暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

たそがれの夢

2011-03-25 | 
透き通った海に
大きな魚が泳いでいる
平穏という言葉を彼らは知らないように
わたしたちもまた彼らの平穏が
何たるかを知りはしない

透き通った海に
真っ黒な塊が浮かんでいる
波打ち際でゆうらり揺れているそれは
あるいは子も親も忘れ
かつて細胞を蘇らせていたものたち

触れてはいけないよ
人ならざるものになりたくなければ
街の丘に住む異様な彼ら
彼らのしもべになりたくないのなら

たそがれが永遠に続くここで
海は鮮やかに色を映している
人々は砂浜に座り込み
平穏な魚たちと
死した同朋とを眺めている
接地から徐々に毒を染み込ませながら
生と死の間でゆらめくおのれを
眺めている

流れ着いたものが鋭利な刃物でも
わたしは彼らに手をかけられない
たとえわたしは海風を吸い込み続けて
腐りながら死んでしまうとしても
たとえ彼らが丘の上で
清涼な空気を吸い続けたとしても

そうわたしは殺せない
善と悪の仕組みが変わったなら
境界さえもがなくなってしまったなら
魚さえも仲間さえも
敵でさえ羨むべきあたらしい人ならば

透き通った海が囁いている
染み込んだ光にのたうち回り
魚たちは優しくまどろんでいる
黒くなった足先を見つめるわたしは
きっといずれ海に帰るのだろう

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