ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん20…山の精気がみなぎる 群馬県上野村・やまびこ荘で地の山の幸づくし

2005年12月14日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 群馬県の最西南端に位置する山村、上野村の視察は、まずは地元でとれた新そばに舌鼓を打つことからスタートした。食後は延長2.2キロと関東最長の鍾乳洞「不二洞」や、滝の沢にかかる高さ90メートルの大吊り橋、上野スカイブリッジなどを散策。秋の日は短く、最後に日航機墜落事故の犠牲者を慰霊する祈りの丘を訪問したころにはすでに、谷間を囲む山々の向こうに日は没していた。

 次第に薄暗くなる山道を、行きに走ってきた湯の沢トンネル付近まで引き返し、トンネル口から分かれて細い山道をさらに登ったところがこの日の宿、国民宿舎やまびこ荘である。村に2軒ある公共の宿のひとつで、平成13年にリニューアルされ、木をふんだんに使った和の雰囲気を生かした宿となった。一歩中へ入るとウッディーな内装に、ほんのり漂う木の香りがいい。吹き抜けのロビーを見下ろすように客室が配置され、広々した雰囲気である。夕食まで時間があったのでさっそくひとっ風呂、浴室には塩ノ沢温泉が引かれており、内風呂と露天風呂を行ったり来たりを繰り返す。保温効果がある湯で、冷え込む夜にはありがたい。

 風呂から上がり、地元の観光関連の方々との懇親会が行われる広間へと足を運ぶと、卓の上にはすでにキノコや川魚、こんにゃくなど山の味覚を生かした料理がズラリと並ぶ。宿の方の話によると、料理はほぼ地元の食材を使用しており、「地産地消」の山の味を出しているとのこと。乾杯の後、前菜の岩茸ゴマ和えを肴にまずは一杯。岩茸は高所の岩に自生するキノコの一種で、収穫が少ない上とる人が高齢で減っており、今では貴重な品という。キクラゲのようにシャキシャキしていて、味も香りも控えめながら澄みきった高貴な味だ。

 そして産地だけに、こんにゃく料理は炒りこんにゃくと刺身こんにゃくの2品が並ぶ。造りは下仁田産の白いこんにゃくを使ってあり、歯ごたえがむちむち、ざらっとした食感でまるで厚手のフグ刺しのよう。ほんのりと甘みがあり、なかなか食べ応えがある。下仁田が日本一のこんにゃく芋の産地として知られる一方、ここ上野村でもこんにゃく芋をつくっており、地元産の芋を素材にしたこんにゃくづくりが盛んだ。山間部で平地が少ない上、土地がやせているため古くからあまり米がつくれず、お昼に頂いたそばをはじめ麦やこんにゃくの栽培がむしろ盛んだったという。米がつくれないということは、酒造りもあまり盛んでないらしく、さっきから頂いている日本酒「御巣鷹山」も名前からして地酒かと思ったら、蔵元は地元でなく利根郡川場の蔵元だった。

 こんにゃく料理で地酒? がいくらか進んだところで、味噌仕立てのイノブタ鍋の小鍋が運ばれてきた。グツグツ煮えた味噌の中に、肉や野菜がたっぷり入り、見るからに体が暖まりそうだ。イノブタも上野村の特産で、名の通りイノシシの雄と豚の雌の交配種。肉は柔らかく適度な脂肪がついたさっぱり味、さらに豚肉よりタンパク質が豊富で脂肪が半分と、健康にいい食材である。口にすると豚肉よりしっとりと柔らかく、脂も肉もトロリと甘い。これを穀物風の甘みとコクが強い味噌が、しっかり支えている。味噌ももちろん上野村産、この地の気候を生かしてじっくり寝かせた天然醸造の麦味噌だ。素材となる麦もまた、古くから米の代わりに主食や保存食とされてきたもので、味噌もその麦を使って各家庭でつくられていたという。「十石味噌」という名はかつて、峠を越えて長野県の佐久地方から、米が1日十石(約1500キロ)運ばれてきた史実が由来。今ではJA上野村十石みそ工場が、厳選した大豆と大麦を素材にして製造しており、こんにゃく同様に村の重要な産品のひとつとなっているようである。

 さらにきのこホイル焼きのマイタケ、シイタケもまた、上野村きのこセンター産で栽培した地場産の食材。地元では「十石まいたけ」「十石しいたけ」と称し、肉厚で香りが鮮烈なのが特徴だ。特にシイタケは瑞々しく歯ごたえがシャクシャクで、スーパーの物とは別物の味わいである。山の味覚をすっかり堪能したら、締めはやっぱりそば… でなくうどんが運ばれてきた。上州は肥沃な土壌と雨が多く地下水が多いことから、古くから小麦の産地として知られる。よってうどんも特産だが、このあたりではそばに比べるとハレの場に用いる料理という。「おきりこみ」と呼ばれる地元の田舎うどんより太めで腰がありやや上品、薄口のつゆが料理の締めくくりにはぴったりだ。上野村の食材づくしの料理を平らげ、食後は再び温泉へ。体の中から外から、山の精気を存分にとりいれていくとしよう(2005年11月13日食記)