ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん35…淡路島・福良 『オキフーズ』の、淡路の魚介を使ったかまぼこ

2006年08月13日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 淡路島の近海は海峡や早潮の箇所が多いため、沿岸では身が引き締まった魚介が揚がることで知られる。主な漁獲は鯛とハモ、タコで、いずれも「鳴門鯛」「福ハモ」「明石ダコ」と、名だたるブランド魚ばかりだ。この日はお昼に大鳴門橋記念館のレストラン「うずしお」で、鯛を使った創作料理を頂き、夜は休暇村南淡路で、郷土料理であるハモのしゃぶしゃぶを出される予定。1日にして、これらブランド魚のうちの2つを味わえるというのが、なかなか豪華でありがたい。

 食後に大鳴門橋記念館の劇場で、郷土芸能の人形浄瑠璃を見学した後、一行を乗せたクルマは南あわじ市の中心である福良へとやってきた。淡路島南部屈指の漁業の町で、案内人によると、ここも主な漁獲は鯛とのこと。本場だけに底引き、刺し網、定置網など様々な漁法でとれ、釣りでとったものが傷がなく品がいいという。1.5キロほどの大き目のものが味がいいそうだが、旬は「桜鯛」とも称される春先だから、今はやや季節はずれのよう。ほかにも、今夜頂くハモを狙った延縄漁、またフグの養殖は島で屈指の規模など、さすがは淡路島の3大漁港のひとつにも挙げられるだけある。

 宿は町の南端の高台にあるため、クルマは海沿いの道を走りそのまま宿へと向かう… と思ったところ、途中を折れて市街地の細い道に入り、とある施設の前で停まった。クルマを降りると中から、白衣を着た人が数名、ニコニコと出迎えてくれる。見たところ水産加工品の加工場のようで、宿へ入る前に見学していくらしい。中へ入ると「どうぞ、味を見てみてください」と試食用の皿が差し出され、天ぷらや蒲鉾が数種類並んでいてうまそうだ。味見すると腰がグイグイと強く、身の味がしっかりと濃いのが分かる。「どれも地魚で作った練り物です。じゃこ天と青のり天、タコ天で、魚のいい味がするでしょう」。この『オキフーズ』は明治40年創業の蒲鉾メーカーで、案内していただく代表取締役の沖さんは4代目。タコかまぼこに鱧かまぼこ、瀬戸内のほたるじゃこをつかったじゃこ天にのり天など、地元産の魚介を生かした製品にこだわっているそうである。

 沖さんの話によると、店の前身は蒲鉾や天ぷら、ちくわなど練り製品を扱う「沖蒲鉾店」。福良では古くから、網を使った鯛やハモ漁が盛んだったという。その際、狙いの鯛やハモと一緒に、グチやエソなどといった雑魚もたくさんかかってしまう。この店の初代は、それらをカマボコに加工して売り始めたのだ。材料は漁のお目当ての「ブランド魚」と対照に、小魚や骨の多い魚など、商品にならないものばかり。これをミンチにして、でんぷんを加えてから油で揚げ、新聞紙でくるんで売っていたのだという。

 説明を聞きながらふたつ3つ、天ぷらや蒲鉾をつまんでいると、一行に配られたのはビニールの手袋。試食の後は、何とかまぼこを自分で作ってみることになった。かまぼこの作り方はまず魚の内臓を取り、圧縮機にかけて皮や骨を分離させて身だけをとり分け、2~3%の食塩と、つなぎにでんぷんを加えてすり身をつくる。これを成形してから蒸し上げると出来上がり。一貫して手作りにこだわる独自の製法は、今も当時のままという。体験するのはこのうち、すり身を鯛の型にはめて上に文字を書くところまでである。まずは配られたすり身を、空気の穴ができないように軽く練る。すり身に塩を加えてあるのは味付けではなく、弾力を出すため。近頃はカマボコの需要が増え、地物の魚以外にも北海道やアメリカでとれたスケソウダラも素材に使っているという。

 続いて沖さんの手本を見ながら、練ったすり身を手のひらでそぎとって、鯛の型の中へと盛っていく。絵柄が複雑な鯛の頭が手前になるようにして持つのがコツで、尾から頭に向かってすり身をならすとグッと入れやすいのだとか。見よう見まねでやってみたが、ピタッと型に入り大成功。型を外すと、中からは透き通るように純白の鯛が現れた。色はもちろん漂白ではなく、スケソウダラと鯛の自然の色という。「仕上げに、絞り器で好きな文字を書いてください」。鯛かまぼこは主にお祝いの品で、「寿」「祝」などを文字を書くことが多いとか。何と書こうか考えた結果、自分の名前からひと文字。上村の「上」と書いてぐるっと丸で囲んで、丸上印の鯛かまぼこの完成である。

 この後蒸してもらい、明日帰る前にいただけるとのことで、これはいいお土産ができた。考えてみればこれだって、素材は雑魚だけれども鯛は鯛? 淡路周辺の海は、ブランド魚だろうが雑魚だろうが、平等に恵み豊かな海域なのである。(2006年5月23日食記)