OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

役員が兼業した場合の社会保険

2015-04-26 23:25:55 | 年金

社会保険は、1日又は1週の所定労働時間及び1月の所定労働日数が「正社員の概ね3/4以上」という基準があり、一般社員が兼業していたとしても、それぞれの会社でこの社会保険の加入要件を満たすことはあまりないため、2以上の事業所に使用される者に係る届出である「所属選択届・2以上事業所勤務届」を提出することもほとんどないと言えます。

しかし役員についてはこの要件について別の判断が示されており、複数の会社の役員を兼ねている場合についてはこの届出を提出するケースが発生します。以下の昭和24年7月28日保発74号通知と日本年金機構本部から示された判断材料が基準になります。

【昭和24年7月28日保発74号通知】

法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であって、他面その法人の業務の一部を担任している者は、その限度において使用関係にある者として、健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱ってきたのであるが、今後これら法人の代表者又は業務執行者であっても法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。
なお、法人に非ざる社団又は組合の総裁、会長及び組合長等その団体の理事者の地位にある者、又は地方公共団体の業務執行者についても同様な取り扱いとされたい。

【日本年金機構本部から示された判断材料】

労務の対償として報酬を受けている法人の代表者又は役員かどうかについては、その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるかを基準として判断されたい。
(判断の材料例)
1.当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか
2.当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか
3.当該法人の役員会等に出席しているかどうか
4.当該法人の役員への連絡調整又は職員に対する指揮監督に従事しているかどうか
5.当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか
6.当該法人等より支払いを受ける報酬が、社会通念上労務の内容に相応したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか
なお、上記項目は、あくまで例として示すものであり、それぞれの事案ごとに実態を踏まえ判断されたい

要するに代表者や役員の勤務が形だけではなく実質的であれば勤務時間等にかかわらず資格取得をする必要があり、複数の企業の役員を兼務する場合は「所属選択届・2以上事業所勤務届」を提出する必要があるということになります。

なお、「所属選択届」は管轄の年金事務所が異なる場合、「2以上事業所勤務届」は同一の年金事務所の管轄である場合ということになります。

https://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=2268

今週は上記2以上勤務についてのご質問が続きました。お問い合わせ内容は不思議と同じテーマが続くものです。2以上の勤務は私の開業当初は全く話題にもなりませんでしたが、年金問題が起こってから適正に標準報酬月額を運用する必要が注目され、社会保険庁から日本年金機構に組織が代わってから細かく疑義照会などで運用が示されるようになりました。

確かに以前もご質問があったのですが、役員が複数の会社を兼務した場合でそれぞれの報酬を合算すれば上限に達するところ、1社だけの取得であれば上限に達しないということで、いざ年金を受給する段になり、「合計すればもっと報酬をもらっていたのにおかしい」ということになったケースがありました。そういうトラブルが多かったので判断材料が示されたのだと思います。

いよいよ連休に突入ですね。いま読みたい本が山積みになっているので思い切り本を読みつつのんびりしようと思っています。


子の養育特例 第2子の場合

2015-04-19 22:26:28 | 産前産後・育児・介護休業
「3歳に満たない子を養育する場合の標準報酬月額の特例」ができたのは、平成16年の改正の際でした。これは3歳未満の子を育てることにより短時間勤務等をすることで標準報酬月額が下がった場合であっても、年金額の計算においては子を育てる前の標準報酬月額を保障するという趣旨の規定です。
 
先日のBBクラブの勉強会の際に質問を受けて、条文を再度読み返してみました。質問の内容は概ね次の通りです。
 
1)第1子の養育特例を受けている期間中に第2子の養育特例を受けることになる場合、第1子の出産後短時間勤務をしていたりして標準報酬月額が下がっているため、第2子を養育することとなる前月の標準報酬月額を従前標準報酬月額とすると、第1子のときより保障される標準報酬月額が下がってしまうのではないか。
 
2)第2子を出産するとそこで第1子の養育特例は終了するので必ず第2子の養育特例の申出をし直さなければならないと言われたのだが前より厳しくなったのではないか。
 
これは平成26年4月からスタートした産前産後の保険料免除に伴う扱いの違いだろうと見当は付きました。条文を紐解くと良く考えられていたことが分かりますがあまりにマニアックになりますのでまずポイントだけ以下にあげておきます。その後に続く条文についての解説は興味のある方だけ読んで頂ければ幸いです。
 
【ポイント】(ここでは女性を前提として記しておきます)
 
1)第1子の養育特例期間中に第2子の養育特例を開始しても第1子で保障されていた標準報酬月額が適用され、保障が下がってしまうことはない。
2)第1子の養育特例期間中に第2子の産前産後の保険料免除が始まると第1子の養育特例は終了する。
3)第2子の産前産後の保険料免除期間に引き続き育児休業の保険料免除期間も養育特例は適用されず、次の養育特例は第2子の育休復帰後再度申出をすることで適用になり、第1子のときに保障されていた従前標準報酬月額が保障される。
 
昨年4月に、産前産後の保険料免除が開始すると養育特例は終了すると規定され、第2子の産休中には第1子の養育特例が適用されていない状態になりました。つまり第2子の養育開始の前月の標準報酬月額は特例の対象となっていないため低くなってしまう可能性があり、第1子の際の標準報酬月額を復活させるには第2子の養育特例の申出をしっかりする必要があり、年金事務所が前よりきちんと申し出ることを求めるようになったのではないかと思います。
 
【条文解説】
都合2回厚生労働省に問い合わせて確認してやっと紐解けたものですのでかなりマニアックです。
条文を改正前後で比べてみると厚生年金保険法第26条第1項第6号と第3項が加わっていました。この2つの条文は何を言っているかというと以下の通りです。
 
①第1項6号では、(第2子の)産前産後の保険料免除が開始すると現に受けている(第1子の)養育特例は終了すること。
 
②第3項では、該当の子(第2子)以外の子(第1子)について養育特例を受けていた場合については、産前産後の免除による(第1子の)養育特例の終了がなかったとすることができ、以前から受けていた第1子の従前標準報酬月額を保障させることができる。
 
産前産後の保険料免除が昨年スタートするまでは、第1子の養育特例期間中に第2子を出産することになった場合、第2子の育児休業が開始するまでは養育特例が終了することはありませんでした(第26条1項5号)。つまり第2子の特例開始月である「養育することとなった月」には第1子の養育特例を受けていた=第1子の特例である従前標準報酬月額が適用されていた、ということになります。第2子の養育特例においても従前標準報酬月額がそのまま使えるという状況でした。
そこで、条文の第1項(アンダーライン①)の規定により第2子の育児休業が開始した場合の従前標準報酬月額は不利にならないように第1子の従前標準報酬月額をみなす扱いができるようになっています。
 
しかし、産前産後の保険料免除が開始されたことにより、その時点で第1子の養育特例は終了することになり、第2子の「養育することとなった月」の標準報酬月額は特例を受けていない低い標準報酬月額である可能性が高いということになりました。
その場合のために第3項の、産前の保険料免除期間による養育特例終了がなかったとみなして(アンダーライン②)第1子の従前標準報酬月額の保障を第2子の養育開始時から再度受けられる、というために規定する必要があったということになります。
 
(三歳に満たない子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例)
第二十六条  三歳に満たない子を養育し、又は養育していた被保険者又は被保険者であつた者が、厚生労働省令で定めるところにより厚生労働大臣に申出(被保険者にあつては、その使用される事業所の事業主を経由して行うものとする。)をしたときは、当該子を養育することとなつた日(厚生労働省令で定める事実が生じた日にあつては、その日)の属する月から次の各号のいずれかに該当するに至つた日の翌日の属する月の前月までの各月のうち、その標準報酬月額が当該子を養育することとなつた日の属する月の前月(当該月において被保険者でない場合にあつては、当該月前一年以内における被保険者であつた月のうち直近の月。以下この条において「基準月」という。)の標準報酬月額(この項の規定により当該子以外の子に係る基準月の標準報酬月額が標準報酬月額とみなされている場合にあつては、当該みなされた基準月の標準報酬月額。以下この項において「従前標準報酬月額」という。)を下回る月(当該申出が行われた日の属する月前の月にあつては、当該申出が行われた日の属する月の前月までの二年間のうちにあるものに限る。)については、従前標準報酬月額を当該下回る月の第四十三条第一項に規定する平均標準報酬額の計算の基礎となる標準報酬月額とみなす。
 当該子が三歳に達したとき。
 第十四条各号のいずれかに該当するに至つたとき。
 当該子以外の子についてこの条の規定の適用を受ける場合における当該子以外の子を養育することとなつたときその他これに準ずる事実として厚生労働省令で定めるものが生じたとき。
 当該子が死亡したときその他当該被保険者が当該子を養育しないこととなつたとき。
 当該被保険者に係る第八十一条の二の規定の適用を受ける育児休業等を開始したとき。
 当該被保険者に係る第八十一条の二の二の規定の適用を受ける産前産後休業を開始したとき。
 前項の規定の適用による年金たる保険給付の額の改定その他前項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
 第一項第六号の規定に該当した者(同項の規定により当該子以外の子に係る基準月の標準報酬月額が基準月の標準報酬月額とみなされている場合を除く。)に対する同項の規定の適用については、同項中「この項の規定により当該子以外の子に係る基準月の標準報酬月額が標準報酬月額とみなされている場合にあつては、当該みなされた基準月の標準報酬月額」とあるのは、「第六号の規定の適用がなかつたとしたならば、この項の規定により当該子以外の子に係る基準月の標準報酬月額が標準報酬月額とみなされる場合にあつては、当該みなされることとなる基準月の標準報酬月額」とする。
 
今回のこのあまりにもしつこい追求により、2012.7.15の「子の養育特例」の内容に誤りがあることが分かりました(一部削除しました)。申し訳ありません。でもやっとスッキリしました。2週間がかりでした。

平成27年度年度更新(労務費率の改正について)

2015-04-12 21:43:05 | 労働保険

平成27年度の年度更新についてはすでに事務組合加入の企業分から事務作業を開始しています。今回は消費税が8%に上がったことに伴ういくつかの注意点があります。先日うちの事務ミーティングでも話題に出たため少し整理しておきたいと思います。以下一括有期事業の年度更新についてです。

まず「労務費率」とは何かというと、建設事業では数次の請負によって行われるのが常態であり、労働者へ支払われる賃金総額を正確に算定することが困難な場合は、請負金額に対する賃金総額の割合(労務費率※)を用いて、労災保険料を計算することができます。簡単に言えば、請負金額に対する賃金総額の割合がどのくらいの比率なのかを算出したものが労務費率だと言えます。

①平成26年4月1日から消費税率が8%となったことに伴い、建設の事業で労務費率を用いて賃金総額を算出して保険料を計算されている事業では、平成27年度労働保険年度更新(平成26年度確定・平成27年度概算)時の賃金総額の算出に当たって暫定措置が適用されます。

・・・要するに平成27年度の年度更新については請負金額を108分の105に引き直すことにより、5%時代に決定された従前の労務費率を用いる(暫定措置)ことになります。平成26年度の確定保険料算定基礎の賃金総額の計算時に用いるということは大幅な変更がない場合※はそのまま概算保険料の計算時にも同様の額を使うということになるため「平成27年度労働保険年度更新(平成26年度確定・平成27年度概算)時の賃金総額の算出に当たって暫定措置が適用」ということになるわけです。

  【賃金総額の算定に際しては、請負金額(税込)に105/108を乗じて得た額(円未満の端数は切り捨て)に旧労務費率を乗じる

  ※大幅な変更がない場合とは、賃金総額の1/2以上2倍以下の賃金見込となる場合をいいます。

②平成27年4月1日から労務費率を改定し、暫定措置が廃止されます。従って、平成27年4月1日以後に事業を開始する事業の概算・確定保険料の申告に当たっては、賃金総額の算定に際して、請負金額(税抜き)に新労務費率を乗じるということになります。

…ここで注意しなければならないのは新労務費率を乗じる場合は消費税抜きの請負金額を用いるということです。

以下リーフレットに詳しく書かれています。

〇消費税率の引上げに伴う労務費率の暫定措置について他

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000045632.pdf

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000080741.pdf#search='%E5%B9%B3%E6%88%90%EF%BC%92%EF%BC%97%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E3%80%81%E5%8A%B4%E5%8B%99%E8%B2%BB%E7%8E%87'

〇労務費率表平成27年4月1日改定

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11401000-Roudoukijunkyokuroudouhoshoubu-Rousaikanrika/0000068069.pdf 

 蛇足ではありますが、消費税を含まない請負金額を使う場合に新労務費率を使うことになるわけですが、試しに計算してみました。

既設建築物設備工事業  旧労務費率22%→新労務費率23%  例えば請負金額10,000,000円の場合、

旧労務費率計算の場合 10,800,000(消費税8%含む)×105/108=10,500,000  10,500,000×22%=2,310,000円

新労務費率計算の場合                    暫定措置なし         10,000,000×23%=2,300,000円

今後やってみたいことはいくつかあります。その中でもずっと気になっているのが合同事務所を作れないか、ということでした。昨日BBクラブの幹事会の後の飲み会でちょっとアイディアがひらめきました。開業支援やメンター制度なども今の社労士会の中ではとても必要であることを支部運営の中で実感してきましたし、もう少しそのあたりの構想を練ってみようと思っています。


10日以下の就業で介護休業給付金受給

2015-04-05 22:11:54 | 産前産後・育児・介護休業

労働政策研究・研修機構の「仕事と介護の両立に関する調査(平成27年1月23日速報)」を読む機会がありました。介護はだんだん身近に感じられる年齢になり結構真剣になります。私は時間的な面では一定の自由はありますが、職員を雇う身なれば色々と考え準備をする必要もあります。

厚生労働省の調査によれば、家族の介護等を理由に離転職する方も年間10万人に達しているとのことです(総務省 平成24年「就業構造基本調査結果」)。

そういう意味では短時間勤務は育児休業明けや病気休職明けだけではなく介護期間中の働き方としても今後増えていくことになり、短時間勤務を組み合わせながら仕事を回していく部署というものを作る、というのも一つの方法かもしれません。

前出の「仕事と介護の両立に関する調査」では、介護開始時の勤務先で介護のために1週間を超えて連続して仕事を休んだ経験がある割合は介護開始時正規雇用の15.1%。1週間を超えて休む場合も、その日数は2週間以内が最も高く75.0%と断トツです。育児介護休業法で定められている介護休業は、短時間勤務を含めて93日が上限とされているのですが、一要介護状態での休業は通算はできず一度打ち切ればそれで終了となります。あくまでそれぞれ異なる事由による病気等による介護の場合のみ通算して93日が取得できるということです。そうだとすると2週間以内で介護休業を終了した場合、あとは通常勤務に戻るということになります。しかし、大きな手術等した場合は2カ月くらいはバタバタと病院からの呼び出しやら手術に付随した処置等があるものだと思います。そうだとすると通常勤務ではかなり時間のやりくりが厳しいと思われます。

育児休業期間中に支給される「育児休業給付金」は、就業している日数が1か月ごとの各支給単位期間ごとに10日以下の就業であることを要件とします。この10日以下の就業は、10日を超える場合にあっては、就業している時間が80時間以下であることでも認めるという雇用保険法の規則の改正が平成26年10月に行われました。この80時間以下であれば育児休業中と認められるというのは使い方としては非常に有効だと言えます。15日を就業した場合でも1日5時間働いて合計75時間ということでも育児休業期間中ということで育児休業給付金が受給できます。但し、給付金の額と賃金額を合計して休業開始時賃金日額の80%を超えると給付金は減額調整されることになります。それでも(減額調整された場合でも)合計で約80%の収入が確保できるということになります。

この仕組みは「介護休業給付金」にもあります。但し今のところ「10日を超える場合にあっては、就業している時間が80時間以下であること」は認められていません。来年にはと予測される育児介護休業法の改正の際に加えてもらうとよいと思います。例えば介護休業を2週間取得したとしてもそのあとも2カ月強の間は80時間以内の勤務で働くことで介護の時間をやりくりしながら一定の収入を確保しつつ、次の体制を整えるということが可能だと思います。

先週は支部の事業も一段落して次の年度を待つばかりとなり、連続していたセミナーもなんとか無事終了したためホッと一息の1週間になりました。新年度に向けて新たな準備をしたり、書類を整理したり片付けたりと、心の洗濯も合わせてすることができたような気がします。今月は少し余裕がありそうなので、モデル就業規則のバージョンアップと簡易労務監査をメンテをしようと思います。