港町で漁港や市場などを取材して歩いていると、お昼ご飯を食いそびれてしまうことが結構ある。未明の水揚げとか早朝の競りとかから1日の取材が始まり、その後隣接する市場をあれこれ見物してからさて朝飯だ、と店を探す頃には、時計の針は大抵10時とか11時。遅い朝ごはんというか、早めの昼ごはんというか、何とも中途半端な時間に食事をとることになる。だからといって15時頃に「お昼ご飯」をとってしまうと、夜に目をつけている評判の店に行くまでに腹が減らない恐れも。よってヘルシーな魚料理で1日2食、が、取材中の食生活のリズムとなっている。加えて早寝早起き、、取材でガンガン歩いて運動も足り、さらに日によっては温泉もあり。魚食をテーマに取材して話を綴るのは、意外に健康な職業なのかも?
鳥取漁港に隣接する直売所「鳥取港海鮮市場かろいち」でも、朝早くから鳥取の底引き網の漁獲が並ぶ店を眺めて、場内をあちこち歩き回った。ベニズワイガニなど、旬の地魚についてあれこれ教えてもらった「若林商店」で、お礼もかねてお土産の買い物を済ませ、取材はこれにて完了。さっき頂いた、無料サービスのベニズワイガニ汁で遅い朝ごはんにしたつもりだったが、ひと仕事終えてホッとしたからか、それだけではちょっと足りない、と胃袋が訴えてくる。この後は境港まで、数時間列車に揺られての移動だから、遅めの朝ごはんと早めの昼ごはんをぶっ続けて食べても、夜までには充分消化されそうである。若林商店のおばちゃんに、場内でおすすめの食事処を教えてもらったところ、ほら、あそこ、と指差した先は寿司屋。屋号を見ると『寿司若林』とあり、要はおばちゃんの店の系列の寿司屋だ。店で色々勉強したお魚を頂ける訳だから、復習と味の実地検分を兼ねて、行ってみることにしよう。
言うまでもなく、若林商店で扱っているとれたての鮮魚をネタにした握り寿司が自慢のこの店、ネタのよさに加えて直売価格の格安の値段が評判を呼び、昼のみの営業なのにかなりのお客がやってくる人気店である。混雑する前に、とちょうど11時の開店時間と同時に、この日一番のお客として暖簾をくぐって店内へ。長いカウンターが中心の細長い店で、板場にはイナセな板さん… ではなく、接客も合わせて店内にはおばちゃんたちの姿のみ。寿司屋というよりは市場食堂ならではの、アットホームな雰囲気だ。やや高いカウンター席に落ち着いて、さっそく握り1人前を注文。品書きによると赤イカ、サーモン、カンパチ、北海ズワイ、ホタテ、マルゴ、鯛、すき身と揃い、これで1000円しないというから確かに破格である。気をよくして何か追加をしようと検討、若林商店のおばちゃんにも勧められた、モサエビをいってみることにしよう。「握りにもできるし、モサエビの汁もあるよ」との勧めに従い、握りを2カンとモサエビの汁の「モサエビ尽くし」を追加でいくことに。
さすがは人気店、開店してから5分もたつと、カウンターはすっかりお客で埋まってしまった。おばちゃんたちもフル稼働で応対しており、これまた市場食堂ならではの活気がある。そんな中、出された握りは丸っこい見た目が特徴で、寿司というよりはどこか小柄なおにぎりのようにも見える。まずはやはり、今、地元でイチオシのモサエビの握りから。見た感じは甘エビよりやや大振りで、純白の身に茶色っぽい縞模様が特徴。甘エビとかベニズワイガニのような鮮やかな紅色と対照的な、何だか野暮ったい見た目がまた、ローカル魚らしい。味のほうは身にかなり弾力があり、これもトロリとした口当たりの甘エビと対照的。シコシコと心地よい歯ごたえの後から、複雑な甘みがじわり。甘エビやボタンエビより荒っぽい粗野な味で、いわば通好みの味といったところか。モサエビは9月解禁の、鳥取近海の底引き網漁の主要な漁獲だが、9月は同じ時期に解禁となるベニズワイガニ、さらに11月になると松葉ガニの漁期とも重なるため、知名度の点では割を食ってしまっている。その分、旬の時期に地元でしか頂けないという、希少価値もあるということ。まさに知る人ぞ知る、鳥取ならではのローカル魚だろう。
ほかにもカンパチ、マルゴなど、脂もののネタもこってりとなかなか。北海ズワイやサーモン、ホタテはいわゆる「旅のもの」だけれど、この値段からして数カンはそれもよしとしよう。イカは赤イカで、若林商店のおばちゃんが「赤イカは回転寿司用のイカ。カウンターの寿司屋のイカはマイカね」と説明してくれたのを思い出す。体長50~70センチ、重さも5キロ近い大物がとれることもあり、ネタがたくさんとれるから回転寿司向きなのだろうか。そして最後も、モサエビで締めくくり。味噌汁に入ったモサエビは、身が太く緑色の卵をいっぱい持っている。握りで頂いたときの粗野な印象が、汁にすると一変。エビ独特の香りがほんのりときつくなく、上品な仕上がりである。身もダシがらになってなくホコホコと、これまた握りと対照的な食感がいい。
いつのまにか店内には順番待ちの客が控え、店頭にも行列ができている。寿司屋で長っちりは野暮というもの、食べ終えたら早々に店を後にした。隣接する若林商店のおばちゃんにもお礼と挨拶をして、早朝からお世話になった「かろいち」を後にした。港に沿って伸びる道をバス停目指して歩いていると、遠くに見えるバス停にまさに今、バスが到着しようとしている。バスも列車も本数が少ない山陰路の旅、これを逃しては大変、と食後の全力ダッシュで何とか飛び乗った。これから今夜泊まる境港までは、列車やバスを乗り継いで3時間ほど。のんびり列車に揺られ、またこの調子で乗り換えのたびに突っ走っていれば、晩飯までに胃袋の準備が万端整うこと、間違いなしかも。(2006年9月24日食記)
鳥取漁港に隣接する直売所「鳥取港海鮮市場かろいち」でも、朝早くから鳥取の底引き網の漁獲が並ぶ店を眺めて、場内をあちこち歩き回った。ベニズワイガニなど、旬の地魚についてあれこれ教えてもらった「若林商店」で、お礼もかねてお土産の買い物を済ませ、取材はこれにて完了。さっき頂いた、無料サービスのベニズワイガニ汁で遅い朝ごはんにしたつもりだったが、ひと仕事終えてホッとしたからか、それだけではちょっと足りない、と胃袋が訴えてくる。この後は境港まで、数時間列車に揺られての移動だから、遅めの朝ごはんと早めの昼ごはんをぶっ続けて食べても、夜までには充分消化されそうである。若林商店のおばちゃんに、場内でおすすめの食事処を教えてもらったところ、ほら、あそこ、と指差した先は寿司屋。屋号を見ると『寿司若林』とあり、要はおばちゃんの店の系列の寿司屋だ。店で色々勉強したお魚を頂ける訳だから、復習と味の実地検分を兼ねて、行ってみることにしよう。
言うまでもなく、若林商店で扱っているとれたての鮮魚をネタにした握り寿司が自慢のこの店、ネタのよさに加えて直売価格の格安の値段が評判を呼び、昼のみの営業なのにかなりのお客がやってくる人気店である。混雑する前に、とちょうど11時の開店時間と同時に、この日一番のお客として暖簾をくぐって店内へ。長いカウンターが中心の細長い店で、板場にはイナセな板さん… ではなく、接客も合わせて店内にはおばちゃんたちの姿のみ。寿司屋というよりは市場食堂ならではの、アットホームな雰囲気だ。やや高いカウンター席に落ち着いて、さっそく握り1人前を注文。品書きによると赤イカ、サーモン、カンパチ、北海ズワイ、ホタテ、マルゴ、鯛、すき身と揃い、これで1000円しないというから確かに破格である。気をよくして何か追加をしようと検討、若林商店のおばちゃんにも勧められた、モサエビをいってみることにしよう。「握りにもできるし、モサエビの汁もあるよ」との勧めに従い、握りを2カンとモサエビの汁の「モサエビ尽くし」を追加でいくことに。
さすがは人気店、開店してから5分もたつと、カウンターはすっかりお客で埋まってしまった。おばちゃんたちもフル稼働で応対しており、これまた市場食堂ならではの活気がある。そんな中、出された握りは丸っこい見た目が特徴で、寿司というよりはどこか小柄なおにぎりのようにも見える。まずはやはり、今、地元でイチオシのモサエビの握りから。見た感じは甘エビよりやや大振りで、純白の身に茶色っぽい縞模様が特徴。甘エビとかベニズワイガニのような鮮やかな紅色と対照的な、何だか野暮ったい見た目がまた、ローカル魚らしい。味のほうは身にかなり弾力があり、これもトロリとした口当たりの甘エビと対照的。シコシコと心地よい歯ごたえの後から、複雑な甘みがじわり。甘エビやボタンエビより荒っぽい粗野な味で、いわば通好みの味といったところか。モサエビは9月解禁の、鳥取近海の底引き網漁の主要な漁獲だが、9月は同じ時期に解禁となるベニズワイガニ、さらに11月になると松葉ガニの漁期とも重なるため、知名度の点では割を食ってしまっている。その分、旬の時期に地元でしか頂けないという、希少価値もあるということ。まさに知る人ぞ知る、鳥取ならではのローカル魚だろう。
ほかにもカンパチ、マルゴなど、脂もののネタもこってりとなかなか。北海ズワイやサーモン、ホタテはいわゆる「旅のもの」だけれど、この値段からして数カンはそれもよしとしよう。イカは赤イカで、若林商店のおばちゃんが「赤イカは回転寿司用のイカ。カウンターの寿司屋のイカはマイカね」と説明してくれたのを思い出す。体長50~70センチ、重さも5キロ近い大物がとれることもあり、ネタがたくさんとれるから回転寿司向きなのだろうか。そして最後も、モサエビで締めくくり。味噌汁に入ったモサエビは、身が太く緑色の卵をいっぱい持っている。握りで頂いたときの粗野な印象が、汁にすると一変。エビ独特の香りがほんのりときつくなく、上品な仕上がりである。身もダシがらになってなくホコホコと、これまた握りと対照的な食感がいい。
いつのまにか店内には順番待ちの客が控え、店頭にも行列ができている。寿司屋で長っちりは野暮というもの、食べ終えたら早々に店を後にした。隣接する若林商店のおばちゃんにもお礼と挨拶をして、早朝からお世話になった「かろいち」を後にした。港に沿って伸びる道をバス停目指して歩いていると、遠くに見えるバス停にまさに今、バスが到着しようとしている。バスも列車も本数が少ない山陰路の旅、これを逃しては大変、と食後の全力ダッシュで何とか飛び乗った。これから今夜泊まる境港までは、列車やバスを乗り継いで3時間ほど。のんびり列車に揺られ、またこの調子で乗り換えのたびに突っ走っていれば、晩飯までに胃袋の準備が万端整うこと、間違いなしかも。(2006年9月24日食記)