ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん18…どこまでいってもひたすら納豆・水戸の納豆料理は素材を喰う料理

2005年12月08日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 以前、仙台在住の友人に聞いた話によると、「仙台と名古屋、水戸は日本三大ブ○(←表現がきつすぎるので一部伏せます)の産地」といわれているとのこと。すべての土地を訪れた私見では、いずれの土地も○ス(←表現がきつすぎるので一部伏せます)が余所より特に多いとは感じなかった。むしろ仙台では当地出身の女優・鈴木京香に代表されるような、杜の都のイメージの色白仙台美人に多々遭遇したし、名古屋ではハイソなセレブ「名古屋嬢」が、今や全国的に注目されているほどだ。そして水戸は… 。水戸駅に下車したのはちょうど高校の下校時刻で、駅ビルで見かける女の子たちの容姿は可もなく、不可もなくといったたたずまい。東京までわずか1~2時間とベッドタウンともいえる距離なので、ファッションも都会のそれと大差ないようだ。

 この3つの土地はその話題以外にも、食文化に面白い共通点がある。キーワードは「豆」。仙台は「仙台ちゃ豆」と呼ばれる枝豆や、そのつぶし餡「ずんだ」をかけたずんだ餅が名物、名古屋の味噌煮込みうどんや味噌カツに使われる八丁味噌は、大豆が原料の豆味噌。そして水戸で豆を材料とした伝統食といえば納豆だ。いずれも低カロリーで高タンパク、栄養価が高く食物繊維も豊富、だから美容と健康にいいことづくめである。例の俗説はもともと、それぞれの地を納めていた殿様の奥方が見目麗しくなかったため、相対的に美人に見えるようにすべく、城下にさらに見目麗しくない女性ばかり集めたという言い伝えが由縁とのこと。現在の城下の女性方の変貌(?)ぶりは、以後数百年にわたるこうした食生活の影響も少なからずあるのだろうか。

 そんな訳で、水戸の女性の美貌を形成した(??)納豆料理を食てみようと、教えられた専門店「信力」を探して水戸駅南側の駅南通りを歩く。沿道にはカフェやバー、無国籍料理や個室系居酒屋などしゃれた店が立ち並び、一体どんな店なのか期待が高まってくる。ところが水戸市役所から裏路地に入ったところ、古びた外観にぼんやりと店の看板が灯りひっそり立つ店がそれだった。入口から中を覗いたところ、週末の18時過ぎというのに客の姿はまったくない。座敷にひとり座りさっそく品書きを広げると、納豆料理はほとんどが950円。3品頼むだけで3000円近くしてしまうので、何を頼むか慎重に悩む。店の仲居に聞くと、これらの料理とは別に3150円のコースがあり、料理4品にご飯と味噌汁がつくとのこと。なぜメニューに書いていないのか不思議だが、単品で頼むよりも値頃感があるのでこれにすることにした。

 この店、ネットのグルメサイトでは「水戸の名物である納豆を、主人が『試行錯誤の末に料理に完成』」などと紹介されているが、ほとんどの料理が納豆ほぼそのままといった感じで、極めてシンプルである。まず運ばれてきた唐揚げ納豆は、揚げたて熱々を塩で頂く。熱を加えたせいか粘りはなく、まるで節分の豆のように香ばしくサクサク、中はふかふか。糸の部分は甘みを感じ、納豆の独特の旨味というか臭みが倍増しているよう。これはビールには合う。続くたたき納豆は、薬味を混ぜて練っただけの納豆に、サザエとのりがちょこんとのったもの。どこが「たたき」なのか分からないが、強いてアジのそれとの共通点を探すと、薬味がショウガとワケギであることか。いわばイカ納豆のサザエ版というか、アジのたたきのサザエ納豆版というか。醤油をかけて混ぜるとぐっと粘りが出て、揚げ物を食べたあとは幾分すっきりとするが、いくらかのったサザエを食べてしまうと普通の納豆である。一緒に出された山かけ納豆は、うずら卵がのったとろろの下に納豆とマグロぶつ… など他の食材はなく、これまた練った納豆のみ。

 ここまででスーパーの「おかめ納豆」に換算すれば、軽く3~4パックはいっている。スタミナはつきそうだが、まんまの納豆が続きビールのつまみには少々つらい。コース最後となる納豆の天ぷらと、まだビールを飲んでいるのにご飯と味噌汁も並べてしまうと、板前も仲居の女性も奥へ引っ込んでしまった。広く薄暗い店内でひとり黙々、ひき続き納豆料理を食う。納豆の天ぷらは外はカリッ、中はジューシーというか納豆そのままで、唐揚げと違って粘りがあり糸をひく不思議な天ぷらだ。半分はご飯にのせてお茶をかけ「天茶」にしたが、あえなく2口でダウン。ヘルシーな納豆とはいえ、コースの中に唐揚げと天ぷらと2つ揚げ物があると少々ヘビーだ。締めの味噌汁も予想通り、納豆汁。

 納豆という素材の持ち味一本勝負といった料理の数々のおかげで、確かに体、とくにお腹の調子はいいようだ。この後の飲み歩きにもかえって都合が良かったな、とお愛想してもらってびっくり! 3000円台で余裕で収まったつもりのはずが、ビール中ビン1本とこれまた納豆と漬け物を和えただけの突き出しで、合わせて1000円以上も余計にとっている。そしらぬ顔して涼しげに笑う仲居、見目は例の俗説ほどでない水戸の女性だが、一方で心中はこんな?(2005年11月27日食記)