ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん27…名古屋のウナギ料理「ひつまぶし」は、1杯で3度おいしいすぐれもの

2005年12月31日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 初めて訪れた名古屋の町の印象は、極めてコンパクトであること。東京のいろいろな町がぎゅっと凝縮している上、それぞれを徒歩で回れてしまうから楽しい。名古屋駅のJRセントラルタワーズにある「山本屋総本店」で、昼食に味噌煮込みうどんを食べてから地下鉄で移動。ショッピングビルやブティックが集まる渋谷のような町・栄を散策して、浅草とそっくりな観音様の門前町・大須をぶらり。緑あふれる大通公園を経由して名古屋テレビ塔、さらに名古屋の象徴である名古屋城と巡ったところで時計を見ると、そろそろ17時を回ろうとしていた。

 いったん栄にある宿へ戻ることにして、錦3丁目の繁華街を突っ切って進む。ここは庶民的な飲食店や飲み屋に、高級なバーやクラブがごちゃごちゃに集まった、新宿の歌舞伎町と銀座をまぜごぜにした感じのエリアだ。そんな中、まるで時間の流れに取り残されたような古い建物の店を通りかかり足を止める。店頭の品書きによると老舗のウナギ屋らしく、早めの夕食をすませてもいいと思っていたので扉をくぐってみることに。外観同様、店内も落ち着いたたたずまい。入口付近はテーブル席、奥には坪庭をかこむように座敷が設けられ、文字通り「ウナギの寝床」のような間取りだ。品書きによるとうな重などに混じり、名古屋名物の「ひつまぶし」の文字が。思わぬところで名古屋の味に出会えたな、とありがたく注文すると「ウナギはこれから焼きますので、少々お時間を頂きます」とのこと。15~20分ほど待つそうだが、かえって期待がもてる。

 おひつに盛ったご飯に、刻んだウナギの蒲焼きをのせたひつまぶしも、名古屋の伝統的な料理のひとつである。蒲焼きを熱々のご飯の上にドン、とのせた鰻丼や鰻重を食べ慣れている人は、なぜウナギをわざわざ細かく刻んで… と思うかも知れないが、ご飯に混ぜ込むことでウナギやタレの味がよく染みたり、固い皮が刻むことで食べやすくなったりと、普通の鰻丼などとは違った旨さや食感が楽しめるのが身上だ。この店も明治42年から続く、市内屈指のウナギ料理の老舗。もちろんひつまぶしも人気で、宮崎や鹿児島産の養殖ウナギを備長炭でじっくり焼き、細かく刻んでからご飯に混ぜ込む。味の決め手は、ウナギにかける秘伝のタレ。甘さひかえ目の奥行きのある味付けで、ウナギの香ばしさを引き立てている。一説によるとひつまぶしは、この店の3代目が考案したともいわれているとか。

 そんな訳で待つことしばし、ようやく登場した盆には中ぐらいのおひつと薬味の皿、そしてタレが入った小瓶がのり、後からお茶が入った急須も運ばれてきた。味噌煮込みうどんと同様、ひつまぶしにも食べ方に流儀があり、食べ方を変えることで何と、3通りの味わいが楽しめるのだ。お店の人に教わったとおりに、まずは1杯目。うなぎとご飯をそのまま頂くと、ほっこりした身にかなりパリッと香ばしい皮と、ウナギ自身のうまさが際立って味わえる。身を細かく刻んでいる分、蒲焼で食べるよりウナギの味が膨らんでいるようだ。タレはやや甘酸っぱく、自分の好みでかけられるので味を少々濃くしてみる。

 続いて2杯目は、薬味のネギ、ワサビ、海苔などをそえて食べてみる。するとネギをのせるだけで味わいが一変、かなりさっぱりした風味になる。薬味がやや重いタレの味をすっきりさせるため食が進み、2つめの味わい方にしてすっかり気に入ってしまった。そして最後は薬味をのせてからお茶をたっぷりかけ回して、「うな茶漬け」で締めるのが決め手だ。細切れのウナギがたっぷり入っているので、見た目はお茶漬けというよりはウナギ雑炊風。ウナギはしっとり、ご飯にタレと茶のつゆがしみてあっさりと食べやすい。2杯目の食べ方よりさらにさっぱりしているため、タレが多めの方が茶の苦みと合うよう。小瓶のタレを多めに加えると、だし汁で頂く雑炊のようでどんどん進む。

 食べる側がひと手間かけることで、思わぬ味が楽しめる。これが普通の鰻丼・鰻重にない、ひつまぶしの魅力であり楽しさなのだろう。それにしても、一見では鍋焼きうどんや鰻重と大差ないような味噌煮込みうどんにひつまぶしだが、伝統の調理方法やこの地ならではの味付け、さらに食べ方など、名古屋の文化や流儀に触れることができるのも面白い。ひととおりの食べ方を試したが、ご飯は3つの食べ方をもう1巡できそうなぐらい残っている。「流儀はありますが、好みでお好きなのをお召し上がり一番です」と笑うご主人に従い、残りはお気に入りの薬味だけバージョンを3連続で頂くとするか。(2003年11月28日食記)

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 …という訳で、ことしの8月から始めたこのブログ。おかげさまで毎日ご覧頂く方もだんだん増えてきたようで、大変感謝しております。来年も東京や横浜周辺から全国各地まで、ニッポンのおもしろいごはんを様々とりあげていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。なお当ブログ、年頭は元旦から営業開始予定ですが、筆者の正月気分の盛り上がり方次第で若干遅れる可能性もありますのでご了承ください(笑)。

 それでは皆様、どうぞよいお年を。