なかなか盛沢山の予定を立てています。

https://www.mhi.com/jp/company/sports/dynaboars/


株式報酬の社会保険料の算定対象への該当性について

2024-04-14 20:05:21 | 社会保障

顧問先企業から「株式報酬」について、社会保険の算定基礎に算入するべきか否かというお問い合わせが来ることがあるのですが、判断の根拠になる情報がなかなか見つけられずにいたところ、遅ればせながら根拠を見つけることができました。ただし、非常に難しい内容ですので、資料の抜粋によるご紹介程度にとどめさせて頂こうと思います。

また、2023年3月時点として『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』が経産省より公表され、その中に従業員に自社株報酬を付与する場合のQ&Aの追加を中心として改訂が行われています。この手引きはここまで数回改定されているため、2020年7月12日のOURSブログ「株式報酬制度のかかる社会保険料」の内容に加えて、Q13において退職時に受ける株式報酬について追加されていることにご注意ください。

第5 従業員に対する株式報酬の付与に関するQ&Aが新設されています。

Q80 従業員に向けた株式報酬の支給は労働基準法における「賃金通貨払いの原則」には抵触しませんか。

従業員向けの株式報酬では、付与される自社株式が労働基準法(以下「労基法」という。)上の「賃金」(労基法第 11 条)に該当することにより、賃金を通貨で支払うことを原則とする「賃金の通貨払いの原則」労基法第 24 条)に抵触するか否かが問題となりますが、2022年 7 月の CGS ガイドラインの改訂で、一定の要件を満たす場合は、通常、「福利厚生施設」に該当するものと解することが考えられるとするなど、一定の整理がなされています。具体的には、上記の改訂後の CGS ガイドラインの「5.5 幹部候補人材の育成・エンゲージメント向上」では、「新たな自社株式保有スキームに関する報告書」(平成 20 年 11 月 17日公表)と同様の整理がなされています。上記の平成 20 年の報告書において、企業が信託等のビークルを通じて一定の要件を満たす従業員に対して退職時に無償で自社株式を付与するスキームについての検討がなされました。この中では、実態等をみて総合的に判断されるべきではあるものの、一定の要件(以下の a.~c.の全て)を満たす場合には、労基法第 11条の「賃金」には該当せず、同法第 24 条の賃金の「通貨払いの原則」にも抵触しないものと整理できるとされています。
a. 通貨による賃金等(退職金などの支給が期待されている貨幣賃金を含む。以下同じ。)を減額することなく付加的に付与されるものであること。
b. 労働契約や就業規則において賃金等として支給されるものとされていないこと。
c. 通貨による賃金等の額を合算した水準と、スキーム導入時点の株価を比較して、労働の対償全体の中で、前者が労働者が受ける利益の主たるものであること。
なお、従来から金銭で支払っている給料の代替として付与することはできず、上乗せに伴う費用がかかる点には留意が必要です。

上記の平成 20 年の報告書は、企業がビークルを通じて退職時に自社株式を付与するものを前提としていましたが、この整理の際に検討された各要素(労働者の個人的利益に帰属するか否か等)は、ビークルの利用の有無や退職時の付与であるか否かとは無関係のものであるため、従業員に株式報酬を直接付与する場合及び在職中に付与する場合についても、同様の整理が当てはまるものと考えられます。つまり、企業が従業員に対して、直接又は信託のビークルを通じて在職中又は退職時に自社株式(譲渡制限付株式を含む)を付与するものについても、上記の a~c の要件を満たす場合には、通常、労基法第 11 条の「賃金」には該当せず、同法第 24 条の賃金の「通貨払いの原則」にも抵触しないものと整理できると考えられます。なお、ストックオプションから得られる利益については、賃金には該当しないと考えられています。

https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230331008/20230331008.pdf

上記a~cの一つでも該当する場合は賃金に該当するということになると考えられ、賃金に該当する場合もあることに注意が必要だと思います。なかなか難しい内容なので完全に未消化なのですが、今後お問い合わせがあった際はこの手引を見ながら行政に確認できるかと思います。

昨日は、女性社労士の勉強会である二土会で「ビジネスと人権」のお話をさせて頂きました。お休みの土曜日にもかかわらず、熱心に聴いて頂いて女性社労士の勉強熱心に感銘を受けました。その後事務所で次回夏のBBクラブの準備のための幹事会でしたが、コロナ禍を経て会費徴収も振込みになり、ネット等の活用によりさらなる効率化を検討することになりました。なかなか時代の変化についていっている感じで素晴らしいと思います。

また、今日はパンなどを持参して自宅近くの公園にお花見に行きました。既に桜は7割葉桜状態でしたが、気持ちの良いお天気でしたのでのんびり楽しむことができました。


構造改革の必要性

2024-04-07 14:05:54 | 雑感

色々な企業の様々な課題のご相談を受けていると「これは構造的な問題、解決するにはそこから見直さないと難しい」と感じることが多いです。コロナの期間を経て価値観が180度変わったと常日頃から感じていますが、価値観や目指すものが変わっても、「働く場」や「働くこと」についての意識が昔からの構造を引き継いでいるため軋みが生じていると思い至ります。

今メンタル疾患がとても増えており、協会けんぽの傷病手当金や労災認定のメンタル疾患の件数はどちらもいわゆる疾病を抜いて非常に増加しており、社会で早急に解決しなければならない問題になっていますが、これも働く場の構造改革=働き方の意識の改革が必要ということではないでしょうか。

例えば長時間労働は単に一企業で頑張るのでは難しいというケースが多くあります。いろいろな企業が集まり現場を形成している場合、全体が本来働く時間内に仕事を仕上げるという意識がなければ、一企業のルールを作っても意味がありません。働き方として勤務時間内に仕事を終えることがあたりまえ、残業は特別の場合ということになるような仕事量と仕事の内容の効率化と人員体制といった構造を変えていく必要があります。

また店舗をはじめとして、様々サービスを提供する仕事の場合でも、サービスが行き届きすぎ、時にはサービス過剰といっても良いものもあります。日本人の良いところでもあることはよくわかっているのですが、長年の積み上がりで行き過ぎていると感じることもあります。例えばコンビニは本当に生活に欠かせないものになりましたがSEVENイレブンができたときは確か開店時間が23時までで、それでも驚いた記憶があります。私の子供の頃はお店は夜になると閉まってしまうものでしたから。お正月も元旦からオープンすると聞いてそれまで年末年始用の食材を買い込んでいたことを辞めましたが、そこまで必要なのでしょうか。企業間の競争もあると思いますので、業界挙げての構造改革でかなりサービスのスリム化ができると思います。

女性活躍にしても、業界団体や企業の会議やパーティーに集まるのはほとんど男性で、女性はちらほらということも多いです。最近女性のトップもだいぶ出てきていますが、やはり一般的には経営層は男性という構造が組織の姿なのだなと改めて感じます。社長が女性になっても取り巻くのは圧倒的に男性なのではないでしょうか。こちらについてはランチの時間帯にちょっとしゃれたお店に入ると全員女性ということも良くあります。男性と女性では外に出ている時間帯が違うのだなと感じます。これは高度経済成長期の男女の役割分担から全く脱却していないことなのだろうと思います。そうだとするとまず106万円や130万円の壁の撤廃という社会保障制度の構造的見直しが必要だと思います。日本国民である以上成人したら男女の区別なく全員が税金と保険料を負担するという考え方が逆に一人一人の意識を変えると思いますので、まずはとにかく取り組むべきは構造改革なのだと思います。

同一労働同一賃金や60歳以上の賃金も同じように感じます。アルバイトだから、高齢だからという賃金の決め方ではなく、その人の担当する業務やスキルについて、少なくとも決定要素に入れておく必要があります。組織を区分分けして区分ごと一律の労務管理をするという手法も構造改革することにより人口減少による人手不足対策とすることができると思います。

昭和の時代の成功体験が平成になっても変わらず続いてきましたが、令和になっていよいよ構造を見直すことが必要になったと感じています。一つ一つ構造を見直していくことがこれからの日本の働き方や日本人が大事にするものに繋がっていくものと思います。

桜が咲きましたね。今日は本当に満開です。今年は入学式にタイミングがあったようでよかったです。それにしても4月1日は新卒の社会人が沢山渋谷の駅や電車にいました。みな学生っぽさを残して初々しく、明るく楽しそうでした。社会に新しい価値観を”元気に”吹き込んでもらいたいものだと思います。


仕事と介護の両立支援

2024-04-01 00:31:21 | 雑感

毎週のブログの他平日は「X(旧Twitter)」で社労士業務に関連する人事・労務管理、労働社会保険関係の情報を発信しています。こちらはOURSの若手スタッフに毎日審議会をはじめとして情報が得られるサイトをチェックしてもらってその情報をもらい内容を確認して発信することにしています。その中で先日「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドラインを公表します(2024年3月26日」という経済産業省のHP がありました。厚生労働省も「介護離職を防ぐために」などのリーフレットや動画を出しているのですが、経済産業省とは驚きました。

なぜ経済産業省なのかということがHPには次の通り書かれています。

超高齢社会の日本において、生産年齢人口の減少が続く中、仕事をしながら介護に従事する、いわゆるビジネスケアラーの数は増加傾向であり、2030年時点では約318万人に上り、経済損失額は約9兆円と試算されています。

2040年代後半には団塊ジュニア約800万人が後期高齢者になる一方で第1線で働く人数の少ない現役世代が、公私にわたり高齢者を支える構造となり、また共働き世帯の増加というライフスタイルの変化と慢性的な人材不足の中、仕事と介護をめぐる認識を今一度改める必要がある、ということで、政府は喫緊の課題と認識しているようです。

団塊ジュニア世代とは、1971(昭和46)年~1974(昭和49)年に生まれの世代ですので現在おおむね50代に入ったところでしょうか。この世代が後期高齢者になるまでにはまだ20年はありますが、日本の将来を見据えた国策は絶対必要ですので、今後どのような施策につながるのか、厚労省の審議会の状況なども気になります。

1997年に成立した介護保険法が施行(2000年)されるまでにはかなり時間がかかりなかなか受験用のテキストに載せることができなかったほど、とても難産でした。ただ介護保険があたり前のようにある現在、本当にこの制度があって助かっている人は多いと思います。認定の判断や介護保険制度の中身も精緻であり実際の運用が可能なもので本当に素晴らしい制度だと思います。

今後は育児休業は当たり前に加えて、介護休業についてどのように国がフォローしていくのか日本の将来の姿も見えてくるように思います。

https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240326003/20240326003.html

桜がとうとう咲き始めましたね。もう散っているかもと時期が少し遅れた高校時代の友人たちとの今週の集まりはむしろばっちり花見ができそうな感じです。明日から4月、新年度のスタートです。気分新たに頑張っていきましょう!