T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1789話 [ 「検事の信義」を読み終えて・粗筋 8/?] 2/27・木曜(曇・晴)

2020-02-24 14:06:53 | 読書

「信義を守る」

(⑥ 佐方は昌平の再度の取り調べに入る)

 午後3時。取調室に座る昌平は、10日間ほどでさらに老けたような気がした。眼窩は落ちくぼみ、頬がげっそりと削()げている。顔色もさえない。

 佐方は、「先々週の金曜と先週の月曜にあなたが勤めていたコウノトリ便と、須恵さんが通所していた深水デイサービスへ行ってきました。コウノトリ便では緒方徹さんがあなたのことを真面目で気遣いができる優しい人でしたと言いました。そして、社内でのトラブルはなかったと言われていました」と言って、昌平の供述と違うことを問いただした。

「それらの人は知りません。私は正直に答えています。もう働くのが嫌になった、それだけです」

 昌平はそう答えて、下を向く。

 佐方の調べは続く。

「深水デイサービスの堀所長は、須恵さんはデイサービスの通所も3か月で止めた。その理由を会社がクビになったから、次の仕事が決まるまで自分が面倒を看る、と言ったそうですね。でも、あなたは会社をクビになっていない。また、自宅を手放さない理由を、堀さんには須恵さんの思い出が詰まったあの家で須恵さんを見送りたいから、そう言っています。なぜ、嘘の供述をしたんですか」

 昌平は小さい声で答えた。

「黙秘します」

 佐方は別の質問をした。

「あなたがコウノトリ便を辞めたのと、須恵さんの深水デイサービスの利用を止めたのは、同じ12月の末です。これは偶然ですか、それとも関連性があるんですか」

 昌平は黙っている。その他の質問にも黙秘権を使う。

 佐方は、それでも続ける。

私が知りたいのは、あなたが自分に不利な供述をする理由です。私たちが調べた限り、あなたは自ら供述したような身勝手な人間ではない。むしろ母親思いの息子です

 昌平は首を横に振る。昌平の身体が、ふたつに折れた。そして、息が荒くなる。

 佐方は、取り調べはここまでですと言って、「医務室へ」と増田に指示する。

  ◇

(⑦ 佐方の信条「罪をまっとうに裁かせる。それが私の信条です」)

 公判部に矢口検事が入ってきて、道塚昌平を地検に呼んで取調べをしたようだが、私に対する侮辱ではないかと怒りの言葉を発した。

 佐方は自分の意見を述べた。

「私は自分が担当する案件を、調べているだけです。矢口さんは、検事の債務は罪を犯したものを糾弾することだとおっしゃいましたが、私は罪をまっとうに裁かせることだと思います。なぜ、事件が起きたのかを突き止め、罪をまっとうに裁かせる。それが私の信条です」

 矢口は重々しい声で言った。

「君のその信義というやつを見せてもらおう。それが検察の権威を貶(オトシ)めることにならなければいいが」

 そう言い残し、矢口は部屋を出た。

  ◇

(⑧ 佐方は最後の現地調査で昌平の自宅付近に向かう)

 昌平の初公判は20日後と迫っているが、昌平の自宅周辺の聞き込みをしたいと、増田に日程を組んでもらい、4日後に大里町に向かった。

 道路わきの畑で土を耕している女性に声をかけた。

 女性は渡部布由子と名乗った。家は昌平の自宅から100m ほどと離れたところにあるという。

 佐方が道塚親子のことに就いて知っていることを教えてくれと訊ねる。

「引っ越しの挨拶に来られた時、礼儀正しい息子さんなんだと思った。また、優しい息子さんです。須恵さんがここ1年くらいは徘徊してて、昼夜を問わず、ひとりで外へ出て行って帰れなくなるの。そのたびに昌平さんは必死になって探しておられるのです」

 増田は、「被疑者が母親を献身的に介護していたのは事実のようですね」、と佐方に言う。

 佐方は「被疑者はどうしてその事実を隠すんでしょう」と呟いて、昌平の自宅のはす向かいの家に向かった。

 畑中と書かれた表札の家の年輩男性に、「昌平さんが、母親のことを何か話すことはありませんでしたか。あるいは、母親のことで相談できる知人はいませんでしたか」と訊ねた。

 畑中さんは首を捻った。

「詳しくは知らないが、ただ、いつも日曜日にひとりで出かけてたから、どっか行く場所があるんだなって思っていました」

 畑中さんの話によると、昌平さんは日曜日になると、ひとりで車で出かけていたという。朝の6時50分に家を出て8時半に帰ってくる。時間は判で押したように、決まっていたという。それも事件が起こる2か月ほど前から出かける姿は見えなくなったけど、それまでは定期便みたいに出かけていたよ、と言う。

 佐方は、江南町の昌平さんが身柄が確保された場所、わかりますね、と増田に言って返事も聞かずに出かけた。

 佐方は歩きながら、きっとある、あるはずだ、となにかぶつぶつ言っている。

 その佐方が、江南陸上競技場の周辺に来たとき、急に立ち止まった。

「あった。ありました、増田さん」

 増田は、いったい何があったのかと駆け出した。

 もう少しで佐方に辿り着くとき、携帯が鳴った。

 米崎県警の、留置場の担当官からで、電話の内容は「道塚さんの胃に病変が見つかり、医師によれば、悪性である可能性が高く、かなり進行している」とのことだった。

 増田は佐方に電話の内容を告げて、佐方が指さす方を見た。

 道の先に、ある象徴が見えた。「そうです」と言って佐方は肯く。

あれが、昌平さんが偽りの供述をしている理由です

 増田は目を見開き見つめた。

  (⑨ )に続く

 

 

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