いつものように山道を歩いていると、微かにカタカタカタ・・・と音が聴こえた。見ると、枯葉が一枚ゆれて、他の葉にひっきりなしにぶつかっている。枯葉が茎から離れないのは、おそらく蜘蛛の糸か何かでくっ付いているからだろう。枯葉は急速にゆれていた。不思議に思ったのは、何故その一枚だけが動いていたのかということ。風がそこだけ吹いていたのか。
静かな黄昏時で、まだ鳥も鳴いていない。もしかすると周りの木々とその葉達は、意識的にその動きを止めていたのではなかろうか。マタイ受難曲のアリア「われに返せ、わがイエスをば!」に一時ヴァイオリンのソロがあるが、それを思い出した。この山の木々達はいつも即興曲を奏でている。それを忘れて土を踏む音は、彼らのそれには馴染まないだろう。