ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん67…鳥取・境港漁港 『ピアス食堂』の、魚モーニング

2007年03月21日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 さあ、魚どころの街へ出かけよう。おいしい地魚を存分に食べにいこう、という時、店選びは確かに肝心だ。漁港の町の多くは、簡単にぶらりと訪れられないようなところが多いから、せっかく出かけたのに今イチの店なんかにあたったら、もう大変。事前にネットで調べたり、観光協会や市場の関係者に電話をしておすすめの店を挙げてもらったりと、万全の用意をしてから出かける… なんてことは、実はあんまりない。一応はよさげな店の目星をつけてはいくが、いざ現地入りしてしまえば結構行き当たりばったり。ガイドブックにのっている有名店にいくこともあれば、漁師の親父さんや市場のおばちゃんに勧めてもらった店にぶらっと入ることもある。お目当ての店で予定通りの料理を味わうのもいいけど、地元おススメの店で予想外の意外な地魚料理に出会う、というのもまた、楽しいもの。要はあまり当たり外れに固執せず、出くわした店を寛容な精神(?)で楽しんでしまうことが、魚どころの食事処めぐりの極意、というとちょっと大げさか?

 日本海沿岸で有数の水揚げを誇る、境港漁港で出会う地魚といえば、日本随一の水揚げを誇るベニズワイガニか、はたまたアコウやノドグロ、白ハタといった底引き網の獲物だろうか。漁港に隣接する「境港水産物直売センター」の「板倉博商店」で、おみやげの地魚を買ったついでに朝飯にお勧めの店を聞くと、「有名なお店はいくつかあるけれど、まだやってないかな」。時計を見ると9時過ぎと、市街の料理屋の昼の営業が始まる11時には、確かに早すぎる。まあこの時間では仕方ないか、とお礼を伝えて店を後にしようとすると、あとは向こうの事務所が入った建物に、このへんで働く人が飯を食うような食堂があるぐらいかな、と背中で聞こえてきた言葉に思わずグラリ。

 境港に泊まった昨晩訪れた「味処美佐」では、魚にうるさい地元客が通う食事処らしく、素材の旨さを引き出したものからちょっと凝ったものまで、多彩な地魚料理を味わうことができた。こんなごちそうはもちろんうれしいが、同じ土地で何食かとる場合は、ごちそう続きだとちょっと胃袋がくたびれる。ましてや今は遅い朝飯の店探し。そんな時には漁港や市場で働く人御用達の、ざっかけない食堂も魅力的だ。教えられたとおりに漁港の裏手の通りを進み、卸売市場に隣接する流通会館ビルの1階へと足を運ぶ。するといかにも事務所ビルといった感じの一角に、ガラスの扉の小ぢんまりとした店構え。中小企業の事業所の社員食堂というか、とりあえず打ち合わせをできる程度の喫茶スペースといった感じの、実に質素な店である。店頭を隅々まで眺め回して、ようやく見つけた店名は『ピアス食堂』。市場食堂の名にはそぐわない、名前の由来は一体、何なんだろう。

 簡素なテーブルセットが数客並ぶだけの殺風景な店内では、長靴や作業着の親父が2、3組、黙って新聞を見ながらモーニングコーヒーを飲んでいる。市場で働く常連客がいつもの時間にやってきて、いつものメニューでいつも通りひと息。いかにも業務用な感じがまた、市場食堂らしくていい… と言いたいところだが、壁に掲げられたメニューにはカレーや丼物、麺類が並ぶものの「魚」とか「刺身」とかの文字が見当たらない。出している料理は軽食や喫茶が中心、魚料理は定食メニューのひとつ程度と、観光客や買い物客向けの店じゃないからか売りにしていないようだ。働く人御用達の店なのはいいが、魚料理が全然ないのでは魚市場の近くで飯を喰う意味がない。と、カウンターの方へと目をやったところ、「魚モーニング」なる特別メニューを発見してひと安心。

 魚でモーニングとはさすがは魚処、トーストにコーヒーにゆで卵のノリで、ご飯に味噌汁と焼き魚、ってことか。これは日替わりの魚料理がおかずになった、午前中限定のメニューで、本日の魚は焼きサバとある。サバは、さっき巻き網の水揚げや荷捌き場で見た、れっきとした境港の地魚。盆の上には焼きサバとともにごはんと味噌汁、焼き海苔と、定番の朝ごはんの定食らしい。寝坊したとはいえ、漁港や市場をあちこち歩き回ったから結構腹が減っており、焼きサバをおかずに飯がどんどんと進む。大衆魚であるサバとはいえ、そこは水揚げ港すぐそばの食堂の料理。身は丸々と厚く柔らか、脂もたっぷりのっていて、地魚の底力を充分満喫できる味である。

 サバといえば昨日の「味処美佐」では、サバの香草焼きなんて創作料理も頂いた。今朝は市場のおばちゃん推薦(は別にしてないか?)のぶらりと入った店で、シンプルな焼きサバの定食で朝ごはん。地元評判の料亭と市場食堂とで、サバ料理の食べ比べが楽しめたというのも、考えてみたら何だか面白い。モーニングらしく、ちょっと割安な食後のコーヒーを頂きながら、境港のお魚取材は締めくくりとなった。インスタントでない、サイフォンのうまいコーヒーを食後に飲んでいると、「10時より××××」と入札開始のアナウンスが響いてきたのもまた、業務用の食堂らしいか。(2006年9月25日食記)