毎日日本列島各所で猛暑日(最高気温35℃以上2007年から)を記録するこの暑さ、昔のこの季節の思い出とのズレが甚だしい。同じ季節の発売だった気がしないぞ『DEEP RIVER』とか『ULTRA BLUE』とか。暑熱馴化なんて言葉、昔は知らなかったわ。
そんな猛暑日設定のないような昔から真夏を忌避していたヒカルさんが昨年は真夏丸ごとツアーするんだから、長生きはするものだわね。
そんなエアコンラブな(?)ヒカルさんなので、季節感が楽曲に直接出ることは少ないのだが、いつのまにかちょくちょく顔を出してたりはする。代表的なのは『気分じゃないの(Not In The Mood)』で、あの歌の『Rain rain go away』『雨、雨、どっか行け』という歌詞は、イギリスロンドンの曇天模様と寒々しい冬の雨降りの感触無くしては生まれなかった気がする。「雨の憂鬱さ」が日本のそれとは異質な気がするのよね。『HEART STATION』の『肌寒い雨の日』とは違うというか。と言いつつ同曲がどの国を想定してるのかインタビューとかで聞けたことはないとは思うけど。
『Mine or Yours』も、正調宇多田ヒカルというか、どの季節にも流せる曲調ではあるのだが、しかし一節、
『冷めたら温め直せばいい』
だけは、「秋冬向けの曲だなぁ」と思わずにはいられない。まぁそもそも、コーヒーと緑茶をお湯から淹れてそうではあるのだけど、一応アイスコーヒーとかはあるからね。それをこの一節が持っていっちゃうとこある。ただ次の、
『不安材料も味付け次第』
という小粋な一節が「あクマでこれはキッチンレシピの話だよ」と後方から印象修正をかけてくれるところは流石というかなんというか。
比喩が重なり合ってるな。『冷めたら』というのは元々は「人間関係が冷え切ったら」という意味だろう。それで諦めちゃわずに関係修復に取り組もうよというのが『温め直せばいい』。「旧交を温める」という表現があるように、人間関係が修復されることもまた温度が上がる事で表現される。うまくまとめたものだな。
なので、この歌のコーヒーと緑茶はどうしたってホットコーヒーと熱い緑茶ということにはなるので、もうどこのお店に行っても出されるお茶が冷えてるこの季節ではアウト・オブ・シーズンになりつつあるのだけど、サウンドの醸し出すほんのりとした暖かさが上品な為、歌詞に気を取られず音だけ流してる分には結構この暑さの中で涼しげに響いてくれる。歌詞を二行でバランスを取り、更にサウンドのまとめ方も工夫してアウト・オブ・シーズンになりかけるところをオール・シーズンズOKな楽曲として仕上げてるところ、やっぱりヒカルの曲は季節を問わないという認識のままで何の問題もなかったなと再確認できましたわよ。ですからこれからの季節も愛聴させてうただきますわね。…今回は、それを言いたいが為の長々とした言い訳でございましたとさ⭐︎