最近お気に入りの奥田英朗の小説を読みました。
「最悪」です。
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最悪 (講談社文庫) |
奥田 英朗 | |
講談社 |
町工場の社長、20歳のチンピラ、銀行に勤めるOLの3人の物語が交互に綴られ、大団円に向かって一つの事件に繋がっていくというミステリーです。
この作者、ユーモア小説からミステリーまで、幅広い守備範囲をお持ちで、しかも読みやすい文体で豊かなストーリーを紡ぎだせる稀有な才能をお持ちのようです。
誠に羨ましいかぎりです。
かつて小説家を目指していた私は、長いこと古典以外の小説を読むことが出来ませんでした。
嫉妬してしまうからです。
しかし長い精神障害のトンネルを抜けて、やっと素直に現代の優れた小説を楽しむ心の余裕ができました。
それは多分、諦めなんていう生易しいものではなく、私の人生が精神的に大きな転換を迎えたためだろうと思っています。
精神障害に対する差別はなお根強く、この先職場で出世する見込みはなく、小説家目指して大博打を仕掛けるタイミングはとうに失いました。
客観的には、堅い仕事に就いて、結婚もし、マンションも買いと、望む物は全て手に入れたように見えるかもしれません。
しかし主観的には、私はあらゆる物を失って、わずかに残った物にしがみついて生きているように感じています。
精神の大転換とは、わずかに残った物にしがみつくことに、わずかな幸福を感じるようになったことです。
それはおそらく、私の精神上の防衛機制が働いたためと思います。
そうでなければ、私の精神はとっくに崩壊していたことでしょう。
その危機は何度もあったと言えます。
危機を乗り越えた先の地平に見えたものが、小市民的幸福であったとは、まことに喜劇的なことで、私には笑うことはできず、ただ、嗤うのみです。