昨日は奥田英朗のデビュー作「ウランバーナの森」を読みました。
ウランバーナの森 (講談社文庫) | |
奥田 英朗 | |
講談社 |
ウランバーナとは、サンスクリット語で盂蘭盆会の意味。
明らかにジョン・レノンをモデルにしたと思われる主人公、ジョンとその妻ケイコ、幼い息子ジュニアが、軽井沢の別荘地でひと夏を過ごす幻想的な物語です。
奥田英朗といえば、ユーモア小説からミステリーまで、幅広くエンターテイメントを描く作家のイメージがありましたが、今作は純文学の香り漂う上品なものでした。
ジョンはひどい便秘に悩まされ、医者に通います。
ストレス性だろうということで、途中から精神科に移ります。
軽井沢の森では、靄が立ち込めると、不思議な現象が発現します。
ジョンと関係の深かった死者が、靄の中から現れ、つかの間の逢瀬を楽しむのです。
ジョンは困惑しながらも、関係が良かったとは言えない母親や、ひどい言葉をなげつけて傷つけてしまったマネージャーらに会い、謝罪したりして、癒されていきます。
お盆には死者がこの世に帰ってくるという故事を念頭に置いた物語なのでしょうね。
それは現実に出来したことなのか、精神科医の催眠療法によるものなのか、判然としませんが、ジュニアがジョンの母親からもらったというキャンディが残っているところを見ると、不思議な現象が起きていたようです。
若すぎる晩年、ジョン・レノンは実際に軽井沢で長期静養していたそうです。
著者は多くのジョン・レノンの評伝で軽井沢での生活がほとんど描かれていないことから、想像力を膨らませ、幻想的で美しい夏休みを描いたというわけです。
エンターテイメントの作家だとばかり思っていましたが、「異人たちとの夏」を彷彿とさせるような、豊かな物語でデビューしていたことに驚いたしだいです。
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山田 太一 | |
新潮社 |