拙書『旅で出会ったローカルごはん』が刊行されてほぼ1ヶ月。大きな書店では旅・グルメコーナーのいいところに積んで頂き、おかげさまでぼちぼち売れているようです。このところ、当ブログのアクセスも増えてきており、本を見てここへ遊びに来てくれた方もいるのかな。
著書の刊行やら取材やらで忙殺され意識していなかったが、気がつけばブログ開設ちょうど1年たちました。あまり細々とカテゴリーを増やさないようにやる方針でしたが、記念?にそろそろ新カテを何かつくるかも知れません(築地とか本の紹介のカテは開店休業なのに…)。『旅ロー』の本のこぼれ話でもやろうかな。食べ物屋の取材をしていると、そりゃ本には書けないとんでもないネタがいろいろとあるんです、これがまた。
で、今週は修善寺編プラス、町で見つけたネタをとりまぜてぼちぼちと。四国一周漁港めぐり編は取材資料が膨大で、ただいま整理中。まとまり次第、順不同で書き込んでいきます。
毎年恒例の、家族旅行の時期がやってきた。家内の両親、家内の姉家族の3世帯合同旅行で、ことしは中伊豆の修善寺に2泊ほど泊まる事となった。横浜に住んでいるため、伊豆や箱根は結構近いせいか日帰りで遊びに行くことが多い。どちらも温泉が星の数ほどあるところだけにもったいないことで、いい機会だからじっくりと湯に浸り、駿河湾や相模湾のおいしい魚を頂き、と、日頃忙殺されている骨休みをじっくりさせてもらうことにしよう。
お昼過ぎにクルマで出発して、修善寺の温泉街には16時ごろに到着。高速を使わずにこの時間に着けるのだから、伊豆はやはり近い。3日間お世話になる『ラフォーレ修善寺』は、温泉街からクルマで15分ほど離れたところにあり、広大な丘に広がる敷地にはホテル棟のほかにコテージが点在、さらに森の温泉館やバーベキューガーデンなど様々な施設が森の中に並ぶ、総合リゾートホテルである。ゴルフ場やテニスコートに体育館なども充実しているが、自分はアクティブにスポーツ派よりはのんびり温泉派だ。夕食前にさっそくひと風呂と大浴場へ直行、風呂から上がったらお楽しみの夕食だ。ロビーにみんな集合して、施設内の巡回バスで夕食会場であるサンバティックホールへと向かう。
この日の夕食はバイキングで、会場に着くとだ会場の準備中の様子。扉の間から大広間をちょっと覗くと、入口に大きな船盛りが置かれているのがちらりと見え、期待させてくれる。しばらくして案内され、丸テーブルの席に着いたとたんに、子供たちが先頭を切って料理をとりにとびだしていく。自分もまずはコーナーを一巡してみたところ、さすがに魚介類を使った料理が豊富だ。入口近くには鯛や金目鯛の刺身がドンと置かれ、マグロやアナゴの握り寿司がずらり。洋食メニューも魚介を素材にしたものがいっぱい目に付く。さっき見かけた、入口の船盛りのところへ行ってみると、「沼津市場」と書かれた旗の下に魚介が見本のように、丸のまま置かれている。鯛や金目、シマアジにサザエ、アワビと、どれも鮮度がよさそうだ。
夏の時期限定のこのバイキングは「エスティバルアロマティゼ~夏の香り」と称し、香りをテーマにして伊豆の食材を各国料理にアレンジしているというのが売りとある。洋食では、クリームソースたっぷりでほろりとした味わいのイトヨリ鯛のポワレ、サザエがいっぱい入った魚介のハーブマリネ、そして何とサクラエビのピザなんてのもある。サクラエビは駿河湾でしかとれない貴重なエビで、徹底した漁獲管理で資源保護をしながら漁獲していることで知られる。釜揚げやかき揚げで頂くと絶品で、ピザのトッピングにしてもなかなか良く合う。ひげの部分から特有の香ばしさが漂い、これはバイキングのテーマにたがわないテイストか。
鮮魚の紙包み焼きやヒラメの蜂の巣揚げといった中華料理もとり分け、いよいよ和食コーナーへと足を向ける。おろした頭がドン、と置かれた前に、薄ピンクが上品な金目に鮮やかな白身の真鯛、そして清水や焼津が水揚げ港であるマグロと、色とりどりの刺身が実にうまそうである。とり分けながら、金目は東伊豆の稲取が有名ですね、と後ろに控えている板前さんに話しかけてみる。「今日の金目は、南伊豆の下田港で揚がったものなんです。この時期の金目は、脂ののりが控えめで全体的にあっさりしているんですが、たまたま今日はしっかり脂がのったのが入りまして」。お客さんは運がいいですね、と笑っている。金目鯛は東伊豆の相模湾側、南伊豆の太平洋側、そして西伊豆や沼津の駿河湾側とそれぞれで揚がり、棲息する海域によって味や脂ののり、身の締まりなどが違うとのこと。ほか真鯛などは、主に沼津港で揚がった、沼津魚市場直送のものを使っているそうである。握り寿司のほうにも行ってみると、普通の酢飯のほかに修善寺特産である古代米「黒米」を使った握りもあり、食べ比べると黒米のほうが粒がしっかりとして食べ応えがあるよう。マグロの握りを2、3頂いて、ついでに水揚げ地を聞いたところ、あいにく清水や焼津ではなく、日本海に面した鳥取県の境港で揚がった物とのこと。
和・洋・中華の魚介料理を肴に、飲み放題の生ビールも進んでまずは一回戦の皿を軽く平らげた。再び料理をとりに刺身や寿司のコーナーをぶらぶらしていると、面白いものを発見。おでんの鍋に、牛スジやホルモン、ウズラに大根など、醤油色に良く染みたのがうまそうに煮えているではないか。先日書いた、横浜ワールドポーターズのバイキングではセルフサービスのラーメンがあったが、今度はおでんのバイキングだ。実は静岡では、おでんも郷土のひとつ。「静岡おでん」と称し、繁華街に「おでん横丁」なるおでん屋街があったり、駄菓子屋でおでんを出していたりと、地元の生活に密着したローカルごはんなのである。濃い口醤油に豚のモツや牛スジからとっただしが加わったつゆで、じっくり煮込んであるのが特徴で、見た目の色ほど味は濃くなく、立ったまま大根に味噌をつけて頂くとほんのりダシが効いてとまらなくなりそうだ。静岡産地養鶏、修善寺特産の肉厚なシイタケといった地元食材のタネの中でも、ポイントは焼津産の「黒はんぺん」。イワシをまるごとすりつぶして揚げてつくったはんぺんで、名のとおりほんのり黒っぽい色をしている。かむほどに染み出る味はもちろん、これがいいダシにもなっているのである。
様々なスイーツやフルーツが揃ったデザートコーナーも惹かれるが、今日のところは地元産の伊豆テングサを使ったところてんで締めくくるか。四角いのをところてん突きに入れて自分で押し出す仕組みで、棒をぐっと押すと麺状になったところてんがスルリと押し出されてくるのが楽しい。黒蜜をかけてさらっと頂き、ごちそうさま。それにしても食事の前に温泉でゆっくりしたおかげか、みんなで旅行して気分が盛り上がっているせいか、ふだんバイキングで頂く時よりもずいぶんと食が進んでしまったようだ。もちろん、山海の地元食材を豊富に使っているせいもあるのだろう。(2006年8月21日食記)
著書の刊行やら取材やらで忙殺され意識していなかったが、気がつけばブログ開設ちょうど1年たちました。あまり細々とカテゴリーを増やさないようにやる方針でしたが、記念?にそろそろ新カテを何かつくるかも知れません(築地とか本の紹介のカテは開店休業なのに…)。『旅ロー』の本のこぼれ話でもやろうかな。食べ物屋の取材をしていると、そりゃ本には書けないとんでもないネタがいろいろとあるんです、これがまた。
で、今週は修善寺編プラス、町で見つけたネタをとりまぜてぼちぼちと。四国一周漁港めぐり編は取材資料が膨大で、ただいま整理中。まとまり次第、順不同で書き込んでいきます。
毎年恒例の、家族旅行の時期がやってきた。家内の両親、家内の姉家族の3世帯合同旅行で、ことしは中伊豆の修善寺に2泊ほど泊まる事となった。横浜に住んでいるため、伊豆や箱根は結構近いせいか日帰りで遊びに行くことが多い。どちらも温泉が星の数ほどあるところだけにもったいないことで、いい機会だからじっくりと湯に浸り、駿河湾や相模湾のおいしい魚を頂き、と、日頃忙殺されている骨休みをじっくりさせてもらうことにしよう。
お昼過ぎにクルマで出発して、修善寺の温泉街には16時ごろに到着。高速を使わずにこの時間に着けるのだから、伊豆はやはり近い。3日間お世話になる『ラフォーレ修善寺』は、温泉街からクルマで15分ほど離れたところにあり、広大な丘に広がる敷地にはホテル棟のほかにコテージが点在、さらに森の温泉館やバーベキューガーデンなど様々な施設が森の中に並ぶ、総合リゾートホテルである。ゴルフ場やテニスコートに体育館なども充実しているが、自分はアクティブにスポーツ派よりはのんびり温泉派だ。夕食前にさっそくひと風呂と大浴場へ直行、風呂から上がったらお楽しみの夕食だ。ロビーにみんな集合して、施設内の巡回バスで夕食会場であるサンバティックホールへと向かう。
この日の夕食はバイキングで、会場に着くとだ会場の準備中の様子。扉の間から大広間をちょっと覗くと、入口に大きな船盛りが置かれているのがちらりと見え、期待させてくれる。しばらくして案内され、丸テーブルの席に着いたとたんに、子供たちが先頭を切って料理をとりにとびだしていく。自分もまずはコーナーを一巡してみたところ、さすがに魚介類を使った料理が豊富だ。入口近くには鯛や金目鯛の刺身がドンと置かれ、マグロやアナゴの握り寿司がずらり。洋食メニューも魚介を素材にしたものがいっぱい目に付く。さっき見かけた、入口の船盛りのところへ行ってみると、「沼津市場」と書かれた旗の下に魚介が見本のように、丸のまま置かれている。鯛や金目、シマアジにサザエ、アワビと、どれも鮮度がよさそうだ。
夏の時期限定のこのバイキングは「エスティバルアロマティゼ~夏の香り」と称し、香りをテーマにして伊豆の食材を各国料理にアレンジしているというのが売りとある。洋食では、クリームソースたっぷりでほろりとした味わいのイトヨリ鯛のポワレ、サザエがいっぱい入った魚介のハーブマリネ、そして何とサクラエビのピザなんてのもある。サクラエビは駿河湾でしかとれない貴重なエビで、徹底した漁獲管理で資源保護をしながら漁獲していることで知られる。釜揚げやかき揚げで頂くと絶品で、ピザのトッピングにしてもなかなか良く合う。ひげの部分から特有の香ばしさが漂い、これはバイキングのテーマにたがわないテイストか。
鮮魚の紙包み焼きやヒラメの蜂の巣揚げといった中華料理もとり分け、いよいよ和食コーナーへと足を向ける。おろした頭がドン、と置かれた前に、薄ピンクが上品な金目に鮮やかな白身の真鯛、そして清水や焼津が水揚げ港であるマグロと、色とりどりの刺身が実にうまそうである。とり分けながら、金目は東伊豆の稲取が有名ですね、と後ろに控えている板前さんに話しかけてみる。「今日の金目は、南伊豆の下田港で揚がったものなんです。この時期の金目は、脂ののりが控えめで全体的にあっさりしているんですが、たまたま今日はしっかり脂がのったのが入りまして」。お客さんは運がいいですね、と笑っている。金目鯛は東伊豆の相模湾側、南伊豆の太平洋側、そして西伊豆や沼津の駿河湾側とそれぞれで揚がり、棲息する海域によって味や脂ののり、身の締まりなどが違うとのこと。ほか真鯛などは、主に沼津港で揚がった、沼津魚市場直送のものを使っているそうである。握り寿司のほうにも行ってみると、普通の酢飯のほかに修善寺特産である古代米「黒米」を使った握りもあり、食べ比べると黒米のほうが粒がしっかりとして食べ応えがあるよう。マグロの握りを2、3頂いて、ついでに水揚げ地を聞いたところ、あいにく清水や焼津ではなく、日本海に面した鳥取県の境港で揚がった物とのこと。
和・洋・中華の魚介料理を肴に、飲み放題の生ビールも進んでまずは一回戦の皿を軽く平らげた。再び料理をとりに刺身や寿司のコーナーをぶらぶらしていると、面白いものを発見。おでんの鍋に、牛スジやホルモン、ウズラに大根など、醤油色に良く染みたのがうまそうに煮えているではないか。先日書いた、横浜ワールドポーターズのバイキングではセルフサービスのラーメンがあったが、今度はおでんのバイキングだ。実は静岡では、おでんも郷土のひとつ。「静岡おでん」と称し、繁華街に「おでん横丁」なるおでん屋街があったり、駄菓子屋でおでんを出していたりと、地元の生活に密着したローカルごはんなのである。濃い口醤油に豚のモツや牛スジからとっただしが加わったつゆで、じっくり煮込んであるのが特徴で、見た目の色ほど味は濃くなく、立ったまま大根に味噌をつけて頂くとほんのりダシが効いてとまらなくなりそうだ。静岡産地養鶏、修善寺特産の肉厚なシイタケといった地元食材のタネの中でも、ポイントは焼津産の「黒はんぺん」。イワシをまるごとすりつぶして揚げてつくったはんぺんで、名のとおりほんのり黒っぽい色をしている。かむほどに染み出る味はもちろん、これがいいダシにもなっているのである。
様々なスイーツやフルーツが揃ったデザートコーナーも惹かれるが、今日のところは地元産の伊豆テングサを使ったところてんで締めくくるか。四角いのをところてん突きに入れて自分で押し出す仕組みで、棒をぐっと押すと麺状になったところてんがスルリと押し出されてくるのが楽しい。黒蜜をかけてさらっと頂き、ごちそうさま。それにしても食事の前に温泉でゆっくりしたおかげか、みんなで旅行して気分が盛り上がっているせいか、ふだんバイキングで頂く時よりもずいぶんと食が進んでしまったようだ。もちろん、山海の地元食材を豊富に使っているせいもあるのだろう。(2006年8月21日食記)