ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん25…弘前で食べた「けの汁」は、優雅なねぷたに似た優しい味 

2005年12月27日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 五所川原に泊まった後は2日かけて、バスで津軽半島をぐるりと1周。小泊のイカや十三湖のシジミ(←後日「続・魚どころの特上ごはん」で紹介予定)など、日本海や津軽海峡の海の幸を存分に堪能した。再び五所川原へ戻った後は、五能線のローカル列車で津軽藩の城下町である弘前へ。一説によると、青森と五所川原、弘前のねぶたは「青森3大ねぶた」と言われ、弘前城を中心に武家屋敷や洋館が点在するこの町も「弘前ねぷた」が催されることで知られる。駅に着いたらさっそく、灯籠が展示されている「津軽藩ねぷた村」へ。規模では屈指の青森、高さ自慢の人形灯籠の五所川原に対して、ここのねぷた祭はどんなスタイルなのだろうか。

 入り口を入ってすぐの「ねぷたの館」と称されたホールに入ると、暗い館内にぼんやり灯りが灯った数台の灯籠が目に入る。高さ10メートルほどの扇形の行灯にはそれぞれ、三国志や水滸伝ゆかりの武者絵などが描かれている。大型で凝った造形の青森や五所川原のと比べると、ずいぶん簡素でシンプルな印象だ。この控え目でやや上品なところが、弘前のねぷたの大きな特徴だ。灯籠の姿だけでなく、祭の賑わいも対照的。「ラッセーラー」と賑やかなかけ声ではね回る青森に対し、弘前は「ヤーヤドー」と穏やかな調子に合わせてゆっくりと練り歩くという。ちなみに3大ねぶたはそれぞれ、青森は「凱旋ねぶた」、五所川原は「喧嘩ねぷた」、弘前は「出陣ねぷた」と形容されるとか。弘前のねぷたは勇壮で賑やかな青森のと対照的なため、両方とも訪れる観光客も多いという。

 ねぷたの囃子に使う大太鼓を叩いてみたり、津軽三味線の生演奏を聴いたりしていると、どうにも腹が減ってきた。この日は朝から駆け足で弘前まで移動したため、昼食がまだなのを思い出す。中途半端な時間なので開いている店があるか心配だったが、飲食店が集中する土手町付近の繁華街を歩いていると「菊冨士」という店が暖簾を出しているのを見つけてひと安心。建物は民芸風の作りで、広い店内も木調を生かした内装で落ち着ける。通されたテーブルも大きくゆったり。地元客ほか、見回すと結構旅行客の姿も多いようだ。品書きによると地元の食材を使った創作郷土料理がメインで、近海の魚介を使った一品料理も値段は手頃。しかも地酒も豊富とくれば、ゆっくり昼酒といきたいところだ。パンチの効いた辛みがくせになり、この旅行の間毎晩飲んでいる「じょっぱり」を頼んで、魚介を肴にじっくり一杯といくことにする。

 最初の1品・ホヤ刺しは殻に盛られて出され、ゴツゴツした殻と鮮やかなオレンジ色の身が対照的だ。ツルリといくとシャクシャクした歯ごたえ、くせがなくトロリとした甘みがたっぷりで、「じょっぱり」でぐっと流すとほんのり酸味と苦みが残る。粗野な中に隠れたさりげない上品さが魅力的で、酒飲みにはうれしい肴だ。続いてはハタハタの塩焼き。秋田の有名な地魚だが日本海沿岸で広く水揚げされ、この店のも地元青森の深浦や鰺ヶ沢で揚がったものという。20センチほどと大振りのに箸をつけると、ホロホロと身離れがよい白身からふっとわき上がる甘みに魅了され、これはとまらなくなる。頭からどんどんかじり、ヒレ塩をなめながら白身を味わう。別添えにされた肝のむわっとした濃厚さ、卵のブツブツとした歯ごたえにねっとりした後味がまた酒を誘い、おかげで「じょっぱり」がすっかり空になってしまった。

 追加の酒を頼もうとしたがまだ日が高く、この後もう少し市街を散策するのに酔っぱらってしまっては、と自粛。酔い覚ましを兼ねて汁物を頼もうと品書きを見ると、郷土料理の「けの汁」というのがあったので注文してみた。運ばれてきたスープカップには細かく刻んだ野菜など様々な具がいっぱいで、見たところスープというよりも雑炊のようでもある。「かゆの汁」が語源といわれるこの料理、大根や様々な山菜、凍り豆腐、油揚げなどを細かく刻んで煮て、味噌で味をつけたもの。1月16日の小正月に作って、1年の無病息災を祈りつつ少しずつ食べるのが習わしになっているという。この店のはミツバにワラビ、高野豆腐、ニンジン、大根、ゴボウなどに加え、汁にすりつぶした枝豆がたっぷり。味噌は薄味な分、豆の香ばしい甘みにあふれたほっとする味だ。

 締めくくりのサンマの焼きおにぎりは、ご飯に焼いたサンマが混ぜ込んで握られたものと思ったら、何と焼いたサンマの身でご飯をぐるりと巻き込んである。皮がパリッ、醤油の香りがパッと広がり、焼いたご飯がカリッ、さらに身の厚いサンマのびっしりのった脂がトロリと、様々な味覚が渾然一体となって口の中でほぐれとにかくうまい。程良く「じょっぱり」が回り、お腹も落ち着いたところで店を後に、帰りの夜行列車の出発時間まで弘前城や武家屋敷を巡るか、郊外の大鰐温泉でひとっ風呂浴びるか。それにしても、強烈にしょっぱいホタテ貝焼き味噌に対して、ほんのり優しい甘さのけの汁。五所川原と弘前それぞれで食べた津軽の味は、巨大な「喧嘩ねぷた」と優雅な「出陣ねぷた」とそれぞれイメージが似ているようにも思えてきた。(2004年9月28日食記)