ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん55…鹿沢温泉 『休暇村鹿沢高原』の、薬膳料理と嬬恋キャベツうどん

2006年08月19日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 長野新幹線の上田駅からクルマで1時間ほど。長野県と群馬県の県境に位置する鹿沢温泉は、国民保養温泉にも指定されている由緒ある温泉である。この日宿泊する『休暇村鹿沢高原』は、温泉街からはちょっと外れた高台にある1軒宿で、広大な敷地には遊歩道やキャンプ場など様々な施設が揃った、公共の宿ながらもリゾートホテル並みの設備を誇っている。15時ごろにチェックインして旅行マスコミ関連の会議に参加して、森の中の露天風呂でひと息。現地の方々との懇親会では、標高1500メートルという高原の宿ならではの山の味覚を存分に楽しむことにしよう。

 山の湯だから山菜やキノコ、いのししといった料理を想像していたところ、卓に向かって目に入ったのは、それらに混じって置かれた大柄の造りだ。乾杯の後に、さっそく紅色が鮮やかな身に箸をのばしてまずは数切れ。トロリとよく脂がのっていて、川魚特有のくせがない濃厚な味わい、マグロやサーモンといった海の魚に匹敵する旨味と脂の強さに驚いてしまう。名前を尋ねると「ギンヒカリ」とのこと。見ての通り、体が銀色に輝くことでその名がつき、身が締まり脂の風味のよい洗練された味という。群馬県では「幻の最高級ニジマス」とまで称され、コストの上でも生産者が限られた、貴重な魚だそうである。

 取材でよくお世話になる休暇村は、料理は基本的にバイキングである。「うちの自慢のバイキングも、ぜひどうぞ」と宿の方に勧められ、懇親会用の席から宿泊客が料理をとっているコーナーと足を伸ばしてみることに。30種ほどが並ぶ中、新じゃがのサラダやタケノコ土佐煮、大和豚と水菜のサラダなど、地元嬬恋村の高原野菜を使った料理がさすがに豊富だ。そして興味深いのは、薬膳バイキングは品数が充実していること。調理長の石井氏は薬膳調理指導員の資格を持ち、いい素材を使った体にいい料理をとり揃えている。説明書きによると、里芋のクルミ味噌和えは、老化防止にいい里芋と若返りに効果があるクルミをふんだんに使っているとある。ほか山菜の五味子酢あえは順肺や五臓を養う効果が、蕗の蜂蜜煮は胃を補い気を養う効果があるとのこと。スタミナが付くのはもつ煮、杏酢鶏で、懇親会の料理も品数豊富だがいくらか頂いていこう。

 そして嬬恋特産の高原野菜といえば、筆頭に挙げられるのがキャベツだ。少し前のNHKの朝の連ドラ「ファイト」で、パノラマライン沿いに広がるキャベツ畑を覚えている方もいるのでは。嬬恋村は標高800~1400メートルの高冷地で、冷涼で昼夜の気温差が大きく、キャベツの生育に適した地という。バイキングのサラダのキャベツもシャキシャキと歯ごたえ良く、甘味もたっぷり。薬膳料理同様、体の調子を整えるビタミンCなどのビタミン類も豊富だ。宿の方によると、この時期の嬬恋地区は日中が27~8度、夜は6~7度と寒暖の差が激しく、おかげでキャベツの甘味がしっかりと出るという。キャベツの収穫期は7月で、この時期は夜中の3時ごろから収穫をはじめ、貯蔵庫にしまう終了まで昼前ぐらいまでかかるとか。道の駅ほか、街道沿いの売店ではひとつ100円ぐらい、安いときには何と50円で売っているというから、首都圏の野菜の高騰期には信じられない話である。

 産地だけに、嬬恋の高原キャベツをつかった名物料理があるかと思いきや、国道沿いの食堂やホテルのレストランでキャベツの千切り食べ放題などやっていたり、ギョーザの具用にメーカーに卸しているほか、地元で特にキャベツを使った名物料理はないという。「でも、これはうちのレストランで結構好評なんですよ」と、締めに出てきたのはキャベツの葉で何かをくるんだ料理だ。大柄なロールキャベツかな、と葉を開いてみると、中には何と、うどん。その名もそのままなこの「キャベツうどん」、嬬恋産のキャベツに加え、麺は良質の水で打った嬬恋産の手打ちうどん、さらに具は地元の山菜や大和豚と、嬬恋の味を凝縮した麺料理だ。葉からかじると瑞々しく甘く、腰のある麺と意外に相性がいい。さっぱりしていて、うどんというよりもサラダを頂いているような感じである。

 今日は本格薬膳に高原キャベツを味わって高原の湯にゆったり浸かり、明日は朝から山の斜面を歩き回って山菜取りの予定。国民保養温泉らしく、鹿沢温泉の旅は内から外から健康志向満載である。(2006年6月11日食記)

町で見つけたオモシロごはん55(番外編)…東京・1週間毎日、300円でお昼ごはんにチャレンジ!

2006年08月18日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 先週は岡山から四国の松山、四万十、高知と魚を求めてぐるりと巡り、来週は家族で修善寺に遊びに行く予定。旅費の出費がかさむ中、予想はしていたが、狭間の今週は節約生活を強いられる。それにしても、困窮しているのは昼飯代だ。今月の手持ち残金から、修善寺で余裕を持って遊べる額をキープして、1日当たり使える金額を割り出すと、お昼の予算は1食わずか300円! 都内でそんな金額で食事できるところなんてあるんだろうか、と思いながら、半ばゲーム感覚、半ば体のいいダイエットに、「デフレ飯」探しにチャレンジしてみた。

●月曜日@八丁堀
 安い昼飯といって真っ先に思い浮かぶのは、立ち食いそばだ。事務所の近くの『小諸そば』はよく使うのだが、いつもはカツ丼や親子丼のセット、かき揚げそばなど、それなりにボリュームあるものを食べている。それでもせいぜい400~600円と安さは折り紙付き。さらに店頭の品書きから「底値」のメニューを探したところ、かけ・もりが210円と、これは予算内である。
 この日は35度を超える暑さなので、「もり」でそばを頼んだところ、お兄さんはゆであがった大ザルのそばに水をぶっかけて、はかなげにひとつかみせいろにとりあげて「はい、お待ちどう」。普段お昼に1000円近くかけていることを考えれば激安だが、2、3箸たぐってつゆに漬け、ズッといくともうごちそうさまとなってしまった。大盛りは50円増しで、それでも予算内だったから悔やまれる。
 夕方までお腹がもちそうになく、結局隣のコンビニでパンをひとつ追加する。「昔ながらのコッペパン」というこの品、かつて給食で食べた懐かしいパンにあんとバターが挟んであり、量は菓子パン屈指。98円也で、この日は結局合計308円と、8円オーバーとなってしまった。

●火曜日@新橋
 京橋から、打ち合わせで永田町へ行くのだが、地下鉄代160円も惜しい。定期があるので宝町から新橋へ出て、さらに手持ちのバスカードを使って都バスで永田町へ向かうコースをとった。
 お昼は乗換の新橋で。再び立ち食いそば屋を探すが、地下街の「日本亭」ではかけが280円、地上のガード下にある「ポンヌッフ」(←フランス語で「新しい橋」の意味とか)に「富士そば」、さらに「ゆで太郎」と、目に付く店を覗いて歩いたところ、かけやもりで300円台が底値の店もあるなど、意外と相場が高めだ。大盛りにするとぷらす100円のところもあり、立ち食いだから安い、という訳でもないらしい。ここはサラリーマンの町なのに…。
 気になったのが「ポンヌッフ」で見かけたカレーで、ご飯モノで300円の値段はなかなか魅力的だ。ここで決定、入口をくぐりかけたところで遠くに見えたオレンジの看板、『吉野屋』があるではないか。このごろ牛丼再開で話題になっているが、苦境の時期を支えた豚丼が290円と予算を割っていたのを思い出す。すると「プレーンカレー」なるメニューも同じく290円とあり、さっき一瞬カレーの気分になったこともあり、これに決定。
 出てきたカレーは名の通りプレーン、つまり具が何にもない。牛丼の具や牛焼肉など、トッピングを選べる仕組みらしいが、今日のところは予算を考慮してプレーンで頂く。牛丼の具をのせると、吉野屋発祥の地である築地名物の「合いがけ」になるな、と思いつつひと口。具はないけれどルーはかなり辛目、スパイシーで、ご飯がどんどん進む。さすがご飯ものは腹にたまり、値段の割りにかなり満腹、満足できる一品だ。

●水曜日@四谷
 出がけに自宅最寄り駅前のスーパーで、調理パンのワゴンセールをやっているのを見かけ、カレーパンを半額で調達した。仕事先でバナナも1本もらったので、おかげでわずか60円なりのお昼ご飯となった。カレーパンといっても、話題の激辛唐辛子「ハバネロ」入りで、食べ始めは普通のカレーパンと同じようで何ともないのだが、途中からしびれ、というか痛みに変わってくるほど強烈。ある意味食べ応えがあるので満腹感はあるのだが、攻撃的な辛さにどうにも耐えられず、結局ペットボトルのウーロン茶を買うことに。それにしてもウーロン茶1本が、このパン2個分よりも高くつくとは。半額のパンで浮いた予算が、おかげで行って来いになってしまった。

●木曜日@三田
 慶応大学の学生街ならサラリーマンの町・新橋よりも安い飯屋があるのでは、と期待して、昼どきに慶応通りへとやってきた。以前ブログで書いた高級立ち食いそばの店も健在で、この日は通過。定食屋や昼営業の居酒屋のランチなどが豊富に目を引くが、安いといっても600~800円ぐらいはする。普段なら大喜びのお得品でも、今週の大貧民的金銭感覚からすれば、王侯貴族の食事ぐらいに思えてしまう。
 意外にチェーン・ファーストフード系の店が少なく、わずかに見かけた長崎ちゃんぽんのリンガーハットでは底値のチャンポンが380円。そんなに高かったっけ? 期待していた吉野家は見あたらず、仕方なく駅へ戻ろうとしたところ、ライバルの『松屋』があった。牛めしのほかにカレーもあり、ライバルに対抗してか値段も290円と同額だ。
 そして出されたカレーを見て感激した。量は吉野家と互角だが、ちゃんと具、しかも鶏肉入りのチキンカレー! それに味噌汁まで付いているとは。牛丼チェーンライバル対決カレー編、量では文句なしに松屋に軍配があがる。

●金曜日@八丁堀
 月曜日と同様、八丁堀でお昼となり、このあいだ食べた量が足りないそば以外に何かないか歩いてみる。「やよい亭」は、ご飯おかわり放題が魅力な定食チェーン。店頭のメニューをひととおりさがしたが、あいにく300円台でも食べられるメニューがない。八丁堀駅方面へと歩く途中には、新大橋通りにはやりの讃岐うどんも見かけた。それなら安いと思ったら、一番シンプルな「ぶっかけ」でも400円もする。本場高松なら、セルフの店だとひと玉わずか数十円のところもあるらしいが。
 八丁堀周辺はは飲食店が少ない分、テイクアウトの弁当屋を結構目にする。「オリジン弁当」、「ほっかほっか亭」など、のり弁やしゃけ弁なら200円台で買えそう。もっともこの炎天下では、公園で広げて食べると汗だくになりそうだ。
 結局、八丁堀をぐるり一周した上で、再び『小諸そば』に戻ってきてしまった。月曜のことを思い出し、予算をフルに使うベストの組み合わせを検討した結果、かけ210円+大盛り50円+生卵30円=290円。さらにとり放題のネギをこれでもか、とばかり載せ、上からは七味をたっぷりかけ、スパイシーネギ卵大盛りかけそばのできあがりである。少々お行儀が悪いが、空腹の前では遠慮も何もない(注・上の写真はこれ)。

…そんな塩梅で何とかケチケチで5日間しのいだおかげで、旅の予算に余裕ができた。来週は修善寺でのんびり夏休み、名物・十割そばが楽しみだ。とはいえ1枚1000円以上もするらしく、金銭感覚は、この1週間で養ったものをしばらく維持した方がいいかも?(2006年8月14~18日食記)

町で見つけたオモシロごはん54…横浜・ワールドポーターズ 『フェスタガーデン』の、バイキング

2006年08月17日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 夏休みもたけなわである8月中旬、仕事もほどほどに、日々家族サービスに邁進中である。この日はみなとみらいの「横浜ワールドポーターズ」に、家族揃って映画鑑賞にやってきた。演目は子どもの好み優先で、ディズニー&ピクサーの夏休み映画「カーズ」。実力ありありで天狗になっているレーシングカー君が、トラブルで田舎町に紛れ込み、最初は仲間と反発しつつ次第に友情が芽生えていく…といった、子どもに見せる分に無難なストーリーといった感じか。考えてみれば今年に入って見た映画といえば、宮崎駿モノとかドラえもんとかポケモンとか、子どもが見たいのに付き合ってばかりだ。

 そんな訳で、家族での映画鑑賞の楽しみは映画以上に、見終わってから感想をあれこれしゃべりつつうまいものを食べることにある。映画が終わると18時過ぎ、ちょうど食事時で、お盆前ということもありレストラン街は結構な賑わいである。いつも御用達のイタリアンの「To The Herbs」や、アメリカ・メキシコ料理の「LAST」に足を向けてみたものの、どっちもすでに順番待ちの列ができている。2時間の映画を見終え、お疲れモードの子どももいるし、今日はお手軽なバイキングでいこう、とやってきたのは映画館のフロアにある『フェスタガーデン』。数名並んでいたが、すぐに通されてみなとみらいの美しい夜景の見えるテーブル席に落ち着いて、まずはひと安心である。

 何度か店の前を通って気になっていたこの店、ワールドポーターズのレストランの中でも人気が高く、平日のランチでも結構行列ができていてなかなか入る機会がなかった。アルコール別でディナーではおとな2000円ほどという値段の手頃さに加え、バイキングといっても料理の種類の豊富さ、質の良さで定評がある。バイキングに手慣れた子ども達はさっそく、スパゲティやハンバーグやフライなど、好きなものをあれこれとって戻ってきた様子。自分も交代で料理をとりにいってみたところ、こうした「お子さま」メニューだけでないのがありがたい。和洋中華にイタリアン、フレンチなど、料理はおよそ40種以上。オードブルに始まり、サラダ、パスタ、ピザ、グリルにデザートまでずらりと並んでいる。思わず目移りする一方、先週は四国へ取材に出て少々食べ過ぎ、飲み過ぎてしまったのが気になるところ。今日のところはカロリー控えめでいこう、と、寄せ豆腐のサラダ、冷製水餃子、豆乳とくわいの健康オムレツなど、さっぱり系でまずは1回戦を頂く。

 ビールを頼んで、さっぱり系のオードブルで一杯やれば、結局バイキングなので調子があがってきてしまい、2回戦はビールが進むものが欲しくなる。スパイシータンドリーチキン、タラの竜田揚げ、舌平目のチーズグリルなど、せめてボリューム抑えめに魚介や鶏肉でいこうとすると、ちょうど大皿に載ったローストビーフが「焼き上がりました!」との呼び声とともに登場。焼きたてをその場でスライスして頂ける目玉料理で、みるみる行列ができていく。気になりつつも少々自粛して、一緒に運ばれてきた豚ロースの冷しゃぶをちょっと頂いて引き返す。

 自分は2皿頂いたところでかなり満腹だが、息子はまだまだお代わりを繰り返しているよう。さすが動き盛り食べ盛りで、ピザやら焼きそばやら炭水化物をどんどんいっている。何と、丼に入ったラーメンも持ってきており、バイキングにこんなものがあるとは驚きだ。コーヒーをとりにいったついでに麺のコーナーを見に行ってみると、セルフサービスでラーメンをゆでる仕組みになっている。冷蔵庫から麺を取り出し、1玉ずつ麺ザルに入れてゆでて、スープを丼によそって麺を入れ、具にワカメやコーンを入れて醤油ラーメンのできあがり。職人の手順そのままなのが何だか楽しそうで、ビシッと決める麺の湯切りも体験? できるらしい。

 席に戻って息子にラーメンをひと口分けてもらったら、シンプルな醤油味で結構いける。おいしそう、というより作ってみるのが面白そうだが、さすがにラーメン1杯は満腹でもう食べられずこれにて終了。子ども達はバイキングだから、好きなものを好きなだけ食べすっかりご満悦の様子だ。「映画面白かった」などと喜んでいるのを見ると、来月も何か見に来るかな、などと考えてしまうが、たまには大人向けの本格的なのも見たいものだ。そういえば「カーズ」の予告編でやっていたのは、ラーメンならぬ「UDON」だったな。(2006年8月12日食記)

旅で出会ったローカルごはん54…淡路島 『レストラン大公』の、淡路ビーフの石焼きすてーき定食

2006年08月16日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 休暇村南淡路主催の、淡路島視察会も2日目。朝から晴天に恵まれ、鳴門海峡の渦潮を見学する観潮船や、イギリスの田舎をイメージしたテーマパークの「イングランドの丘」など、この日は観光施設の視察予定が目白押しだ。観潮船に乗船する前には、昨晩同席した福良漁協組合長の前田さんの兄弟がやっている「前拓水産」に立ち寄って、水槽で活けのハモを見せてもらった。ハモは上品で淡泊な味である一方、危険を察知すると鋭い歯でかみついて長い体をからみつけてくる結構獰猛な魚。漁師や料理人は細心の注意を払って扱っているという。そして観潮船からは、逆巻く大渦の近くで操業する漁船をいくつか見かけた。大鳴門橋の直下は鯛の好漁場とはいえ、小舟は流れに翻弄されてかなり危なっかしい。案内人によると、漁師は渦の性格を熟知しているので巻き込まれることはないとのこと。こんな風に観光施設の視察の中でも、この日も食にまつわる案内にいたる所で遭遇する。

 午前中の視察を終えるとクルマは島を北上して、島のちょうど中程、淡路市の津名港近くの市街へとひた走る。魚一辺倒の食事が続いたからか、この日のお昼は肉とのことだが、クルマが停まった店は暖簾が掲げられた和風の店構え。どう見ても和食の料亭だが、一歩店内に入ったとたんに香ばしい肉の香りが漂ってくる。厨房でどんどん焼かれる肉の煙が漂い、あたりが霞んで見えるほどである。店の人に案内されて奥へ、長い廊下を歩いて、日本庭園を望む座敷へと落ち着いた。

 そんな「和」のたたずまいあふれるこの『レストラン大公』、実は淡路屈指のステーキの老舗なのである。地元で生産される淡路ビーフ取り扱い指定を受けたレストランで、ステーキをはじめすき焼き、しゃぶしゃぶ、牛さしやたたきなど、各種淡路ビーフの料理が揃っている。全員が一番の人気メニューである「石焼きすてーき定食」に決め、座敷で脚を伸ばして、整えられた庭を眺めながらのんびり待つ。これからステーキをガツガツ喰らうというよりは、静かに会席料理を頂く、といった雰囲気である。

 そんな静寂を破ったのは、立ちこめる煙、そして「ジャーッ!」と響く肉の焼ける音。運ばれてきたステーキは、熱々に焼いた石の上にのせられている。肉はもちろん、淡路ビーフのサーロインがドンと200グラムと、見るからにボリュームがありそうだ。ソースはポン酢と味噌ゴマダレを好みで使う仕組みで、さっそくナイフとフォーク… ではなく用意されているのは箸と、とことん和風にこだわっている。肉は箸で食べやすいように切ってあり、まずはポン酢をつけてひと口。それほど脂がのっているようでもないのにおそろしく柔らかで、これは喰らいつくまでもない。少な目の肉汁には甘味がほんのり、淡路の牛肉だけに味が淡いか? といった印象で、さっぱりと柔らかいから見た目のボリュームの割にはすいすい進む。サラダのほか、スープではなく味噌汁付きというのもまた、さっぱりと和風テイストか。

 兵庫県で肥育されている和牛といえば、代表的な銘柄が但馬牛だ。兵庫県全域で肥育されている牡の種牛を指しており、他県産の牛との交配を拒んだ優良種。淡路島ではそのうち年間の生産頭数8000頭と、兵庫県の生産頭数の7割を占めているという。この但馬牛、興味深いことに素牛としての評価が高く、神戸や松阪、近江へ出荷、それぞれの銘柄牛の素牛となっている。つまり兵庫は食肉の生産以上に、素牛の生産が盛んな県なのである。「子牛の段階でよそへ売っちゃうのが多いから、『淡路ビーフ』になる牛は少ないんですよ」と店の人は苦笑するが、淡路ビーフも厳選した肉質の上級品だ。島で生まれて肥育した黒毛和牛「淡路牛」を三原町で処理、品評会の「枝肉共栄会」に出されるものが代表的。脂肪が細かく入った霜降りで甘味があり柔らかな肉質は、松阪牛や神戸牛に負けていない。昨日食べた数々のブランド魚に並ぶ、淡路のブランド肉といったところだろう。

 肉の下には、これまた淡路の「ブランド野菜」淡路玉ネギのスライスが敷かれ、石の余熱で肉に熱が通り過ぎず、また冷めにくくなっている。おかげで食べ終わるまで、肉がほんのり赤いぐらいで頂けるのがうれしい。タレをからめてご飯にのせ、一緒に一気に頂いて、久々の肉料理をすっかり満喫。淡路の魅力と山海の味覚を味わい尽くしたな、と2日間の視察を振り返る前に、締めくくりの「北淡町震災記念公園」で、阪神大震災の揺れの再現体験が待っている。(2006年5月24日食記)

魚どころの特上ごはん36…淡路島 『休暇村南淡路』の、郷土の漁師料理ハモすき

2006年08月15日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 お昼は大鳴門橋記念館のレストラン「うずしお」でオリジナルの鯛料理を味わい、かまぼこメーカーの「オキフーズ」では鯛の形の蒲鉾づくり体験を楽しんだ。まさに淡路の鯛づくし、といった感じの視察1日目を終えて、一行はこの日宿泊する休暇村南淡路へと到着した。福良町の南寄りの高台、遠くに鳴門海峡と大鳴門橋を見渡す絶好のロケーションで、今回の視察の主目的であるリニューアルした施設をさっそく見学。福良湾を一望するレストランではすでに宿泊客向けの夕食の準備が整い、宝楽焼きやワタの味噌焼きといった鯛料理がここにもいっぱい並んでいる。刺身は天然物、調理する品は養殖物をつかっているそうで、公共の宿でこれだけの料理が頂けるとは、実にリーズナブルである。

 うまそうなものをじっくり「視察」していると、こちらも腹が減ってくる。鳴門海峡を一望する露天風呂「南淡温泉」の視察を兼ねて? ひとっ風呂浴びたら、地元の観光関連業者の方々との、お楽しみの懇親会とである。卓に並ぶ料理はもちろん、福良港など淡路島近海でとれた海の幸ばかり。前菜にハモ寿司とタコの煮物、鍋はハモすき、ほかハモの湯びきと天ぷらなど、お昼の鯛づくしに対抗してか、今度はハモ料理が勢揃いである。中でも主役は、卓の中央に置かれた大鍋だ。「いろんな料理の中でも、ハモすきは淡路島の漁師料理の代表。ぜひ味わっていってください」とは、隣席に座る福良漁協の組合長の前田さん。ハモの身をダシにくぐらせて味わうシンプルな料理で、歓迎のご挨拶も早々にさっそく乾杯、手慣れた前田さんが、どんどん鍋の下ごしらえを進めていってくれる。

 まずはあぶったハモの頭とアラをだし汁に入れて、軽く煮立てる。しっかりダシが出たところで、最初はハモの白身を鍋の中へ。身をダシに軽くさらすと、身がパッと開いていく。熱の加え加減にコツがいるようで、宿の人によると「きっちり28秒であげてください」とのこと。「30秒ぐらいで…」などとアバウトでないのがこだわりなのか、と思いながらきちんと28数えて、ちりちりと開いた身を口へと運ぶ。すると瑞々しい舌触りのあと、味の方は究極なまでに淡泊、後味にほんのりした旨みがすっと漂うぐらいの、実に爽やかな味わいだ。キス、ハゼ、コチにアナゴなど、身に甘味がある白身魚とは異なる、澄み切った風味が舌に印象的である。ハモのキモや卵も頂いて、ダシがよく出たところで大皿の上の具をどんどんと入れていく。特産の淡路タマネギに笹がきゴボウ、白滝、シメジ、焼き豆腐、すき麩など、種類も量もなかなか豊富だ。

 ハモは関西では高級魚の代表的存在だが、東日本では口にする機会があまりない魚だろう。関東ではマグロなど赤身で脂ののった魚が好まれる一方、関西では鯛やヒラメなど白身のあっさりした魚を好むという、嗜好の違いのためだろう。淡路島は大分、長崎、愛知県の渥美半島に並ぶ全国指折りのハモの水揚げ地で、京都をはじめ関西の有名料亭の多くが、淡路のハモを使っているほど。夏場は「梅雨の水を飲んでいるから味がいい」といわれるのに加えて栄養価が高く、健康食としても珍重されている。「淡路近海でとれるハモの中でも、福良のハモは特に質がいい。沖合4キロほどに浮かぶ沼島周辺でとれるやつは、脂の質とのり具合がよく味もいいんだ」と話す前田さんによると、福良のハモは「福ハモ」と名付け、地元のブランド魚としてPRしているという。太っていて頭が小さく「肩幅がある」のに加え、色も紫がかっているからよそのハモと比べるとすぐ分かるのだとか。まさに「鳴門鯛」「明石ダコ」に並ぶ、淡路島の3大ブランド魚である。

 休暇村では、福良港や沼島で水揚げされたハモを厳選して使っているとのことで、ハモすきをはじめ他のハモ料理にも期待できそうだ。鍋の合間に、ハモの落としと天ぷらにも箸をのばしてみる。ハモの落としは白いボタンの花のよう身を、梅肉や辛子酢味噌で食べるもの。淡泊な白身に梅肉の酸味が合わさり、いっそうさっぱりと食べやすくなる。実は先ほどのハモすきの身といい、ハモはおろしただけではそのまま食べられない。硬い小骨が非常に多いからで、そのために行われるのが、「骨切り」。腹開きにしたハモを、皮を下にしてまな板の上に置き、骨切り専用の包丁で、皮1枚を残して文字通り骨を切っていくのである。体長とは直角に包丁を入れていくのだが、わずか3センチの間に入れる包丁目は何と24。これを長さ3センチくらいに切り、熱湯にさっとくぐらせて氷水で冷やすと、皮が縮んでまるで花が咲くようにクルリと丸まるという訳だ。ちょうど祇園祭の時期とも重なるため、京都の夏の料理としても名高い。一方、あっさりした落としに対して、天ぷらは加熱してあるため旨みがしっかりと立ち上がってくる。ともに鍋よりもハモの味がよく分かるようで、これを肴に地のさつまいもを使った焼酎「鳴門金時」が進む。

 先ほどから鍋を見て頂いている前田さんにビールをすすめながら、あれこれと聞いてみた。前田さんは現在は主に養殖をやっているそうで、かつてはハモの延縄漁をやっていたという。延縄漁とは長さ1キロの「縄」1本あたりに、生きたアジを餌につけた針を60本つけ、これを浮きを中継に20本ほどつないで流す漁法のこと。週2~3回、底引き網が出漁しない天気のいい日に操業し、15時頃出漁して夜中の3時頃に帰港、セリは朝9時から行われるという。1回の漁でどれぐらいハモがかかるのか聞いたところ「大体100~120本、100キロほどの水揚げになると採算がとれるけど、なかなか厳しいね」と笑っている。ちなみにハモの漁期は5月1日から8月末まで。底魚だから主に底曳網と刺し網でとるのだが、延縄や釣りでとったものの方が身が傷まないため質がいいそうである。

 漁協の組合長の方と同席するのもなかなかない機会で、淡路や福良の漁業の現状など、色々な話が盛り上がっていく。酒をあおり、料理をつまみ、じっくり煮えてきた鍋もさらにおかわり。ハモとともに野菜や豆腐を食べ進める中、よく煮えた淡路タマネギがホクホクととまらない。このタマネギがまた、淡路のハモすきには欠かせない地元の食材なのである。淡路島は肥沃な土壌や温暖な気候など、タマネギ栽培に最適の環境が揃っており、兵庫県のタマネギ生産量は北海道に次いで2位、その9割以上が淡路島の三原平野で栽培されている。タマネギは通常、出荷までに4ヶ月かかるところを、淡路のタマネギは半年かけてじっくり栽培して、風通しのよい玉ねぎ小屋で乾燥、熟成してから出荷する。そのため糖度が高く香りが良く、特有の辛味がなく身が柔らかいのが特徴だ。鍋の汁には次第にタマネギの甘味が出て、ハモのダシとバランスがバッチリ。かなり食べて飲んだのに、鍋にはまだどんどんと箸がのびていく。

 宴もたけなわ、座も盛り上がってところで中締めとなり、前田さんにお礼を言って座を後に。部屋に戻ってひと息ついてから、酔い覚ましに再び南淡温泉の露天風呂へと浸った。夜のとばりがすっかり下り、さっきは見えた鳴門海峡方面は真っ暗闇。視察、というか淡路の海の味覚を堪能した1日をたどりつつ、明かりが灯った大鳴門橋の下の、美味なる鯛やハモを育んだ鳴門海峡の早潮を思い浮かべてみた。(2006年5月23日食記)