OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

役職定年制について

2020-10-25 23:38:09 | 労務管理

役職定年制についてのお問い合わせがあり、久しぶりに聞いた感じがしましたのでスタッフに手伝ってもらい調べてレポートを書くことにしました。そもそも役職定年制はどのようにして生まれたのかということですが、厚生労働省の平成21年の資料に次の通りあります。

「役職定年制」は、役職段階別に管理職がラインから外れて専門職などで処遇される制度であり、大手企業では1980年代以前から導入した企業もあるが、概ね1980年代から行われた55歳定年制から60歳定年制への移行に際して、主に組織の新陳代謝・活性化の維持、人件費の増加の抑制などのねらいで導入されたケースと、1990年代以降に職員構成の高齢化に伴うポスト不足の解消などのねらいから導入されたケースが多いとされている。

平成10(1998)年に60歳定年制が導入されるまでは、定年年齢が法律で定められていることはなく、依然調べた際の昭和59年の書籍では「一律定年制、男女別定年制を実施している企業について、その定年年齢を見ると、男子の場合は55歳が圧倒的に多いが、女子の場合は30歳から60歳まで相当広範囲に分布している。(萩原勝「定年制の歴史」日本労働協会・昭和59年」とあります。このおおむね55歳の定年年齢が60歳義務化となった際に、賃金を55歳のピークのまま5年間の勤続年数を延長するには賃金原資の問題、若手との新陳代謝の問題などがあり、役職定年制を設けるところが多かったということなのです。

導入割合としては、上記厚労省資料からは、企業規模が大きいほど導入している企業の比率が高く、500人以上の企業では、4割弱の企業が導入している。役職定年制の実施企業は、近年減少傾向にあり、1000人以上の企業では、平成11年から平成19年までの間に10%ポイント以上減少している。(参考:中央労働委員会調査)また、人事院が実施した平成19年民間企業の勤務条件制度等調査結果によれば、役職定年制を導入している企業割合は23.8%であり、これを企業規模別にみると、500人以上では、36.6%、100~499人では、25.5%、50~99人では17.1%となっており、企業規模が大きいほど導入比率が高くなっている、ということです。数字的にはやや現在より多いようには感じますがそれほど少ないわけでもないらしいということがわかります。なお厚生労働省の「賃金事情等総合調査」では平成21年を最後に役職定年制の言葉は出てこなくなり、以後は選択定年制などの調査に代わってしまっています。

役職定年制の一番気になる点は賃金の減額を伴うか、また減額するとしたらどの程度の減額なのかということなのですが、上記人事院の調査では、給与の減額、廃止の実態として、課長級の役職定年後の年収水準は、役職定年前と比べて「下がる」とする企業の割合は82.5%であり、「変わらない」とする企業の割合は8.8%となっている。また、課長級の年収水準が下がるとする企業の年収水準は「約75~99%」が最も高く78.2%、次いで「約50~74%」が20.4%となっている。なお、課長級の役職定年年齢は「55歳」とする企業の割合が最も高い(45.3%)が、55歳時点の年収水準は、「変わらない」が8.5%で、「下がる」が91.5%、下がる比率は「約75~99%」が83.4%となっている、ということで約25%が減額の一般的な数字と考えられます。55歳以降は「変わらない」が「57歳」から「59歳」までは1ポイントから約10ポイント上がり、「下がる」が1ポイントないし約10ポイント下がる状況となっている、ということで制度により55歳以降の賃金も多少変動しているようです。

レポートを書くにあたり読んだ本には、人生3回の定年(役職定年、60歳の定年、65歳の再雇用上限)があり、60歳や65歳でショックを受けるのであれば、役職定年で心の準備をして55歳から65歳までの10年間勉強でも副業でも何か取り組むことを勧めるということが書かれており、兼業・副業の世の中になりつつある現代には、ある意味合っている制度のような気がしてきました。

21日から23日まで全国社会保険労務士会連合会のウェビナーフォーラムが行われ、22日は全体の司会を行いました。セミナー講師はTACの講師時代から流石に数を数えきれないくらいこなしてきましたので慣れ親しんでいるといってよいのですが、司会は初めてでかなり緊張してあれこれ考えながらでした。今回初めて気が付いたのですが、司会は単に質問を投げかけるだけではなく、うまく登壇者の言いたいことを引き出さなければならないこと、自分の感想的なことも話しつつ次のテーマにもっていかなければならないこと、自分の考えを述べすぎず登壇者にスポットライトが当たるようにしなければならないこと、あと時間を見て話をまとめる方向にもっていかなければならないことなど、やりながらいろいろなことに気が付きとても良い経験になりました。実際は座談会では話があちこちとんだ感じになったかと思いますが、登壇者社労士お二人の片岡さんが理論、岡本さんが実践とバランスが良くいろいろなお話が聞けたような気がします。13時50分から17時30分まで何とかやり切り、終了後ゲスト、登壇者、事務局、収録を担当頂いた会社の担当者の皆さんと拍手したときはジーンと来ました。11月の下旬くらいからYouTubeで見れるようですので反省を込めて観てみたいと思っています。

  


高年齢者の就労意欲

2020-10-18 22:59:22 | 雑感

昨日は、女性社労士の勉強会である二土会でお話しさせていただきました。テーマは「65歳超雇用を展望した働き方の動向について」ということで、近年の高年齢者を取り巻く法改正を中心に、今後の動向も含めて取り上げてみました。準備の段階で高年齢者の就労状況などあれこれ調べたのですが、驚いたのが高年齢者の就労意欲です。令和2年版高齢社会白書によると、以下の通り。

・現在仕事をしている60歳以上の者の約4割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答している。70歳くらいまでもしくはそれ以上との回答と合計すれば、約9割が高齢期にも高い就業意欲を持っている様子がうかがえる。

また、同白書の記載で、もっと驚いたのが65歳以上の起業者の割合が上昇しているということです。

・継続就業期間5年未満の起業者の年齢別構成の推移を見ると、65歳以上の起業者の割合は平成19(2007)年に8.4%であったが、平成29(2017)年は11.6%に上昇した。また、男女別に65歳以上の起業者の割合を見ると、男性は平 成19(2007) 年8.9%、 平 成24(2012) 年11.8%、平成29(2017)年13.2%と上昇しているが、女性は平成19(2007)年6.8%、平成24(2012)年8.6%、平成29(2017)年7.2%となっている、とあり特に男性の順調な上昇は平均寿命との延びと連動しているような気がします。

ただ気になるのがデジタル化が進んでいく中で、高年齢者がそのスピードについていけるかという点で、これはある程度以上の年齢層には多かれ少なかれあるのだと思います。社労士の仕事もセミナーも会議も100%近くオンラインとなると、苦手などといっている場合でもありません。とにかく触れることと思いますが、面白いと思う気持ちも大事なような気がします。

法改正で、2021年4月施行の高年齢者就業確保措置(努力義務)や、高年齢被保険者の特例(複数事業者の雇用保険の取扱い)、在職老齢年金の退職時改定だけでなく1年ごとの改定など、働く高年齢者への施策が各法律で充実してきたと思いますが、ポイントは時間や期間を細切れに働くことのような気がします。同白書では、「仕事につくつもりはない」と答えた人に、その理由を聞いたところ、男性の 60~64歳層を除き、男女とも年齢が高いほど、「体力的に働くのはきついから」とする割合が高くなる傾向がある、ということです。体力に合わせて細切れに働くことができることが、社会とのつながりを保ち、生き生きと暮らしていける方法なのかなと思います。

企業も職種によっては70代に第2の定年年齢を設定している場合もあります。70歳までの就労確保措置は努力義務ながら来年春施行され、高年齢者就労確保措置には、定年延長・継続雇用制度の導入・定年廃止の3施策の他業務委託契約や企業が行う等の社会貢献活動へ従事してもらう(ともに金銭の支払いが必要)というメニューも設けられることになっており、70代の就労も珍しくないことになると思われます。今後企業価値は社会貢献の考え方なしには測れないことにもなると思われ、どのような仕事や働く場をデザインして高年齢者に提供できるかは少しずつ準備する必要があります。

最高裁の判決がいくつか出て、これまで同一労働同一賃金対応の中で決めようのなかった部分がある程度示された形です。まだこれからセミナーを視聴したり、もう少し判決文を読み込んで自分なりに咀嚼したいと思いますのでコメントは差し控えますが、顧問先様をはじめとして今年の春前様々なアドバイスをさせて頂いた方向性は誤りがなかったと、少し安心しました。

テレビで「ぽつんと一軒家」を楽しみに観てます。どの家も大きくて、そこに一人で住んでおられることが多く、自給自足のように畑で野菜等を作られているのですが、なぜかいつも心が豊かになった気持ちになります。やはり人間て良いものですね。


高度プロフェッショナル制度と企画業務型裁量労働制

2020-10-11 22:08:50 | 労務管理

今検討している案件で、高度プロフェッショナル制度を導入してもよいと考えられるものがあり、同時に裁量も大きいと思われるため企画業務型裁量労働制にも該当する可能性もあり、それぞれの要件をポイントだけ比較してみました。

労使委員会の設置はともに導入要件なのですが、決議事項は多少異なります。主に異なる点は対象業務、対象労働者の範囲、労働時間の考え方です。

1)対象業務

高度プロフェッショナル制度は、対象業務は、対象業務に従事する時間に関し使用者から具体的な指示を受けて行うものは含まれない」とされ、次の通りとしています。

①金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務、②資産運用(指図を含む。以下同じ。)の業務又は有価証券の売買等のうち一定の業務、③有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務、④顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務、⑤新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務

企画業務型裁量労働制は、「事業運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、業務の性質上、これを適切に遂行するためには、その遂行方法を労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務遂行手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」とされています。

2)対象労働者

高度プロフェッショナル制度は、対象労働者の要件として「①使用者との間の合意に基づき職務が明確に定められていること、②使用者から支払われると見込まれる賃金額が1,075万円以上で、本人の同意が必要です。

企画業務型裁量労働制は、知識、経験等を有する者で、本人の同意が必要です。

3)労働時間

高度プロフェッショナル制度は、「対象労働者の健康管理時間(対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間との合計の時間)を把握する措置を使用者が実施する」としており、時間外・休日・深夜労働の割増賃金は発生しません。ただし年間104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日付与がの義務付けられています。

企画業務型裁量労働制は、労働したとみなす時間を1日単位で定めますが、みなした時間に時間外労働時間数が含まれていれば時間外の割増賃金は発生します。また休日労働・深夜労働の割増賃金も必要です。

ざくっとですが上記比較をみると、企画業務型裁量労働制は思いのほか導入しやすい感じがします。

ちなみに、高度プロフェッショナル制度の導入は、令和2年6月末日時点で16件、労働者数436人「高度プロフェッショナル制度に関する届出状況より」

企画業務型裁量労働制の導入事業所数は、調査対象となった約6,400社のうち実施しているのは0.6%「平成31年就労条件総合調査より」

ともに極端に少ないです。

とにかくここの所忙しく、土日に何とかじっくり取り組む仕事を片付けてやりくりするという状況で、ついデザートとコーヒーが進んでしまう状況です。

今月21日から23日までは、全国社会保険労務士会の働き方改革特別委員会でこれからの働き方をテーマの中心としてフォーラムを開催(オンライン)する予定です。私も2日目に担当することになっておりますので、よろしければご覧ください。

https://www.sr-seminar.com/forum/


在宅勤務をする場合の派遣の就業場所の巡回について

2020-10-04 21:44:47 | 労務管理

在宅勤務が広がりを見せる中で、自粛期間当初は派遣労働者には在宅勤務は無理であろうというお話もありましたが、その後派遣労働者についてもPCを貸与し在宅勤務を認める企業は多くなりました。そもそも派遣労働者にとって「就業場所」とはどのように派遣法で定められていたかという点からひも解いてみたいと思います。労働者派遣法では第26条(契約の内容)1項で契約において定めなければならない事項が列挙されており、2号で以下が定められています。

二 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事する事業所の名称及び所在地その他派遣就業の場所並びに組織単位(以下略)
 
さらに「労働者派遣事業関係業務取扱要領」第7 派遣先の講ずべき措置等、2 労働者派遣契約に関する措置、(2) 労働者派遣契約に定める就業条件の確保のロで就業場所の巡回として「定期的に派遣労働者の就業場所を巡回し、当該派遣労働者の就業の状況が労働者派遣契約に反していないことを確認すること。」として巡回義務が定められています。

しかし、派遣労働者が在宅勤務を行う場合にこの巡回義務はどのように対応すればよいのかという点で疑問が残ります。それについては、令和2年8月に発出された「派遣労働者に係るテレワークに関するQ&A・問2-1訪問巡回・住所の把握」で以下の通り回答しています。

 「派遣先が講ずべき措置に関する指針」においては、派遣先は定期的に派遣労働者の就業場所を巡回し、派遣労働者の就業の状況が労働者派遣契約に反していないことを確認することとされている。ただし、派遣労働者に対して自宅でテレワークを実施させるときは、就業場所は自宅となるが、派遣労働者のプライバシーにも配慮が必要であるので、例えば、電話やメール、ウェブ面談等により就業状況を確認することができる場合には派遣労働者の自宅まで巡回する必要はない
 なお、派遣労働者のテレワークが労働者派遣契約に反せず適切に実施されているかどうか、派遣労働者の就業の状況を実際に確認できることが必要であり、そのためには、例えば、①派遣先の指揮命令の方法等をあらかじめ派遣労働者と合意し、労働者派遣契約等において定めておくこと、②日々の派遣労働者の業務内容に係る報告を書面(電子メール等の電子媒体によるものを含む。)で明示的に提出させること等により確認することが考えられる。

世の中刻々と変化しています。

派遣労働者に係るテレワークに関するQ&A(令和2年8月26日)

https://www.mhlw.go.jp/content/000662802.pdf

できるだけ毎月と決めたので、時間を見つけて今日は映画鑑賞に行ってきました。「スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~」を観たのですが、素直に感動しました。やはり映画は心に響くものがあると思いました。それにしても前回はかなりかなり空席が目立った映画館が、今日は上映最終日ということだったからか、8割くらいの入りで様変わりでした。先週からGO TOトラベル、GO TOイートで街に人があふれ活気が戻ったのは嬉しいですが、外出の際は引き続きマスク・手洗い・消毒を徹底して感染予防をしていきましょう。