ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん26…2005年の元気な町 名古屋・山本屋の味噌煮込みうどんを高層ビルで

2005年12月30日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 2005年も残すところあと1日。ことし全国各地の中で最も話題になったのは、何といっても名古屋でしょう。愛知万博は大盛況、トヨタを業績好調と地域経済は元気いっぱい、さらにみそかつやきしめんといった名古屋フード、巻き髪にブランド服の「名古屋嬢」といった名古屋文化が全国に話題を提供するなど、不況からいまひとつ抜け出せず元気のない日本に、明るい話題と活力を与えてくれたのではないでしょうか。そんな名古屋に敬意を表し、今日明日と名古屋ごはんを2連続で今年を締めくくることにします。

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 2005年の春から行われる一大イベント・愛知万博に合わせて、名古屋のガイドブックをつくることになった。とはいえ実はほとんど名古屋の町を歩いたことがなく、思い浮かぶのは、名古屋城にエビフライ、中日ドラゴンズにあとは… という程度と頼りない。万博を見に来た人向けの情報誌なら、ポイントは万博見学後の「食べ歩き」だ。東京と大阪の中間に位置するため、両方の特徴をとりいれた独特の食文化は、遠方から名古屋を訪れる人にとってインパクトがあること間違いなし。さらに味噌をふんだんに使った濃厚な味付けや型破りの奇抜な調理法、またゆで卵やサラダほかたくさんのおまけを競う「名古屋モーニング」など、名古屋の味はどこかエンターテイメント性も兼ね備えているよう。予備知識はイマイチな分、滞在中は精力的に食べ歩くことで、せいぜい名古屋への理解を深めることにしよう。

 新幹線で名古屋駅に到着して、駅に隣接するJRセントラルタワーズの51階にある「パノラマハウス」から市街の展望を楽しんだら、最初に頂く名古屋の味「味噌煮込みうどん」の店を目指してエレベーターで13階へ。「タワーズプラザ」という飲食店街の一角に、目指す「山本屋総本店」の暖簾を見つけた。創業は大正14年、名古屋屈指の味噌煮込みうどんの老舗で、名古屋や岐阜を中心に10数軒の店を構えている。ここタワーズ店は高層ビルのしゃれた雰囲気のフードコートにありながら、店頭には白の文字で屋号が染め抜かれた緑の暖簾がひる返り、栄の本店を彷彿とさせるたたずまいだ。

 まだ開店して間もないため、空いた店内のテーブル席について品書きを見ると、基本となるのは3種とシンプルだ。普通煮込みに玉子入り、鶏肉と玉子が入った親子煮込みと、順に具がグレードアップするようで、人気はネギ、ごぼう、油揚げ、かまぼこの具に卵と鳥肉入りの「親子煮込み」。1人前と1.5人前があり、1人前を注文すると「ご飯はどうしましょうか?」と店の人に勧められる。別料金だが、煮込みうどんをおかずにしてご飯を食べるのが地元のスタイルらしく、ものは試しと頼んでみることにした。

 今や名古屋の味の知名度ベスト3にランキングされる味噌煮込みうどんはそもそも、尾張地方の郷土料理がルーツとされている。野菜やうどんをみそ汁に入れて煮込んだもので、その名もズバリ「ごった煮」。入れるうどんはゆでたものでなく、生の状態から煮込むのが特徴で、そのため粉と水だけを使って固めに仕上げ、さらに太めに切るなど、普通のうどんに比べてかなり頑丈に仕上がっている。この店の麺も厳選された小麦粉と水で手打ちしており、腰の強さが強烈。ガンガン煮込んでも伸びたり煮くずれたりしないから、運ばれてきた信楽焼の土鍋はまだグツグツ、ボコボコやっているほどだ。

 備え付けの紙エプロンをつけながら食べ方を教わったところ、ふたを取り皿がわりにして頂くとのこと。味噌煮込みうどんはふたをしないで煮込むため、ふたに空気の穴がないのでそうできるのだが、ならなぜふたがいるのだろう? 少々悩みながら、太い麺をとりやすいよう角がしっかりした箸で数本の麺を皿、でなくふたにするりととってからひとすすり。えらく固く、パキパキしないギリギリの腰の強さという感じで、「アルデンテ」という客がいたが芯だけでなく全体が固く、食べ進めていると少々あごがしんどくなってくる。

 そして味の決め手はやはり、名古屋の食文化を支える味噌だ。これをカツオなどからとったダシをベースにした澄んだ汁に加えるのだが、味の秘訣は2種類の味噌をバランス良く調合しているところにある。3年間天然熟成した岡崎特産の八丁味噌に加え、名古屋産の白味噌を合わせており、その割合は創業以来受け継ぐ秘伝中の秘伝。もちろん化学調味料や添加物は全く使っていない。味噌のおかげで見た目は真っ茶色に近いが、食べてみると色ほど辛くなく渋みがほんのり、八丁味噌の辛さと白味噌の甘さが程良い加減で食欲をそそる。

 しばらく食べ進めると熱さが落ち着いたので、途中からは鍋からそのまま頂く。麺は食べ進めてものびずに固いままで、後半は味噌がやや甘酸っぱくなってきた。味覚を変えようと、ここで薬味をパッ。店の名物でもある、60センチもある竹筒の巨大薬味入れには七味、一味が半々入っていて、比べると一味の方が味が締まるよう。ご飯も地元の流儀に倣い、上に半熟卵をのせてつゆをかけるとこれもなかなか、通は何とご飯もふたに盛って、その上から味噌のつゆをかけて頂くのだとか。

 店を出る頃には昼時になっていて、店頭には行列ができている。このビルは今や名古屋屈指のデートスポットで、フロアには無国籍やエスニックなど若者好みの店が結構あるにもかかわらず、行列にカップルの姿もちらほら。大阪ではナンパの決まり文句で「うどん食べにいかへん?」というとか言わないとか。名古屋ではデートのランチに味噌煮込み、がスタンダードなのだろうか。(2003年11月28日食記)