蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

地のはてから

2015年03月18日 | 本の感想
地のはてから(乃南アサ 講談社文庫)

明治末期、故郷を夜逃げして知床の奥地の開拓にはいった一家の長女とわが主人公。
いくらか開拓が進んだと思われた頃から飛蝗の被害がひどくなり一家は(もう少し拓けた地域に)移住する。しかし生活は楽にならず、とわは小樽の商家に奉公に出る。その商家も大恐慌のあおりで破綻し、とわは知床に戻る。そこで幼なじみのアイヌの少年と再会し恋に落ちるが、親が決めた男と泣く泣く結婚する。夫と古着屋を始めるが、夫はさっぱり覇気がない。やがて戦争が始まり、夫も出征する。とわは子供たちと生き抜こうと誓う・・・という話。

運命に翻弄され続けても、とにかく生き続けることを最優先に、たくましく、しぶとく生きるとわの行く末はどうなるのだろう、という興味でページがどんどん進んだ。物語としては大変面白かったと思う。

とわは確かに生命力の塊のような強さを持っているが、人生を自ら切り開いていこうというような姿勢には欠けていて、過酷な巡り合わせに流されているだけのようにも見える。
普通の小説なら、親が決めた結婚はせず恋人と添い遂げることを誓う、とか、とわ自ら商才を発揮して古着屋を大発展させる、なんて筋になりそうなものだが、あえてそういったありがちな筋にしていないのが、(フィクションとはいえ)リアリティを感じさせてくれた。(ただ、落魄したかつての恋人ととわが再会するシーンは(得てして人生はそんなもの、とは言うものの)後味がわるかった)

とわは、小学校の卒業式に出席できたことや、奉公先で4年目にして初めて貰えた休暇など、ほんのちいさな慶事に対してとても大きな幸福感を抱く。
しあわせというのは本当に相対的なもので、とわやその時代の人と比較すれば、王侯貴族のような満ち足りた生活をしている現代人が彼女よりもしあわせだ、なんてとてもいえないような気がした。

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