ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん83…広尾・広尾商店街 『Spice』の、豚肉の中華風味噌ご飯

2007年03月09日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 地下鉄を下車して地上に出て、すぐ目に入ってくるのが小ぢんまりしたワインショップ。色とりどりのボトルが揃う店内を外から眺めつつ、商店街へと入っていくと、すぐ右手のビアバーは真っ昼間というのに、集う外国人たちでオープンテラスの席まで賑わっている。約束の時間にはやや早いので、向かいのビルの1階にある高級スーパー・明治屋で時間を潰し、さらに商店街を端から端まで、1往復ぶらぶら。それにしても、明治屋の食料品売り場でも商店街を歩いていても、あちこちで見かける外国人の姿の多いことといったら。名前こそ「広尾商店街」という庶民的ネーミングだけれど、思わずここは「欧米か!」と、流行の文句が口から出てしまいそうになる。付近に大使館が集中していて、あたりに外国人向けのマンションも多いだけに、広尾はまさにインターナショナルな街である。

 広尾での打ち合わせ相手は、「ローカルごはん」の本でお世話になった、カメラマンの管さんである。いつもは日が沈む頃に、広尾駅に近い事務所を訪れて、打ち合わせ後に秘蔵の焼酎を頂くのが楽しみなのだが、この日の約束は珍しくお昼の12時。いつものように、そしてさっきのビアバーで盛り上がっていた皆様にも倣い、打ち合わせ後にじっくり腰を据えて… といくにはちと、お日様が高すぎるようだ。せめて昼飯ぐらい食べてから帰ろうと、打ち合わせを終えて再び商店街をぶらつくことに。パスタやピザハウス、イタリアンやカジュアルフレンチといった、小じゃれた店を随所で目にする中、そばや魚割烹、焼き鳥にたこ焼きなど、ジャパニーズトラッドな店もちらほら。そういえば管さんの事務所があるマンションも、1階は温泉マーク入りの暖簾が揺れる銭湯だ。

 普段ならジャパニーズトラッドな昼飯に走ってしまうけれど、せっかくだから街のイメージに合った店でランチといきたい。とはいえ、小じゃれた店は野郎1人でふらりと入るには、少々敷居が高いよう。通りの中程にあった札幌ラーメンの店でいいか、とほぼ決め掛けたところ、その数軒隣の店の店頭に掲げられたメニューを見てちょっと立ち止まる。4種のランチメニューはレッドカレーにタコライス、韓国風サラダ、豚肉の中華風味噌ごはんと、タイ・メキシコ・韓国・中国といった国際色豊かなラインナップがある意味、この街らしい。店内がやや空いていて入りやすかったこともあり、この『Spice』でお昼ご飯とした。

 メニューのイメージと同様に、店内はアジア風の行灯照明がぼんやりと灯る無国籍カフェといった感じ。BGMもインド民俗音楽風やらカントリー風やら、クラシックやらがごちゃ混ぜで続いていくのがユニークだ。入口のガラス戸そばの席に通され、果たしてどの国のランチで行くかメニューを検討の上、選んだのは「中国」。ガラス戸越しに見える商店街には、ちょうど食事時だからか人通りがさらに増したようで、相変わらず外国人もちらほらと通り過ぎていく。

 そんな街のダイニングらしく、この店のコンセプトも「アジアンテイストのオリジナル料理」。創作料理をメインに、一品料理からご飯物、麺類まで、多彩なメニューが評判を呼んでいる。特にランチは、通常一品料理で頼むより割安の上、前菜とスープつき、さらにご飯の大盛りも無料というのがうれしい。場所柄外国人のお客も多いらしく、メニューを裏返すと英語の表記も。ちなみに自分が頼んだ豚肉の中華風味噌ごはんは、「Pork Rice」と記されている。一方で店内には、店のもうひとつの名物である、豊富な品揃えの泡盛の銘柄が各種掲げられているのが、少々ミスマッチでもある。

 Pork Riceを直訳すると「豚肉飯」だから、牛丼屋の豚丼のようなどんぶりで出てくるかと思ったら、運ばれてきた丸皿にはごはんの上に豚肉の味噌炒め、まわりにはサンチェと玉ネギといった野菜がたっぷり、真ん中に落とされた玉子の黄身が鮮やかである。ご飯は大盛りでお願いした割には見た目でボリュームは感じられず、ご飯モノなのにきれいにまとまっているところが、広尾ならではのお上品さなのだろうか。まずは豚肉をご飯といっしょにひと口。ピリ辛味噌とゴマで和えてあり、味噌の深いコクが確かに中華風である。あえて例えれば、中華風豚肉とキャベツの味噌炒め「回鍋肉」のような印象か。

 メニューには「玉子をつぶして、サンチェで巻いて食べる」とあるので、試してみると鋭い辛さがビシッ。よく見ると、刻んだ赤唐辛子が結構肉に混ざっている。サンチェに肉と唐辛子をのせて食べれば韓国焼肉風というか、タコスというか。さらし玉ネギと青ネギも結構刺激的で、洗練された焼肉丼といった感じである。本当は玉子を肉とご飯とともにバッとかき混ぜて、牛丼屋の流儀でかき込みたいところだが、さすがにそれははばかる雰囲気。スプーンを使って行儀よく、前菜とスープと一緒に平らげていく。

 食後のドリンクが100円というのもうれしく、運ばれてきたコーヒーを頂きながら、通りが眺められる席でゆっくりとくつろぐ。ついでに手持ちの文庫本を取り出して、パラパラとめくったり。ちょっとおしゃれなこの街になじんできた? ことだし、午後のひと時をゆっくりと過ごしていこうか。でも国際色が豊かなのがさらに実感できるのは、暗くなってからなのかも。今度管さんのところを訪れた後は、事務所で焼酎もいいけれど、例のビアバーあたりでどっぷり浸ってみるのもいいかも知れない。(2007年2月27日食記)