T.NのDIARY

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「銀漢の賦」を読み終えてー愛情編ー!!

2012-07-04 17:12:31 | 読書

 この作品には、単に友情の中に生きる三人の男の姿を描いているだけでなく、将監の母親・千鶴、将監の妻のみつと藩主の側室となった姉の志乃、源五の妻・さきと娘のたつ、十蔵の妻子のたみと蕗(最後は源五の愛人となる)の愛情を描いたところに、とても捨てがたいものがあった。

 心に残った部分を本より抜粋してみた。

「1」-余命をかけた政事への準備ー(母の躾・愛)

(現在) 

 家老・将監は巡視の途中、わしの我が儘を聞いてくれと風越峠へ登り、「源五よ、わしは間もなく名家老どころか、逆臣と呼ばれることになるぞ」と呟いた。将監の声には若い頃を思わせる真摯なものがあった。

 40年前、小弥太(将監の幼名)に初めて会った日も、こんな夏の日だった。

ー回想ー

 日下部源五は12歳のころ、貫心流の剣術道場に通っていた。道場といっても建物は無く庭が稽古場であった。

 ある日、源五と同じ年頃の少年が母親に伴われ入門してきた。少年が挨拶する後ろで母親が微笑みを浮かべて頭を下げた。

 源五は柔弱者だなと軽蔑の気分がいや増した。しかし、立ち会ってみて全く反対の事を知った。

 道場帰りに百姓の十蔵とも友達になり、将監の家に寄って十蔵から買った鰻を三人が共に食したが、母親から「小弥太は思い遣り深い先達に恵まれ幸せでございます」と両手をついて頭を下げられ、家柄の全く違う母親からの挨拶に源五と十蔵は戸惑った。

                                      

「3」-藩主との確執ー(藤森吉四郎の千鶴への恋情)

(現在) 

 源五の娘・たつは津田伊織の母親に見込まれて四百石の家に嫁いでいる。

 伊織は、源五が将監とは昔は竹馬の友で今は絶交しているところから、上意討ちの刺客を依頼して源五からお役にたってもよいと言われた。

 帰りに、たつから十蔵の娘で今は源五の女中をしている蕗を体裁が悪いから妾にしたらどうかとの話があった。

 帰宅して井戸の傍らで袖をまくり上げて洗濯していた蕗の白い腕を見て自害した千鶴のことを想い出した。

ー(回想)ー

 藤森吉四郎は、千鶴の実家の藤森家に千鶴の許婚として養子に来る予定だったが、当時の家老・夕斎の口利きで千鶴が岡本弥一郎と結婚したので、吉四郎は弟として養子に入った。

 その為か今は、二人の間にはどこか切ないものが漂っているように見えた。

 松浦家は志乃とみつの姉妹が居ていずれ婿養子を迎えなければならなかった。吉四郎は藤森家と松浦家は遠縁でもあり、将監をどちらかと娶らせて、千鶴を岡本家から取り戻そうと思っていたようである。その千鶴が自害したのである。

 将監は母親の自害した原因が夕斎や腹心の鷲巣角平衛による藩主へのお伽のお膳立てにあることを掴んだ。

 早速にその仇を討つため、助太刀を申し出た源五と徳運寺馬場で待ち受けた。しかし、返り討ちにあいそうになった。そこへ、十蔵の知らせで駆け付けた吉四郎が角兵衛を刺殺した。

 吉四郎は、このことを私闘として藩に届けてくれ、将監は夕斎を倒し藩政を正すのだ。それがお前にとっての父母への仇討ちになる。お前を生かすために死ぬことが姉上のために私ができる、せめてもの事だと言う。

 将監は、この時になって吉四郎の千鶴への思いの深さを知った。

                                            

「6」-源五の命を懸けた承諾ー(一心同体の妻の愛情)

(現在)

 源五は将監が隠居を命ぜられて4日後に将監の屋敷を訪れた。

 この日までに、源五は何度も側用人・多聞から将監を斬ることを督促されていた。

 将監は、馬越峠で自分の気持ちを話したばかりだのにと思い、多聞が上意討ちに選んだ刺客は源五かと閃いて庭に出て抜刀して待った。源五も居合の構えで庭で間合いを取った。

 そこへ将監の妻のみつが来て「おやめください、お二人とも何事ですか。」「日下部殿は、何か大事なお話があって参られたのが何故お分かりになりませぬか。いきなり刀を抜いて待つなど、年をとられて気短になった、と日下部殿に笑われましょうぞ。」と言う。

 将監は、その時になって源五に殺気が無いことに気付いたのだった。

                                                

「7」 -将監らの脱藩行ー(娘への親の愛情)

(現在)

 脱藩の前日、源五は伊織を酒に誘い出し、将監の上意討ちの刺客はできぬようになり、反対に脱藩を手伝うことになったと告げた。そして、居酒屋を出た後、源五がたつのことを頼んだ様子を、翌日、たつに次のように話した。

 伊織の前に土下座して橋に頭を何度もこすり付けて頼む頼むと言い、わしは、後で腹を切って迷惑をかけぬようにするゆえ、どうか娘を離縁せんでくれと、頼む頼むと何度も頭を下げた。その後も逃げるように走って行かれ、立ち止まって振り返りお願い申すと叫んで深々と頭を下げているのが見えた。

 たつは、ふと涙ぐみそうになった。

                                   

「8・9」 -命を懸けた事、成就ー(蕗の恋情)

(現在)

 将監の命を懸けての折衝で、国替えは無くなり、多聞が罷免になり、側用人に伊織が任じられた。源五は伊織のお蔭で、早くからの望みであった潮見閣の留守番に、これも命を懸けてくれた愛する蕗と一緒に過ごしていた。

 将監がこの年、8月に亡くなり、源五の許へ将監の遺品が届けられた。蘇軾の漢詩が画賛された掛軸である。

 漢詩の最後の「有限を将(もっ)て無窮を趁(お)うこと莫(なか)れ」を、将監は「人は一人で生きているのではない、誰かと共に生きているのだ」と解釈して、このことを最後に言いたかったのだろうと思った。

 わしも間もなく其方へ行くと、源五は将監に呼びかけようとした時、茶室に蕗が入ってきた。

 蕗が今夜はなぜか二組の夜具を敷いていた。源五が訪ねると、たつ様が、御家老様が亡くなられたことを聞いて元気を失われたようだから、傍らに寝るように指図されたのです。日下部の家を継ぐ男の子を挙げてほしいという話でしたと答え、二人だけの固めの盃でも交わすつもりなのだろうか、蕗は微笑んでお酒を持って参りますといそいそと出て行った。

 「小弥太よ、そちらへ行くのは10年ほど遅れるぞ、勘弁せい」と源五は月を見て呟いた。

                       以上

 

 

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