暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

呪うことでしか生きられない

2019-06-04 | 心から
かつて私のいた海は広大で荒れていた
墨を流したそこには文字で溢れ
ただただ私は流され続け溺れ続けた
僅かな凪で息継ぎをすれば
すぐに潮は足首を攫った
いつしか私は海亀のように
嵐が過ぎるのをじっと待つようになった

私は変わったのだと言いたかった
成長してから見た私の海は
思っていたよりずっと浅く
猫の額のプールの中で
極わずかな文字たちが踊っていたのだ
時折流されることはあっても
泳ぎ方を いなし方を
覚えた私は海流に揉まれながら
目前の水面を茫洋と眺めていられた

私の海で暴れる文字は
陸を荒らすそれらよりもずっと少ない
顔を出した先の世界を見なければ
考えもしないことだったろう

あの頃の幼い私ではないのだと
私は大きな声で言いたかった
そのために私はこれを書いていた
乏しい語彙からつまんだ一行
きっと明るい結末を
ぼんやりと思い描きながら閉じた一行

浅いと思っていたこの海は
どうやら凍っていたらしいのだ
薄氷を割った底の底から
同じ顔をした私が私の足首を掴む
久方ぶりの時化が訪れようとしている
白波はうねり文字は飛び跳ね
また水面が遠ざかった
次に上がるのは昔よりは早いだろう
容易く息継ぎできるほどには
すぐに氷も張り直される
容易く歩いて渡れるほどには
けれどいつかまた割れる
きっといつかまた荒れる
置いてきた私の海亀が
いつしか泥になる時までは

痛くても殴る

2018-03-08 | 心から
腕が痛む
ああそうだ、びりびりと
神経繊維を依り代にして
縦横無尽に根を生やされたようだ
私の腕ではない、もはや
この腕はそいつのものであり
痛みとともに振り上げられた手のひらを
ぱきぽきと音をたてしなる腕の鞭を
見当違いに曲がる節くれだった枝の指を
どうか私のものと思ってくれるな
私ではない、このような腕など
そうだろう
だから仕方ないのだ
仕方のないことなのだ

残酷な人

2017-10-05 | 心から
人の嫌がることをするなと言うので、
自分が嫌なことを人にするなと言うので、
嫌な仕打ちを受けても受けても、
にこにこと過ごしてきた次第です。
しかし腹の底はざわざわとして、
ああ、なんといやなにんげんか、
どうにか仕返しをしたい、
どうにか不快さを伝えたいと感じるのです。

ある時、不快だと伝えましたが、
ごめんねと軽く笑われただけで、
結局のところ不快さの本質は理解されず、
「伝えたのに」という不快さが更に堆積するばかりでした。
ある時は、冗談交じりに揶揄しましたが、
彼女は泣いてしまい、
むしろこちらが悪者であるかのように、
非難されてしまいました。

ならばと、切々と説明をしましたが、
納得するのはその場だけ、
その事象ひとつだけで、
本質を見据えてくれることはありません。
ええ、ええ、わかっています、
たいそうな説教などできる身分でないことは。
衝突を避け、発展的な対話をし、
平和的に摩擦を減らしたいのです。

おのれの技量を嘆くべきでしょう、
しかし近頃は希望を抱くことも馬鹿馬鹿しく、
そして人とは、おのれが体験しなければ、
共感を得にくいいきもののようなのです。
ならばやり返すしかないのでしょう、
無神経さには無神経さを、
優越感には優越感を、
激昂する相手に向かって言い放つのです、
いつもあなたがしていることだと。

人の嫌がることをするなと言います、
自分が嫌なことを人にするなと言います、
誰もそれを守ってはおりません、
信号は誰もが無視して過ぎます。
なぜ守らねばならないのですか、
なぜ守らねばならないのですか。
言い聞かせながらも、わたしはなお、
にこにこと過ごしてしまうのです。

ああ、ああ、なぜあなたは、
そうやって平気で虫を踏み潰すのか。
小さな虫たちも堆積すれば、
深く巨大な憎悪に成り果てていくのです。

憎悪

2017-01-20 | 心から
馬鹿なやつらめ
おのれの発言も忘れ
信条もなく
不安に蓋をし
頭をかすめることもなく
悩める人を怠慢と笑い
あるだけの人を知りもせず
責任を口にするかたわらで
たやすく責務すら放棄し
人のせいにしてばかりで
おのれを省みる時には
鬱だなんだと自慰にふけり
仲間を敵と勘違いし
たやすく殺してのけ
殺したという自覚もなく
漫然と生きる
おまえの無自覚な刃物が
数多の人を殺してきたように
ずぶりと刺してしまおうか、
いや、いや、そんなものでは
馬鹿は治りはしないのだ
持っていると自覚すらしない
無防備なその刃をひっくり返し
足をかけて殺すのだ
無自覚に無自覚に死んでいけ
おまえの骸の上で
わたしは存分に笑ってやろうじゃないか

自慰的交友関係

2016-04-19 | 心から
私はあなたに縛られているけれど
あなたは好きなように振る舞っている

時折憎いとさえ思うのに
現状維持を選択しては
綻んだ布を裂くように
じわじわ開く溝を眺めている

結局は
結局は己の保身のため

私が苦しいと感じたとき
あなたは何をしただろうか
矛盾に私は怒りをおぼえ
怒りはあなたに伝播する

いずれ決壊するのが目に見えて
それでも私は縛られたがる

私は、私は
何にこれをぶつければいいの

騙し騙し生きます

2014-11-28 | 心から
高校の頃に書いた詩では
病巣はまるで根のようだと
腕に張り付き忍び込み
じわじわと蝕んでいくようだと、あった

根には返しのついた棘がある
今のわたしはそう思い描く
架空の血脈を通り道に
あるはずのない心に住み着いて
ぎりぎりと、無益なほど
刺さる

(先生、痛くて痛くて)
わたしは過去の話の数々を思い返す
(我慢しなさい、痛くとも、痛くとも)
それらはまるで夢の中のようだ
(返してください)
力まかせに引き抜こうとすれば
(先生、わたしの脳を)
存在しない血液がほとばしる
(返してください)

子猫は大きくなり
虫は幾多も代替わりをし
小さな芽は巨木になる
時間とはそういうものだと、
わたしは気付くことができないでいた
前向きな意味しか知らずにいた

棘は深くまで、わたしも知らない奥底まで
張り巡らされて呼吸している
しかしわたしは、間違っていた、
過去も、そしてごく最近のわたしも
病巣は外から忍び寄ったのではない
心に密集する根を思えばわかること

もう取り返しなどつかない、最初から
病はわたしの中にあった

慢心の中途

2014-02-10 | 心から
縋り付いて生きていくには
糸はあまりに細すぎる
太く強くさせるためには
草を摘み、糸を撚り、幾重も編まねばならなかった
気付けば年月は重く昏くのし掛り
ぎしぎしと腱は悲鳴をあげて
それでもなおも縋らねば
私は容易く捥がれてしまう
熟れた果実に程遠く
小さく渋く未熟なままで
養分にすらままならない
今なら、明日なら、いつまでならば
草はそこにあるだろう
目先は見えていられるだろう
手を思うままにできるだろう
巨木にそっと寄りかかる
優しき人を恨むより
縄を自由に行き来する
気ままな人を疎むより
脆い糸しか手に持たぬ
私の怠けを嘆かねば
糸はすり減り摩耗して
今にもすぐにも落ちてしまう
大丈夫、まだまだ、大丈夫だと
幼く縋り付いて生きるには
持つものばかりが重さを増した

高所恐怖

2013-05-24 | 心から
遥か高い鉄塔にのぼり
君よ、なぜ遠くを見るのか
落ちてしまえば元も子もない
雲を掴めるはずもない
遠くの灯りを眺めても
君はただ鉄塔の上
私はおそろしいのだ
君が落ちることも
鉄塔が崩れることも
遠くに広がる営みも
君よ、君はおそろしくはないのか
誰かがまばたきをしたその時こそ
足元が裂けてしまうというのに

偽証偽称ひとのため

2013-02-09 | 心から
さまざまなことを取り繕って生き
にも拘らず声高にわたくしは公平ですと嘯いた
あまりにも浅はかだと自覚しながらも
その自覚すら自己憐憫の糧として

ただ
ただひたすらに恐れているのは
今なお憎む血肉の種に
隷従するばかりの愚かしさ

私はいずれぶくぶくと太り
全てを他人のせいにしながらも
浅ましく欲を食らいつくす
片隅では生きるも死ぬも同じことと言いながら
確かにそれを恐れている
同じ轍を恐れている

抗うために確固たるを求め
言い訳ばかりは一級品
これこそまさしく種たる証
芽はとうに割れてきた
後ろ暗ければ止めればいいだけのこと、
しかし自棄が何もかもをだめにする

永らえようとは思わない
美しく生きるつもりもない
ただただ恐ろしさを前にして
追従するのが恥なだけで

開腹すればよく見える
蝿すら食わぬ汚泥のかたまり
しかしガスは己にとどめ
緩やかに首を絞めていくのがささやかな望み
何しろ恐れていることは
聖人を殺すことだけだ
種はもはや芽生えたならば
ひたすら覆いかくすだけだ