ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん21…三田の「高級立ち食いそば」は、石臼挽き粉でフレンチテイスト?

2005年12月16日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 10月末には北海道を食べ歩き、11月に入ると群馬の上野村を訪れ、この後はさらに茨城県日立市の魚の取材も控えている。各地へ出かける機会が多いのは結構なことだが、旅費がかさむと普段の食生活の予算に大きく影響するのが厳しいところ。この日も銀座に用事があるが、財布の寂しい中身からして、とても銀座で優雅にお昼ご飯とはいかなそうだ。という訳で、ちょっと手前の三田駅で途中下車。慶応大学の学生街だから、何か割安でおいしいものが見つかるかも知れない。

 駅を出て左に折れるとすぐ、その名もズバリ「慶応仲通り」という細い商店街へと入っていく。ラーメンに中華や焼肉、チェーンのチャンポンや定食屋など、思った通り庶民的な雰囲気の飲食店が軒を連ねていてひと安心。串カツや一杯飲み屋にもひかれるがここは自粛、再訪を心に決めて店を一巡した結果、三田駅からの道を左に折れた角で「そば」の暖簾を見かけたので、無難なところで立ち食いそば屋に決めることにした。ひき返してみたところ、白い壁の上に赤いテントが貼られた外観は立ち食いそば屋にしては独特のたたずまい。「ala 麓屋」という店名も合わせて、まるでフレンチのビストロやブラッスリーのようである。そして店頭のメニューや看板には「高級立ち食い」「インターネット立ち食いそばランキングナンバーワンのそば」といった文字も。かなり自信ありげなところが、何とも興味深い。

 そんな自己主張の強い外観に対し、店内はカウンター中心で小さなテーブル席が数客並び、見た感じは駅などの立ち食いそば屋と変わらないよう。さて何を頼もうか、と壁に貼られた品書きを見ると、豊富なトッピングが揃いどれにするか迷ってしまう。ワカメと水菜の「サラリ」、揚げ玉に卵の「どん兵衛」、とろろに生卵の「トロロ元気」など、ネーミングもユニークで楽しい。それらに並び、「蕎麦のペペロンチーノ」「フランス産鴨肉使用の鴨南蛮」とのメニューを見てビックリ。というのもこの店、何とフレンチ経験のあるシェフがやっている立ち食いそばの店なのである。ペペロンチーノはニンニクに大葉、唐辛子にオリーブオイルを使用、鴨南蛮の鴨はフランスの高級食肉鴨であるバルバリー種を使うなど、フレンチの技法や食材を生かしつつ遊び心があふれている。とはいえ一見でいきなり頼む勇気はちょっとなかったので、オーソドックスな普通のメニューから選んだのは、ややボリュームがある「コテリ」。ネーミング通りのこってり味だ。

 フレンチ風のそばだけでなく普通のそばにもこだわりが見られ、そばはゆで置きをせずに注文を受けてからゆで始め、天ぷらなども注文ごとに揚げたり調理するなど、しっかり手間暇をかけている。その分、できるまで少々時間が掛かるがこれはご愛敬か。数分待った後、カウンター越しに渡された丼には、やや黒っぽいそばに揚げ玉、ワカメなど具だくさん。ゆで玉子ではなく味付け煮玉子、さらにチャーシューがのっているのが珍しく、何だかラーメンのようでもある。窓際のテーブル席へ座り、まずひとすすり。するとしっとりとした舌触りにシャッキリした腰、薫り高い風味と、これは立ち食いそばの範疇を越えた本格的そばである。木曽御嶽山の麓に広がる信州・開田高原産のそばを、石臼で挽いた粉で打っただけあり、滑らかさと腰の強さ両方兼ね備えているのが身上。たっぷりの揚げ玉や、しっとり、ほろりと柔らかな味わいの自家製チャーシューに負けず、そばの香りも存分に楽しめるのがいい。

 料理のつくりはしっかりしていても、値段の方は立ち食いそばレベルで、わずか500円ちょっとなのも懐が寂しいときにはありがたい限り。今度はぜひ、最高値メニューのフランス産鴨肉を使った鴨南蛮、鴨せいろを頂こうと、小銭だけで支払いを済ませて店を後にする。ところで「インターネット立ち食いそばランキング」については、調べたものの分からずじまい。それはどうあれ、店頭の看板に偽りない実力であることは確かである。(2005年11月25日食記)