T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1926話 [ 「サイレント・ブレス」を読み終えて 5/? ] 6/8・火曜(晴・曇)

2021-06-05 18:35:44 | 読書

                                                  

ブレス2 イノバン 2/2

「あらすじ」

           ※ 黄色蛍光ペンの箇所は、心に残った文章の一節

 その日の夜、携帯電話が鳴った。深夜1時。保からだった。

「先生、頭が痛い」と、とぎれとぎれの声。頭痛は低酸素の症状だ。

 お母さんを呼んでと言っても返事がない。

 倫子はタクシーを呼び、車を待つ間にコースケにも連絡をする。

 保の部屋では人工呼吸器のランプだけが点滅していて、呼吸器は動いていないし、バッテリーはすべてゼロになっている。

 コースケは、自分の車のカーインバーターを思い出し、保と人工呼吸器を電動車いすに乗せて外へ出た。車に横付けして、電源プラグをインバーターに接続した。

 人工呼吸器がスムーズに動き出し、保の呼吸が徐々に安定してきた。

 倫子が、お母さんはいつからいないのと聞くと、保は目を合わせずに、一昨日くらいかなと答える。

 朝8時ごろ、大河内教授に連絡して概要を説明した。

 教授は、「失踪したんだろう」と言う。

 倫子は教授の指示で、市福祉課の担当の神田を呼び出した。

 神田は倫子の説明に、あそこの母親は、電気代滞納の常習者なんですと言う。

 そして、電力会社への復旧要請も早速にとの返事があった。

 1時間後、神田から、和子はアルバイト先2か所共に退職しているとのことを知らせてくれた。

                         

 1か月が経っても、和子が見つかったという連絡はない。

 保はアパートにひとりで生活していた。保自身が頑強に入院を拒否したからだ。

 母親の失踪が明らかになった翌々日、クリニックに倫子を訪ねてきた神田が訪問診療の継続を要請した。

 倫子は、保への24時間態勢が不安だったので、夜間の介護はどうなるのかと神田に尋ねると、ヘルパーや介護スタッフの増員を図るにも限界があるが、ボランティアが集まってくれて、夜も回せる目処が立ったとの返事だった。

 その時、神田は倫子に保の伝言を伝えた。

 それは「水戸先生は僕の『イノバン』(命の番人)だから、引き続き診ていただきたい」とのことだった。

                          

 それはクリスマスの朝だった。9時少し前、倫子の携帯電話が鳴った。

 保のヘルパーから、「保君が変なんです、すぐ来てください」とのことだった。

 コースケとともに往診車に飛び乗った。

 急いで玄関のドアを開けると、人工呼吸器のアラームが激しい勢いで急を告げていた。

 保は完全に意識を失っている。

 コースケと倫子は同時にアッと叫んだ。

 人工呼吸器の回路の途中にあるエアホースが、コネクターから外れている。

 保の脈は触れていない。倫子はベッドに飛び乗り、心臓マッサージを開始した。

 同時に「AED を! 救急車も!」と叫ぶ。

 部屋を飛び出したコースケが、往診車からAEDを取ってきた。

 電気ショックをかけても心拍が戻らない。

 救急車の音が聞こえた。

 2回目の電気ショックを施行した。保の心臓がリズムを取り戻した。

 救急隊が到着し、保をストレッチャーに乗せる。

 倫子が「新宿医大の救急外来へ。受け入れ了承済みです」と告げる。

 同乗した倫子は、ストレッチャーの上で心臓マッサージを置こう。

 ストレッチャーは倫子を乗せたまま、救急救命センターの扉の中に運び入れられる。

 蘇生処置の途中、倫子は看護師に促されて外へ出された。

 やがて、センターの扉が開き、救急医のチーフが近づいてくる。

 倫子に向って、「お力になりませんでした」と小さく頭を下げた。

 保の死亡が告げられた瞬間だった。

                  

 翌朝、むさし訪問クリニックを小金井署の警官二人が訪れた。

 若いほうの刑事が、コピーされた保のブログなどの資料を見ながら呟いた。

「なぜ天野さんは、あの晩だけボランティアを入れなかったのでしょう?」

 12月24日の夜欄だけが空白なのだ。皆が黙った。

 大河内教授がここを見てくださいと、資料のあるページを刑事に示した。

<クリスマス・イブは、1年の中で、一番大切な人と過ごす日。家族とか。恋人とか。誰にとっても大事な夜だよね。みんなは、誰と過ごすのかな ? 僕の大切な人も必ずイブには帰ってくると思います>

「保君はあえて一人を選んだのかもしれませんね。誰も拘束したくなくて……」

 教授がそう言うと、部屋の中は再び静かになった。

 刑事が帰った後、倫子は保を病院や施設に入れていれば、こんなことにはならなかったと繰り返す。

 教授は、その倫子に「保は母親を待つことを選んだんだ。もう一度、家で母親に会えるほうに賭けたかったんだよ君は彼の選択を医師として支えたんだから、あまり自分を責めるな」と言った。

 しかし、倫子は、保の命を支えきれなかったのは、自分の責任だと思うだけだった。

 

 次の休日、倫子は、新横浜の介護老人保健施設「ガーデニア新横浜」に向かっていた。父の見舞いのためだ。

 今年も終わりかと思うと、普段は考えられないようなことが頭をよぎる。

 この一年、父はまったく声を出さないばかりか、目を合わせられなくなった。

 父の部屋には、すでに母がいた。ジャスミンの香りが漂っている。

 母が、お正月が来るから、お父さんのために買ったのよと付け加えた。

 父に香りがわかるとは思えないが、母が喜ぶならいいことだ、と思う。

 

                       ブレス2 終                                        

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