無意識日記
宇多田光 word:i_
 



ここから『Laughter in the Dark Tour 2018』横浜アリーナ公演2日目後半について語っていく訳なんだが。率直に言って……

……要る?

と、いう心境なのだ今。ここまで散々後半が凄い後半が凄いと連呼し続けてきただけに自分も何か書かなくちゃとは思うんだが、様々な“話題”を提供してくれた前半+幕間と違って、後半は何の衒いも捻りも無いまさに歌一本で勝負の時間なのだ。もう「聴けばわかるじゃん。何ヶ月か待てばテレビ放映も円盤発売もあるよ。」と言って終わらせるのが最良だと思うのよ。何を書いてもあの興奮を伝えられる感じがしなくて。レポートできそるのは、着替えてきた死神博士みたいな白と黒の衣装がやたらエロかったなぁ、ということくらい。他はもうただただ「歌がよかった。」に尽きる。ホント尽きる。

でも流石にここまで引っ張ってきてなぁんにも書かないのは自分としても収まりがよくないのでな。だけど、何が言いたいかといえば、つまり、その、なんだ(笑)、面白く書ける自信がないからその点は予め了承しといて、ってことよ! 昔と違って今は幾らでもスマホ撮影動画で歌の出来がチェックできるんだから、わざわざ私が何を書いても蛇足にしかならんのだよねぇ、、、。(しつこい)


と、しこたま予防線を張ったとこで、続きはまた来週!(笑)


─『Laughter in the Dark Tour 2018』も残り埼玉2公演&幕張2公演の計4公演。ヒカルには是非体調に気をつけて頑張って欲しいです。

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とある演出。それは突如横浜アリーナのど真ん中にセンターステージが現れた事だった。そんなとこにそんなスペースあったっけ!?

又吉直樹のショートフィルムが終わってすぐだ。間髪入れずにそれは起こった。自分はステージ向かって左手、それもスタンド席のかなり前方だったからセンターステージは右手後方で、ヒカルが現れたのに気づいたのは若干遅かった。有り得ないような響めきが自分の右側後ろから聞こえてきて「一体何があったんだ!?」と振り向いた時にはもう新しい衣装に身を包んだヒカルの背中があった。…背中!?

位置関係としては、ステージ向かって左のスタンド席前方だから、正規のステージとセンターステージと丁度正三角形を描く位置に私は居たので視認できるヒカルのサイズに変化はなかったのだが、それまで会場後方でヒカルの事を小さく見守っていた皆さんたちからしたら本日いちばんのサプライズだったに違いない。遠くに居たヒカルがいきなり目の前に現れたのだから。地鳴りのような響めきもさもありなんの演出だった。


よく考えられていたねぇ。15分のショートフィルム。皆すっかり前方舞台上のスクリーンに釘付けだった。ヒカルが着替えて移動する準備時間はたっぷりあったに違いない。そして、センターステージの出現。もともとは機材席のあった空間で、普通に調整卓が居並ぶコンサートにおいては何の変哲もない光景がそこにはあった。だからこそ油断していたのだ。ああ今回は前回の『WILD LIFE』と違ってステージは前方なんだな、センターステージではないんだなと皆自然に思っていた。だからこそ暗闇の中にヒカルの姿が浮かび上がってきた時の衝撃といったらなかった。

センターステージは非常に小さく、ヒカルがひとり上ったらそれで終わりくらいの大きさだった。バンドメンバーとストリングス隊は相変わらず会場前方のステージの上で、そこが『WILD LIFE』の時とは違う所だ。小さなステージで遮るものが何も無くヒカルの姿だけがある。照明が暗く落とされていた事も相俟って、まるでヒカルが暗闇の中にひとりだけ浮いて立っているかのような、宇宙の中に宇多田ヒカルだけが居てそこから歌が生まれてきているようなそんな少し不思議なSFファンタジー的な感慨すら感じられた。余りに、余りに特別な演出だった。

それはつまり、コンサートのここからヒカルが何にも守られることなく飾られることなく歌一本で勝負する決意の表明でもあったのだ。そうして披露された歌声は、この劇的な演出すら霞む程の強さと素晴らしさに満ち満ちたものだった…!

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『Too Proud featuring Utada Hikaru(それ本人やがな)』を境に公演は休憩に入る…かと思いきや、ここで又吉直樹作・演出・出演によるショートフィルムが舞台上で放映され始める。『ヒカルの5』では『サングラス』の収録映像が流された事もあったし『Utada United 2006』では詩と映像の融合に挑戦したりと幕間にスクリーンを使う事は珍しくなかったが、如何にテレビ番組で共演していたとはいえいきなり今まで1度も共演していないアーティストに幕間の15分を任せるなんて思い切った事をしてくるものだ、とまず思った。

果たしてその内容はというと、箸休めとかトイレタイムには成り得ない非常に充実した内容で、「これだったら1度又吉直樹の作品を読んでみてもいいかな」とまで思わせるものだった。まだ読んでないけどなっ。

このショートフィルム、非常に示唆と含蓄に富んでいてこれについて語り始めると多分一向にライブ後半の話に進めないので、コンサートの構成に多大な影響を及ぼした一点についてのみここでは触れておきたい。

ここでの一点というのは、そう、コンサートの後半でどの曲が演奏されてどの曲が演奏されないかをこのショートフィルムが幕間のこのタイミングで盛大に曝露してしまった点である。そんなのアリなのかよ。初めて見たわこんなん。

どういうことかというと、その幕間にスクリーンで上映される映像の中でアルバム『初恋』収録曲をBGMとして使いまくったのである。

これ、リアルタイムではまだ『初恋』から披露されたのは『あなた』だけだったので、それの意味するところは!─そう、“BGMで使用された楽曲はこのあと歌われない”事がこの時点でわかってしまったのだった。

この時の複雑な心境は忘れられない。コンサートの途中でセットリストのネタバレを公式サイドから喰らったのである。何とも言えない気分だが、逆から考えると、アンコールまで「まだあの歌を歌っていないではないか!」と期待を引き摺った揚げ句結局歌ってくれなかったと落胆するよりこうやって早々に見切りを付けさせてくれた方が親切だった、という風にも言えるかもしれない。ここは意見が分かれるところだろうが、私の場合ショートフィルムを見終える頃には「あの曲もあの曲も歌わないと知れてスッキリしたかも。逆に言えば『初恋』収録曲で今BGMに使われなかったヤツは望みがあるということだな!」とポジティブに捉えられていた。ホントに不思議な事をするものですね。

何しろ『残り香』、『Good Night』、『夕凪』、そして『大空で抱きしめて』などなどが次々と流れてきたのである。特に『夕凪』が聞こえてきた時には「ツアータイトルをナボコフからもろたのに歌わんのかい!」と思わずツッコんでしまった(心の中で)。残念は残念だったよそりゃ。

しかし、規格外にも程があるよね。これだけあっさり新曲を消費しても後半の内容の密度は全く落ちなかったのだから。まさにこのショートフィルムのBGMの贅沢さはヒカルのセットリストに対する絶対的な自信の顕れだったといえる。事実、後半は本当に本当に凄まじかった。『Laughter in the Dark Tour 2018』公演第2部はショートフィルムが終わると間髪入れず始まることになる。とある演出によってこの日1番の大々々歓声を巻き起こしながら!

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『ともだち』に続いたのは『Too Proud』だ。ツアー初日にリミックスがリリースされ一躍『Laughter in the Dark Tour 2018』の看板曲として注目される事になったのだから歌わない訳がない。(同じ理屈でそう思ってた他のあの曲は歌いませんでしたけどね…。)

ライブで『Too Proud』をやるとなったらやっぱり「ラップ部分をどうするか」が気に掛かる。オリジナルではイギリス人ラッパーのJevonが参加、リミックスでは中韓越の3ヶ国からゲストを招いていた。『Too Proud』はここに至って「その時々に応じたゲストを迎えてお送りする融通無碍・臨機応変な楽曲」として認知される事になったのだ。

横浜2日目では、歌の事前には引き続きフキコさんが踊る事が告げられただけで、パフォーマンスに入る前にゲストの告知はなかった。これはラップパートに入った途端にゲストが登場して会場を沸かせるのか、はたまたバンドメンバーの中にラップが堪能な人でも居るのかとノリノリになりつつも固唾を飲んで見守っていたのだが、どうにも誰もマイクをとる気配が無い。そうこうしてるうちにそのパートの時間がやってきて…なんとヒカルがそのまま歌い出した! しかも日本語で!

普通なら、スタジオバージョンでゲストを迎えていた楽曲をライブで披露するときにゲストが来ず本人がその部分をカバーしてしまったら興醒めだろう。しかし、Jevonはファンに予め認知されていたアーティストではなく、大部分の人が「誰それ?」状態で聴いていただけなので、寧ろヒカルが自らラップしてくれて嬉しかった人の方が遙かに多かったんじゃないだろうかな今回の場合は。

何といってもこれは、部分的にではあるものの「宇多田ヒカル作曲の音楽の初体験がライブコンサート」という今までにないケースだったのだ。これに興奮するなという方がおかしい。ただスタジオバージョンのJevonのパートをそのままヒカルがなぞるだけだったらここまでは興奮しなかっただろう。それはそれで別口で聴いてはみたいけどね。ツアー開始までに方々で囁かれていた「ライブで新曲初披露」への期待に、ほんのちょっとではあるものの応えてくれた訳だ。いやぁ、レアな体験をしたぜ。

楽曲のほんの一部だけでもこのレア感。完全な新曲の初披露をライブコンサートで体験したらどんな興奮が待ち受けているのやら。そんな妄想まで膨らんだ『Laughter in the Dark Tour 2018』公演の『Too Proud』でしたとさ。

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MCに続いては『ともだち』だった訳だがここでもきっちりと─サプライズとまではいかないまでも─仕掛けが施してあった。ホント毎曲何かしら工夫がしてあって飽きさせない。工夫なんて無くても飽きないけれど、あるに越した事は無いのです。

この曲が終わった後にMCで名前を紹介してくれたのだが、『ともだち』が始まるとダンサーのタカセフキコさんがサイドから登場して踊り出したのだ。ヒカルはロングドレスのままなので歌って踊るという訳ではなかったのだが、ある程度対というか呼応するようなフリを時折見せていた。操り&操られ人形みたいな関係性が舞台の上で表現されてゆく。『ともだち』という曲自体思い人に告白するかどうかという微妙な距離感を歌ったものだから、ヒカルとフキコさんの距離が近づいたり遠ざかったりすることでその揺れ具合を表現しているみたいでなかなか面白い試みだった。

しかし、いちばんのハイライトはやっぱりあの場面ですよ。

『胸の内を明かせたなら いやそれは無理』

とヒカルが歌うとこですよ。スタジオバージョンでは『いやそれは無理』の箇所を素に戻って歌うという画期的なチャレンジをしてくれて我々を驚かせてくれていたのにいざNHKで歌ったときは極々普通で若干残念だった人も多かったと思うが、この『Laughter in the Dark Tour 2018』公演ではしっかりと本来の素戻りをして『いやそれは無理』と半笑いで歌ってくれた。やった。なぜそれが出来るようになったかといえばそれはフキコさんのお手柄によるものだったのですよ。

どうなったかというと。ヒカルが『胸の内を明かせたなら』と歌うところですーっとフキコさんが急接近してきてあわやキッスかというところまで近づいたのだ! そこですかさずヒカルが自然に半笑いになって『いやそれは無理』と歌う。確かに、ステージ上でそれは無理だ! なんという力技! そしてなんという直球な方法だろう!

更に『ともだち』を歌い終わった後のMCでヒカルがフキコさんのことを『『Forevermore』のビデオの振り付けをやってくれたことが切っ掛けで。今やもう大事な友人の一人です。』なんて言うもんだからさぁ大変。『大事な友人』ってどれくらい?? もしかしてさっき『いやそれは無理』と笑ったのは
「舞台上では無理だから、また後でねっ(笑)」っていう意味だったの!? はぁぁ、妄想が捗る捗る。もともと『ともだち』はなりくんが参加してることもあって男性同士のお話なのかなと思っていたところもあったのだが、私の場合2018年11月7日を境に完全に女性同士のお話に固定されてしまいました。『ともだち』は百合の話です。嗚呼、百合厨大歓喜。

という訳で(どういう訳だよ(笑))、極々一部の界隈で大変盛り上がった『ともだち』でありましたとさ。いやはや、やってくれるよねヒカルちゃんは!

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『光』の後は一旦MCタイム。ここはちゃんとメモをとってあるから書き写しておこうか。「何かMCで面白い事を言ったのなら教えて」というリクエストもあった事だしな。


***** *****


『ありがとう!』(拍手と歓声)

『いつも、、、いつもじゃないw 昨日もここで何を話したらいいのかわかんなくなっちゃって…』

(ここでちょっと言葉に詰まって場内から「がんばれー」の声が掛かる)

『まだホント、2日目なだけなんだけど、なぜか、ここでやるのが最後だって思うと、ちょっと、なんか力が入っちゃうっていうか(笑)。』(場内拍手)

『ちょっと寂しくも感じちゃうのは、不思議なものですね。』

『昨日、東京でライブ出来てひさしぶりに友達も観に来てくれたりして。会えた人も…ホント何年も会ってなかったような人にも会えたし、こんなに沢山の人に会ったのもひさしぶりだな、ってすごく思った日でした。』

『私の、ライブ、若しくは、一緒の空間で会うのが初めてだという人は居ますか?』(会場の8割位が反応を示す)

『結構、多いね(笑)。そりゃそうだよなほとんどライブやってないから。』(この日のMCでいちばんの笑い)

『じゃあ、今手を挙げてくれたみんなに、、、はじめまして!』(拍手)

『それ以外だと、何かしら会った事があるということで、、、おひさしぶりです。』(拍手)

『ちょっとここいらで最近の曲をやりたいと思います。』


***** *****

事前にある程度考えてはいるんだろうけれど、相変わらずぎこちない、ギクシャクした、しかし17000人だかが一斉に和んでしまう、8年ぶりだろうが何だろうがいつも通りのヒカルさんのMCでしたとさ。黒のドレス姿だし昔と較べれば随分と落ち着いた口調ではありましたが。しっかりひと笑いとっていくのは流石でありました。次はこのセリフが使えないくらいのスパンでのツアーを宜しくお願いしますね☆

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『光』はアコースティックギターのカッティング気味なコードから始まった訳だが何が吃驚したってその音色の美しさな。横浜アリーナという会場のお陰かはたまた私が座った席のポジションがよかったのか(ギタリスト側だったしね)色々考えられたのだが、多分あれは本当の出音自体の美しさだろう。即ち、どの会場でもどの席でも『光』のアコースティックギターによるイントロは美しく響く、のではないだろうか。

人によるかもしれないが、『光』のアコースティックギターのフレーズは私にとってまさに「光が射してくる」ようなイメージだ。天使の梯子みたいなね。そのイメージを今までで最も強く体現したのがこの今回の『Laughter in the Dark Tour 2018』公演のギターだったと断言していいと思う。最早この曲はヒカルが歌い出す前に勝負あったという感じさえした。

勿論、と言い切れてしまうのがまた凄いんだけど、ここでもヒカルの歌唱はほぼ完璧で、どこで息継ぎすればいいんだというほど高音が連なるあのサビのメロディも一切誤魔化す事なく真正面から歌い切る。歌唱技術は年々上達するかもしれないが声域や声量といった肉体的基盤がものを言う要素は経年と共に衰えていく事を考えると、こうやって「歌手・宇多田ヒカルの全盛期の歌唱」を生で体験できるのは途轍もなく幸運であり神様に感謝しなくては明日から生きていけない程ですよ。いや、いちばん感謝しなきゃいけないのは当然歌ったヒカル自身に対してなんだけども。当たり前だ。

で。前回からの続き。今回の『光』のアレンジはストリングス成分が大幅に増強されていたが、それは『20代はイケイケ!』の『Simple And Clean』のようにフル・ストリングスで終始しっとりというのではなく、快活で若々しいオリジナルのバンド・サウンドを主軸としながらそこにカウンター・メロディやオブリガートとしてストリングスのメロディが切り込んでくる、というスタイルだった。これによりまるでヒカルが歌で弦楽器隊と会話をしているような楽しげな感覚が生まれていた。普通あそこまでオブリガートが派手だと煩わしく感じたり態とらしさが前に出て来たりするものなのだがヒカルの歌唱が余りにも完璧な為、まるで会場を覆い尽くすように主導権を握れていて全く動じる事がない。そのスケール感を見越してのストリングス成分大幅増強だったとしたらなかなかに慧眼であったといえる。冷静に考えて、今まで聴いてきたライブでの『光』の中でも最高の出来だったんじゃあないだろうか。そんなパフォーマンスをショウの中盤のいわば“いちばん中途半端な位置”で披露してしまったのだから本来なら「勿体なすぎる…」と言いたくなるところなんだが、何度も何度も繰り返してきたようにこのショウのハイライトたる後半のパートが凄すぎるのでこの采配で妥当なのである。ますます気が遠くなっていくよホントにもう…。


のちのちまた触れるだろうが、この『Laughter in the Dark Tour 2018』公演の昔の(つまり『Fantome』と『初恋』収録曲以外の)曲たちは押し並べてゆっくりめのテンポで演奏されていた印象だ。これがただの印象なのかそれとも本当にテンポが抑えめだったのかはスマホ動画が数々上がっているから各自それぞれで確認してもらうとして、このライブレポは当然私の印象を書く場所なので今の所そういう風に書いておくことにする。テンポがゆっくりなお陰でヒカルの歌声がよりじっくり堪能できた訳ですよ。ふふふ。『光』は特にそう感じられたなー。いやぁ、ライブって、本当にいいもんですね…

……って、別に終わらないぞ(笑)。まだ半分も来てないからねー。このまま次回に続きますよっと。

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『SAKURAドロップス』のキーボード・ソロ、どこまでを誰が弾いていたかは判然としないまでも、そのフレーズの切れ味は素晴らしく、基本的なアイデアはヒカルが受け持ったものだと思われる。今までピアノで弾き語り伴奏をするところまではライブで披露していたが、ソロ演奏となるとこれが初めて、でいいのかな? 『In The Flesh 2010』でバチを持ってドラムソロをしたことはあるが…まぁあれはソロとはいわんか。

ただ決まったコードを弾くことが主体の伴奏と即興を伴った独奏・独演では意味合いがかなり違う。その初めての選曲に『SAKURAドロップス』を選んだのは、前述した通り曲調がある程度内向的で、演奏しているうちに内面を曝け出してしまうソロ演奏を加えるのに相応しかったからだろう。これが『Kiss & Cry』なら遊び心溢れる、聴衆に“聴かせて楽しませる”ソロが要求されただろうから、今のヒカルの鍵盤演奏の技量では(慣れの面で)まだまだ難しかったかもしれない。心の赴くままに弾き倒してもOKな曲調でこの場に相応しい強度を持った曲、となると『SAKURAドロップス』くらいになるかな。伴奏から崩して入れるなら『WINGS』でもよかったかもだが、アリーナ向けではないからねぇ。

『Kiss & Cry』で華やいだ雰囲気を一変させて『SAKURAドロップス』のディープな世界にのめり込ませた後、再び鮮烈な音色で華やいだ空気が戻ってくる。スタジオ・バージョンとは異なる旋律ではあるが、あのアコースティック・ギターの音色で切り込んでこられたらこの曲しかない。『光』の演奏が始まった。

『ヒカルの5』ではオープニング・ナンバーとして足許のガイドランプの点滅でスタートのカウントを取って全くの暗闇の中から唐突に始まり鮮烈な印象を与えた『光』だったが、こうしてイントロを交えて始まる『光』もまた乙なもの。そして今回はストリングス・アレンジ大幅増量である。これが実に麗しい。

『光』のストリングス・アレンジというと『20代はイケイケ!』の『Simple And Clean』を思い出すのだが今回のそれはまた違っていて…って、ちょっと長くなっちゃったな。続きはまた次回から。

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『SAKURAドロップス』がその人気の割に存在感がそこまででもないのは、曲調が内向的で、各人の心の繊細な部分に触れるからだろうというのが前回の話だった。

ではそのような曲はライブの中でどのようなアプローチを取ればいいのか。『In The Flesh 2010』と『WILD LIFE』ではアレンジに変化をつけ、やや大人びて落ち着いた方へシフトさせて他のバラード群との差別化を計っていたように思うが、今回の『Laughter in the Dark Tour 2018』では原点に還るというか、それこそ眼前にあのミュージックビデオの風景が広がるかのような歌唱を披露してくれた。ただ、『COLORS』でも同様だったが、語尾の部分を空に放り投げて余韻を空中に漂わせるような事はせずに叙情を落ち着かせる方向へと旋律を選んでいたのも印象的だった。高音が出ない訳ではなく、寧ろヒカルの“趣味”がやや変わったのかもしれない。「叙情に責任を持つ」と表現すると堅苦しいが、メロディの流れが生む感情をよりコントロールしたいという風に変化している気がする。

で、だ。この歌にも確りとサプライズが仕込まれていた。完璧に近い歌唱を披露した後、ヒカルがキーボードの前に立ったのだ。宇多田ヒカルによる即興主体のキーボード・ソロ。全くそんな方法論を想定していなかったのでかなり面食らった。思わずステージ全体を双眼鏡で見渡して今それぞれのメンバーがどんな風に楽器を演奏しているか確認しようとした。残念ながら照明が暗めだった為、『SAKURAドロップス』のエンディングで奏でられたキーボード・ソロのうちヒカルが弾いたのがどの部分だったかは判然としない。ラストのラスト、昇降フレーズをループさせて終局を迎える場面では既にヒカルの手は鍵盤から離れていたようにも見えた。ここら辺の詳細もまた放送と円盤待ちです私。何しろその時ステージには鍵盤奏者が3人も居たので、誰がどの音を奏でていたのかよくわからなかったのだ。

しかし主題はそこではない。やや個人的な孤独感、内向的な叙情性をより強力に提示するには、照明の効果も借りつつ“没頭したキーボード・ソロ”を披露するのが効果的だろうと判断したそのセンスこそが光っていたのだ。言葉で何かを紡ぐよりも幻想的・幻惑的な音色で激しく速いパッセージを用いてその“内面世界観”を表現しようというアプローチ、大変興味深かった。こ、の取り組みのお陰で『SAKURAドロップス』もまた『Laughter in the Dark Tour 2018』公演の中で唯一無二の居場所を手に入れたといえる。勿論、年間6位の人気曲というのも大きいのだけれど、この曲に“新しい見せ場”を与えられたのは大きかった。次のツアーではまた更に進化した姿を見せてくれるのではないだろうか。同曲発表当時はこんな所まで連れて来てくれるとは夢にも思っていなかった。これから更に遠い境地に連れて行ってくれるに違いない。公演の中でも、非常に特別な時間を過ごす事が出来ました。

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ヒカルの曲には『First Love』を皮切りにTBSドラマの主題歌が幾つもある。近作の『初恋』や『Forevermore』もそうだが、やはりいちばん有名なのは800万ユニットを売った『Flavor Of Life』だろう。年間ダウンロード数2位など、世界規模で話題になった同曲をライブで歌わないだなんて普通のアーティストなら考えられない…のだが、普通でないヒカルは『Laughter in the Dark Tour 2018』で同曲を歌わなかった。すげーな。しかし、同じTBSドラマ主題歌である『SAKURAドロップス』は歌われたのだ。このことからもこのバラードがヒカルにとって及び聴衆にとってどれだけ重要なのかがわかるというもの。

だが、とはいえ普段そこまで大きく取り上げられる曲でもない。年間6位だから知名度も申し分ない筈なのに。多分それは、曲調によるところが大きい。

キーボードによる主旋律が、独特の寂寥感と耽美を湛えているのが、なんていうんだろう、この曲を好きなことを他者にアピールするより自分の中で噛み締めていたい人を増やすんじゃないかと。先週の「洲崎西」を聴いてたら洲崎綾が思い出したように「昔着メロが宇多田ヒカルの『SAKURAドロップス』だった」なんて話をしていた。着うた以前の着メロの時代、素朴な音色に『SAKURAドロップス』の詩的な美しさは詫び寂びを伴って旅愁の趣を誘っていた事だろう。あの時代の空気にも合っていた。そういえば昔増田ジゴロウも『SAKURAドロップス』の着メロに聴き入って番組を止めた事があったな。あまり他者にアピールしたくならなくとも、自分の中で大切にしたくなる詩情が『SAKURAドロップスにはある。それを、年月が経った今でも何も損なう事なくヒカルは表現してゆく。横浜アリーナの空気は賑々しい『Kiss & Cry』から一転して息を呑むような空気が広がっていった。つづく。

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『Hit it off like this,
 Hit it off like this, oh baby♪
 Hit it off like this,
 Hit it off like this, oh baby♪』

このキャンシーの英語リフレインがキスクラのサウンドに重なってきた時、最初「随分無理矢理だな~」と感じた。テンポはともかくコード進行が別々だし、雰囲気もややズレている。まぁでもこの人は『Hymne a l'amour~愛のアンセム~』の時もシャンソンのスタンダードにジャズのスタンダード(チック・コリアのリターン・トゥ・フォーエバーによる「スペイン」。なおこの曲のイントロはホアキン・ロドリーゴの「アランフエス協奏曲」。)をぶち込んだ“前科”があるのでこういう力業もアリなのかな、と一旦納得した。

楽曲はそのまま進み、そのキャンシーを巻き込んだまま一旦オリジナルでは最後のサビにあたる『もっと勇気出して~まあいいんじゃない kiss and cry』までを歌い切る。そこまで行ってもう一度仕切り直してから通常のキスクラに戻って3番サビ『ちょっと傷ついて~あとはしょうがない kiss and cry』『もっと勇気出して~まあいいんじゃない kiss and cry』を歌った後、あの初期宇多田ヒカル伝統の(?)長々しいアウトロに入っていく訳だがここでさっきまでのキャンシーの英語リフレインが復活したのだ。

『Hit it off like this,
 Hit it off like this, oh baby♪
 Hit it off like this,
 Hit it off like this, oh baby♪』

するとどうだろう。さっきまでの無理矢理感はどこへやら、吸い込まれるようにこのパートがキスクラのアウトロに嵌まっていくのだ。オリジナルを聴き慣れた方なら熟知していると思うが、この歌はBメロからサビの流れが結構押せ押せで、明るいとまでは言わないまでも笑顔で押し切るタイプの曲調だ。だからこそ切ない楽曲の多いヒカルのレパートリーの中では比較的ライブ向けと言われているのだが、アウトロではそこにほんのちょっと影が差す曲調に変わる。ヒカルが英語でアドリブ気味に歌詞を載せていくあのパートである。そこにキャンシーの英語リフレインがハマった。

元々キスクラのサビは明るく強い日本語の歌詞のメロディーにちょっと大人っぽく憂いを帯びた英語のメロディーが応える、という主副の構成になっていて、だからこそ『ドントウォーリーベイベー』はカタカナ(日本語扱い)なのだが、3番サビが終わった後にそのそこまで副だった英語の歌い方・メロディーが前面に押し出されたアウトロが展開される。そこに元々憂いタップリのキャンシーの英語リフレインが来るのだからそれがハマるのも無理はないのだ。─それが元々の意図だったか! そうハタと膝を打つか打たないかのタイミングでキスクラ最後の見せ場が来る。アカペラでヒカルがあの『Oh you've got me, oh you've got me got me got me on natural high ~♪』のフレーズを歌い上げ切ると場内はこの日1番の大歓声に包まれた。イントロのインパクトとこの最後のフレーズの外連味のなさがこの曲のライブ栄えの象徴で観客も大歓声を上げやすいのだが、そこに至るまでに『Can You Keep A Secret ?』という名曲をあっさり消費してしまう大胆さと度胸がこの大歓声をより大きなものにしたのは疑いがない。決して一番人気とは言えない『Kiss & Cry』にここまでの大喝采を与えたヒカルの名采配に改めて拍手を送りたい。☆パチパチパチパチ☆

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『娘さんのリストカット』だなんて大きく歌詞を変えているのに気がつかないとかどういう聴き方をしてたんだと言われそうだが、時と場合によるんだよっ。細かい歌い回しだって、場合によってはきっちり耳に留めてるよ。例えば『Kiss & Cry』でいえば『I just want you to hold me 恥をかいたってかまわない』の『hold me ~♪』のメロディーを変えて歌ってくれた所はゾクッと来たのでよくよく覚えてるんだよっ。

で。もうひとつのサプライズはその『hold me ~♪』に身悶えている時に起こったのですよ。『恥をかいたってかまわない』の次はブレイクを挟んですかさず『ちょっと傷ついて~♪』と3番のサビに突入するのがスタジオバージョンなのだが今回のライブ初披露ではここで一旦ドラムビートだけが残ったのだ。「ん? ライブならではのストレッチをしてくるのかな??」と訝ったか訝らなかったかのタイミングで、よぉく聴き慣れた、しかし『Kiss & Cry』のものではないあのフレーズが耳に飛び込んできたのだ。

『Hit it off like this,
 Hit it off like this, oh baby♪
 Hit it off like this,
 Hit it off like this, oh baby♪』

そう、『Can You Keep A Secret ?』の英語リフレインである(実際にはヒカルは歌わず、録音再生である)。これが響いてきた瞬間は正直何が起こっているのかさっぱりわかっていなかった。ついさっき『traveling』から『COLORS』に突入する時に『COLORS』がサビから始まったように、今度は『Kiss & Cry』から地続きで『Can You Keep A Secret ?』が始まるのか?或いはキスクラのリフレインでキャンシーを挟み込むようなサンドイッチ・セクションを放り込んできたのか?最初は全くわからなかった。結局「キスクラの後半にキャンシーの英語リフレインを組み込んだ」というのが真実だった訳だが、それにしても贅沢な事をするものだと思いましたよ。

だって、ねぇ? さっきまで『traveling』や『COLORS』が年間2位だか3位だかの国民的超有名曲だとか言っていたのに。よりによって“2001年年間売上堂々の第1位”である『Can You Keep A Secret ?』を他の曲とマッシュアップさせて使っちゃいます?? 消費しちゃいます?? 贅沢この上ないでしょ。普通のミュージシャンなら有り得ないよねぇ。

しかし宇多田ヒカルなら全然問題ない。他にいっくらでも名曲があるからね。確かにキャンシーがフルコーラスで聴けなかったのは残念だったけれど、キスクラのスペシャル・バージョンをライブで聴けた驚きと喜びがその残念さを遙かに上回ったのでOKだ。本当に思い切った事をしたものです。1つ間違えば総スカンを食らうところだったのにな。ヒカルの天才はそのセンスだけでなくその胆力にもあるんだなというところをまざまざと見せつけられた1曲(いや2曲か?)でしたとさ。

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なんだか響めきをもって迎えられた『Kiss & Cry』、このド派手なイントロだけでもう十分にサプライズだったのだが更なるサプライズがもう2つ待ち受けていた。

1つめは歌詞だ。2番のBメロの『お兄ちゃんのインターネット』の部分を『娘さんのリストカット』と歌い変えたのだそうだ。…のだそうだ、というのは私それ終演後に教えられましてね(^^ゞ 聴いてる時は気付いてなかったんですな。

でもこれは本当に画期的な事で。まず、即興の類ではないことは、この曲のBメロにオクターヴのバックコーラスがフィーチャーされていることからも明らかだ。今回もバックコーラスは誰かを引き連れてくることなく総てヒカルの録音で済ましていた訳だが、それ即ち事前に総てスタジオで収録しておかないといけない訳で。即興ではこれが出来ない。なお明らかにスタジオバージョンと異なるテンポで演奏されていた曲もあった事からバックコーラスの大部分は新録だったと思われる。ヒカルお疲れ。

なので『娘さんのリストカット』は確信犯だ。このフレーズ、当時の雑誌インタビューを読んだ人や『点』を読み込んでいる人なら御存知の通り「そもそものオリジナルの歌詞」であって、寧ろ『お兄ちゃんのインターネット』の方が、「リストカットは食品(日清CupNoodle)のタイアップ曲として如何なものか」と配慮されて差し替え分としてやっつけで(?)充てられたものなのだ。従って、タイアップへの配慮が比較的不要な自らの名を冠したライブコンサートではオリジナルの方の歌詞で披露するのが自然だと思ったのだろう。

「11年前の曲の歌詞の一部をなんで今更変えるのか」と思った人も中には居るかもしれない。しかし『Kiss & Cry』は今回がライブ初披露なのだ。人前で歌うのもこれで二回目。つまり考え方を変えると、仮にもし2007年や2008年にライブを行っていたとしてもその時点で『お兄ちゃんのインターネット』は『娘さんのリストカット』に差し替えられていた可能性が高いのである。たまたま『In The Flrsh 2010』や『WILD LIFE』で選曲されなかったから11年経ってしまっただけでね。元々キスクラをライブでやる時はこの歌詞にする気だったのだと解釈すれば11年越しが“単なる結果論”だと納得できるのではないだろうか。

それにしてもこんなサプライズを仕込んでいるとは公演前は夢にも思わなかったわ。これから行く人は是非キスクラの2番のBメロには注意しておいて欲しいよ。

次回は更なるもうひとつのサプライズについて、だな。

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前回の書き方だとまるで『Prisoner Of Love』の出来が大したことなかったような印象を持たれてしまうかもしれないが、勿論全くそんなことはなく、明らかに同曲史上過去最高のパフォーマンスを見せてくれたのだ。しかし、そんな風な書き方で続けていくとショウ後半を形容する言葉が見当たらなくなっていくんですよこれが。もう最近、宇多田ヒカルの凄さを表すには日本語が不足しているとしか思えなくてね。泣く泣くクール&ドライに書いてデノミネーションをしているに過ぎないのですよ今や。嗚呼、もどかしい。

で。気を取り直して。その『Prisoner Of Love』の次が『Cool & Dry』、じゃなかった(笑)、そう、『Kiss & Cry』なのだった。

この選曲にド肝を抜かれた人は多かろう。私も思わず仰け反りそうになった。まさか、まさかこの曲が生で聴ける日が来ようとは! ちょっと信じられない気持ちだったですよ。自分の生きてる間に一度あるかないか、あったとしてもそこに自分が居合わせる事が出来るだなんて虫のいい話があるかないか、、、うん、あったのだ現実に。本当に、生きてるといいことがあるもんだねぇ、、、しみじみしたぜ。

実際テレビで歌ったのすら2007年8月31日のミュージックステーションの1回こっきりで、それも寝不足で来たかなんかで散々な出来だったのだ。生は怖いね。そんなトラウマのある曲をわざわざライブコンサートで歌うとは本気で思えていなかった。他にいっくらでもライブで歌って盛り上がれる歌が目白押しであるからさ。なのに、ですよ。

兎に角この曲はイントロが派手だからあのラッパが鳴り響いた途端にそれに合わせて「な、なにぃーーぃっ!?」と叫ぶのが見事に嵌まりまして。インパクト。その点においても実にいい選曲でした。またそこから始まるドラムサウンドが如何にもアリーナ&スタジアムのロックコンサートにやって参りましたよという雰囲気なのだよそうスタジオバージョンで今まで何百回と聴きながら妄想してきた通りに! それが現実に眼前に繰り広げられているのだからその感動たるや推して知るべし、でしょ?

確かに、事前予想で自分はオープニング候補曲の一つに『Kiss & Cry』を挙げていたので歌ってくれたら嬉しいな曲ラインナップの上位に位置していたのは間違いないんだけれどもそれにしても本当に演奏してくれただなんてそりゃニヤニヤしてしまうでしょ。気持ち悪くてすいません、すいません。(2回謝った)

で、ちょっとそのイントロのドラムパターンがスタジオバージョンのそれと違ったようにも聞こえたんだけど、もしかしたら単に音のバランスが違っただけでフレーズとしては同じだったかもしれない。そこらへんは円盤や放送を待って確認しとこうかね。

で、ここからだよね。選曲で既に大喜びの聴衆を尻目に、『Kiss & Cry』をただ演奏して済ます宇多田ヒカルではなかったのですよ、ハイ。そこらへんの話からまた次回っ。

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『COLORS』からMCを差し挟んで披露されたのが『Prisoner Of Love』だ。泣く子も黙る宇多田ヒカル最初の12年の最高傑作のひとつ。このレベルの曲が「中弛み防止の中継ぎ役」の位置で使えてしまうのだから恐ろしい。オフィシャルYouTubeチャンネル開設当時は『Goodbye Happiness』『First Love』『Flavor Of Life』と並ぶ4大最多再生回数ナンバーだった。今でもその人気は根強く、確認した訳ではないが配信ユニット数では『Flavor Of Life』に次ぐ数字を出しているんじゃないの。『traveling』『COLORS』のオリコン年間2位3位といったわかりやすさには欠けるものの、それらの楽曲と同等以上の人気を誇る曲なのは間違いない。

だが、何度も繰り返してくどい話だが、聴いている最中の感覚とは違い、終わった後の感想としては後半の迫力が凄すぎて、この曲で漸くこれくらいの印象度か、という雰囲気になっている(私が)。『Fantome』『初恋』エラの楽曲はそれ程までに凄まじい。

そういう事後の感想を噛み締めると、何だか「ドラゴンボール」を思い出してしまったのだ。この漫画、戦闘力インフレーション(長編の中で登場人物が際限なく強くなっていく現象)の代表的作品なのだが、お陰で初期の頃は共に戦っていた仲間達が実際の戦闘から次々と脱落していき次第に見守り要員と化していく。なんだか、『Prisoner Of Love』くらいに超強力な楽曲で漸くこの位置を貰えるという状況がそれに似ているような気がしてね。今更ながらヒカルの“今”が途轍もないものだというのを再認識する。贅沢云々を通り越して…ホント、何なんだろうね。

パフォーマンス自体は申し分なく、ストリングスの強調されたアレンジはより『Quiet Version』に近くなった印象だが、まだまだこの曲のライブバージョンには成長の余地があると感じさせた。生での歌唱力も格段にアップしていて、10年前のテレビ披露しか知らない人は吃驚するだろう。これ単体で見た時は、嗚呼これ一曲でチケット代とっくにチャラだわ…とか痛感してたんだが。いやはや、『Laughter in the Dark Tour 2018』公演は、本当に異次元に突入してるよな。感覚が色々麻痺しているわ。

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