T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1560話 [ 「下町ロケット・ゴースト」の大要 3/3 ] 9/30・日曜(雨)

2018-09-29 08:53:40 | 読書

「下町ロケット・ゴースト」の大要

「第八章 記憶の構造」

-1-(特許侵害の訴状が届く。伊丹は社員に現状を説明する)

 訴状の内容は、これまでの交渉で先方が主張してきたものと同様であった。

 伊丹と島津は、佃に連絡し、神谷弁護士に裁判の代理人になってもらうようにお願いするために、佃を訪ねることにした。

 その後、島津は、社員に事情を話し、最初に佃製作所が力を貸してくれる申し出をもらっていると説明した。島津は、『最初の候補』の話だけして、後がないことが気になった。

-2-(訴訟に勝つための手段は論文)

 3階の技術開発部に入った佃は、立花からギアゴーストの件、その後どうなったか質問された。

 訴状が届いたらしいが、伊丹らは神谷先生に頼みたいと言っている。

 勝ち目はあるのかと問われ、勝ち目は全くないわけでなく、それは或る論文だと答える。

-3-(神谷はギアゴーストの代理人を引き受ける)

 佃製作所を伊丹と島津が訪れたすぐ後に、神谷も社長室に入ってきた。

 神谷は、伊丹の謝罪に、別に気にしていないと言って早速に質問した。

「末長弁護士とは、どうなさるのか」と。

 伊丹と島津は、「顧問契約は打ち切ります。神谷先生に弊社の代理人をお願いします」と頭を下げる。

 あたしは負ける裁判はやりません。ところで先日、島津さんは問題の副変速機について、『以前から知られている技術の応用だと解釈していた』と言われたが、それは何故でしょうかと尋ねる。

 島津が返答に窮すると、神谷は一通の書類をカバンから出して島津の前に広げた。

「これが、その理由でしょう。この論文は佃さんが東京技術大学発行の論文集から見つけたもので、島津さんが在籍されていた頃の大学院生が書かれた論文です」

 驚く島津に、神谷は、これで勝つ見込みがついたので、代理人を引き受けることにしましたと言う。

-4-(中川と末長の裏話)

「そろそろ訴状が到着している頃だと思うが、伊丹社長からは何も………」

 中川から言われて、末長は酌の手を止め目た。ここは赤坂にある和食の店である。

 末長が表情を曇らせ、口にしたのは、先日、伊丹から中川との関係を問われた件である。

「何か気取られることを言われたのではないですか」と言われて、末長は首を振った。

 司法試験合格同期の中川から、いい儲け話があると誘われて、末長は3億円で顧問契約をしているギアゴーストの開発情報を漏洩したのである。

 中川の計画は周到であった。ケーマシナリーに技術情報を流して特許で先行させ、その後、特許侵害で訴える法廷戦略だ。そして、ギアゴーストを窮地に追い込んだところで、ダイダロスの買収案を提示する。15億円ものライセンス料を要求しているが、多くが弁護士費用やコンサルタント料として中川とダイダロスに還流する取り決めができているのだ。

 末長のところにギアゴーストの伊丹から連絡があったのは、その2日後のことであった。

-5-(末長との顧問契約解除。

  島津は、末長から中川への開発情報提供通話を手に入れる)

 伊丹と島津は末長の事務所へ出かけ、訴状が着いたことを告げる。

 そして、末長との顧問契約を今月をもって打ち切らせてもらい、あとは神谷修一氏に訴訟の代理人をお願いすることを告げた。

 その後、末長先生は中川先生と仲がいいのですねと言って、カバンの中から末長と中川が並んで写真を撮り対談している雑誌のコピーをテーブルに投げて外へ出た。

 末長は急ぎスマホを出して中川に通話した。

「ギアゴーストとの顧問契約を打ち切られた。あんたとの関係がばれた。大丈夫だろうな」と。

 大丈夫って何がですという中川に、

「情報提供の件、洩れたりしないだろうな」と叫ぶ。

 そのとき、ドアにノックがあり、秘書と島津が入ってきた。

 島津は、さっきまで自分が座っていた椅子の足元とから小さなトートバックを取り上げた。

 もう二度と来ませんからと出て行く島津に、末長は唖然として見送った。

-6-(父子相互の情愛、300年続く農家の絆)

 2月頃は今年も田んぼやるかと言っていた父が、四月に帰ると、半病人では米作りは無理だ、農業法人の話を考えたいと言う。

 たしかに、人間なら誰もが限界を迎える年頃だ、しかし、そうした人間の摂理を親子の絆で守り続けてきたのが、殿村家の300年だったのではないか。それにピリオドを打ってしまっていいのか―――殿村の胸に葛藤が渦巻いた。

-7-(帝国重工での伊丹の退職経緯)

 昨日、重田から伊丹に、先日の続きを話したいとの連絡があった。伊丹は大崎駅近くのダイダロスの本社へ出向いた。

 重田は、「今日は先日の件の続きでなく、かって、あんたは、プライドをずたずたにされて帝国重工を追い出された。自分を追い出した連中を見返してやりたいと思っているだろう」と言った。

 重田の言葉に、伊丹の脳裏にかっての記憶が急速に蘇ってきた。

 的場は、重田工業との取引を中止した後も、なお収益を上げろと檄を飛ばした。

 伊丹は、『機械事業部のサプライチェーンに関する考察と提案』という企画書を提出した。このキモとなるのは、旧態依然とした取引先会の解散と、取引の抜本的見直しだ。

 企画書を見た上司の超保守的な照井事業計画課長は拒絶反応を示した。その後で開かれた企画を審議する課長会でも全面的に否定された。的場部長も、どうしたわけか閲覧印とともに「見送り」と赤で大書してコメントもなく戻してきた。

 その後、伊丹に総務部への辞令が出て、総務の課長からも、「君、終身刑だから復帰は期待するな。恨むなら、照井を恨め」と言われた。また、「ここ、帝国重工の墓場だから」という声も聞こえてきた。

-8-(伊丹がスケープゴートになった真相)

 重田は、重田工業が倒産した後の帝国重工機械事業部の動きについて話し出した。

 的場は聖域なき改革を断行したつもりらしいが、そのやり方に反発する上層部もいた。さらに決定的にしたのは、東京経済新聞の記事で帝国重工の批判が巻き起こった。帝国重工としてはイメージダウンである。

 的場は上層部におもねる形で、抜本的改革の鞘を収めて、伊丹の企画書を課長たちに命じて徹底的に批判させ、さらにあんたを事業部から外に出す決断をして、間違った改革の象徴として、あんたをスケープゴートに仕立てた。

 的場は取引中止にする代わりにコスト削減の下請け叩きを徹底した。

 オレは、あんたを恨んでいない。あんたもまた被害者だということを知っているからだ。的場という悪党に騙され、踊らされ、用済みとなった途端、打ち捨てられた同じ被害者だよ。もし、あんたが的場を見返してやろうと思うなら、オレ組むことだ。オレはあんたと一緒に戦おうと思って出資を提案したんだ。

 重田は、それだけ言って立ち上がり、もうこれ以上、余計な勧誘をする気はないと言って別れた。

 

「最終章 青春の軌道」

-1-(第一回口頭弁論期日の前日の佃製作所とギアゴースト)

 第一回口頭弁論期日を翌日に控えたその晩、佃は、山崎と殿村に声をかけて、近くの居酒屋でささやかな決起集会を開いた。

 佃は、「裁判に勝っても負けても、ウチは前進する。みんな力を貸してくれ」と言って、山崎と殿村は大きく頷く。しかし、殿村の表情を過(よぎ)っていった一抹の揺れに佃は気づかなかった。

 一方、ギアゴーストの伊丹と島津は、裁判の後の動向に、島津は佃と一緒に仕事したいと言うが、伊丹は重田のことを内緒にしているので無言であった。

-2-(殿村は佃製作所を辞める決心をする)

 佃から誘われた決起集会は、殿村の心のどこかに消せない苦しみを残していた。

 先週の日曜日のことである。

 殿村が田植を終えて農道に出ると、足下に杖を置いた父親が静かに長い合掌をしているのを目にした。それは豊穣を願って、そして、過去300年、殿村家に実りをもたらしてくれた田んぼへの感謝の気持ちの長い祈祷と見た。

 そのとき、殿村の胸底から湧出した感情が、抗い難い奔流となって胸を衝いた。

オレは、この場所に戻ってくるべきだ」と決意した

-3-(裁判は神谷が勝つ)

 被告代理人の神谷は裁判長の許可をもらって、答弁書のうちの争点となる部分を読み上げた。

「被告ギアゴーストは、原告ケーマシナリーが侵害を主張する当該特許について、無効を主張し、乙第一号証を提出する」

 神谷の陳述が続いた。「乙第一号証は、東京技術大学栗田章吾准教授が2004年に発表された論文『CVTにおける小型プーリーの性能最適化』です。栗田先生に話を聞いたところによると、先生はクルマ社会の技術的発展のために敢えて特許申請を見送られました。従いまして、この論文で発表された技術情報は公共の益に帰するべくして公開されたものであり、根幹部分の多くをこの特許に負っている原告側特許は無効であると主張するものであります」 その後も、神谷の陳述は続く。

「………。ギアゴースト製副変速機は、乙第一号証論文で発表された構造と技術に、同社独自の解釈とノウハウにより修正を加えたものですが、その修正部分にまで原告側特許が及んでいるのは、極めて不自然な偶然だと言わざるを得ません。ひとつだけ納得できる解釈があるとすれば、ギアゴースト内部からの技術情報の不正な流出であり、その傍証として、この乙第二号証を提出するものです」

 そう言って、神谷が高々とと掲げたものは、ICレコーダーであった。

「いまから3週間ほど前、ギアゴーストの伊丹社長と島津副社長は、末長弁護士のもとを訪れ、本件について相談をいたしました。その際、被告はやりとりの一部始終をICレコーダーに録音しておりまして、それを置き忘れて10分近い後、取りに戻りました。これは、その時に偶然録音された末長弁護士とある人物との会話です。重要なところですので、聴いていただいてよろしいでしょうか。ほんの数分で終わります

 裁判長の許しが出て、スピーカーから末長弁護士とある人物の声が流れた。

 ―――ギアゴーストの件ですが、よろしいか中川先生。

 ―――………。

 ―――私から情報提供した件、絶対に漏れないよう、お願いしますよ。

    買収が決まったら、約束の成功報酬もらうからな。

「乙第四号証は、末長弁護士からこの録音テープの声は、自分のものだとの確認書です。

いずれにしても不正な手段によるものを証明するものです」

 ………。

「原告代理人、いまの指摘についてどうですか」

 裁判長の問いに、「次回までに回答いたします」と、顔面蒼白になった中川はそういうのがやっとであった。

-4-(勝訴となった2社)

「特許無効」の勝訴判決が言い渡されたのは、10月最初の金曜の午後のことだった

 裁判は原告側の点論の余地のないままわずか半年で判決が出た。

 判決に先立ち、一昨日には、末長孝明と中川京一のふたりが不正競争防止法違反の疑いで逮捕されている。

 その夕方、佃製作所の会議室ではささやかな祝勝会が開かれた。

 昨年6月末に、新型エンジンの採用を中止され、トランスミッションメーカーを目指しての経営戦略を進めてから1年半近い

 ギアゴーストと佃製作所。一緒に戦った2社にとって、今回のことは名実ともにパートナーとして共存共栄していく貴重な一歩になる―――はずであった

-5-(ギアゴーストの分裂)

 ギアゴーストの祝勝会が開かれた。

 島津は、仕事があって二次会の終わり近くに会社に戻ってきた。

 暫くすると、伊丹も現れ、「シマちゃんに話したいことがある」と近くの椅子に座った。

 伊丹は重田登志行社長から聞かされたスケープゴートの話をしだした。

 オレを裏切ったのは、照井課長でなく、的場部長で、完全に捨て駒にされたのだと。

 島津が、「昔の話でしょ。私たちの仕事はこれから始まるのよ」と言うが、伊丹はきっちりと片を付けると呟き、「重田さんと一緒にやる。ダイダロスの資本を受け入れ、業務も提携するんだ。そして的場に復讐するのだ」と言う。

 ………。

「たしかに、佃製作所には世話になった。だけどそれはそれ、これはこれだ。このことはもう決めたことだ」

 島津が、「共同経営者の意見を無視して、なんで一人で決めるの」島津は声を荒げた。

 伊丹は、「いやならいいよ。シマちゃんはもう—――必要ない」と言う。

 島津は凍り付き、すっと言葉を呑んだまま、伊丹を見つめることしかできなかった。

-6-(財前は帝国重工の中の農業分野?に転任する)

 快晴の種子島に、3月の風が吹いている

 準天頂衛星「ヤタガラス」7号機が発射のときを待っている。

 財前は、この打ち上げを最後に、ここの現場を去ることに決まっている。

「メインエンジンスタート」

 抑制された財前の声が聞こえた。

 ヤタガラスはみるみる小さくなっていき視界から消えた。

 佃と財前は握手を交わす。

 ………。

 財前最後のスピーチも終わろうとしている。

「………。私は今回の打ち上げをもって任務を終了し、宇宙航空企画推進グループへ転任します。これからの私の仕事は、我々の背生活にとってロケットがいかに重要で必要なものなのか、ある種の布教活動です。夢の続きを見るための地ならしのようなものです。そのために私が第一弾としてぶち上げるのは農業です。私は―――危機にあるこの国の農業を救いたい」

 なんで農業なんだとの呟きが聞こえる。しかし、佃は武者震いを感じないではいられなかった。

 佃は、花束を掲げながら消えて行く財前に小さな声で言った。「しばしの別れだ」

-7-(佃製作所で学んだことを無駄にせず農業に邁進すると殿村は辞職する)

-8-(島津はギアゴーストを退社し、佃にお詫びして姿を消す)

 ギアゴーストの島津から、佃のもとに電話がかかってきたのは、4月 半ばのことであった

 勝訴の後、佃のところに伊丹ひとりが裁判でお世話になった御礼に来たが、そのときは裁判のことだけで一遍の挨拶だけで引き上げた。

 そういえば、そろそろヤマタニが次期トラクターの仕様を決め、ギアゴースト製のトランスミッションの搭載を決める頃だ。佃は、それに関わるバルブの話に来たのだろうと期待していた。だが、違っていた。

 島津はお詫びに参りましたと切り出し、「昨日、ギアゴーストは、ダイダロスと資本提携を結び、お互いに資本を持ち合い、今後、両社は企画、製造、そして営業活動において協力していく旨の契約を締結しました」と告げた。

「なんですって」と、あまりのことに佃は動揺し返す言葉を失った。

 ………。

 どうして、そんなになったのかと尋ねる佃に、島津は、「伊丹は過去のしがらみから抜け出すことはできませんでした」と経緯を口にし始めた。

 それは、若者たちの青春、その挑戦と挫折の物語でもあった。

 苦悩に満ちた表情で島津は佃に訴えた。

「私たちの気持はいつの間にか離れ離れになっていました。伊丹には伊丹の道があるのでしょう。その道を私は一緒に歩むことはできません」

 そう言うと、真っすぐに佃の方に顔を向けて、「本日、私はギアゴーストを退社しました。短い間でしたが、大変お世話になりました」と言って佃の前から去って行った。

 佃は、暮れかかった坂道を遠ざかるその姿を眺めていた。

     「終」

[「下町ロケット・ゴースト」は1年10月にわたる企業小説だったが、次の「下町ロケット・ヤタガラス」においても、ダイダロス&ギアゴーストと戦いながら、佃製作所は農機具用の変速機のバルブの開発に、財前も農業器具の開発に、殿村は農業にと、いずれも同じ゚方向に邁進するものと思われる]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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