"リフ"というと大抵はギターリフを指す。楽曲のイメージを決定づける短いフレーズの事を指すが、短い分何度も繰り返されるし、ギターがメインな用語の為単にリズムギターの事をいう場合すらある(“リフを刻む”などと)。したがって、"キーボード・リフ"だなんていうと何だか未だに妙な違和感があるが、要は繰り返される楽曲のテーマ・フレーズである。
『リフを作るんだったら誰にも負けない』と豪語した事のあるヒカルだが、確かに彼女の書いたキーボードリフのうちには非常に秀逸なものが幾つかある。
キーボードリフ、と言った時にロックファンとしてすぐに頭に思い浮かぶ曲が2曲ある。VAN HALENの"Jump"とEUROPEの"The Final Countdown"である。多分、このバンド名にも曲名にも一切見覚えがないという人も含めて、この2つのキーボードリフを聴いた事の無い読者はここには居ないんじゃないか、と言いたくなるくらいに超有名だ。もうジョセフ・ジョースターになった気分で呟きたいよ。「次にお前は“あーこれ聴いた事ある”と言うッ」って。
ヒカルの書いたリフのうちの幾つかはその超有名な2曲に勝るとも劣らないクォリティーだ。私が思う筆頭はやはり"COLORS"である。シンプルの上にもシンプルで、誰でも鼻歌で出てきそうなフレーズだが、世のリフ・メイカーの皆さんはこのシンプル極まりなさを求めて日々苦悩しているのだ。シンプルであるが故に、コロンブスの卵の如く永遠に思い浮かばないのである。発売当時親子揃って「『前奏と間奏と後奏を聴いて下さい』」とアピールしていただけあって、とても自信があったのだろう。もう12年も前の話だが。
しかし、ヒカルの凄みはそこにとどまらない事だ。先述のJumpにしろThe Final Countdownにしろ、キーボードは思いっ切り印象に残るが、肝心のヴォーカルはあってもなくてもいいレベルである。デイヴ・リー・ロスに至っては邪魔ですらある。まぁそれくらいキーボードが強いのだから仕方がないっちゃ仕方がないのだが、“歌が聴きたい"という日本人に多いタイプには昔からあんまり評判がよろしくない。
ヒカルの"COLORS"は違う。AメロBメロサビの構成がしっかりある。正直、ここまでキーボードが突出しているのに歌単体でも楽曲として成立している例を私は他に知らない。しかもサビではちゃっかりそのメインリフが流れていて、最後のサビ前なんぞ二小節余計に歌って大見得を切ってリフ&リフレインに戻ってくるという贅沢さ。参りましたというしかない。
曲を作ってみればわかるが、ここまで存在感のあるフレーズを"後ろに従えて"ヴァース~ブリッジ~コーラスの三部構成を仕上げるのは至難の業どころか一体何がどうしたらいいのかさっぱりわからないレベルなのだ。こんな曲を新婚旅行のついでに作ってしまうとは最早何を考えているのかわからない。天才に脱帽である。
で。前々から気になってるんだけど。今回は新婚旅行したんだろうか。そして。旅先で曲作りはしなかったんだろうか。それが、"COLORS"のようなぶっとんだ名曲だったりしないのだろうか。確かに、今は音楽業界の仕事はしていないかもしれないが、アイデアは書きためてある筈である。これは宇宙に住む生命体としての義務だからヒカルもちゃんと楽想を書き留めていてくれるだろうから、今後そのアイデアをもとにして曲を作った時には「これはまたもや新婚旅行に行った時に思いついた曲でして…。」と気まずそうに語って欲しい。そして、「じゃあまた離婚してまた再婚してまたまた新婚旅行に行ったらまたまた名曲が出来上がるじゃあないか、うわっはっは!」と酷い冗談を飛ばすおっさんを蛆虫をみるような冷たい目つきで睨み付けてあげて欲しい。ドMな人には御褒美にしかなりませんけれでも。というのを楽しみに待ってるおっさんが今宵もお送りしましたとさ。まるー。
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