『Hit it off like this,
Hit it off like this, oh baby♪
Hit it off like this,
Hit it off like this, oh baby♪』
このキャンシーの英語リフレインがキスクラのサウンドに重なってきた時、最初「随分無理矢理だな~」と感じた。テンポはともかくコード進行が別々だし、雰囲気もややズレている。まぁでもこの人は『Hymne a l'amour~愛のアンセム~』の時もシャンソンのスタンダードにジャズのスタンダード(チック・コリアのリターン・トゥ・フォーエバーによる「スペイン」。なおこの曲のイントロはホアキン・ロドリーゴの「アランフエス協奏曲」。)をぶち込んだ“前科”があるのでこういう力業もアリなのかな、と一旦納得した。
楽曲はそのまま進み、そのキャンシーを巻き込んだまま一旦オリジナルでは最後のサビにあたる『もっと勇気出して~まあいいんじゃない kiss and cry』までを歌い切る。そこまで行ってもう一度仕切り直してから通常のキスクラに戻って3番サビ『ちょっと傷ついて~あとはしょうがない kiss and cry』『もっと勇気出して~まあいいんじゃない kiss and cry』を歌った後、あの初期宇多田ヒカル伝統の(?)長々しいアウトロに入っていく訳だがここでさっきまでのキャンシーの英語リフレインが復活したのだ。
『Hit it off like this,
Hit it off like this, oh baby♪
Hit it off like this,
Hit it off like this, oh baby♪』
するとどうだろう。さっきまでの無理矢理感はどこへやら、吸い込まれるようにこのパートがキスクラのアウトロに嵌まっていくのだ。オリジナルを聴き慣れた方なら熟知していると思うが、この歌はBメロからサビの流れが結構押せ押せで、明るいとまでは言わないまでも笑顔で押し切るタイプの曲調だ。だからこそ切ない楽曲の多いヒカルのレパートリーの中では比較的ライブ向けと言われているのだが、アウトロではそこにほんのちょっと影が差す曲調に変わる。ヒカルが英語でアドリブ気味に歌詞を載せていくあのパートである。そこにキャンシーの英語リフレインがハマった。
元々キスクラのサビは明るく強い日本語の歌詞のメロディーにちょっと大人っぽく憂いを帯びた英語のメロディーが応える、という主副の構成になっていて、だからこそ『ドントウォーリーベイベー』はカタカナ(日本語扱い)なのだが、3番サビが終わった後にそのそこまで副だった英語の歌い方・メロディーが前面に押し出されたアウトロが展開される。そこに元々憂いタップリのキャンシーの英語リフレインが来るのだからそれがハマるのも無理はないのだ。─それが元々の意図だったか! そうハタと膝を打つか打たないかのタイミングでキスクラ最後の見せ場が来る。アカペラでヒカルがあの『Oh you've got me, oh you've got me got me got me on natural high ~♪』のフレーズを歌い上げ切ると場内はこの日1番の大歓声に包まれた。イントロのインパクトとこの最後のフレーズの外連味のなさがこの曲のライブ栄えの象徴で観客も大歓声を上げやすいのだが、そこに至るまでに『Can You Keep A Secret ?』という名曲をあっさり消費してしまう大胆さと度胸がこの大歓声をより大きなものにしたのは疑いがない。決して一番人気とは言えない『Kiss & Cry』にここまでの大喝采を与えたヒカルの名采配に改めて拍手を送りたい。☆パチパチパチパチ☆
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