ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん54…淡路島 『レストラン大公』の、淡路ビーフの石焼きすてーき定食

2006年08月16日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 休暇村南淡路主催の、淡路島視察会も2日目。朝から晴天に恵まれ、鳴門海峡の渦潮を見学する観潮船や、イギリスの田舎をイメージしたテーマパークの「イングランドの丘」など、この日は観光施設の視察予定が目白押しだ。観潮船に乗船する前には、昨晩同席した福良漁協組合長の前田さんの兄弟がやっている「前拓水産」に立ち寄って、水槽で活けのハモを見せてもらった。ハモは上品で淡泊な味である一方、危険を察知すると鋭い歯でかみついて長い体をからみつけてくる結構獰猛な魚。漁師や料理人は細心の注意を払って扱っているという。そして観潮船からは、逆巻く大渦の近くで操業する漁船をいくつか見かけた。大鳴門橋の直下は鯛の好漁場とはいえ、小舟は流れに翻弄されてかなり危なっかしい。案内人によると、漁師は渦の性格を熟知しているので巻き込まれることはないとのこと。こんな風に観光施設の視察の中でも、この日も食にまつわる案内にいたる所で遭遇する。

 午前中の視察を終えるとクルマは島を北上して、島のちょうど中程、淡路市の津名港近くの市街へとひた走る。魚一辺倒の食事が続いたからか、この日のお昼は肉とのことだが、クルマが停まった店は暖簾が掲げられた和風の店構え。どう見ても和食の料亭だが、一歩店内に入ったとたんに香ばしい肉の香りが漂ってくる。厨房でどんどん焼かれる肉の煙が漂い、あたりが霞んで見えるほどである。店の人に案内されて奥へ、長い廊下を歩いて、日本庭園を望む座敷へと落ち着いた。

 そんな「和」のたたずまいあふれるこの『レストラン大公』、実は淡路屈指のステーキの老舗なのである。地元で生産される淡路ビーフ取り扱い指定を受けたレストランで、ステーキをはじめすき焼き、しゃぶしゃぶ、牛さしやたたきなど、各種淡路ビーフの料理が揃っている。全員が一番の人気メニューである「石焼きすてーき定食」に決め、座敷で脚を伸ばして、整えられた庭を眺めながらのんびり待つ。これからステーキをガツガツ喰らうというよりは、静かに会席料理を頂く、といった雰囲気である。

 そんな静寂を破ったのは、立ちこめる煙、そして「ジャーッ!」と響く肉の焼ける音。運ばれてきたステーキは、熱々に焼いた石の上にのせられている。肉はもちろん、淡路ビーフのサーロインがドンと200グラムと、見るからにボリュームがありそうだ。ソースはポン酢と味噌ゴマダレを好みで使う仕組みで、さっそくナイフとフォーク… ではなく用意されているのは箸と、とことん和風にこだわっている。肉は箸で食べやすいように切ってあり、まずはポン酢をつけてひと口。それほど脂がのっているようでもないのにおそろしく柔らかで、これは喰らいつくまでもない。少な目の肉汁には甘味がほんのり、淡路の牛肉だけに味が淡いか? といった印象で、さっぱりと柔らかいから見た目のボリュームの割にはすいすい進む。サラダのほか、スープではなく味噌汁付きというのもまた、さっぱりと和風テイストか。

 兵庫県で肥育されている和牛といえば、代表的な銘柄が但馬牛だ。兵庫県全域で肥育されている牡の種牛を指しており、他県産の牛との交配を拒んだ優良種。淡路島ではそのうち年間の生産頭数8000頭と、兵庫県の生産頭数の7割を占めているという。この但馬牛、興味深いことに素牛としての評価が高く、神戸や松阪、近江へ出荷、それぞれの銘柄牛の素牛となっている。つまり兵庫は食肉の生産以上に、素牛の生産が盛んな県なのである。「子牛の段階でよそへ売っちゃうのが多いから、『淡路ビーフ』になる牛は少ないんですよ」と店の人は苦笑するが、淡路ビーフも厳選した肉質の上級品だ。島で生まれて肥育した黒毛和牛「淡路牛」を三原町で処理、品評会の「枝肉共栄会」に出されるものが代表的。脂肪が細かく入った霜降りで甘味があり柔らかな肉質は、松阪牛や神戸牛に負けていない。昨日食べた数々のブランド魚に並ぶ、淡路のブランド肉といったところだろう。

 肉の下には、これまた淡路の「ブランド野菜」淡路玉ネギのスライスが敷かれ、石の余熱で肉に熱が通り過ぎず、また冷めにくくなっている。おかげで食べ終わるまで、肉がほんのり赤いぐらいで頂けるのがうれしい。タレをからめてご飯にのせ、一緒に一気に頂いて、久々の肉料理をすっかり満喫。淡路の魅力と山海の味覚を味わい尽くしたな、と2日間の視察を振り返る前に、締めくくりの「北淡町震災記念公園」で、阪神大震災の揺れの再現体験が待っている。(2006年5月24日食記)


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