朝早い電車に坐っていたら、カメムシが飛んで来た。目の前のリュックに止まり「ブーン」という音をたてている。カメムシがリュックに摑まりながら左右の羽を高速で羽ばたかせ続けている。はじめてカメムシの羽の音を聴いた。からだの割には大きな音である。時間にして30秒から1分くらいは「ぶ~ん」とやっていた。そのあいだ私はすっかりカメムシに支配されていた。その日釣った岩魚よりもこのカメムシの方が印象に残っているのはどういうわけだろう。
20分前の小さな出来事。駅からの帰り道、山道を歩いていると、木の下から突然、沢山の黒い虫のようなものが飛び出した。不意を衝かれて、何が起きたか直ぐにはわからない。7、8匹位はいたであろう虫(コオロギかな?)が山道の下に向かって、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら逃げていく。捕まえようとしてみたが、あまりの速さに追いつかず。辺りは黄昏で姿が見えず、正体不明。枯れ葉の上に着地する軽いカサッという音があちこちで聴こえる。不思議に思ったのは、彼らが木の根本に「集団」でいたこと。バッタのような昆虫が、集団でいることなどあるのだろうか。皆で餌を食べていたという感じではない。集まって話し合いでもしていたようだ。なんだか彼らの秘密を覗いてしまったような気がする。
ウチには五葉アケビと三つ葉アケビ(紫水晶?)が植えてあり、味は五葉の方が良く、房の色は三つ葉が美しい。三つ葉の房は4月ころに受粉してからずっと、アマガエルのような緑色をしているが、初秋に実が熟してくると、少しづつ紫がかる。
先日アケビを食した後、房の紫色があまりにも美しかったので、しばらくテーブルの上に置いて、時どき眺めていた。最初は青みがかった明るい紫色だった房が、2日目、3日目と段々紫が濃くなっていく。4日目、5日目と今度は暗くなってきて、その色は愛用している信楽焼きの「ぐい呑み」の焼き色に似ている。そして6日目の朝、美しさの極に至る。その後急速に色が精気を失って行く。
アケビは、枝から切り離したときに死んだのではなく、食したときに死んだのではない。色を失ったときに死んだのである。