OURSブログ

社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

医療費自己負担割合の変遷

2018-04-22 23:41:02 | 社会保険

大正11年に健康保険法が制定されてから、健康保険も国民健康保険も医療費の自己負担割合は変化してきました。健康保険法の制定時は、本人原則負担なし(10割給付)・家族5割負担でした。国民健康保険は、昭和13年の国民健康保険法制定時は、本人・家族共に5割負担でした。国民皆保険となる昭和36年の2年後、昭和38年に本人負担が3割(家族負担は5割のまま)になりますが、健康保険のように10割給付を目指していたようです。

その後昭和43年には、国民健康保険の家族負担が3割になっています。健康保険の家族についてはこの時点ではまだ5割負担であり、昭和48年に3割負担になりました(以後高齢者については除きます)。家族の3割負担の実現は、国民健康保険の方が早かったというのは驚きです。またそれまでは健康保険も国民健康保険も療養給付期間は3年の制限があったものを、昭和48年に期間の制限を廃止しています。

その後昭和59年に健康保険法の大改正が行われ本人の1割負担(家族は昭和56年入院2割負担)に、平成9年の本人入院及び外来2割(家族は入院2割外来3割)となり、平成15年からは本人家族共に3割(義務教育就学前2割)負担になって今に至ります。この自己負担には平成9年から平成15年までの数年間ですが、薬剤の一部負担金制度があった時期もあり、その推移を追い、その時代ごとにどのように考えてきたかを理解することは時間がかかると思いますが、医療の様々な要素を検討するのであれば必要なことなのだろうと思います。

イチゴが好きなので、イチゴが出ている季節は基本的には毎日食べています。この季節くらいになるとだいぶ安くなってきており、その代わり12月のクリスマス前あたりに出てきたものほどピカピカにキレイというわけにはいきませんが、5月連休前までは食べていこうと思います。

それにしても大学の図書館は本当に便利です。学生は自宅にいながら、お目当ての本が大学のどの図書館にあるのかを検索することができ、貸出しの予約まであるのです。これにはびっくりしましたがさっそく借りてみました。上手く行くかどうかちょっと心配です。

来週は連休中のためブログはお休みさせて頂きます。連休の前半は久しぶりに小淵沢に行ってのびのびしてくる予定で、後半は今後の自分の発表の担当についての準備をしようと思っています。良い連休をお過ごしください。


定年後の労働条件

2018-04-15 23:46:14 | 労働法

定年後の労働条件をどのように提示するかというご質問はかなり多いのですが、ここのところ参考となる判決が出ています。その中で平成29年9月7日福岡高裁の判決(九州惣菜事件)を整理してみたいと思います。

この裁判は定年後の継続雇用をフルタイムで希望している社員に対して、会社が示した処遇は時給制で1日6時間勤務であったため、社員は継続雇用を拒否して退職したものの、退職後裁判に訴えたものです。主位的な訴えと予備的な訴えに分けられており、主位的な訴えとしては、「定年後も雇用契約関係が存在し黙示的合意が成立している」として労働契約上の地位確認を求めました。予備的な訴えについては、「再雇用契約の内容が著しく不合理な労働条件の提示は、再雇用を侵害する不法行為である」として、逸失利益と慰謝料等の支払いを求めています。

判決の中でまず主位的な訴えに対しては、再雇用後の会社が提示した再雇用の労働条件を社員は承諾しなかったため、再雇用の労働契約については合意が成立したものは認めることができない、としています。

しかし、予備的な訴えについては、到底受け入れがたいような労働条件の提示は、継続雇用制度の導入の趣旨に反した違法性を有する行為であり、継続雇用制度については、定年前後の労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当である、とされました。また継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるには、大幅な賃金の減少がある場合それを正当化する合理的な理由が必要である、とされています。

労働時間は定年前の月172.5時間に対して再雇用後は96時間ということで45%減となっているのに対して、賃金については月収ベースの賃金の約75パーセント減となり、短時間労働者への転換を正当化する合理的な理由があるとは認められない。また、会社が本件提案をしてそれに終始したことは、継続雇用制度の導入の趣旨に反し、裁量権を逸脱又は濫用したもので、違法性があるとされました。その上で、店舗の減少を踏まえた提案であったこと、本人が遺族厚生年金を受給しており、再雇用後は高年齢雇用継続給付も受給できる見込みであり、扶養家族もなかったことから、直ちに生活を破綻させるものではなかった等の諸事情を総合考慮すれば、慰謝料額100万円とするのが相当とされました。

「継続雇用制度については、定年前後の労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当」というのはちょっと驚きです。定年で退職金も支払われた場合、再雇用後の業務や処遇に継続性や連続性が一定程度確保されるのは実務においてはなかなか難しいケースが多いように思います。

ちなみに、高年法のQ&Aでは以下のように示されています。

 Q1-9: 本人と事業主の間で賃金と労働時間の条件が合意できず、継続雇用を拒否した場合も違反になるのですか。A1-9: 高年齢者雇用安定法が求めているのは、継続雇用制度の導入であって、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく、事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、高年齢者雇用安定法違反となるものではありません。

4月20日に長澤運輸事件、23日にハマキョウレックス事件の最高裁の弁論が開かれます。いよいよという感じです。

やっと厚手のダウンなどはクリーニングに出すことができましたが、なんだか今年は風が冷たく感じでコートが手放せない日が多いです。連休中ちょっとしたイベントがあり、〇十年ぶりに着物を着てみることにしました。これを機に新年会やお祝いの会に着物を着れるようになりたいと思うのですが、長時間「おしとやか」にしていられますかどうか。

昨日BBクラブの幹事会があり、夏の勉強会のテーマを決めました。今回は連合会の国際化推進特別委員会で親しくさせて頂いている元ILO駐日事務所次長の方に、「ILO条約と日本の労働法(仮)」を講義いただくことになりました。「労基法」がスタートではなく、そのベースにはILOの条約があることは社労士であっても意識していない場合が多いと思いますので、そういう意味では非常に良い機会になるかと思います。勉強してみると今まで見てきたものを違う側面から見れるような気がしてとても楽しいと思うこの頃です。 


高齢化のスピード

2018-04-08 21:37:59 | 社会保障

日本の高齢化については、世界に類を見ないスピードで進んでいるということは以前よりよく耳にしていたのですが、社会保障・特に医療の分野での高齢化の影響はとても大きく、沢山の問題点を抱えながら現状も進んでいます。問題点についてのとりまとめもう少し勉強してからにしますが、日本以上に高齢化のスピードが速い国があることを知りました。以下通商白書2010年版にある通り、シンガポール17年、韓国18年、タイ22年などアジアの国々で、日本以上のスピードで高齢化が進展することが予測されています。ちなみにヨーロッパ諸国では、フランスが115年、スウェーデンが85年、英国が47年ということです。

(2)早いペースで高齢化が進むアジア

各国が高齢化社会から高齢社会になるまでにかかる期間(倍化年数)

フランス 115年
スウェーデン
85年
英国 47年
日本 24年
シンガポール 16年
韓国 17年
タイ 22年
マレーシア 23年
中国 25年
東アジア全体 25年
資料:木原隆司(2008)「高齢化する東アジアの金融市場育成と社会保障整備」国連(2008)他から

 一般的に、高齢化は経済成長の制約要因として働く可能性がある。生産年齢人口比率が低下し高齢化が進展すると、労働投入量の減少、国内貯蓄率の低下を通じた投資の減少1とともに、医療費・年金負担の増加などを通じた財政や家計の圧迫をもたらすことが想定される。ただし、労働力人口が減少しても、生産性の上昇率が高ければ、経済がマイナス成長に陥ることはないと考えられる。女性・高齢者等の積極的な活用などによる労働力人口の増加とともに、教育を通じた人的資本の充実、イノベーション(新技術の取り込みと創意工夫)を通じた資本効率の改善など生産性を向上させていくことが重要である。(通商白書2010年版より抜粋)

高齢化が始まる前の昭和30年代に国民皆保険・皆年金制度という全ての国民が健康保険と年金制度に加入することを整備したことは、現在から考えると本当に素晴らしいことであり、高齢化対策と社会保障制度の整備を同時に行わなければならないアジア諸国は大きな困難に直面していると思われます。しかしそれにしても、2010年の時点での白書の記載については今の「働き方改革」の原点そのものであることに驚かせられます。いまどのような国づくりを目指すのか真剣に取り組むことは50年後の日本のために必要なのだと思います。

もう少し新しい資料とグラフはこちらよりご確認ください(平成28年版高齢社会白書)。

http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/zenbun/s1_1_5.html

最近心掛けているのは、「1時間早めに」です。単純なのですが、まず朝1時間早く起きる、1時間早く仕事を終える、1時間早く寝る。これまでとにかく時間との勝負のごとく、てきぱきとこなすことを考えてきたのですが、「もう少しゆとりをもって!」という心の声を聴いたような気がしたので、素直にそうすることにしました。1時間早く起きても、ベランダに出て花の様子を見たり、朝のテレビをぼーっと見ていたりして出かける時間はあまり変わらないのですが、顧問先へお約束の時間に向かうのも少しゆとりを持つようになったような気がします。

それにしても今年は花粉症対策に失敗しました。もう少し早めに対策しておけばよかったのかと思いますがかなり苦しんでいます。


無期転換後の処遇「別段の定め」

2018-04-01 23:15:40 | 労働法

平成25年に施行された改正労働契約法の無期転換の申込権行使がいよいよ4月から本格的に開始されます。この無期転換を規定する就業規則の改定はここ2,3年本当にたくさんご依頼を受けました。特にこの3ヶ月くらいが年度内押せ押せという感じで取り組んできたのですが、その特徴としては無期転換後も処遇(労働条件)は変えないという方針の会社さんがほとんどでした。

しかし規程の改定案を作成し打合せをしてみると、「これまで契約更新の際に時給を変えてきたし、週何日勤務するかも更新の都度本人の希望を聞きながら決めてきた。無期転換してもそれは変えられない。」というケースもかなりあるのです。改正労働契約法の第18条の定めにおいては、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件が原則とされており、その場合4日勤務の人に3日勤務にしてもらう、又は2日勤務の人が4日勤務になるなどの変更は原則に反するのかという点が問題になりました。

労契法の第18条の無期転換後の労働条件は原則同一労働条件の後に「別段の定めがある部分を除く」という規定があり、この「別段の定め」として、例えば毎年7月「時給及び勤務日数等を変更する場合がある」と規定に盛り込んでおく方法があると考えた上で行政に確認してみました。

「これまでも更新時に時給や勤務日数を変更していたため、同様に変更する場合がある」ということが、大きな意味では従前の労働条件と同一の労働条件ととらえることができるという考えについては、あらかじめその旨規程等に決めておく必要はあるとのこと。その上で、例えば勤務日数が会社側の都合で4日から3日に変更になった場合、不利益変更にあたるか否かは裁判を待つしかない、ということでした。

もし、規程には詳しく盛り込んでいない場合でも、少なくとも無期転換の際に「期間の定めのない契約」の契約書を締結し、そこで無期転換しようとする社員に文書と口頭で、「時給や勤務日数を変更する場合がある」ことを説明しておく必要があると考えます。

【参考】労働契約法

第18条 同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。

この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

今年は桜がとてもきれいだったように思います。いよいよ新たな年度が始まりますが、事務所も新たな年度に入るのを機に組織を見直してより安定した体制を作れたような気がします。私もこれまでよりマネジメントに時間をとれるように、業務をスタッフに分担してもらいました。この体制でこれまで以上に良いサービスを提供できる法人になりたいと考えています。