ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん85…広島・鞆の浦 『入江豊三郎商店』の、健康酒・保命酒

2007年03月26日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 福山駅から、沼隈半島の海岸線に沿ってバスに揺られること30分。半島の先端に位置する終点の「鞆の浦」でバスを降りると、すぐ目の前には瀬戸内海、その向こうには緑豊かな仙水島がぽっかりと浮かんでいる様子が見える。鞆の浦はかつて、瀬戸内海を航行する船が潮待ち、風待ちのために停泊したことで栄えた港町だっただけに、古い土塀や蔵が残る商家や、美しい格子がある屋敷など、今でも往時を彷彿させる史跡が町の至るところに残っている。

 バス停から路地を入り、町の中心部へ向けて歩いていくと、沿道には格子戸の家並みが続き、まるでタイムスリップしたような気分になる。その一角に「元祖 保命酒 広島屋」と書かれた年季の入った看板が掛かった、白壁の土蔵がある建物を見つけた。中に入ってみると、仕込み桶や秤など、昔の醸造道具がいくつも並んでいて、中にいた人に聞いてみると、「保命酒のミニ資料館です」とのこと。どうやら酒の醸造所と酒造の資料館を兼ねた施設らしい。

 展示物を見ていたら、「どうぞ、ここでつくったお酒です。試飲してみて下さい」とさっきの人に勧められて、まだ町の散策を始めて間もないというのに、ちょっと一杯頂いてみることにした。すると、とても甘い。それも、日本酒でいう甘口ではなく、まるで甘酒のようなふんわりとした甘味である。そして少しすると、今度は体が熱くなってきた。これもまた、酔いがまわるというのではなく、体の芯がボッと熱くなり、その熱が全身にじわじわと広がっていくような、何とも不思議な感覚である。一体、これは何ですか、と聞いたところ、その名も「保命酒」。江戸時代初期から鞆の浦に伝わる酒とのことだった。町内にいくつかある醸造・販売元の中でも、この「入江豊三郎本店」は明治19年の創業以来、4代続いている老舗という。

 命を保つ酒とは、聞くからに体に良さそうだがそれもそのはず。保命酒は正確には「十六味地黄保命酒」という薬味酒で、地黄、高麗人参、桂皮、丁子など16種類の和漢薬エキスを配合したものを袋詰めして、もち米や麹米でつくった甘口の原酒に浸けてつくられるという。アルコール度数は14度と高いから体が熱くなるのも当然で、そのおかげで血行が促進されて、薬味成分が体の隅々まで浸透するという訳だ。寝る前にオンザロックで飲めば、滋養強壮に効きますよ、との説明にも納得できる。「酒は百薬の長」と言われるが、この保命酒は名実ともに、体に良い酒なのである。

 これはぜひおみやげに買うことにして、資料館の数軒となりにある本店へと足を運んでみた。店頭には普通の瓶入りの保命酒と一緒に、水色をした6角形に入った「やなぎかげ」というのが並んでいる。店の人に違いを聞いてみると、6角形の瓶の方は水中花付きで、飲み終わった後に瓶に水を入れてから、水中花を沈めて部屋に飾ってください、とのこと。もちろん、瓶の中身の酒はどちらも同じだが、瓶の形がとても美しかったので、こちらを2本買い込むことにした。ほかに原酒の酒粕「保命酒の花」も売っていて、これで甘酒や粕汁を作って頂いても健康に良さそうだ。保命酒を試飲したおかげで、心なしか体の調子が良くなってきた、というのはオーバーだが、これから酒瓶を片手にぶら下げて鞆の浦の街を歩くぐらいの元気は出てきたようである。(7月食記)