日立駅前に近いホテルから懇親会の会場へクルマで向かう途中、車窓に大きなデパートや、居酒屋やカラオケボックスなどが並ぶ繁華街を見かけた。昼間は海岸線に沿って直売所や漁港などを回っていたため、日立は静かな漁業の町という印象をもったが、市街の中心部は広い道路や整然とした町並みが広がっていて、まるで東京近郊のちょっとした町ぐらいに開けていたのに驚く。人口20万人は三鷹市よりやや多いぐらいで、日立製作所の事業所がフル稼働していた頃は、就業後の工場労働者が町へと毎晩繰り出したりと、今以上に活気にあふれていたのだろう。
ホテルからクルマで10分ほど、日立銀座通りにある割烹「まんぼう」がこの日の懇親会場である。日立市で水揚げされた魚介をはじめ、地の食材を生かした料理に定評があり、週変わりの「板長おまかせコース」など、品数が豊富でリーズナブルなため地元客の評判も高い。この日は「久慈浜の海の幸彩々」と題して、料理には先ほど見学した、日立市でトップの水揚げを誇る沖合底曳き網船の基地・久慈漁港直送の魚介を使用。しかも同席する漁師の小泉さんが操業する底曳き網船「大昭丸」が漁獲したものばかりという趣向だ。大洗出身で親が漁師と、こちらも常陸沖の魚を熟知している関根板長によると、「素材をそのまま生かすことを意識していますが、この日は中華風や洋風など普段ない料理にもチャレンジしています」とのこと。出てくる魚介はサクラダコ、ボタンエビ、ツブ貝やドンコ、特に冬場のアンコウは絶品だそうで、鍋をはじめ数品の料理が予定されているというから楽しみである。
品書きを見ると、先付けと酒菜にはアンコウ友酢とアンキモ蒸し、造りにはアンコウ昆布締めなど、興味がどうしてもアンコウに行きがちだ。だが底曳き網漁の漁獲は「混獲」と呼ばれ、特定の魚種を狙うのではなく多種多彩な獲物がかかるだけあり、卓上には日立を代表する魚が他にもずらりと勢揃い。日立市の魚、サクラダコの燻製の小片を、先ほど久慈漁港で見た15キロほどの大ダコを思い出しつつ口にすると、小さいのにタコの旨味の塊のよう。燻された香ばしい香りがかみしめるごとにバッと広がり、しばらく消えずに残るほどで、これはタコのハムだ。ドレッシングとナッツが欧風料理風の「つぶ貝イタリアン風」、小魚ながら濃厚な白身の味をウニが支える「目光(メヒカリ)うに干し」、雑魚「ギス」のつみれを上品にクリーム仕立てにして、たっぷりの旨味をひき出した「ダボキスつみれシチュー椀仕立て」と、素材の持ち味をひき立てた創作料理が続き飽きることがない。メヒカリは最近でこそ唐揚げなど人気が出てきたが、かつては値がつかず畑の肥料にするような魚だった。またギスは現在も商品価値がほとんどないそうで、売れないから漁師だけが食べている雑魚こそホントはウマい、という典型的な例である。
続いて造りだが登場したのは水を張った鉢で、中にはボタンエビが元気に動いているではないか。活きたままどうぞ、と勧められ一瞬驚くが、さっき久慈漁港で水揚げ直後の跳ねているヤツを食べたから、慣れた顔して頭をひねり、コクのあるミソ、プチプチの緑の卵の順にすする。殻をむき足を外すときに激しくビクッ、慣れたつもりがビックリしてしまう。底曳き網を曳く深度の関係で、周辺では久慈漁港でしか水揚げされない貴重な魚介で、活きたまま頂けるのも漁港が近いからこそ。口に放ると舌触りがひんやり、活けで身が締まっているから歯応えがざっくり、混じりけのない澄んだ甘みが高貴な味だ。何とも豪快な造りに続いては、氷を敷いた涼しげなガラス鉢に、これまた涼感あふれる白身が数品盛られている。うち「桜蛸造り」は純白の身と吸盤が並び、500円玉ほどある吸盤から頂くと歯応えがバリバリ、野菜のような香りが独特だ。
目鯛の茶漬けでひと息入れると、ここからは板長の腕が冴える個性的な料理が続く。焼き物はあぶったアナゴを卯の花にのせサンショウの餡をかけた「穴子博多卯の花」。肉厚のアナゴが卯の花のおかげで、力強い香ばしさがうれしい。蒸し物は「どんこ酒蒸しチリソースかけ」。ドンコは茨城近海の深海100~300メートルに棲息する、大きな口に飛び出た目とユニークな外見の魚で、鮮度落ちが早いため水揚げ地でしか食べられない正真正銘の「地魚」だ。ややねっとりした食感の白身は濃厚なチリソースに負けておらず、中華のコースの一品としても遜色ない。揚げ物はアナゴの磯辺揚げ。アナゴの下ごしらえに手間をかけており、さっきの博多卯の花と同様に口の中ではじけるインパクトある味が、食欲をいっそうそそってくれる。
かなりの料理を頂いたが、続いていよいよ主役のアンコウ鍋の出番だ。でもここまで読んで頂いたところで結構お腹いっぱいになった? と思うので、アンコウ鍋を始め、アンコウ料理は次回にまとめて紹介します…。(2005年11月26日食記)
ホテルからクルマで10分ほど、日立銀座通りにある割烹「まんぼう」がこの日の懇親会場である。日立市で水揚げされた魚介をはじめ、地の食材を生かした料理に定評があり、週変わりの「板長おまかせコース」など、品数が豊富でリーズナブルなため地元客の評判も高い。この日は「久慈浜の海の幸彩々」と題して、料理には先ほど見学した、日立市でトップの水揚げを誇る沖合底曳き網船の基地・久慈漁港直送の魚介を使用。しかも同席する漁師の小泉さんが操業する底曳き網船「大昭丸」が漁獲したものばかりという趣向だ。大洗出身で親が漁師と、こちらも常陸沖の魚を熟知している関根板長によると、「素材をそのまま生かすことを意識していますが、この日は中華風や洋風など普段ない料理にもチャレンジしています」とのこと。出てくる魚介はサクラダコ、ボタンエビ、ツブ貝やドンコ、特に冬場のアンコウは絶品だそうで、鍋をはじめ数品の料理が予定されているというから楽しみである。
品書きを見ると、先付けと酒菜にはアンコウ友酢とアンキモ蒸し、造りにはアンコウ昆布締めなど、興味がどうしてもアンコウに行きがちだ。だが底曳き網漁の漁獲は「混獲」と呼ばれ、特定の魚種を狙うのではなく多種多彩な獲物がかかるだけあり、卓上には日立を代表する魚が他にもずらりと勢揃い。日立市の魚、サクラダコの燻製の小片を、先ほど久慈漁港で見た15キロほどの大ダコを思い出しつつ口にすると、小さいのにタコの旨味の塊のよう。燻された香ばしい香りがかみしめるごとにバッと広がり、しばらく消えずに残るほどで、これはタコのハムだ。ドレッシングとナッツが欧風料理風の「つぶ貝イタリアン風」、小魚ながら濃厚な白身の味をウニが支える「目光(メヒカリ)うに干し」、雑魚「ギス」のつみれを上品にクリーム仕立てにして、たっぷりの旨味をひき出した「ダボキスつみれシチュー椀仕立て」と、素材の持ち味をひき立てた創作料理が続き飽きることがない。メヒカリは最近でこそ唐揚げなど人気が出てきたが、かつては値がつかず畑の肥料にするような魚だった。またギスは現在も商品価値がほとんどないそうで、売れないから漁師だけが食べている雑魚こそホントはウマい、という典型的な例である。
続いて造りだが登場したのは水を張った鉢で、中にはボタンエビが元気に動いているではないか。活きたままどうぞ、と勧められ一瞬驚くが、さっき久慈漁港で水揚げ直後の跳ねているヤツを食べたから、慣れた顔して頭をひねり、コクのあるミソ、プチプチの緑の卵の順にすする。殻をむき足を外すときに激しくビクッ、慣れたつもりがビックリしてしまう。底曳き網を曳く深度の関係で、周辺では久慈漁港でしか水揚げされない貴重な魚介で、活きたまま頂けるのも漁港が近いからこそ。口に放ると舌触りがひんやり、活けで身が締まっているから歯応えがざっくり、混じりけのない澄んだ甘みが高貴な味だ。何とも豪快な造りに続いては、氷を敷いた涼しげなガラス鉢に、これまた涼感あふれる白身が数品盛られている。うち「桜蛸造り」は純白の身と吸盤が並び、500円玉ほどある吸盤から頂くと歯応えがバリバリ、野菜のような香りが独特だ。
目鯛の茶漬けでひと息入れると、ここからは板長の腕が冴える個性的な料理が続く。焼き物はあぶったアナゴを卯の花にのせサンショウの餡をかけた「穴子博多卯の花」。肉厚のアナゴが卯の花のおかげで、力強い香ばしさがうれしい。蒸し物は「どんこ酒蒸しチリソースかけ」。ドンコは茨城近海の深海100~300メートルに棲息する、大きな口に飛び出た目とユニークな外見の魚で、鮮度落ちが早いため水揚げ地でしか食べられない正真正銘の「地魚」だ。ややねっとりした食感の白身は濃厚なチリソースに負けておらず、中華のコースの一品としても遜色ない。揚げ物はアナゴの磯辺揚げ。アナゴの下ごしらえに手間をかけており、さっきの博多卯の花と同様に口の中ではじけるインパクトある味が、食欲をいっそうそそってくれる。
かなりの料理を頂いたが、続いていよいよ主役のアンコウ鍋の出番だ。でもここまで読んで頂いたところで結構お腹いっぱいになった? と思うので、アンコウ鍋を始め、アンコウ料理は次回にまとめて紹介します…。(2005年11月26日食記)