ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん24…津軽のねぶたを見た後は、貝焼き味噌で地酒が進む

2005年12月26日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 色とりどりの巨大な灯籠(ねぶた)が、「ラッセーラー」のかけ声ととも巡行する「ねぶた祭り」は、夏の青森を代表する風物詩だ。8月第1週の期間中、青森市街には60万人が訪れ、20台以上のねぶたが市街を練り回る。この祭、実は青森市街のほかにも津軽地方の各地で行われており、一度は生で見てみたいがこの時期はいつも、秋のレジャーシーズン向けの仕事で忙殺されてしまう。今年も仕事が一段落したのは、食の取材シーズンとなった9月。そこで津軽の郷土料理の食べ歩きと一緒に、それぞれの町の「ねぶた(または『ねぷた』)」ゆかりの見どころも巡ってみることにした。

 朝一番の東北新幹線で八戸へ、特急に乗り換えて最初に訪れたのはねぶた祭りの本場・青森駅… では下車せずに通過。弘前の手前でローカル線の五能線に乗り換えて30分。リンゴ畑の向こうに岩木山を眺め揺られているうちに、列車は五所川原駅へと到着した。ここのねぷたは「立ちねぷた」と呼ばれる、武者のひとり立ちの人形灯籠なのが特徴。派手な装飾で横に広い青森ねぶたに対して縦方向、つまり高さを誇っている。駅から徒歩10分ほどのところの、灯籠を展示する「立佞武多の館」を訪れてみると、中には3体の巨大な立佞武多がそびえ立ち圧巻だ。いずれも高さは、何と20メートル以上。エレベーターでまず顔の高さの4階へ行き、そこから螺旋状の順路を下りながら、細部の造りを観察したり、祭りの映像を見たりしていく仕組みなのが面白い。

 この日は五所川原に宿をとり、荷物を置いてひと休みしたらさっそく、津軽の郷土の味で地酒を一杯といきたい。飲食店が集中する川端地区にはこぢんまりしたスナックや小料理が密集しており、どこも地元の馴染み客が静かに飲んでいるという感じ。津軽の玄関口らしく、北の外れでややうら寂しい町といった印象通りの雰囲気だが、寡黙で頑なそうな津軽人(?)に囲まれて飲むのも少々重苦しい。付近をぐるりと一周した結果、商店街にあった「居酒屋北斎」という店が、賑わっていて入りやすそうだ。暖簾をくぐり、店の人の気さくな対応にもホッとしてカウンターに落ち着くと、まずは品書きを検討。日本海や津軽海峡の魚介を始め、この地方の郷土の料理など、一品料理はどれも手ごろな値段なのがありがたい。酒も青森など地元の銘酒を中心に、品揃えがかなり豊富である。

 最初の一杯はこの地方を代表する、弘前・六花酒造の「じょっぱり」を冷やで。そして近くの鯵ヶ沢や津軽半島の小泊で朝とれた、真イカの刺身を合わせてみる。以下は量が多く、歯応えが柔らかだがねっとりした甘みがある。付け合わせが大根の千切りやワカメ、海草などたっぷりなのがうれしい。しっかりした辛口の「じょっぱり」はメリハリのある味わい。イカを肴にとんがった辛みの酒がどんどん進んだ頃、「ホタテ貝焼味噌」が運ばれてきた。中身は熱々で、ホタテの切り身がまだくつくつと煮えている。

 津軽の代表的な郷土料理のひとつであるこの料理は、魚介をネギなどと一緒に味噌で煮たもの、と書くとありがちに聞こえるかも知れないが、面白いのはホタテの貝殻を器がわりに使うところだ。大きめのホタテの貝殻をダシを入れて味噌を溶いて火にかけ、さらに玉子を溶き入れてからホタテやカレイなど魚介、ネギを入れて煮込んだらできあがり。体が温まる上に具だくさんなため、昔は病人や風邪をひいたときの栄養食だったという。使う魚介は様々で、ここのはホタテのぶつ切りがゴロゴロと入っていて豪快だ。ほっこりとした甘みが熱が加わって際立ち、皿が貝殻のせいか貝の風味が増して感じる。ホタテの貝殻は使い込むほど貝から味が出るそうで、器代わりだけでなく味付けにも一役買っているようである。味噌とのからみもなかなかいいが、寒い地方だからか味噌は塩分が多めで、つゆだけ頂くと相当しょっぱい。おかげでのどが渇くから酒がすすみ、こんどは青森の西田酒造店の「田酒」を追加。「田んぼの恵みを磨いた酒」と注釈があるだけに、米の旨みが引き出された酒で、薄緑色でまろやかに甘く、後口がすっとすっきり心地よい。

 辛目の味噌のおかげでかなり「田酒」が進んでしまったので、後はナメタガレイの煮つけでおにぎりを頂いて締めくくりとなった。宿へ向かって商店街を歩きながら、昼間に見た立ちねぷたの大きさを思い出してみる。祭のシーズンには間に合わなかったが、地酒が進む熱々の貝焼き味噌に出会えたのは、9月というのに夜はもう肌寒いこの土地の旅ならでは。そのせいで酔いが回ったからか、頭に浮かんだねぷたの姿は、狭い通りの正面に山のごとく立ちはだかる大迫力…。(2004年9月26日食記)